中国におけるユーザーの購買行動―クルマの選び方・乗り方・売られ方―

 日時  2007年11月3日(土)

 会場  京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホール

 司会  塩地 洋 (京都大学経済学研究科教授)

 報告者


周 政毅   (フォーイン 第一調査部部長)

孫 飛舟   (大阪商業大学准教授)

李 澤建   (京都大学大学院経済学研究科博士課程)

西川純平  (金沢学院大学講師)

木本 卓   (J.D.パワー・アジアパシフィック 部長)

 
 講演概要
 
李 澤建(京都大学大学院経済学研究科博士課程)
 
中国自動車販売におけるインターネット情報の影響分析
1、はじめに
表1 中国自動車消費の構造変化
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2002
2006
特徴
市場規模
125万台
416万台
急拡大;8割が初心者
女性顧客率
20.3%
30.9%
女性向け製品出現
ユーザー平均年齢
35.3
32.3
初代一人っ子世代が浮上
保有世帯平均月収
9235
10193
連年、車価格下落と収入上昇で市場が急規模拡大
車購入予算≒年間収入額
都市世帯平均月収
7703
11759
成熟市場
北京、上海、広東
低成長率、高保有台数
成長市場
浙江、江蘇、山東、四川
高成長率、高保有台数
始動市場
河南、内モングルなど
高成長率、低保有台数
出典:「中国汽車ユーザー消費形態報告」新浪・新華信連合調査報告。

 

 

 

 

 

 

    WTO加盟目前の2000年、中国国内の自動車生産及び販売台数が共に200万台を超えた。2006年には同数字が720万台を超え、市場の急成長を示している。更に、こうした急激な市場拡大の背景に、表1で示すとおり、市場規模の拡大とともに、構造変化も伴っている。先発した沿海部大都市では市場が成熟段階に入りつつあると同時に、モーターリゼーションが大都市から周辺へ、内陸部へ次第に浸透していく様子が鮮明である。本稿では今現在こうした市場構造の変化の下、2007年8月中国北京で行われた「北京ユーザーアンケート調査」(以下:「北京調査」と呼ぶ)の調査結果を用い、中国の自動車消費者の購買行動にインターネットで流された情報の影響を分析することに試みる。

2、なぜインターネット情報なのか
(1)中国インターネットの現状
まず、インターネットの発展状況について見てみよう。右図(出典:「中国インターネット発展状況統計報告」各年版。中国インターネット情報センター:CNNIC)で示す通り、中国におけるインターネットユーザー数が97年の63万人から071月時点の1.37億人へ急成長した。接続コンピューターの台数も同期間において、29.9万台から一気に5940万台まで拡大してきた。インターネットが中国人の生活に深く関わりこんだと言えよう。次に、車購入との関連において、前述した「北京調査」だけでなく、他に多数の研究報告が類似する結論を出している[1]。つまり、それはインターネットが情報源として車購入際に重要な役割を果たす結論である。それで、「北京調査」の結果に限って言えば、82.2%の潜在ユーザーが購入前インターネットを通じて、情報収集を行った。


[1] KPMGTNS(2007)Automotive Dealerships in China: Accelerating Performance」に参照。
(2)インターネット情報の種類
表2 車関連サイトTop10
汽車之家 www.autohome.com.cn
新浪車行天下 auto.sina.com.cn
太平洋汽車網 www.pcauto.com.cn
網易車訊 auto.163.com
捜狐汽車 auto.sohu.com
?汽車網 www.xcar.com.cn
中国汽車網 www.chinacars.com
汽車天下 www.chetx.com
?網 www.ucar.cn
汽車網址大全 www.chelink.com
出典:www.chinarank.org.cn
インターネット情報と消費者購買行動の関連をより明確に引き出すために、インターネット情報の発信源から分類してみることにしよう。
まず、サードパーティの役割を果たす車関連専門サイトから見てみよう。表2ではこの分野のトップ10位のアクセスアドレスをリストアップした。各サイトで多少内容の構成には違いが生じるものの、自動車業界の関連ニュース、購入に関連する車種情報(写真、スペック、価格情報、店案内)、広告、掲示板、関連論説などの機能が一般的に設けている。一般報道機能以外に、メーカーとっての情報チャンネル、ユーザーとってのコミュニケーションの場とする情報を総合的に発信する場の特色を有している。
次に、バーチャル・コミュニティがある。上記車関連専門サイトでのコミュニケーション機能に特化したサイトのことと言えばよかろう。しかし、両者の最たる違いとは、車関連専門サイトでの情報が専門編者の手を通して、採取、あるいは編集され、そして公開する流れに対し、バーチャル・コミュニティでは専門の方ではなく、一般ユーザーが自らの言論やその裏付けとなる情報の貼り付けなどがバーチャル・コミュニティでの主な情報構成となっていることである。日本でいえば、有名な「2ちゃんねる」はこのようなサイトである。従い、発信力と影響力の面からいえば、強力な影響を持つ場合もあるものの、その情報が正確であることに必ずしも保証があるとは言えない。それはバーチャル・コミュニティの最たる特徴である。しかし、消費者が直接に書き込んだ情報のため、口コミ形成の場として、消費者の購買行動への影響が無視できない。
最後に、メーカーや関連販売店のホームページである。このようなサイトでは前述二者と異なり、自社の製品に関して、直接情報を発していることは特徴だと言える。

前述した「北京調査」では「購入際に重視される要因」について、調査した結果を右図にまとめた。現時点、中国北京では車を購入する際に最も重視される要因は車の安全性であることを分かった。価格要因が安全性を初めとする車性能に関連する諸指標の下に来た結果はWTO加盟後、商品価格の連年下落と新商品の多数投入によって、消費者の選好が購入を検討する際に以前の価格重視から現在の製品性能重視へ変わったことを反映している。一方、環境、燃費、残価などへの関心が最も低いことから、中国市場が日本市場のような成熟度にはいまだ到達していないことも言えよう。ここで、安全性、燃費、維持費用を事例に、前述三種類の異なる情報源からの発信された情報の影響度を検討していく。

 

(1)安全性
表3 C-NCAP衝突実験成績一覧(得点順)
フォード・Focus一汽トヨタ・クラウン、東風日産・ティアナ、広州本田・オデッセイ
★★★★★
一汽VWSagitar東風本田・シビック、神龍汽車・プジョー307スズキ・SWIFT、本田City、東風日産・TIIDA上海VWPassat、一汽奔騰、上海GMLaCROSSE
★★★★
奇瑞A5、長城哈弗、BYDF3、東風悦達起亜・Cerato、北京現代・Accent、一汽海馬・Family、一汽夏利・威志、湖南長豊・猟豹
★★★
吉利・自由艦、上海GM五菱・SPARK
★★
出典:C-NCAPホームページ。(2007年第二次実績まで)
表4 書き込み分析
肯定的意見
否定的意見
どちらでもない・無意味な書き込み
181人・回
975人・回
138人・回

 

 

 

?2006年、サードパーティ評価機関として、中国天津にある「中国汽車技術研究中心」が「中国新車評価規程」(C-NCAP: China New Car Assessment Process)を導入した。C-NCAPでは市場で販売台数の多い車種を選び、独自に一定なスピードで正面、正面斜め40%、側面の衝突テストをそれぞれ行い、総合的採点するシステムである。ここで、日系車の評価を見ていこう。表3の採点結果から、日系現地生産車が高い安全性を有していることは明瞭である。一方、異なる情報源のインターネット書き込み情報から、日本車の安全性に対し、異なる見解も伺える。分析には「国際金融報」2004123日の記事[1]を使う。記事の内容に関して、同紙がAutoBild() の公表した「2004年度ドイツ国内自動車品質調査」を用いて、近年日本車の品質が日々改善されるため、ドイツ車より高いと論じたものであったが、分析対象として使うのは記事に対する個人が記入した2004123日から2007918日まで合計1294本の書き込みである。その分析結果を表4に纏めた。驚くことに、日本車の品質に対する疑問な声が多かったことである。その内、中国消費者の車の安全性に対する消費心理を伺える。その特徴とは、まず、車の安全性を交通事故での損傷具合で測られる傾向である。その背景にはC-NCAPのような客観的な評価基準の整備が遅れる理由に、軽い損傷が修理に出しても少額で済むため、心理的要因も働いていると思われる。更に、重大な人身事故の影響は特にマイナス影響が大きいと言える。従来中国のインターネットでは写真付きの交通事故の情報がしばしば見られる。関心の高い商品の場合、その情報が個人のインターネットユーザーによって各バーチャル・コミュニティの間に素早く転載していく。そして、車関連総合サイトも報道や調査に乗り出し、真相解明と同時に、影響を拡大していくこともある。例えば、2005年杭州周辺の高速道路で起きた「婚礼門事故」はその典型事例である。結婚式当日、花嫁を迎えに行く途中の事故で、日本A社の車が真ん中から真二つに裂けた写真が、インターネット上では重大な出来事として続けて注目されてきた。次に、その心理影響で、車を購入する際に、車ボディの安全設計技術より、車台の重量や使われた鋼板の厚さが安全性を測る要素として注目する言動も常に存在する。こうした消費心理の影響で、日本車の安全性について、単純な反日感情の要因が除かれても、日本車は車台の重量が軽い、鋼板の厚さが薄い、前述した重大な事故の影響に、更に「日本車の品質は世界中(他国)で良いかもしれないが、中国での現地生産車は別だ」というダブル・スタンダード論の主張が加えられ、表4で日本車の安全性について否定的意見が対照的に多い結果となったわけである。

(2)燃費・維持費用―新浪汽車(Auto.Sina.Com.Cn)を事例として
中国インターネット上の車関連専門サイトでは多少異なりがあるものの、車の使用やメンテナンスに関する情報が多く存在する。ここでは新浪汽車を事例として紹介してみよう。新浪汽車では車種別に中国現在販売している全車種の評価機能を設け、情報開示している。各車種の紹介ページでの内容項目の構成は車種と関係せず、何れも同じである。車種に関するメーカー名、発売時期、指導価格、排気基準 燃費、車体のスペーク、標準写真という基本情報の他に、サイトの方から、安全基準、車種ランキング、実際写真、テストドライブ報告、競争車種比較分析などのデータや調査報告や評価などの情報も掲載している。更に、全体なページの中に、最も注目されやすい位置に、ユーザーが直接記入した使用の口コミ情報がサイトからの情報の項目の占める合計面積より大きな面積で開示している(読まれるチャンスも大きい)。詳細内容には実際燃費や維持費用のようなデータ、テストドライブや使用・修理・改装を行った感想、更に使用中の不満や改善注意点などメーカーへの提言や自由評価などの実に様々な口コミ情報を網羅した。例えば、現地生産されているカムリの燃費について、メーカー提示の参考数字は時速90キロの際、100キロ当たり6.86.9Lの燃料が消費される情報に対し、一般ユーザーの書き込みでは走行する路面情報などの使用条件と共に、記入した燃費の平均値は100キロ当たり11.95Lとなっている。メーカーの提示情報と大きく乖離している。


[1] 「質量報告:是日本車好還是徳国車質量好(日本車とドイツ車はどちらの品質が良いのか?)」「国際金融報」2004.12.03 http://www.pcauto.com.cn/teach/step1/0412/175090.html

 

4、結論
表5 インターネット情報の影響度分析
N=245
情報ルート
最も重視
間接
個人口コミ
知人、親戚の口コミ(見知り)
38.11%
インターネットにおけるユーザーの評価(見知らぬ)
21.37%
マスコミ評価
伝統マスコミ*評価
情報発信源の違い
20.82%
伝統マスコミ*広告
20.16%
インターネット主要サイトの評価
18.29%
直接
メーカー宣伝
インターネット上の広告
12.22%
販売店の推薦
9.38%
注:*伝統マスコミとは新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどのマスコミ手段を指す。

 

 

 

 

 

 

 上述した通り、現時点中国市場では車商品の口コミ情報が、サードパーティの情報、あるいはメーカー発信情報と大きく一致しないことがしばしば起こる。現状ではこの三種に大きく分けられた情報が各自に影響を果たしているに違いない。今回「北京調査」ではその影響度の違いについて、調査を行った。結果を「最も重視」と答えされた高い順に各情報ルートからの発信の影響力を表5に纏めた。

現時点に限って、表5から顕著に言えることはメーカー側からの商品に関連する「直接発信情報」より、個人の口コミやマスコミ評価などのような「間接発信情報」の方がより重視されている傾向が鮮明に出ている。こうした「間接情報重視・直接発信軽視」現象の背景に、車消費文化がいまだ成熟していないことが原因として指摘できる。同時に、7割以上より一方も減らないエントリユーザーの比率に、WTO加盟後から急増し続ける車種の数という要因も加えられた結果、自ら使用経験の浅い、あるいは経験のないユーザーが大半に占める中国では「とりあえず、騙されたくない」という心理が強く働き、消費者が素直にメーカーやディーラーを信用しようともしない現象が起こった。より重視された「間接発信情報」の内にも、より信頼できる知人・親戚の経験や、個人の生経験を反映しているインターネットにおける個人評価がマスコミ評価より重視されていることを改めて強調しておきたい。順位では個人口コミより下がるものの、重視度では、インターネットを含む広い範疇のマスコミ情報がサードパーティ発信として影響力を持つことは疑う余地がない。メーカー側では、自らの「直接発信」が軽視されていることを如何に克服すべきかの課題が依然残っている中、日系メーカーにとって、現時点の中国市場では、他国企業の製品への評価と比べ、日系車への評価により多く感情的な要素が含まれていることが明瞭である。なお、前述した課題を解消するために、他国企業より一層の努力が必要されるに違いない。これで、本稿では、「北京調査」の結果を下に、現時点中国自動車消費者の車購買行動にインターネット情報が果たした影響を種類別に明らかにした。

大阪商業大学総合経営学部准教授 孫飛舟

中国における自動車購買者の店舗選択について

―2007年8月のユーザー調査から―

 

はじめに

 2007年8月に北京の自動車購買者を対象に行われたアンケートの中に、店舗選択に関する設問があった。アンケート調査票A票(新車購買者対象)の「問21」はそれであった。アンケートでは、選択の対象となる店舗形態を「交易市場内のスーパーマーケット」、「交易市場内の4S店」、「交易市場外の4S店」と「交易市場外の一般業販店」の4つに分け、それぞれの形態の店舗を「非常に利用したい」〜「絶対利用したくない」の5段階評価を設定している。さらに、続いた設問(「問22」)において、店舗選択の際に重視する要素として、「交通の便が良いか」、「接客が良いか」、「価格が安いか」、「信用できるか」、「比較できるか」、「アフター・サービスが良いか」の6つを挙げ、それぞれの要素を「最も重視する」〜「まったく重視しない」の5段階評価を設定している。

 本稿では、筆者は今回のアンケート調査の結果を踏まえて、上記4形態の店舗に関するユーザーの選好度及びその原因を探ることにする。そして、アンケート調査を通じて、現段階各自動車メーカーが展開している販売チャネルにはどのような問題点が存在するのか、今後採るべき方向性について一定の示唆を与えたい。

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T.店舗選択を取上げる理由

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 近年、中国の自動車流通業界において「4S店神話」が吹き荒れている。4S店とは、新車販売、部品販売、アフター・サービスと情報フィードバックの4機能を持つ四位一体型の店舗のことである。簡単に言えば、日本の正規ディーラーの店舗と同様に、新車のショールームと整備工場が一体化し、部品倉庫やお客様相談室などの設備と機能を持つ店舗のことである。それに加え、中国の平均的な4S店は日本の平均的なディーラー店舗に比べ、遥かに大規模な店舗面積を有し、敷地面積だけでも3000平米以上のものがほとんどである。また、整備工場のピット数は一般的に10以上もある。

 4S店が登場したのは1990年代末のことである。後発の外資合弁メーカー(日系、アメリカ系)が販売チャネルの構築に際してそれを導入したことをきっかけに、2000年以降、既存の大手メーカーを中心に一気に広まったのである。しかし近年、中国の大都市を中心に環境規制が厳しくなり、板金や塗装などの重整備を行う4S店の整備工場は騒音や排気などの発生源となる恐れがあるという理由で、中心市街地において規制の対象となったのである。そのような状況の中、一部のメーカーは中心市街地に整備工場を持たない新車販売のみの店舗(1S店)、または新車販売と部品販売の両方を行う店舗(2S店)を出店させている。一部の4S店も整備工場を持たないサテライト拠点を開設している。

4S店や1S店、2S店のようなメーカー指定専売店以外に、複数ブランドの車種を併売する一般業販店も存在する。中国にはまだ数多くの弱小メーカーが存在しており、彼らの車種は一般業販店経由で売られる場合が多い。そして、メーカー指定専売店(1S店〜4S店)から一般業販店へ製品が横流しされているケースもある。このように、店舗形態の面からいえば、今の中国自動車流通は「メーカー指定専売店VS一般業販店」の様相を呈している。現在、各メーカーは4S店に代表される指定専売店をどんどん増やしており、それが中国自動車流通の主勢力となりつつある。

他方では、店舗立地の観点から見れば、中国の自動車流通には「集中立地型店舗VS分散立地型店舗」の様相も見られる。自動車交易市場は自動車販売店が集中立地する代表例である。交易市場には4S店が入居する区域と一般業販店が入居する区域があり、両方は同じ敷地内にある。多くの交易市場には「スーパーマーケット」と呼ばれるフロアがあり、そこには一般業販店以外に、4S店のサテライト拠点も入居している場合がある。交易市場は中国全土で約500ヵ所ある(2004年時点)とされ、特に経済が進んでいる東沿海地方の大都市に多く見られる。多数の車種を一同に展示販売でき、さらに業者間の価格競争が激しいという理由で交易市場は多くの消費者を惹きつけ、高い集客力を持っている。

以上の状況を踏まえて、今回のアンケート調査において、「形態(4S店と一般業販店)×立地(集中と分散)」という観点から、ユーザーに対して「交易市場内のスーパーマーケット」、「交易市場内の4S店」、「交易市場外の4S店」と「交易市場外の一般業販店」の4つの選択対象を提示し、各種店舗に対するユーザーの選好度を調査することにしたのである。

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U.店舗選択についての調査結果

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 図1と図2は、今回のアンケート調査における店舗選択(A票問21)及び店舗選択の際に重視する諸要素(A票問22)についての集計結果である。

図1 店舗選択         図2 店舗選択の際に重視する要素

    

 

ユーザーがもっとも利用したい店舗の第1位は「交易市場内の4S店」、以下、「交易市場内のスーパーマーケット」、「交易市場外の4S店」、「交易市場外の一般業販店」の順となっている。店舗選択の際に重視する諸要素の中で「アフター・サービスの良さ」の度合いがもっとも高く、以下は「信用できるか」、「価格の安さ」、「接客の良さ」、「比較できるか」、「交通の便」の順となっている。

調査の結果から、今の中国のユーザーは店舗を選択する際に「サービス」と「信用」を重視すると同時に「価格」や「比較」なども重視する、より総合的な判断に基づいて店舗を選んでいる、ということが伺える。そして、「交易市場内の4S店」はその総合的な判断に基づいて選択されたもっとも利用したい店舗となっている。

ここで注目したいのは、「交易市場外の4S店」より「交易市場内の一般業販店」の方が店舗選択の面において高いスコアを得ていることである。この点からいえば、分散立地型の4S店は集中立地型の一般業販店に比べて、ユーザーに評価されておらず、やはり、サービスが良いとか信用が高いということだけでは一般業販店に対する競争上の優位を確立できないと言わざるを得ない。

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V.メーカーのチャネル政策へのインプリケーション

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 今回の調査結果から、メーカーのチャネル政策にとってどのようなインプリケーションが得られるのか。この点について、主に二つの面において一定の示唆を与えることができるといえる。

 まず、メーカーの現行のチャネル政策において「4S店重視」という店舗形態やマーケティング機能ばかりこだわるようなやり方は必ずしもユーザーに評価されるとは限らない、ということに目を向けるべきである。そこには「立地」という観点が欠如しているからである。アンケートの結果から分かるように、集中立地型の4S店はユーザーに高く評価されている一方、分散立地型の4S店に対するユーザーの評価は決して高くない。したがって、メーカーにとって今後の店舗展開に際してもっとユーザーの利便性を考慮し、店舗の立地面において交易市場のような店舗集積の活用や他の商業施設とのコラボレーションを念頭においた方がよいといえよう。

 次に、一般業販店に対する競争上の優位をどのように構築すればよいのかという問題への取組みが必要である。多くのメーカーは4S店のサービス面だけを重視し、サービスさえしっかりしていれば、一般業販店に対する競争上の優位を簡単に講じることができると考えている。しかし実際に、一般業販店は4S店などのメーカー指定専売店から製品の横流しを受け、しかも、4S店よりかなり安い価格でそれを販売している。4S店からの横流しについて、その背景にはシェア拡大を急ぐメーカーによる販売店への押し込み販売が4S店の在庫圧力を高めてしまい、それを解消するために多くの4S店が一般業販店へ製品を横流しするようになった、という経緯がある。したがって、横流しの問題を解決するために、まずメーカーによる4S店への押し込み販売を根絶する必要がある。さらに、メーカーにとって、一般業販店が4S店より低い価格で横流しの製品を販売できることに対してもやはり何らかの対策を講じる必要があるといえる。つまり、指定専売店に対して一般業販店に対抗しうる販売価格を打ち出せるようなオペレーションを実行させる必要がある。この点について、塩地(2003)が提唱した「The more tiers, the more lower prices」から一定のヒントが得られる。大規模な4S店は一般業販店に比べ、固定費や販管費の面において遥かに高いオペレーション・コストが強いられているため、結果的に仕入コストが一般業販店より安いにもかかわらず、最終販売価格は高く設定せざるを得ない状況に置かれてしまうことになる。それを打開する方策として、指定専売店の固定費と販管費を抑えるようなロー・コスト・オペレーションが必要不可欠といえよう。

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おわりに

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 いずれにせよ、まだ成長の初期段階にある中国自動車市場においてどのようなチャネル政策を採るかについて、かなり多くの議論が必要ということに間違いない。少なくとも今回のアンケートを通じて、中国の一般消費者がどのような店舗を望んでいるかについては一定のヒントが得られたといえる。今回のアンケート調査は北京の特定の販売施設で行われたことから、得られたデータは必ずしも中国の一般的な状況を反映したものとはいえない、ということについて重々承知しているつもりである。これをきっかけに今後さらに調査の範囲を広げ、中国自動車市場の全体像の把握に一歩ずつ近付けていけたらと願っている。

金沢学院大学経営情報学部 西川純平

中国における自動車ユーザーの買い方とディーラーの売り方

はじめに

 本報告の目的は、中国の自動車販売におけるユーザー(個人消費者)の購入の判断基準と、その判断の基となる情報源を明らかし、ユーザーの購買行動を考察することにある。なぜなら、現在、そして今後の中国自動車市場の成長を支える個人消費者の購買行動を明らかにすることで、中国自動車市場の現状や課題を考えることが可能となるからである。

また、さらにこうした個人のユーザーの車の「買い方」に対する自動車メーカーやディーラー(販売店)の対応、「売り方」についてもふれていく。

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1.ユーザーの車の買い方

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 中国の自動車販売台数は、急速な経済発展を受け、昨年2006年には700万台を超えており、中国は世界第2位の自動車市場となった。こうした中国の自動車販売の拡大を支えているのは企業や政府関係機関ではなく個人消費者である。例えば 2005年の中国の自動車保有量は3,160万台であったが、その内、個人の保有台数は全体のおよそ6割となる1,848万台にものぼっている。

一方で、中国では自動車を購入しようとしている、あるいは購入したユーザー(個人消費者)の多く(およそ70%程度)がエントリーユーザー(初めて車を買う客)であると言われている。では、こうしたエントリー・ユーザーが多い中国のユーザーは、自動車を購入する際にどのような購買行動をとるのであろうか。

 

表1 車を購入する際に最も重視する要素 

  

 

 

2 車を購入する際にどのような情報源を重視するか

 

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まず、表1は自動車を購入する際に最も重視する要素(内容)を質問した結果をまとめたものである。表1では安全性や故障のしにくさ、燃費の良さなどの項目に関して、「最も重視する」と回答されたものをまとめている。さて、表1にあるように、中国(北京市)では多くのユーザーが、車を購入する際には安全性を重視し、次いで故障のしにくさ、燃費の良さ、走行安定性、アフター・フォローと続いている。つまり、中国のユーザーは価格よりも車の安全性や品質、そして購入後のアフターサービスを重視していることが分かる。だが、ユーザーは車の安全性や品質に関する情報をどのように得ているのであろうか。この問に関して質問した結果が次の表2である。

 表2を見ると、まず中国のユーザーは「知人・親戚の口コミ」を重視していることがわかる。次いで、「ネットでのユーザーの評価」「マスコミでの評価」となっており、最後に「販売店の推薦」となっている。このような結果の背景には、先ほども指摘したが、中国では多くのユーザーがエントリー・ユーザーであるため、自動車という高額商品を購入するにあたって慎重な購買行動をとっていることが存在しているのであろう。他方で、中国のユーザーは、自動車メーカーや販売店に対してあまり信頼感を持ち合わせていないと言えよう。

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2.3人のユーザーに対するインタビュー(北京市)を踏まえて

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 さて、今回の調査ではアンケート調査だけでなく、3人のユーザーに対するインタビューを行っている。3人はそれぞれ奇瑞汽車のA5、上海大衆汽車のパサート、そしてメルセデスベンツのE280のユーザーである。なお、表33人のユーザーの概略と質問に対する回答をまとめたものである。この表3を参照しながら、先ほどのアンケートの結果と同様に「購入の際に重視する内容」「購入の際の情報源」に注目しながら説明していこう。

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             表3 3人のユーザーに対する質問結果

 

まず、「購入の際に重視する内容」をユーザーごとに見ると、奇瑞汽車のA5のユーザーは価格をまずあげており、ついで以前所有していた奇瑞汽車のQQの使用経験から信頼性をあげている。先ほど、中国はエントリー・ユーザーが多いと指摘したが、一方で本年、北京市内(北京アジア村汽車交易市場)で行った調査では、自動車を購入しようしている消費者の約半分が買い換え客であった。すなわち、このA5のユーザーを含め、大都市圏ではこうした買い換え客が過去の経験を踏まえて車を購入している現状が見られつつある。

そして、次いでパサートのユーザーを見てみよう。パサートのユーザーは性能や品質、価格をあげているが、特に安全性を重視している。これはあくまで報告者(西川)の推測ではあるが、使用目的を見ると娘の通学に使用すると回答していることから、交通事故死が年間十数万人とも言われている中国において大切な家族を安全な車で送迎したいというユーザーの感情が背景にあるのではないだろうか。なお、このパサートのユーザーはパサートを購入する以前にジェッタを所有しており、ジェッタ(一汽-大衆汽車)の使用経験を踏まえた上でパサートを購入している。

さて、3人目のベンツEクラスのユーザーを見ると、先のA5、パサートのユーザーが共通して品質、価格をあげているのに対し、Eクラスのユーザーはブランドやディーラーの対応の良さをあげている。これは奇瑞A5や上海大衆汽車のパサートといった大衆車のユーザーと、ベンツのEクラスという高級車のユーザーとの購入基準に差が存在していることに起因しているのであろう。しかし、3人のユーザーともに車の信頼性や品質を重視している。これは先ほどのアンケートの結果とほぼ同じ解答と言えよう。

 では最後に、「購入の際の情報源」について見ていくことにしたい。情報源としては、3人のユーザーがそろって口コミとインターネット(コミュニティサイト等での評価)をあげている。したがって、購入の際の情報源に関しても、アンケートの結果と同様の回答を得たことになる。ただし、Eクラスのユーザーは、「新しく出てきたものについて、ネット上でいくら『良い』と評価されても、生の声が聞こえないと信用し難い」と慎重な意見を述べていた。

この点に関しては、先ほど紹介した「中国のユーザーが車を購入する際にどのような情報源を重視するか」というアンケート結果に関連している。その中では、中国のユーザーはネット(コミュニティサイト等)におけるユーザー評価よりも、知人や親戚からの情報を重視していた。すなわち、Eクラスのユーザーの意見を踏まえると、中国のユーザーは同じ口コミでも“顔の見える評価”を重視する傾向が強いのである。

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3.むすびにかえて 〜ユーザーの買い方に対するディーラーの売り方〜 

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さて、これまで「購入の際に重視する内容」「購入の際の情報源」を焦点に、アンケート結果やインタビューの結果を明らかにしてきた。それでは最後に、これまで明らかにしたことを踏まえつつ、中国でのユーザーの車の買い方に対して、ディーラー(販売店)はどのように車を販売していかなくてはならないのかを検討しよう。

本報告では、中国では自動車の購入に際しては、ユーザーは価格よりも安全性や品質を重視しており、アフターサービスに対しても期待していることが明らかとなった。さらに、自動車を購入する際の情報源として、ユーザーは知人・親戚、ネットなどからの「口コミ」を重要視していたこともわかった。

すなわち、まず自動車メーカーとしては「安全性」「品質」を向上した自動車を開発、生産することが求められることは言うまでもないであろう。しかし、ここで重要視すべきことは、中国ではディーラーを中心とした綿密な販売体制(販売活動)の構築が不可欠となっていることであろう。というのも繰り返し述べるが、中国ではユーザーの多くが自動車を購入する際に口コミに頼っている現状が存在しているからである。

そもそもなぜ中国の自動車市場において、消費者は口コミを購入判断の情報源としているのであろうか。“バズマーケティング”、言い換えれば口コミマーケティングを研究しているエマニュエル・ローゼンによると、消費者の購買活動において口コミの重要性が増す要素としては、“ノイズ(情報・広告が多すぎてノイズになる)”、“懐疑的な態度(都合のいい広告を信じなくなる)”、“つながり(インターネットの拡大によって、広範囲な人と人とのつながりが可能に)”という三つの要素があげられるという。そこで、これらを中国におけるユーザーの自動車購買行動に当てはめて考えてみよう。

まず“ノイズ”に関して考えよう。中国には多くの自動車メーカーが存在しており、こうしたメーカーはテレビ、新聞、雑誌、インターネットと様々な媒体を通じて膨大な広告(情報)を流している。先ほどから指摘しているようにユーザーの多くは車を初めて購入するエントリー・ユーザーであるため、メーカーからの無数の情報を消化することができるはずがなく、このようなメーカーからの宣伝は“ノイズ”となる。また、言うまでもなく、このような情報の多くは、原則的にメーカーにとって都合の良い内容のみであり、ネガティブな内容のものは通常存在しえない。したがって、このようなメーカーからの宣伝活動はユーザーを“懐疑的な態度”をとる方向に向かわせてしまう。つまり、こうした混沌した購買環境の中で、中国の多くのユーザーは口コミに依存することになる。さらに、現在ではインターネットの拡大(特に自動車のコミュニティーサイトの増加)が、中国での自動車購入にあたって口コミの重要度をさらに高めていると言える。

 

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ではメーカーや販売店は、中国のユーザーに対してどのように接していけばよいのであろうか。結論としては、メーカーあるいは販売店として求められていることは、自社製品の購入時、使用時において、いかにしてユーザーに安心感を与えられるかにつきる。もちろんその安心感とは、車の性能や信頼性、価格といった車自体が持つ安心感に留まらず、購入後のアフターサービスを含めたトータルとしての安心感であることは言うまでもない。そのためにも、特に販売店は購入者に対する徹底したアフター・フォローを行う必要があろう。具体的に図に示したように、それは点検の入庫案内や修理における適切な案内・対応、そしてイベント開催の案内などを積極的に行うことである。このような購入者(ユーザー)との関係づくりを通して、販売店とユーザーとの信頼関係を構築し、次回の買い換えにつなげていかなければならない。このような積極的かつ地道な活動の結果が口コミとなって家族、知人、ネットを通して新たな顧客の創造を生むことこそが、現在の中国自動車市場では求められていると思われる。