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京大上海センターニュースレター
第10号 2004年6月21日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 7/2国際シンポジウムのご案内
○ 中国・上海情報 6.13-6.19
○ 台湾政治大学国際コンファレンスに参加して
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7/2国際シンポジウムのご案内
 何度もご案内して恐縮ですが、7月2日に予定の上海センター協力会発足記念国際シンポジウ
ムのご案内をしばらくさせていただきます。
 なお、この日はシンポジウム終了直後に「上海センター協力会総会」を、さらにその直後には
懇親会を予定しております。その方もよろしくお願いします。

                            記

日時 7月2日(金) 午後2:00-5:00
会場 京都大学百周年時計台記念館二階国際交流ホール
全体テーマ 「中国特需--脅威から”マーケット”に変身する中国」
挨拶  西村周三 京都大学経済学研究科長
司会  山本裕美 京都大学上海センター長
報告1 京セラの中国戦略      前田辰巳 京セラ株式会社常務取締役
報告2 中国市場の拡大と高度化について 于 同申 中国人民大学教授
報告3 日本企業にとっての中国市場   大西 広 京都大学教授
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中国・上海情報 6.13−6.19
ヘッドライン
■ 中国:北京・重慶など7省・市で電気料金の値上げが認可
■ 中国人民銀行幹部:利上げは6−8月の物価見て判断
■ 上海VWと一汽VWが全シリーズ車を値下げ
■ 中国企業:世界最大のエアバスA380旅客機製造に参加
■ 中国:ロシアと中央アジア諸国に総額9億ドル借款
■ 中国:5月の乗用車販売17.75万台、前月より20%近く減
■ 1−5月の対中直接投資11%増、契約ベースで49%増
■ 中国:鉄道在来線の高速化事業で入札・日本連合など応札へ
■ 旧日本軍の遺棄化学弾処理作業:斉斉哈爾で開始
■ 中国:今年の砂嵐は18回、北方で5億人に被害
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            台湾政治大学国際コンファレンスに参加して
                            日本貿易振興機構アジア経済研究所 大原盛樹

 台湾国立政治大学台湾研究センター主催、京都大学上海センター及び財団法人両岸交流遠
景基金会が共催し、6月3日〜4日に政治大学で開催された「中国の経済発展の諸問題に関す
る国際コンファレンス」に報告者として参加させていただいた。
 同コンファレンスでは台湾から4名、日本から4名、英国から2名の学者が参加し、各自の英
文ペーパーに関する報告を行った。経済改革、地域開発、金融市場、貿易と産業の4セッショ
ンが設けられ、マクロからミクロまで幅広く議論がなされた。トピックの幅広さにより、現在の中
国経済をめぐる主な論点の紹介と解説を効率よく聞くことができたというのが第一印象である。

 報告テーマは以下の通りである。
「中国における経済改革の進化」(山本裕美)
「中国は社会主義か資本主義か?:マルキスト=新古典派的解釈」(大西広)
「中国経済を揺るがす外国直接投資」(Ching-Hsi Chang)
「地域間不均衡と分岐する経済圏:現代中国の事例」(Shujie Yao)
「地域開発における財政制度と政策効果の再検討:文献サーベイ」(S.Philip HSU)
「銀行システムの発展と展望」(Ya-Hwei Yang)
「中国のインフラ建設におけるODA借款を通じた日本の貢献」(北野尚弘)
「地場企業の海外進出―重慶オートバイメーカーのベトナムへの輸出と直接投資」(大原盛樹)
「中国の地域・産業における直接投資の不均衡な分配」(Jr-Tsung Huang)
「離土不離郷」政策の再考」(Robert Ash)

 いくつかの報告で印象に残ったものを以下に紹介しよう。
 山本裕美教授(京都大学)は新中国成立以前から続く中国経済の特質を意識しながら経済改
革の歩みを再評価するという深みのあるペーパーを報告し、大西広教授(京都大学)は改革期
以前の中国が「国家資本主義」であり、改革開放期に一党支配が「市場資本主義」への漸進的
な変革をリードしているというユニークな見方を示した。歴史観溢れる両報告は、日本の(あるい
は京都の)中国研究のよき側面の一端を示したのではないかと思う。
 Shujie YAO教授(Middlesex大学)は、中国を東部、中部、西部の3大地域に分けた時、1978〜
95年の期間において、3大地域間の格差が拡大する一方で大地域内部の省間格差は縮小して
いることを生産関数の計量テストにより実証し、中国が三つの大地域に収斂しつつあると主張し
た。成長センターである東部からの「距離」が「成長のスピルオーバー」効果を減少させ、格差を
生む決定的要因になっているという。オリジナリティに溢れた実証研究で、今回のコンファレンス
で恐らく最も注目された報告であった。ただ大西教授のコメントのとおり、中国経済の発展が加
速した1996年以降のデータを使った実証のアップデートが欲しかった。Philip HSU教授(政治大
学)は、中央の財政強化および再分配能力の増強による地方間の財政格差縮小を意図した
1994年の「分税制」が、実際に「再中央集権化」に成功したのかどうかに関する近年の学会の
議論を手際よくサーベイした。地方政府の予算内予算、予算外予算、政治的関係を考慮する
と、必ずしも中央政府が理想的なバランサーとしての機能を果たしているとは言えないが、かと
いって中央集権化はそれなりに進行しているのが大方の見方だという。大国中国における中央
政府の統治能力は確実に強化されつつあるようだ。
 Ya-Hwei Yang研究員(中華経済研究院)の銀行システム改革に関するレポート(都合により
本人は欠席し、代理人が要約を朗読)は国際的な関心を集める金融改革の全体像を手際よく
まとめていた。
 北野尚弘助教授(京都大学)は効果的なプレゼンテーションで日本の対中ODAの成果をアピ
ールした。日本でさえあまり知られていない日本のODAの成果だが、ほとんどの聴衆にとって
初めて耳にする話題であったようで、このコンファレンスでも興味と共感を持って受け止められ
たようだ。

 全体的にレベルの高いコンファレンスであり、特に欧米のPhDを取得している台湾の学者の
分析枠組みの堅実さと英語によるプレゼンテーション能力の高さが印象的であった。台湾を代
表する彼等はすでに欧米学会の一部を担っている。大陸経済に関する情報収集能力とバラン
スのとれた見方という点で、台湾の学界の優位性がかいま見られた。ただし分析枠組みという
点では、中国統計年鑑レベルのマクロ・データを使ったモデルの実証というものが多く、このコン
ファレンスでの報告を通じては、台湾らしいオリジナリティがあまり感じられなかったように思う。
 「台湾らしさ」を強く感じたのは、コンファレンスに続いて財団法人両岸交流遠景基金会で行わ
れた座談会であった。中華経済研究院の経済学者が独自の実証研究の成果に基づき「三通」
(通商、通航、通郵)解禁を訴えた一方、台湾の著名な政治学者がその政治的困難さを頑なに
主張していた。中国大陸出身のYAO教授も経済的統合の効果を説得的に説いたが、経済学的
正論の一方にある、台湾の人々の、大陸への産業移転に対する根強い先行き不安感を同時
に感じることができ、有益であった。

 今回のコンファレンスは会場である政治大学の校門から多数の宣伝用の「のぼり」が立てら
れ、会議場も収容力や視聴覚設備の点でも大変立派で、主催した政治大学中国研究センター
は大変力を入れていたことがわかる。会議の手際もよく、心地よいコンファレンスであった。政
治大学に改めて御礼を述べたい。また筆者にこのような会議での報告の機会を与えていただ
いた京都大学上海センターにも御礼を申し上げる。
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