海センターブラウンバッグランチ(BBL)セミナー 第3回

「人民元切上げが中国経済に及ぼす影響」

 日時  2005年5月9日(月) 12:15〜14:00

 会場  法経総合研究棟3階311教室

 報告者  村瀬 哲司(京都大学国際交流センター教授)


 講演概要
 人民元の切上げが中国経済に及ぼす影響について、マクロ経済、銀行部門および金融政策に分けて検討した。結論としては、人民元の改革が小幅切上げ(変動幅の拡 大)かつ漸進的な切上げをともなう為替制度への移行であれば、たとえ金融部門に問 題があっても国家が銀行株式の過半を保有する限り金融システム不安定化の懸念は少なく、金融政策上はむしろ自律性の回復につながり、マクロ経済への悪影響は限定的である。改革の時期としては、為替の変動リスク・ヘッジ手段が整備されつつあることから、景気過熱やインフレの問題が比較的落ち着いている、現在から近い将来のタイミングを逃すべきではない。

(発表の構成)

1.中国経済への影響は、人民元の切上げ幅と為替制度のよって異なる。
 人民元改革の選択肢は限られており、
 @固定相場制のもとでの大幅切上げ
 A5〜10%程度の変動幅拡大
 B通貨バスケット・ペッグ制への移行
が考えられる(注)。中国政府は、経済・社会の安定重視の見地から、またWTO加盟の国際収支、各種産業への影響がなお不透明な状況下、切上げ幅(変動幅)をできるだけ小幅に抑 え、かつ金融当局が管理可能な為替制度を選ぶだろう。
(注)本年5月18日から上海外貨取引センターは新しい売買システムに移行することからバスケット・ペッグ制移行への必要条件が整うことになる。

2.マクロ経済への影響
 マクロ経済への影響は、
 @輸出入
 A対内直接投資
 B交易条件の変化の経路を経て顕現する
 (1)実質為替相場よりも輸出相手国および中国の内需のほうが貿易への説明力
   が高い。
 (2)相場切上げの影響は限定的で、むしろ外資優遇政策の動向に注意を要する
 (3)交易条件の改善によりインフレ抑制と消費の刺激効果 が期待される。切上
   げが小幅かつ緩やかに進む限り、成長鈍化などマクロ経済への悪影響は少
   ないだろう。

3.銀行部門への影響
 人民元改革は、相場の切上げ、相場変動(volatility)の高まり、および付随する漸進的資本取引の自由化を通じて銀行部門の安定性に影響を与える。中国の場合、不良債権問題など金融システムの健全化は「百年河清を俟つ」に近く、国家が株式の過半を所有する限り、人民元改革が金融システムの不安定化を招く可能性は比較的低いだろう。

4.金融政策への影響
 中国は、いわゆる「不可能な三角形」の理論(金融政策の自律性、為替レートの安定、資本移動の自由の三つの政策目標を同時に達成することはできず、一つの目標は諦めなければならない)のジレンマに陥っており、人民元相場の弾力化により、金融政策の自律性を取り戻すことができる。
                                      (文責:村瀬 哲司)