上海センターブラウンバッグランチ(BBL)セミナー 第6回

「世界の援助潮流と東アジアの開発課題」

 日時  2005年 6月30日(木)12:15-13:45

 会場  法経総合研究棟3階311教室

 報告者  和田 義郎(国際協力銀行開発業務部業務課長)


 講演概要

 本年7月に英国で開催されるグレンイーグルス・サミットに向けて、アフリカ支援をどのように行ってゆくか、同時に、我が国のODAをどのように増加させるか、が、大きな課題となっている。これらの課題は、今年のサミット、そして9月に予定されている、ミレニアム+5の国連総会へ向けて、極めて今日的な課題となっているが、実は、これらの課題は21世紀に入って以降、先進国間で共有された課題である。
 この世界的援助潮流から、日本は離れたところにあるが、ここで、これらの援助潮流が日本にどのような課題を突きつけているか、その上で、東アジアの一員である日本としてなしうることがあるか、というのが本講演の最大のテーマである。

本講演で取り上げたのは、まず、途上国側の課題として、MDGsの達成と貧困削減という大目標、その上でミクロ・マクロの貧困トラップの存在の実証と、その政策的含意、これらの貧困削減の鍵となりうる途上国自身のガバナンス強化のメカニズムについてである。同時に、これらの途上国側の課題に応えるかたちで、援助側である先進国も課題を負っている。

 先進国側の課題は、援助の量と質についてである。援助の量については、MDGsを達成するに必要な資金需要があり、その資金需要にグラント(無償)で応えるか、ローン(有償)で応えるか、という問題がある。先進国側の予算制約・財政制約を考慮すると、どうしても一部はローン(有償)とならざるを得ないが、その場合には、途上国側の債務持続可能性を考慮する必要がどうしてもでてくる。援助の質については、まさしく援助の効果をどのように発現してゆくか、という問題である。この点については、援助モダリティの議論が出てきて、たとえばアフリカでは一般財政支援の有効性が提唱されるなど、そもそも、各国がばらばらに援助するアプローチがよいのか、または、各国がアラインして、援助協調のもとに、あたかもコモンプールを形成するかのごとく援助するアプローチがよいのか、という議論がある。

 とくに、貧困トラップの存在、HPICsへの支援、対象としてのアフリカ支援を考慮する場合、「アフリカ、貧困、グラント(無償)」の組み合わせでの援助をどのように有効に機能させうるか、という論点が存在している。これまで、日本がとくに東アジアにて行った援助は、「アジア、(経済)インフラ、ローン(有償)」の組み合わせの援助であり、これらの適用可能性をアフリカにおいて検討する必要はあろう。この「アジア、インフラ、ローン」の組み合わせは、アジアのように特に投資が活発であり、ひいては、市場を目指して投資が集まる地域では、貧困削減の手段として極めて有効であったことは言うまでもない。しかし、それに対して、アフリカにおいては、価格メカニズムが未だ有効に機能せず、市場が形成されておらず、したがって、投資も活発化しない状況にあるため、アジアの経験が直接に適用可能かどうかは、判断がわかれるところである。

アジアについては、投資は活発であるが、さらなる成長を得てゆくためには、FTA・EPA(自由貿易協定・経済連携協定)のようなより広域の市場を作り出す動きが重要である。これまで、十分な成長とはいえなかったベトナム、カンボジア、ラオスのような国を含んで、より広域の市場が形成されれば、活発な投資は持続し、それが更なる貧困削減へと寄与する可能性がある。すなわち、東アジアにおいては、まず、市場の形成を一層促進し、その動きを開発援助で補完することを中心として、今後の日本の貢献を考えてゆく必要がある

(本稿は630日に開催された上海センターブラウンバッグランチ(BBL)セミナーでの講演を和田義郎氏にまとめていただいたものである。)