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京大上海センターニュースレター
第20号 2004年9月5日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 中国・上海情報 8.23-8.29
○ 釜山国立大学「中小企業インキュベータ」訪問記
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中国・上海情報 8.23−8.29
ヘッドライン
■ ロシア首相:中国への安定的な石油供給を表明
■ 中国:食糧生産が順調、通年目標達成の可能性大
■ 中国:原油高の被害者か、GDP成長1%修正も
■ 高速列車入札:「日本6社連合」の提携先を含む中国3社が落札
■ 北京企業の輸出額、6カ月連続で史上最高
■ 上海:リニア経営難、銀行融資の元利返済も危機
■ 中国:海外投資家に発電所売却へ、総額20億ドル
■ 上海宝山鋼鉄と新日鉄など3社、自動車用鋼板の合弁会社を設立
■ 中国:石炭液化プロジェクトが始動 世界最大規模
■ 上海雇用事情:十人に一人が外資系企業に就職
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           釜山国立大学校「中小企業インキュベータ」訪問記
                                          
 8月10日〜17日に、釜山(国立)大学校を訪問した。主たる目的は、Choi, Jong-Seo教授との
共同研究(日本の証券市場の情報効率性に関する実証研究)の打ち合わせであって、韓国に
関する研究ではない。しかし、11日に釜山大学の「中小企業インキュベータ」(Small & Medium
Business Incubator)を訪問して、大学発のベンチャー企業の状況について聞き取り調査を行っ
たので、その成果の一部を述べたい。

 韓国では、1997年の金融恐慌からの回復期において、IT産業を中心としてベンチャー・ビジネ
スのブームが起こったが、様々な理由から、2000年以降急速に衰退した。
 大学発ベンチャーは、ベンチャー・ビジネス一般の盛衰と軌を一にしたように考えられている
が、大学発ベンチャーにはベンチャー・ブームの収束後も多くの成功例があり、必ずしも衰退し
ているとは言えないという。一般に、大学発ベンチャーの失敗の原因として、「マーケット・イン」
(市場の需要を調査して大学の持つ技術をビジネス化する方法)の欠如が指摘されている。こ
の「マーケット・イン」の欠如に関しては次の通りである。韓国の大学発ベンチャーには、@大学
の研究者主導のタイプ(約20%)とA中小企業主導のタイプ(約80%)があり、前者では、過去
において確かに市場の需要に関する調査が欠落しており、それが原因となって失敗する例が
多かった。しかし、近年では、企業と研究者とが「市場の需要」と「開発技術」を「技術移転セン
ター」に持ち寄って「お見合い方式」(徳賀による命名)でビジネス化を決定しているので、問題
は少なくなっている。また、この「お見合い方式」に関心を持つ研究者と基礎研究に集中してい
る研究者の棲み分けがうまくなされているので、ビジネス側の需要によって研究が歪められる
心配(基礎研究の衰退等)も少ないという。
 また、大学で開発された新しい技術をどのように価値評価してビジネス化するか、という問題
に関しても解決の道がある程度整備されている。中央政府の「技術保証基金」や「産業技術評
価機構」が様々な価値評価モデルを使って評価を行い、それを基にして、大学の研究者と企業
とが交渉によってその価格を決定する。これまでのところ、ほとんど問題は発生していないとい
う。日本でも経済産業省が技術評価の標準化を試みているが、今のところ包括的なものでも網
羅的なものでもない。
 大学発ベンチャーの在り方に関しては、韓国の大学から学ぶべきところは大きいようである。
                                                  (徳賀芳弘)
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