中国自動車シンポジウムの概要報告

 

 

東アジアセンター(本センター)主催の中国自動車シンポジウム「中国自動車市場のボリュームゾーンを探る――小型車・低価格車セグメントにおける代替・競争構造――」は116日、京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールで開催された。

京都大学大学院経済学研究科田中秀夫研究科長・東京大学ものづくり経営研究センター新宅純二郎ディレクターの挨拶に引き続き、まず京都大学大学院経済学研究科塩地洋教授から「新興国における微型車・低価格車セグメントの国際比較」をテーマに基調報告を行い、続いて6名の報告者の方からそれぞれの分野ごとに報告が行われた。

塩地報告では、新興国におけるボリュームゾーンがどこにあるのかを分析したうえ、日系メーカーは新興国では「中高級車セグメント」に重点を置いているという事実を確認し、さらに今後数年間もこの上澄み価格戦略・中高級車重点戦略の継続が可能であると分析した。他の6報告は第1部「非自動車セグメントのボリューム」と第2部「日中韓自動車メーカーのマーケティング戦略」という2部構成で行われ、第1部では、菊地報告(株式会社エイムス技術本部ディレクター、「低速電気自動車の社会的役割と市場の可能性」)は、20103月に山東省済南市で開催した「第4回山東国際電気汽車・特殊電動車及び清潔能源博覧会」の見学体験に基づき、中国の低速電気自動車の社会的役割と市場拡大の可能性を分析した上で、それを実現へ導くための2つの要件として、「新セグメント商品の開発力」と「新セグメント車両に対応する新しい法規制」を指摘した。田島報告(東京大学社会科学研究所教授、「『汽車下郷』と中国的農用車・微型車の命運」)は、中国の「汽車下郷」政策を中心に、中国の自動車産業構造調整政策の成否について日中比較の視角から再検討を行った。繁田報告(inforBRIDGE社長、「小型車中心のインド自動車市場」)は、オートリキシャー市場・オートバイ市場を中心に、インドにおける小型車市場の動向を紹介した上、超低価格小型車タタナノの今後の行方・課題について分析した。

2部では、呉報告(明治大学国際日本学部准教授、「現代自動車の現地適応戦略」)は、現代自動車の中国事業に注目し、エラントラという車種に焦点を絞り、中国市場におけるエラントラの成功理由を解明した。李報告(東京大学ものづくりセンター助教、「奇瑞汽車のマーケティング戦略」)は、2010年中国自動車市場および主要完成車メーカーの状況を紹介し、中国の自動車―メーカー奇瑞汽車を取り巻く現状を分析した上で、奇瑞汽車のマーケティング戦略に対する見解を打ち出した。西林報告(日産自動車中国事業部部長、「日産自動車の中国事業戦略」)は、グローバル自動車市場および中国自動車市場の動向を概観し、日産自動車中国事業の概要とその主な活動内容について解説した。

今回の中国自動車シンポジウムは、京都大学東アジア経済研究センター協力会から支援を受け、そして東京大学ものづくり経営研究センター・東京大学社会科学研究所現代中国研究拠点・京都大学人文科学研究所付属現代中国研究センターなどの共催機関・団体からも支援・協力をいただいた。そして自動車企業・関連業界および学術研究者などの関係者も積極的に出席しており、当日の出席者数は総勢400名近くに上り、大盛況となった。シンポジウム終了後、懇親会が開催され、京都大学東アジア経済研究センター協力会の宇野輝理事、大森經徳副会長、そして本センターの劉徳強センター長からそれぞれ挨拶の言葉が述べられた。なお、主催側の塩地教授は、今回のシンポジウムの成果を十分に生かせるように、各報告成果を本にまとめて近いうちに出版したいという考えを示した。