海センターシンポジウム

「中国の自動車産業−その過去・現在・将来を探る−」

 日時  2004年11月13日(月) 12:15〜14:00
        2004年11月14日(火) 9:30〜17:00

 会場  京都大学法経総合研究棟大会議室

 プログラム
講  演  会  <11月13日>
  挨拶  金田 章裕(京都大学副学長)

  司会  本山 美彦(京都大学大学院経済学研究科教授)

  講演1  丸山 智雄(東京大学社会科学研究所助教授)
       「中国自動車製造法:日本との対比」

  講演2  嶋原 信治(元トヨタ自動車中国事務所首席総代表)
       「トヨタ自動車の進出過程」

  講演3  塩地 洋(京都大学大学院経済学研究科教授)
       「中国における自動車流通」

研  究  会  <11月14日>
  報告1  高山 勇一(現代文化研究所中国研究室室長)
       「自動車産業政策」

  報告2  孫 飛舟(大阪商業大学総合経営学部助教授)
       「3S・4S店と自動車交易市場について」

  報告3  山口 安彦(元本田技研工業中国業務室主幹)
       「中国自動車企業の自主開発能力」

  報告4  大原 盛樹(アジア経済研究所研究員)
       「オートバイ産業の競争環境」

  報告5  上山 邦雄(城西大学経済学部教授)
       「日経メーカーの対中国戦略」



 概要報告
 講演会には約150名、研究会には約100名が参加した。報告者は、日本における中国自動車産業研究のトップレベルを占めており、最新のトピックも含めた情報価値の高い報告が相次いだ。そのため、参加者は大学研究者にとどまらず、自動車メーカー6社やトーマツ・コンサルティング、三井物産戦略研究所等のコンサル会社やシンクタンク、オートバイテル、J.D.パワー等の米国系の自動車流通企業、自動車部品メーカー、自動車ディーラー等の自動車関連企業も参加し、そうした中国ビジネスに関わる企業からの参加者が約半数を占めた。

 講演会において、丸川報告は自動車メーカーと部品メーカーとの取引関係を、一つの課題として緻密な分析結果が示された。嶋原報告ではトヨタ自動車が1970年代からいかに中国への進出を図ってきたのか、その具体的な経緯が紹介された。塩地報告では、いかに情報の非対称性が縮小しているのかという観点から中国における中古車流通の発展過程が明らかにされた。

 研究会においては、より詳細な報告が続いた。高山報告では、現在の中国における自動車産業政策に対する最新の分析結果が示された。孫報告では、中国の自動車流通において、いわゆる3S店と交易市場との対抗関係が構造的に分析された。山口報告では、何故中国で自主開発が進まないのかについて、多面的な分析がなされた。大原報告では、オートバイ産業における企業間競争の構造が緻密に分析された。上山報告では、主要日本自動車メーカーの対中進出の歴史過程が詳細に明らかにされた。

 総じて、現在の日本国内において、中国自動車産業の講演会・研究会としては最も質の高い報告が相次いだといえる。今年の成功を踏まえて、来年も同様のテーマで上海センターがシンポジウムを開催することが提案された。
                                       (文責:塩地 洋)

 講演概要
中国オートバイ産業の競争環境と企業間分業関係の変化
アジア経済研究所研究員 大原 盛樹
 1990年代末から現在までの、中国オートバイ産業の競争のあり方の変化とその背景を、製品開発を巡る企業間分業関係のあり方に注目し、嘉陵工業集団公司(集団)(以下、嘉陵)、中国軽騎集団(以下、軽騎)、宗申摩托車集団(以下、宗申)の3社と、各社の重要サプライヤー20数社でのヒアリングに基づき、実証的に検討した。

 1990年代後半の企業間分業関係は、規律のない「孤立発展型」分業システムと名付けることができる。製品開発については各社とも「マイナーチェンジ型開発」、即ち「基本モデル」の業界全体での共有と改造に明け暮れており、それを遂行する企業間分業関係は、分散した取引先、リスク転嫁行為(開発リスクのサプライヤー負担、代金未払い等)の横行、情報共有の不足、共同での能力形成努力の欠如等の特色を伴っていた。日本でリスクを共同で負担しながら共通目標を達成するため能力を向上させようとする「共同発展型」分業システムが形成されているのとは異なるものであった。

 一方、1990年代末からメーカー、サプライヤーとも製品開発体制が改善され、同時に、取引関係には規律が回復し、協調的な行動が多々見られるようになった。メーカーの製品開発体制を見ると、「マイナーチェンジ型開発」が急増しているが、全体的にコストとリードタイムは減少している。設備、人材の強化、組織改善(部門間協調、開発部門の改革)、サプライヤーの開発能力活用の増加がそれを支えている。サプライヤーの製品開発体制を見ても、リードタイム、コストとも低下し、開発の失敗率は減少している。いわゆる「承認図」取引が増えるなど、開発の内容も高度化している。企業間分業については、メーカーは取引を有力サプライヤーへ集中させ、開発リスクの共同分担化が顕著で、あからさまなリスク転嫁は減少している。取引に規律が回復していると見るべきである。

 一方、情報共有とコミュニケーションは未だ本格化しておらず、メーカーはサプライヤーの技術については全体的に未把握のままである。メーカーからサプライヤーへの支援も乏しい。その点で、基本的に共同努力よりも、個別企業の機会主義が優先する「孤立発展型」システムの本質は変わりない。しかし、双方の開発能力が向上し、取引に規律が回復することでより効率的な開発が行われているという意味で、中国のオートバイ産業の分業組織は、環境変化と個々の企業の能力蓄積に応じて進化していると言うべきである。

 この背景にある重要な要因は、市場の変化である。品質向上と素早い製品開発が求められていること、政府規制の厳格化、流通インフラの改善等の競争環境の変化、高度化が見られる。

(本稿は大原盛樹氏にご講演をまとめていただいたものです。)