上海センターセミナー

「メコン開発をめぐる東アジアの域内協力
―メコン河委員会の活動を中心に―」

 日時  2004年11月18日(木) 10:30〜12:00

 会場  京都大学法経総合研究棟2階大会議室

 報告者 的場 泰信
       (社団法人海外農業開発コンサルタンツ協会専務理事)

 講演概要
 上海センターの活動範囲は、北東アジアに限らず広く東アジア全域である。個人的にはインドも東アジアに含めるべきと考えているが、それはさておき、11月18日に開催された上海センター講演会では、中国雲南省を含むメコン河流域に焦点があてられた。講師は、(社)海外農業開発コンサルタンツ協会専務理事の的場泰信氏。同氏は農水省出身 で、世界銀行、国際協力事業団、国際協力銀行等に出向され国際協力分野での豊富な実務経験をお持ちであり、1995〜99年にかけてメコン河委員会の初代事務局長として活躍された。講演では、主にメコン河委員会設立の経緯から現在の活動と今後の課題についてお話いただいた。以下概要をご紹介する。

 メコン河は、長さでは世界で12番目、年間総流量では10番目の東南アジア最大の河川である。流域面積は795千km2で、中国(主に雲南 省)、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの6カ国にまたがる国際河川である。 メコン河中下流域は第2次大戦後、度重なる戦火に喘ぎ開発が遅れていたが、現在で は政 治的にも比較的安定し、経済活動が活発になっている。この地域で国力を測る基準はなんと言っても人口であり、人口4千万人を超えるのが、ベトナム、タイ、ミャンマー、中国 雲南省、1千万人を超えるのがカンボジアである。これに対してラオスは約5百万人で域内における発言力は極めて小さいといえる。 メコン河流域の開発をめぐっては、「政治」が重要な役割をもってリードしており、「経済」は言ってみればひとつの「事象」であると捉えることができる。

 メコン河委員会 (Mekong River Commission)は、1957年に設立されたメコン委員会を継承するかたちで、「メコン河流域の持続可能な開発のための協力に関する協定」に基づき1995年に設立された。タ イ、ラオス、カンボジア、ベトナムの4カ国による政府機関であり、各国の外務省を窓口とするという意味で、「経済」よりも「政治」がリードする枠組みであるといえる。アジア開発 銀行が支援している「拡大メコン(GMS)」構想(流域5カ国プラス中国雲南省)が越 境インフラ整備など経済開発主体であるのと対照的である。事務局本部は加盟国の持ち回りになっており、2004年7月にプノンペン(カンボジア)からビエンチャン(ラオス)に引越 したばかりである。

 メコン河委員会は、流域全体を対象として持続可能な開発を目的としている。そのために、デンマーク、スウェーデン、UNDP等の支援によりローリングプラン方式の流域開発計画、世界銀行、日本(国際協力機構)等の支援により水利用規則の策定が行われている が、前者は作業が遅延しており、後者は水量と水質をどのように規制するかについての加盟国間の合意が未形成の状況である。

 今後の課題としては、流域開発計画と水利用規則の策定の他に、加盟国のデータ収集能力の強化、カンボジア、ラオスの水資源政策立案促進、水質問題への本格的取り組み、中国が上流で建設済・中のダムに対する対応、中国とミャンマーの加盟問題への対応、メンバー国自身の全面的コミットと組織運営(現在も事務局長はドナー国国籍(ベルギー人))、現在は協定に含まれていない土地資源管理に対する考え方の整理等が挙げられる。 日本は、米、仏と並ぶ最古参支援国であり、当該地域に対しては、地理的、歴史的 理由 から継続的に強力な支援が必要である。日本にとっての今後の課題として、Japan Fundの創設等による援助の増額や、ヨーロッパがEUを中心として相互協力体制を構築しているように、パートナーを探しての当該地域に対する協力が挙げられる。

(参考)メコン河委員会ホームページ http://www.mrcmekong.org/
                                      (文責:北野 尚宏)