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京大上海センターニュースレター
第8号 2004年6月8日
京都大学経済学研究科上海センター
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目次
○ 7/2国際シンポジウムのご案内
○ 中国・上海情報 5.30-6.5
○ 「2004東呉経済国際学術シンポジウム」に参加して
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7/2国際シンポジウムのご案内
 何度もご案内して恐縮ですが、7月2日に予定の上海センター協力会発足記念国際シンポジ
ウムのご案内をしばらくさせていただきます。
 なお、この日はシンポジウム終了直後に「上海センター協力会総会」を、さらにその直後には
懇親会を予定しております。その方もよろしくお願いします。

                             記

日時 7月2日(金) 午後2:00-5:00
会場 京都大学百周年時計台記念館二階国際交流ホール
全体テーマ 「中国特需--脅威から"マーケット"に変身する中国」
挨拶  西村周三 京都大学経済学研究科長
司会  山本裕美 京都大学上海センター長
報告1 京セラの中国戦略      前田辰巳 京セラ株式会社常務取締役
報告2 中国市場の拡大と高度化について 于 同申 中国人民大学教授
報告3 日本企業にとっての中国市場   大西 広 京都大学教授
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中国・上海情報 5.30−6.5

ヘッドライン
■ 上海:1−5月期GDP成長率、14.8%に達する
■ 広州:大珠江デルタ経済圏フォーラム協定に調印
■ 中国:6月より24種類の抗生物質が大幅値下げ
■ 建設銀行:不良債権40億元をドイツ銀行とモルガン・スタンレーに売却
■ 中国:8大地域経済圏概の形成で経済活性化
■ 沖電気:江蘇にキーボード拠点、世界シェア2割へ
■ 中国:ハイテク農業計画始動、年産5.4億トンへ
■ 上海:バイオ膜原水浄化装置を水処理工場に導入、水道水質を改善へ
■ 中国国内最長・最大口径の原油パイプライン、利用開始
■ 黒竜江省斉斉哈爾市、建設工事増加で遺棄化学兵器の発見相次ぐ
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             「2004東呉経済国際学術シンポジウム」に参加して
 
 5月29日に台湾東呉大学で国際学術シンポジウムが開かれ、参加・報告をして来ました。翌週
には続いて台湾政治大学でのシンポジウムに参加・報告をしましたが、これは一緒に参加した
山本・北野両氏から報告をお書きいただきますので、この東呉大学の件のみをまずここで報告
させていただきます。
 が、これに先立ち、この東呉大学の成り立ちについて若干コメントしたいのですが、それはこ
の前身が1900年に中国蘇州市にて中国で最初に設立された東呉大学(呉の国の大学との意)
で、この伝統の上に立って2000年には100年祭をしたりしているということです。実は、私はこの
三月に蘇州の蘇州大学を訪問しましたが、それは中国に残る「東呉大学」で、この両校はかな
り緊密な関係を保っているようです。このことは蘇州大学でも、今回の東呉大学でも確かめら
れました。今回の国際シンポジウムでも直前にお一人の参加がキャンセルされましたが、お二
人の参加者が中国本土から来られていて、そのお一人は我々が協定を持っている中国人民
大学の先生でした。少し怖くて聞くことができませんでしたが、この関係もあって東呉大学は「統
一派」である可能性もあります。ともかく、「両岸関係(中台関係)」の改善を望む空気を全体に感
じることができました。
 そこで、以下にこのシンポジウムの内容を少し紹介しますが、全体のテーマが「Financial Market
and Industrial Growth」と必ずしも中国とは関らないものが多かったこと(実は報告の半分近くは
理論モデルの報告であった)、および2分科会に分かれ、全体の半分しか見聞きできなかったた
め、関心を持った報告の一部のみを紹介することにします。なお、ここでは報告・討論のすべて
が英語によってなされました。

(1) 私にとって一番「収穫」であったと思われる報告は香港嶺南大学の魏向東副教授の「TheLaw
of One Price: Evidence from the Transitional Economy of China」と題した報告でした。ここでは、
「一物一価」の法則の貫徹を遅らせる中国の漸進改革路線を腐敗(レント・シーキング)の原因と
する研究と、それは市場価格の上昇によってそうした特殊利益(レント)を増やす効果を持つ省間
貿易を地方官僚たちが促進するインセンティブをビルトインしたものとして積極的に評価するとい
うもうひとつの立場のどちらが正当かという問題設定が行われ、かつ計量的な計測がなされてい
たからです。その「計量的な計測」はただ、中国における「一物一価」への接近が大変成功的に、
かつアメリカやカナダよりも速く達成されたということで、その細部の論証になっているかどうか
は疑問ですが、ともかく進んだ問題関心が提示されていることに感銘を受けました。

(2) 同時に次の二つの報告も紹介しておきたいと思います。その第一のものは、東呉大学鄭政
秉助理教授と政治大学黄智聡副教授(政治大学に私どもをお呼びいたたいた先生)の共同に
よる「Determinants of Taiwan's Direct Investment toward China's Manufacturing Sector」で、
ここでは@言語などの本土との共通性が投資に有利に働いていること、Aこれら直接投資に
よって台湾企業は技術を取得しているのではなく移転していること、Bこれらの結果より、これ
まで存在した直接投資に関する仮説(自身が持つ特殊なアドバンテイジを海外でも活かすため
の投資との説、および自国におけるアドバンテイジ喪失からやむなく出ているとの仮説)が棄却
されることが示されました。
 また、もうひとつの報告に、逢甲大学張倉耀教授等による「On the Engine of Growth in China:
Financial Development-Led or Openness-Led? An Empirical Note」もありましたが、タイトルに
あるように、中国の成長の原因を探るもので、ここで結論は金融改革によってではなく、開放政
策の効果が大きかったというものでした。

(3) 以上は「Chinese Economy」と題されたセッションでの報告でしたが、「Regional Economics」
のセッションでも一本、ここでご報告したいものがありました。それは、台湾経済研究院の洪財
隆副研究員の「The Economic Consequences of Excluded Country by PTAs/FTAs」という報告
で、国際連結応用一般均衡モデルによって、自由貿易協定(FTA)が、ASEANでのみ締結された
場合、それに中国が加わる場合、さらに香港も加わる場合、さらに日韓が加わる場合を計算し
た上で、さらに加えて台湾も参加する場合の各国経済に対する効果を比べたものでした。そし
て、ここで興味深かったのは、台湾の入らないすべてのケースで台湾はGDPの上で不利益を
受け、入ることができれば大きな利益を得るというものでした。台湾は現在「国交」を保ってい
る数少ない国としてのパナマと自由貿易協定を締結していますが、政治的な理由によりWTO
の枠を超えた自由貿易協定の締結はできない状態にあります。ASEANや日中韓など周辺諸
国が自由貿易協定の締結に向かって急速に進んでいる下で、台湾政府の焦りを見た思いが
しました。

(4)最後に私の報告についても少し述べておきます。私の報告は「China's Capitalistic
Development from 1949 to 2025」と題するもので、ひとつには以前開発した「京都大学環太
平洋計量経済モデル」を使った2025年までの中国経済の予測を示すとともに、1949-1978年
の期間もまた「国家資本主義」という一種の資本主義的発展であったことを主張しました。そ
して、その予測としては、予測の終期であるところの2025年までは高成長が続くが、その前後
に止まることを述べ、毛沢東時代が「資本主義」であったことについては、マルクスの独自の
解釈とその新古典派モデルによる解説によって示しました。実は私はこの後者の研究を長く
継続しており、そのサマリーを報告したようなこととなりましたが、中国と対峙し、マルクス経
済学の伝統のない台湾でも多くの参加者から素直に「興味ある研究だ」と言われたのには正
直ホッとしました。学問の世界は政治を離れて討論できる自由な、そして貴重な空間であると
改めて感じました。
                                                   (大西 広)
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