ブラゴベスト・センドフ駐日ブルガリア大使講演会

「EUの東方拡大と東アジアの可能性―ブルガリアの視点から―

 共催  京都大学経済学会

 日時  2005年4月28日(木) 14:00〜

 会場  京都大学時計台記念館国際交流ホールT

 講師  ブラゴベスト・センドフ(駐日ブルガリア大使、世界大学協会名誉総裁)
   通訳  田中 雄三(龍谷大学名誉教授)

 講演概要
 欧州連合

 EUは民主主義的なヨーロッパ諸国の「family」で、共に平和と繁栄を目的とするものである。この歴史的なルーツは第二次世界大戦にあり、現在は以下の5つの制度を持つに至っている。すなわち、
 @ヨーロッパ議会
 AEU理事会
 BEU委員会
 C裁判所
 D監査委員会
である。そして、EUにおける全ての決定は全加盟国が合意した条約を基礎としてなされている。この当初の加盟国は、ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、オランダであったが、その後、デンマーク、アイルランド、英国が1973年に加盟し、ギリシャが1981年に加盟、1986年にはスペインとポルトガルが、1995年にはオーストリア、フィンランドとスウェーデンが加盟した。さらに2004年には10の国が加盟し、三日前(4月25日)にはブルガリアとルーマニアが2007年の加盟を認められることになった。この両国の加盟で、EUの総面積は日本の10.5倍の400万平方キロに、総人口は日本の3.6倍の4.6億人になる。

 EUはすでに半世紀の間に平和と繁栄をもたらしたという実績がある。この諸国家の連合は「多様性の中の統一」と言え、全ての文書が全ての国家の言語に翻訳されるシステムを持っている。そのためにEUの全予算のうちの12%が翻訳のために使われてるほどである。

 ブルガリア

 ブルガリアの歴史はアジアから北バルカン地方に移動したブルガーから始まる。これによりブルガリアは1300年以上の歴史を持つことになったが、さらに300年古い歴史を持っているとの議論もある。その後、1018年にはビザンチン帝国によって併合されたが、1185年には再び独立。が、14世紀末には今度はオスマン・トルコによって占領されることとなる。その後、1878年にロシアとトルコの戦争の結果独立を勝ち取るが、全面的に独立した王国の建設は1908年にまで待たれることになった。

 ブルガリアは第二次大戦では日独伊の側についたが、大戦末に社会主義革命が起き、短い王政の期間を経て1946年には完全に人民共和国となった。ただし、その後、共産主義の放棄と共に1991年には王が帰国、選挙によって首相となった。ブルガリアには大統領がいるが、これは完全に道徳的な存在で首相がもっとも重要な地位を持っている。昨年この首相は日本に公式訪問したが、首相として小泉総理大臣に会見しただけでなく、元国王として天皇にも会見した。現在、ブルガリアは日米と同様、イラクに軍隊を派遣している。

 ブルガリアの面積は11万平方キロで、首都はソフィア。ギリシャ、マケドニア、ルーマニア、セルビア・モンテネグロとトルコに接している。人口は780万人で、当初830万人あったものが減少している。これは教育水準の高い国民が外国で良い職を得ようと50万人も海外に出たことによる。たとえば、自分の親戚を含めた10人の子供のうち、ブルガリアに残っているのは二人しかなく、かつその内の一人もイタリアに留学中である。この高い教育水準を反映して都市人口は68%を占めている。
 経済的な特徴としてはまず一人当たりGDPが2260ユーロ=32万円で、EU平均の1/4であることが挙げられる。付加価値レベルで産業比率を見ると、1998年に20%を占めていた農業が2003年に10%まで減少し、代って観光業の発展によりサービス部門が50%から60%に上昇したことが挙げられる。2002年、2003年の実質GDP成長率はそれぞれ4.9%、4.3%であった。

 ブルガリアのEUへの加盟が遅れた原因には、ブルガリアにおける汚職の蔓延という問題がある。これは全体主義から民主主義への転換によって生じたもので、経済にも工業部門の比率が65%から25%まで縮小するという影響を及ぼした。これは私有化・民営化によって旧来の工場を引き継いだ人々がまともに生産する気がなく、その資産を売って私利を肥やすことを選択した結果である。たとえば、バルカン航空は私有化によってイスラエルの航空会社に売却されたが、この会社はすぐに世界40ヶ所のブランチと航空路線の権利を売却し、その後会社が破産したということでこの会社を放棄した。よって現在、ブルガリアには航空会社が存在しない。経済主体間にあった以前のつながりを復活させ、経済を正常化させることが重要である。
 現在、ブルガリアの経済に求められているもうひとつのことは、環境技術の発展である。日本は欧米より高い環境技術を持っているから、これをブルガリアは取り入れたいと思っている。

 アジアと欧州連合

 EUは経済面でも安全保障面でもアジアを大変重視している。アジアには世界人口の1/3が住み、世界の中心がここに移動中である。近い将来、中日インドの三国が重要な役割を果たすことになると考えている。
 EUにとって何より利益となるのは平和で反映したアジアである。が、逆にアジアの人々がEUをどう考えているかを知りたい。

 アジアでもEUに似たものを作ろうとする動きがあることを私は知っている。が、EUは非常に特殊であり、それをコピーすることはできない。EUもアメリカをコピーしたわけではない。 EUには非常に大きな多様性があったが、アジアの多様性はそれを上回るからである。

(本稿は講演の内容をブラゴベスト・センドフ駐日ブルガリア大使の了解を得て要約したものです。)