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京大上海センターニュースレター
第4号 2004年5月10日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 中国・上海情報 5.1−5.8
○ 韓国社会の情報化
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中国・上海情報 5.1−5.8
ヘッドライン
■ 「黄金週間」(ゴールデンウイーク期間)の国内旅行者数は1億人を突破
■ 独VW社と上海汽車グループ:浦東で新しい乗用車工場を建設
■ 蘇州市:公務員に禁酒令公布
■ 中国:2003年大卒者の就職率82.1%
■ 中国:第1四半期自動車輸出台数が大幅増
■ 中国:独ダイムラー社の乗用車合弁事業を承認
■ 上海:家庭用浄水装置に需要大
■ 台湾:台湾最大の半導体メーカーの上海工場建設を許可
■ 教育:東工大と清華大で修士号同時取得
■ 1.5億農民が都市に定住・就業
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                    韓国社会の情報化

 3月23日から一週間、資料収集のため韓国に出張した。その際、研究の分野における情
報化について思うところがあったので、ここに紹介する。
 私は、かつては毎年必ず数回は韓国を訪れていたが、その後研究テ−マが変わったた
めに足が遠のいていた。とくに、さまざまな研究機関や資料館、図書館を一度に回るのは
久しぶりであったが、その変化の大きさに驚かされた。その変化とは、文献情報の電子化、
閲覧利用施設のIT化のことである。
 私が足しげく通っていた1990年代の前半には、韓国研究機関のIT化はさして目立つもので
はなかった。1990年最高学府であるソウル大学図書館の貸出し制度は、まだ図書の裏表紙
に挟んでいる貸出しカ−ドに手で書いて、閲覧職員に渡すというものであった。検索もすべて
戦前から続いている蔵書カ−ドで行っていた。95年の時点でも、変わったのは図書館入館
チェックの身分証明書が電子カ−ドになり、図書に持ち出し防止の電子ラベルが張られてい
たぐらいであった。
 ところが今回行ってみると、まったく様変わりしていた。まずどこの図書館でも、ホ−ルから
あの大きなカ−ドボックスが消えていた。いうまでもなく、所蔵図書をすべて電子検索できる
ようになっていたのである。日本の大きな図書館では、膨大な労力を要する遡及入力はどこ
もあまり進んでいないが、韓国は主要図書館ではすべて入力済みのようだ。
書名の検索だけでなく、国会図書館や国立中央図書館では、本の目次まで入力されており、
内容まで拾えるので検索能力が格段に高まっていた。さらに驚いたのは、本の中身自体の電
子化も進められていたことである。最近の出版物から古い資料まで、どのどん画像化され取
り込まれていた。全体としてどれほど電子化しているのかは不明だが、私の使う戦前の古い
資料ですら過半がすでに画像化されていたのには心底驚いた。職員によれば、現在も電子
化の作業が進められており、遠からずこの作業は完了するとのことであった。
 当然に利用方法はまったく変わっていた。閲覧室はパソコンの端末機で埋め尽くされてお
り、利用者の大多数は文献をディスプレ−画面で読むのである。出納掛りに申請するのは、
まだ電子化されてないものやごく最近の出版物のみである。以前、出納台の前の広い待合
席で大勢の利用者が本の出てくるのを待っていたのに、今ではほんの数人が待っているだ
けである。事実上、図書館は本や雑誌自体を閲覧させるのではなく、文献を保存し電子形
態で利用に供するという機能に変わりつつあったのである。
 利用者は、ディスプレ−で見て必要な箇所をボタン一つで複写することもできる。これは、
私のように短時間で資料集めをしようとする者にとっては、非常に便利なシステムである。
本1冊を何の苦労もなくコピ−できるのであり、限られた時間のなかで作業能率は格段に高
まった。ただし、著作権のある文献については、学位論文以外はプリントすることはできない
ようになっている。逆にいえば、著作権のない本は、図書館に直接出向いて来ることなく、自
分のパソコンを通じて検索し内容を読み複写できるのである。まさに、IT技術の進展で、図
書館の機能や文献収集のやり方が、急速に変わりつつあると感じた。
ただ、この過程はペ−パレスの方向とはまったく違う。職員はいつも山のような紙束を抱えて、
閲覧席の間を忙しく配って回わる。利用者各自が手軽にプリントするために、紙の使用量は
劇的に増えているようであった。
 どうしてこのように韓国図書館のIT化が急進展し、日本を追い抜いたのかという点に関して、
おもしろい解説をきいた。それは、本の画像での取り込みや入力作業という労働集約的な作
業は、1997年金融危機で失業者が急増した時期に、政府が失業者救済政策の一環として財
政資金を投入して雇用した労働者によって集中的に進められたのだとのことである。
 隣国で起こったこのような図書館IT化の流れは、国会図書館関西分館でもみられるように、
やがて日本でも同じように進展してくると思われる。考えさせられる近未来のモデルともいえ
よう。
                                                  (堀和生)
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