上海センター特別セミナー

「今日の東北アジアと朝鮮半島経済」(2/10)
「応用一般均衡モデルによる日中韓FTAの効果分析」(2/14)

 日時  2005年2月10日(木) 14:00〜
        2005年2月14日(月) 14:00〜17:00

 会場  経済学研究科総合研究棟 8階リフレッシュルーム(2/10)
        時計台記念館会議室W(2/14)

 報告者  2/10 深川 由起子(東京大学教授)
             「日韓FTAと東アジア経済統合

             安 秉直(福井県立大学教授)
             「破綻した北朝鮮経済改革の営繕−7.1経済管理改善措置−

         2/14 高 鐘煥(韓国国立釜慶大学校副教授)
             「応用一般均衡モデルによる日中韓FTAの効果分析」

 概要報告
今日の東北アジアと朝鮮半島経済
 日韓条約締結40周年の今日、日本では韓国・北朝鮮についての関心は高まっており、情報は量的には増えていますが、質的にはまだまだ一面的な議論が多いようである。そこで、お二人の専門家をお招きし、現在の東北アジアにおける朝鮮半島経済に関する包括的な問題について、研究成果をお聞かせいただいた。

               「日韓FTAと東アジア経済統合」
                               深川 由起子教授(東京大学)

 日韓両国とも、FTAに取り組むべき状況になっている。日本は自由貿易政策をもってはいたが、立案過程ではメキシコとのFTAで「実害」がでたことから、防衛的になってしまった。政治家は積極的ではなく行政主導人にならざるを得なかった。韓国では金大中政権時に金融危機の脱出策という点から大胆な理念を先行させたが、盧武鉉政権になって紆余曲折の国内調整で手間取っている。

 日本のFTAは締結の優先順位を東アジアにおいているが、韓国は投資家の信頼回復のために米国との交渉を先行させた。米国の攻撃的な姿勢でうまくいかなくなった後に、セカンドチョイスとして日本がえらばれた。日本韓国ともに戦略はもっており、ヨーロッパが統合を目指しているのに対して、強いナショナリズムを特徴としている。両国はともに農産物開放反対の立場に立っており、日本韓国という大きな市場を共有しうるなど、この組み合わせには実質的なメリットが大きい。

 日韓FTAは、韓国にとって短期的にはマイナスがあっても、長期的にはプラスに働くと思われるが、韓国内では貿易不均衡に関する不満が強い。日本は関税が低いか無い韓国やシンガポールのFTAが基軸になるので、日本中国の組み合わせより摩擦が少ない。今年中にはまとまることになっているが、現在は交渉が動いていない。日韓FTAが今後どこに広げていくのかについては、両国にスタンスの違いがあり、日本はASEANを向いているのに対し、韓国は中国を考えている。日韓FTAは貿易問題のみなら処理できるが、国土開発戦略のような次元では難しい。

 結論として、日韓FTAはWTOの理念に沿ってFTAを乗り越えていくべきである。WTOより包括的で貿易よりも深いレベルで、APECよりも目的明快なもの、日韓FTAよりも開かれたもの、また日韓の歴史的制約をのりこえていけるような政治的内容を持ったものに発展させていくべきである。
                                       (文責:堀 和生)

       「破綻した北朝鮮計画経済体制の営繕-7.1経済管理改善措置」
                               安 秉直教授(福井県立大学)
 
 北朝鮮政府が2002年7月1日に発表した経済管理改善措置は、従来無視していた価格という基本原理を復活することを明示しており、改革開放政策につながるのではないかと多くの注目をあつめてきた。この政策採用から2年半がたった現時点で、この政策の意味するところを再検討する。基本資料は北朝鮮政府が発表した政策資料である。

 1994年から始まった飢餓は5年間続き、2〜300万人の餓死者がでたと伝えられ、北朝鮮政府自体が「苦難の行軍」と呼ばざるを得ないものであった。その間に北朝鮮経済は大きく萎縮した。この経済破綻の引き金になったのは社会主義諸国の崩壊であることは確かであるが、実はそれに先行する国内経済の破綻があった。鉄道、道路、港湾、電力や農業のインフラストラクチャーの崩壊が広範に進行していた。そのために、北朝鮮の経済の復活をはかるのには、計画経済体制を市場経済体制に変更するのみではなく、崩壊したインフラを再構築するという政治体制の改革におよぶ抜本的な転換が必要であった。

 しかし、飢饉が一応収まった後に北朝鮮政府が打ち出したのは、強盛大国路線というもので、そのなかの新しい特徴は核とミサイル開発を中心とする軍事大国化である。この政策を追求するために付随してでてきた経済再建策が、すなわち経済管理改善措置であった。この中で農民市場を導入するとあったことが大きな転換ではないかと外側の注目を引いたのであるが、これは新しい経済体制をつくるのではなく、崩壊した既存の計画経済体制の営繕をめざしたものである。これが決して対外関係を組み直す改革開放政策でないことは、北朝鮮政府が強く強調している。総合消費市場という概念も配給制度を補完するものであり、むしろ社会主義社会の原理である弱者保護的な側面を切り捨てる措置さえ含んでいる。

 結論として、この政策は金正日政権の延命措置にすぎず、北朝鮮全体の体制改革につながるものではない。

応用一般均衡モデルによる日中韓FTAの効果分析
   動学CGEモデルによる韓・中・日自由貿易協定の経済的波及効果分析
                        高 鍾煥(釜慶大學校國際地域学部ヘ授)

 1997年東アジア金融危機以後、 韓・中・日FTAに対する必要性が論議され始め、2002年11月プノンペンで開催された韓・中・日首脳会談で当時中国の朱鎔基総理が韓・中・日FTAに関する共同研究を提案した。この提案を基礎にして日本の総合研究開発機構(NIRA)、中国の中国社会科学院工業経済研究所(DRC) 及び、韓国の対外経済政策研究院(KIEP)が共同で韓・中・日FTAに関する研究を遂行して来ている。

 しかし、今までの韓・中・日FTAの経済的な波及効果分析に関する既存研究では静態CGEモデルが用いられていたため、韓・中・日FTAが行われた際、韓・中・日3ヶ国経済に及ぼす影響の中で一部の効果、すなわち静態效果にあたる比較優位による資源の再配分効果のみを把握することにとどまり、韓・中・日FTA結果、予想される動態効果、例えば競争の深化により効率性に及ぼす効果及び資本蓄積効果などは説明できない短所がある。

 このような静態CGEモデルの短所を乗り越えるために本研究では逐次動態(recursive-dynamic)CGEモデルを利用して韓・中・日FTAが実施される場合、韓・中・日FTAが韓・中・日3ヶ国経済に及ぼす影響を分析した。

 特に、海外直接投資(FDI)の流れをモデル化して韓・中・日FTAが締結される場合、資本蓄積の変化が経済成長及び国際間交易に及ぼす影響を分析した。韓・中・日FTAに関するシミュレーションとしては既存研究では韓・中・日3ヶ国が同時に韓・中・日FTAを締結することを仮定して韓・中・日FTAの影響を分析したが、本研究では3段階に分けて韓・中・日FTAが成立されると仮定されている。

 第一、2006年韓・日FTAが締結されて2015年まで両国間すべての商品の輸入に賦課する関税を無税化する。第二、2008年韓・中FTAが締結されて2017年まで両国間すべての商品の輸入に賦課する関税を無税化する。第三、2010年中・日FTAが締結されて2019年まで両国間すべての商品の輸入に賦課する関税を無税化するということが仮定されている。
 また、関税引き下げは10年間、毎年均等に削減することで仮定した。結果的に2019年に韓・中・日FTAが完結されて3国間すべての商品の関税が無税になることで仮定した。

 本研究の結果の中で重要な幾つかを説明すると次のようである。韓・中・日FTA 結果、韓・中・日3ヶ国の実質GDPは、毎年持続的に増加して2021年に日本の実質GDPは0.13%増加し、中国の実質GDPは0.94%、そして韓国の実質GDPは3.36%増加することに分析された。一方、韓・中・日FTAが国際収支に及ぼす影響を見ると、韓国は韓・中FTAが完結される2017年まで貿易収支が持続的に増えるが、その後貿易赤字の幅が減ると展望される。

そして中国は日・中FTAが完結される2019年まで貿易収支が持続的に増えるが、その後貿易赤字の幅が減少すると予想されるのに比べて、日本の場合、韓・中・日FTAが完結される2019年まで貿易黒字が持続的に増加するが、その後貿易黒字の幅は減少すると展望される。

 最後に<図>を通じて韓・中・日FTAが3国の産業別生産に及ぼす影響を見ると、長期的な観点で2021年の場合、日本は自動車、機械類、電子製品、化学製品及び鉄鋼製品の生産が大きく増加する一方、穀物類、酪農業製品、水産業、加工食品及びその他運送機械類の生産が減少することに分析された。中国の場合、 自動車及び酪農業の生産を除いたすべての産業の生産が増加すると展望される. 韓国の場合は穀物類とその他運送機械の生産が大きく減少する代わりに加工食品、纎維衣服、 酪農製品及び自動車の生産が大きく増加すると展望される。





(本稿は高副教授にご自身の報告を要約いただいたものです)