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京大上海センターニュースレター
第11号 2004年6月28日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 7/2国際シンポジウムのご案内
○ 中国・上海情報 6.20-6.26
○ 台湾における先住民族の同化について
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7/2国際シンポジウムのご案内
 何度もご案内して恐縮ですが、7月2日に予定の上海センター協力会発足記念国際シンポジウ
ムのご案内をしばらくさせていただきます。
 なお、この日はシンポジウム終了直後に「上海センター協力会総会」を、さらにその直後には
懇親会を予定しております。その方もよろしくお願いします。

                             記

日時 7月2日(金) 午後2:00-5:00
会場 京都大学百周年時計台記念館二階国際交流ホール
全体テーマ 「中国特需--脅威から”マーケット”に変身する中国」
挨拶  西村周三 京都大学経済学研究科長
司会  山本裕美 京都大学上海センター長
報告1 京セラの中国戦略      前田辰巳 京セラ株式会社執行役員常務
報告2 中国市場の拡大と高度化について 于 同申 中国人民大学教授
報告3 日本企業にとっての中国市場   大西 広 京都大学教授
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中国・上海情報 6.20−6.26
ヘッドライン
■ 中国:石油産出量で世界第5位、天然ガスは第18位
■ 2003年の中国財政赤字:3197億元
■ 中国:6月の消費者物価指数は5%前後上昇の見込み
■ ソニー:今年追加投資2億ドル、上海で展示センターと研究開発センターを設立
■ HSBC:交通銀行の株式19.9%取得へ
■ 上海輸入車市場:日本車の6月の販売台数が1位に
■ GM:アジア太平洋本部を来年にも上海に移転
■ 中米間航空サービス拡大 フライト数今後6年間で4倍へ
■ 中国:デリバティブ、東京三菱など外資系に認可
■ 上海:2010年までに10の燃料電池車用の水素補充ステーションを建設
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             台湾における先住民族の同化について
 
 機会があり、台湾の少数民族タイヤル族の村を訪問することができた。7年前に一度東岸の
花連という地区でアミ族という部族の町を訪問したことがあるが、今回は台北市の南方に広が
る山岳地帯に住む民族でアミ族など他の8族とともに「高山族」と総称される民族のうちのひと
つである。台湾の少数民族(現地では「原住民」と呼ばれる)は、彼らのように山岳地帯に住み
焼畑と狩猟で暮らす「高山族」と、漢族の渡来以前から平地で農業を営んでいた「平埔族」に
分類されているが、言語的にはすべてがマレー語をベースとするオーストロネシア語族(マラヨ・
ポリネシア語族とも言われる)に属している。たとえば、もっともフィリピンに近い離島にすむヤ
ミ族は通訳を介すことなくフィリピン人と話をすることができ、近親婚をさけるために現在はフィ
リピン人との通婚も盛んだという。また、上述のアミ族の場合も、「鳥」のことを「アヤム」と呼ぶ
などいくつかの言葉ではマレー語と直接に一致するのだと我々のガイドは言ってくれた。
 が、こうして言語的には同じでも「血統」的には異なるルーツを持っているようである。このヤ
ミ族など多くの部族は明らかに南方にルーツを持ち、肌の色も褐色に近い。が、今回私が訪
問したタイヤル族は非常に白い顔をしていて、一見して北方系であることが分かる。そのため、
漢民族と殆ど区別のつかない人も多かったが、ガイドが言うように、確かに顔の彫りが少し深
かったようにも思われる。ガイドはアイヌ人と同じと言ったが、それを言うなら沖縄を例に挙げ
るべきかも知れない。ともかく、異なるルーツを持っても、同じ生活スタイルをもったり、逆に別
々のスタイルをもったりとなるところが面白い。これは、社会科学的に言うと、現在世界の殆ど
が「資本主義」という同じ文明をもっていることと同じである。ルーツが異なっても生産力的条
件が同じであれば、同一の生活スタイルが築かれる。

 ついでに言うと、当地の高山族は他部族との戦争で殺した敵の首を刈るという習慣があった
とされる。これは私としても北ボルネオのイバン族の習慣として見聞きしたことのあるものであ
る。北方系の「高山族」もそうしたのだとすれば、ルーツに関わらない共通性はここまで拡張さ
れることになる。ちなみに少なくともタイヤル族に関する限り、「貴族」と「酋長」なる存在はあっ
ても、その「平民」との格差は「持ちもの」の相違が中心で、それ以上のものではなかったよう
にも思われる。さらに言うと、その特別の「持ちもの」のひとつは冠につけられた綺麗な鳥の
羽である。中国雲南省の山岳民族でも、アメリカ・インディアンの村でも同じものを見た。
 それで、このタイヤル族であるが、全少数民族50万人のうちの5万人を占めるこの民族も、
やはり現在の生活は貧しく、進学に大きな問題があるという。台湾では漢族はほぼ8割が高
校に進学すると言われているが、他の少数民族と同じで、アル中が多く、進学しないと言わ
れた。彼らは入学試験などでゲタをはかせてもらえるそうであるが、それでも進学しないのだ
という。よくある基本的な問題がここにもある。
 ただ、そうであるが故に一層気になるのは、台北平野に住んでいたケタガランと言われる
平埔族は農耕民族であったがために漢族の進出後も平野を離れず、よって同化してしまった
ということである。手元にある『認識台湾(社会篇)』と題された中学校用の教科書には「多くの
平埔族の子孫は自らを漢人であると認識している」とあるが、実はこの過程では、漢字の読
めない彼らに嘘の説明で無理やり条約を結ばせ、それに基づいて漢族が進出したという事
実もあったようである。ともかく、こうして彼らは今や完全に同化し、もちろん言語も失われて
いる。

 他方、この「同化」は山岳地帯に住むタイヤル族にも少しずつ押し寄せているようである。
現在の子供たちは殆ど言葉を話せず、漢族との通婚があればそれはほぼ完全になるとい
う。そして、彼らの顔が白いだけに他の南方系少数民族と違って通婚率は高いという。実
際、現地で見た踊り子たちはすべて美人であった。
 が、私は普通の文化人類学者と違って、この「同化」を歴史の必然として肯定的に見る見
方をとっている。そして、以上の事実から分かることは、そもそも漢族と同じような生活スタ
イル(農耕民としての)を持っていた場合に、そして続いて肌の色などの近さがある場合に
同化が進むということである。前者の事実は進歩的な民族ほど同化されることを示し、後
者の事実は彼らに好かれる民族ほど続いて同化されることを示している。こうして、彼らの
高等教育への進学率も上昇する。漢族は現在もなお、そして台湾地域でもなお、他民族を
飲み込みつつある。
                                                   (大西広)
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