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京大上海センターニュースレター
第9号 2004年6月15日
京都大学経済学研究科上海センター
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目次
○ 7/2国際シンポジウムのご案内
○ 中国・上海情報 6.6-6.12
○ 上海貧困削減スケーリングアップ会合参加報告
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7/2国際シンポジウムのご案内
 何度もご案内して恐縮ですが、7月2日に予定の上海センター協力会発足記念国際シンポジウ
ムのご案内をしばらくさせていただきます。
 なお、この日はシンポジウム終了直後に「上海センター協力会総会」を、さらにその直後には
懇親会を予定しております。その方もよろしくお願いします。

                          記

日時 7月2日(金) 午後2:00-5:00
会場 京都大学百周年時計台記念館二階国際交流ホール
全体テーマ 「中国特需--脅威から”マーケット”に変身する中国」
挨拶  西村周三 京都大学経済学研究科長
司会  山本裕美 京都大学上海センター長
報告1 京セラの中国戦略      前田辰巳 京セラ株式会社常務取締役
報告2 中国市場の拡大と高度化について 于 同申 中国人民大学教授
報告3 日本企業にとっての中国市場   大西 広 京都大学教授
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中国・上海情報 6.6−6.12
ヘッドライン
■中国:5月対外貿易黒字化、EUが最大の貿易相手
■2010年上海万博の建設計画が立案
■ シティグループ:合弁の保険会社設立で中国に本格進出
■ GM:中国生産2.5倍130万台に――3年で30億ドル投資
■ 中国−ASEAN間の貿易総額が大幅増加
■ 新日本石油「中国石油との精製提携交渉、進行中」
■ 北京国際モーターショー開幕、1400社が参加
■ VW中国:北京五輪のスポンサー権を獲得
■ 上海:民間航空会社が設立される
■ 上海:精神病発病率は20年間で3倍増
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               上海貧困削減スケーリングアップ会合
         (Global Conference on Scaling Up Poverty Reduction)参加報告

貧困削減の重要性と国際社会の取り組み

 貧困削減は、世紀を越えて開発イシューの中でも最も重要なテーマであり続けている。その
背景には、グローバル化が進展する中でその恩恵に浴さない人々が未だに膨大な数にのぼ
り、貧困問題が、紛争の頻発、人口問題、感染症の脅威、自然環境の劣化など多くの問題と
相互に関連しながら国際社会にとって極めて深刻な課題となっていることが挙げられる。2000
年の国連ミレニアム・サミットでは、90年代に行われた一連の国連会議などの議論をもとに「ミ
レニアム開発目標(MDGs)」が採択された。同目標は、2015年までに国際社会が達成すべき
貧困削減、保健・教育の改善、環境保護等に関する達成目標であり、明年(2005年)にはその
中間レビューを目的とした国連サミットの開催が予定されている。
 現在のところMDGsの目標達成には相当な困難を伴うとみられている。例えば、1日1ドル未
満でクラス人口比率を半減する目標は、主に中国とインドにおける貧困削減の進展によりこ
れまでの達成度の推移は順調であるが、現在の経済成長率ではサブサハラアフリカ諸国を
はじめとして多くの国が目標を達成できない恐れがある。初等教育の完全普及については、
目標を大きく下回っている状況にある。

上海会合開催の目的

 5月25〜27日、世界銀行、中国財政部が主催して上海で開催された貧困削減スケーリング
アップ会合(Global Conference on Scaling Up Poverty Reduction)は、2005年国連サミットに
向けて、MDGs達成に向けての国際社会としての取り組みを加速させることを目的としていた。
会議のアプローチは、1年余りの準備期間をとって、貧困削減の政策レベル、プログラムレベ
ル、プロジェクトレベルでの100の事例を世界中から持ち寄って、成功事例をいかに普及させ
ていくか(「スケーリングアップ」)を参加者間で議論するというものであった。会議のコンセプト
は世銀ウォルフェンソン総裁自らの発案である。中国で開催された理由は、世銀を含めた国
際社会の評価として中国の貧困削減のパフォーマンスが最も優れていることが背景にある。

会議の概況・評価

 出席者は、ルラ・ブラジル大統領はじめ4名の国家元首クラスを含め、1,000名を越える大規
模な会合となった。ウォルフェンソン世界銀行総裁、金仁慶中国財政部部長が共同議長をつ
とめ、中国側よりは温家宝総理、回良玉副総理、韓正上海市市長らが出席した。会合はいく
つものセッションからなっていた。全てのセッションをカバーできたわけではないが、ベトナム
の小規模インフラ、ペルー農村部の地籍普及事業、中国の地方道路・農村飲料水事業、イン
ドの90年代経済改革のマクロ評価などは参考になった。外務省荒井政務官が全体セッション
でスピーチを行い、国際協力銀行荒川部長が運輸セッションの司会を務めるなど、日本として
も一定のプレゼンスを確保した。会合の成果は「上海アジェンダ」に盛り込まれた
(世銀HP参照http://www.worldbank.org/wbi/reducingpoverty/)。同

アジェンダは広範なイシューをカバーするもので、2005年国連サミットに向けての議論のベー
スになることが期待される。総括スピーチでのウォルフェンソン総裁としての最大のメッセージ
は、貧困問題は政治問題でありリーダーシップと政治的コミットメントが重要であるという点で
あった。ルラ大統領も同様の点を強調していたことは印象的であった。 各セッションともにお
しなべて時間不足で十分な議論ができたとは言い難い面があったにせよ、貧困削減をテーマ
にこれだけの参加者を糾合し、これまでのヒューマンネットワークが強化され、また新たなネッ
トワークが形成される機会が提供されたことは、評価されていい。

中国のプレゼンス

 温総理が参加したことからも、中国が国際的に自らの経済成長と貧困削減の成果を世界に
アピールする機会として本会議を重要視したことが推察できる。実際、中国は上海の発展ぶ
りを参加者に体験させるとともに、温総理のスピーチに自らの政治的主張(最重要なのは平
和で安定した国際・国内環境等)をこめ、またADBに2000万ドル拠出しての「中国貧困削減・
地域協力特別基金」の設立を提案する等を通して、自らの目的達成に力を惜しんでいなかっ
た。
                                              (文責 北野尚宏)
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