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京大上海センターニュースレター
第21号 2004年9月8日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 中国・上海情報 8.30-9.5
○ 13億の中国で、なぜ、今、人手不足なのか?
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中国・上海情報 8.30−9.5
ヘッドライン
■ ASEAN10カ国:中国の市場経済地位を承認
■ 中国新エネルギー戦略:原発建設に積極姿勢
■ 中国−カザフ石油パイプライン、9月28日に着工へ
■ 国有重点企業474社:1−7月42%増益、石炭で急伸
■ 本土上場1370社、1−6月33%増収48%増益
■ デジカメ市場:日本ブランドのシェアが90%超
■ 中国:消費者クレーム、自動車関連が6割占める
■ 中国:1−6月期、違法出版物1億点を摘発
■ 浙江:韓国企業誘致専用の工業団地を建設
■ 世界銀行の対中融資、12億1700万ドルに
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               13億の中国で、なぜ、今、人手不足なのか?

                                      株式会社小島衣料 小島 正憲
 
 16日付けの日本経済新聞に、「労働力不足 深刻に」という見出しの記事が掲載された。
小見出しは、「中国広東省:上海近辺に人材流出」となっており、記事本文では、電機や縫製の
ような労働集約型企業で、「工場の組み立て工程などで働く従業員の確保が難しくなっている」と
書かれている。
 大方の日本人は、この記事について意外に感じ、大きな疑問を持ったことだろう。なぜなら今
まで、13億人の中国では労働力が豊富であることが常識であり、たとえ一地方の問題だったと
しても、人手不足などまったく考えられないことだったからである。果たして、この記事は真実を
伝えているのだろうか。
 さらにもし、この記事が的を射たものならば、すべての中国進出企業が、労働力が潤沢であ
るということを前提にしているわけだから、その意味で中国経済は前代未聞の異常な事態に突
入したと言っても過言ではないし、早急にその戦略を根底から練り直さなければならないのでは
ないか。人手不足という状況は、SARSや電力不足などといった一過性のものとは、比べようも
ないくらい深刻な事態なのではないか。
 私はこの記事を、真実であると見ている。なぜなら、実は中国に進出した我々の縫製業界で
は、昨年来、すでに深刻な人手不足に陥っているからである。しかも平均給与を前年対比20
%アップにしても、人手不足を解消することはできていない。私はその状況を、他産業への労
働力流出が主因だと考えていたが、冒頭の記事のように、電機産業などでも深刻なのであれ
ば、それは見当違いであり、人手不足の実態はかなり広範囲な産業にまで渡っていると考え
た方がよさそうである。
 記事中では、その原因を上海周辺への人材流出を上げているが、これは誤りであろう。な
ぜなら私の工場は、上海に位置しており、そこでも深刻な人手不足に陥っているからである。
さらに私は湖北省の片田舎に大型工場を持っているが、そこでも人手不足は同様である。湖
北省の同業他社でも事態はかなり深刻であり、身体障害者の大量雇用や、刑務所内の受刑
者の利用さえも行なわれようとしている。この事態は、ほんの10数年前の日本での超人手
不足の時代を、思い出させるようでさえある。

 昨年来、私はいろいろな場所で、この人手不足状況を話してきたが、あまりにも常識外な
ので、そのたびに一笑に付されてきた。しかし今回、日経新聞が記事に取り上げたくらいだ
から、やはり中国各地で、実際にこのような状況が進行していると考えるべきだろう。
 今回、私はこの記事を読んで、この人手不足現象の原因を、改めて次のように考え直し
てみた。

 今、中国では、究極の脱サラ・起業ブームである。起業家が、中国女性の夫選びの条件
の第2位に躍り出たくらいである。中国には家族企業ともいえるような零細企業をはじめと
して、多くて100人ぐらいまでの従業員を雇用する企業が、雨後の筍のように生まれてい
る。しかもこれらの企業は、そのほとんどが正式な会社として登録されておらず、モグリの
営業を続けている。したがって、ここに採用されている労働者数はどこの統計にも反映さ
れない。まさに、ここに労働者が吸収されてしまっており、大型の工場に人手不足という現
象が現れているのではないだろうか。
 この起業ブームはさらに大きな問題を巻き起こすことになるだろう。なぜなら、これらの
零細中小企業の起業は一攫千金を狙ったにわか経営者の、ずさんな経営計画ではじめら
れており、その起業資金は、親族などからかき集めたものと、銀行からの個人借金から成
り立っており、基盤がきわめて脆弱だからである。実際にこれらの企業が、設立後、わず
かの期間で資金ショートし、破綻する実例を、私はこの数年間で数多く見てきた。銀行の
抱えているこの種の不良債権は、現在問題視されている国有企業どころではないのでは
ないか。なにしろそれは不動産などの担保を裏づけとした個人に対する融資なので、銀行
内部では優良貸出先に分類されているはずであるから、それがドミノ倒しのように連鎖倒
産した場合は、中国経済に大きな打撃を与えるのではないか。
 さらにこのままの人手不足状態が続行した場合、労働者の待遇は一変する。企業にと
っては、給与がうなぎ上りとなり、福利厚生にかなりの資金が必要となる。これは高度成
長期の日本の人手不足を体験した経営者ならば、だれもがよくわかっていることである。
そうなると労働集約型企業は、必ずしも中国が有利とは限らなくなり、早急に、撤退を含
めた戦略の見直しが必要となる。
 今、中国の一部で、人手不足という異常な事態が進行している。これは果たして、中国
経済大激動の兆候なのだろうか。それとも日経新聞のあの記事は、「がせねた」なのだ
ろうか。
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