上海センターブラウンバッグランチ(BBL)セミナー 第11回

中国における契約と紛争解決

 日時  2005年 12月21日(火)12:15-13:45

 会場  法経総合研究棟1階第103室

 報告者 森川 伸吾京都大学大学院法学研究科教授)


 講演概要

 日本企業の中国進出形態

 日本企業の中国進出には取引型のものと直接投資型のものがあり、前者は技術・商標ライセンスのものと委託加工貿易等の特殊な貿易形態のものがある。後者には製造業を中心に子会社設立方式のものと銀行などの支店設立方式、それに狭義の「直接投資」ではないが駐在員事務所を開設するというものがある。最後のものは現地で法人を設立するのではないが営業税はとられる。

 子会社設立に関する法制

 子会社設立の種類と根拠法令、組織形態は以下のとおりとなっている。

子会社設立形態

根拠法令

組織形態

中外合弁企業

中外合資経営企業法、同法実施条例、会社法(補充適用)

有限責任会社

中外合作企業

中外合作経営企業法、同法実施細則、会社法(補充適用)

有限責任会社又は非法人企業

外資企業(外商独資企業)

外資企業法、同法実施細則、会社法(補充適用)

原則として有限責任会社

株式会社

会社法、外国投資家投資株式有限会社の設立に係る若干の問題に関する暫定規定

株式責任会社

 

 

 

 日本企業が関与する「中国での契約」の典型例

 

 中国での企業の設立は出資者間契約(≒株主間契約)との性質を持つ契約で行なわれ、相当細かな会社の運用方針まで決められなければならない。たとえば、製造する品目の変更があれば、改めてこの契約を結び直す必要がある。この際、この契約は当事者間の合意だけでなく、中国政府の認可も必要で、認可された部分のみが効力を有する。サイドレターは実効性を持たない。

 そうした現地法人の株式などの持分譲渡については、たとえば中方国有企業の保有資産の不当な廉価譲渡でないかどうかとの政府によるチェックが必要になるので、やはり中国政府の認可が必要になる。

 この「認可」は全て中文によるので、契約書の日本語側で納得するだけでは駄目で、中文をしっかり確認しておく必要がある。

 具体例1

 日本企業51%出資、中国企業49%出資で合弁会社を設立した。「董事会は四名の董事で構成され、双方が二名ずつ指名。中国側が董事長、日本側が総経理の任命(指名)権を持つ」とだけ合弁契約・定款で定めた。

 この場合、董事会では日中の対立時に何も決められず、会社が機能不全に陥る可能性があるので、日中双方の意見不一致の場合については、一定の事項について日本側の意見を優先し、また、それ以外の事項について意思決定ができず、経営に支障を来たす場合には解散するものと合意した。当該合意を書面化した「合弁会社の運営に関する合意書」を締結した。

 (上記内容は合弁契約・定款にも規定してあったとして)解散時に、日本側が、適正価格で持分を購入することで会社を存続させようとした。

 具体例2

 日本企業35%出資、中国企業65%出資で合弁会社を設立。「董事会は六名の董事で構成され、日本側が二名、中国側が四名指名。多数決で意思決定」とした上で

(1)「日本側が董事長、中国側が総経理の任命(指名)権を持つ」とだけ合弁契約・定款で定めた。

(2)「中国側が董事長、日本側が総経理の任命(指名)権を持つ」とだけ合弁契約・定款で定めた。

 技術ライセンス契約

 100%子会社に技術を移転するのにも技術ライセンス契約が必要で、これは、合弁契約、定款とともに「三点セット」と言われる。これに関わる規制については2002年1月1日以降は次のようになっている。

(1)「全ての契約に認可制を適用」から、技術の種類(禁止類、制限類、自由類)に応じた規制に変更。

(2)技術の類別: 通常の製造関連技術は大体自由類に入る

(3)自由類への規制: 契約の登記(契約の発効要件ではないが送金に必要)

 紛争処理の諸問題

 紛争処理のための裁判所(人民法院)は憲法上「独立して裁判権を行使し行政機関、社会団体および個人による干渉を受けない」としているものの、「国家の機関」として「全国人民代表大会及び全国人民代表大会常務委員会に対して責任を負う」という形で根本的には独立していない。これは地方の人民法院でも同じとなっている。

 同様に裁判官の独立性も弱い。裁判官の資質を改善するために1995年に「裁判官法」が制定・施行され、「法律の素養プラス試験」が必要とされるようになった。が、裁判委員会

による裁判官への不当な圧力がときにあり、そうした問題が残っている。少なくとも外国企業からはこの裁判制度が「信頼されていない」。腐敗があふれ、また地方の利益保護のために公平な判決の行なわれないことが多い。

 ただし、かといって裁判に頼らず、仲裁合意を目指そうとしても公正な仲裁を期待できるかどうかは分からない。なぜなら、裁判にはその判決に対して抗訴が可能であるが、仲裁は一発勝負で、その意味で腐敗もしやすいからである。

 準拠法の問題について 

 どの法律に準拠するかを当事者が合意により選ぶことは原則的にはできる。が、当事者による準拠法の選択には限界もある。というのは、日本では「公序良俗違反」を持ち出して合意した準拠法以外の判断をすることはめったにないが、中国の場合はそうした判断への躊躇が少ない。こうして中国の行政取締り規制違反の内容を少しでも含む契約については、中国の裁判所は準拠法選択自体を全部無効にすることがある。

 



(以上は京都大学法学研究科教授森川伸吾氏の上海センター・ブラウンバッグランチ・セミナー(2005年12月21日開催)でのご報告を「ニューズレター」編集部の責任でまとめたものです。