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京大上海センターニュースレター
第23号 2004年9月20日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 中国・上海情報 9.13-9.19
○ 中国自動車市場はどこまで拡大するのか
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中国・上海情報 9.13−9.19
ヘッドライン
■ 江沢民氏:中国共産党中央軍事委員会主席を辞任
■ 中国:交通事故依然深刻、8月まで死傷者37万人
■ 中国共産党:16期4中全会閉幕、国政運営能力増強の決議を採択
■ 中国:11月にアセアンとのFTA貨物貿易交渉が終了へ
■ トヨタ:中国でプリウスを生産
■ 中国:「反マネーロンダリング法」制定を加速
■ 大手電力会社:相次いで風力発電開発に着目
■ 中国:1−8月原油生産1.15億トン、2.6%増
■ 中国:独自開発の高速電車「長白山」が試験運転
■ 中国:大豆生産量大幅後退、一転して輸入大国へ
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                 中国自動車市場はどこまで拡大するのか

激烈な値引戦争

 8月4日から8日まで広州と北京を自動車流通調査で訪問した。猛暑の中,いつものごとく地を
這うような取材を繰り返した。だがこれまでの取材時とはまったく新しい状況が生まれていた。
誰もが「激しい値引競争だ。値引戦争だ」と言う。中国自動車市場は,2004年4月あたりから完
全な供給過剰状態に陥っている。販売台数が停滞する中,需要をはるかに上回る供給の増加
によって,メーカー段階でもディーラーでも多くの完成車在庫が積み上がっている。中国全体で
約30万台の在庫があるとも言われている。そしてこの供給過剰の結果,値引戦争が起こってい
るのだ。
 だが,今回の値引戦争は,供給過剰のみが原因ではない。2001年12月に中国はWTOに加盟
したが,その際の公約(コミットメント)を果たすために,輸入車関税の引下げを進めている。加盟
前に80%であった小型乗用車に対する関税は,2004年に約35%まで下がり,2005年には30%,
2006年には28%,そして最終的には2006年7月に25%まで引き下げられることになっている。こ
れまで国際的に割高であった国産車の価格は,輸入車価格が下がるにつれて,見事にパラレ
ルに低下している。消費者の心理からすると,「まだまだ下がる。今,急いで買う必要はない」
という買い控え状態に入っているのである。この買い控え状態がなおも数カ月続くと言われて
いる(一説では8月に反転したとも言われている)。
 ともあれ,このような,(1)供給過剰と(2)関税引下による輸入車価格の低下に基づく国産車価
格の低下,という二重の価格低下要因が顕在化する中で,現在の全面的値引戦争が起こって
いるのである。

市場はどこまで拡大するか

 とはいえ,このような値引戦争が眼前で生じているにもかかわらず,中国自動車市場の将来
的展望となるとネガティブな意見を述べる人はまだ現われない。2003年の440万台という年間
販売台数が2010年には800万とか,1,000万台まで拡大するという考えはなおも圧倒的多数で
ある。その理由は中国が13億という巨大な人口を擁する故である。フィリピンやインドネシアで
の自動車市場が年間数十万台で停滞しているのに比して,中国では,たしかに所得上の中間
階層の比率は日本等に比較すると小さいが,人口が巨大であるために,その階層の絶対的人
口は極めて大きい。1990年前後にカラーテレビを購入し,1990年代半ばにクーラーを購入した
所得階層が,2005年から2010年の間にマイカーを購入するようになるであろうと考えられてい
るのである。多くの発展途上国の自動車市場において現われた,いわゆる「所得の壁」は,中
国は人口が巨大であるため,それを容易に乗り越えてしまうと思われているのである。「原油
の壁」と「環境の壁」では「所得の壁」以外に市場拡大を抑える要因は何か。その一つは「原油
の壁」である。中国は1994年に原油の純輸入国となった。車によるガソリン消費の拡大は国際
収支の赤字をもたらす故に,自動車消費を削減すべしという見解は既に1990年代半ばから中
国政府の一部で聞かれる。とくに2004年に入って,中国のエネルギー消費・原料素材消費の
急成長故に,そのようなエネルギーや原料素材の国際相場が高騰している。このような中で,
もし中国国内のガソリン価格が現在の2〜3倍にもなると,自動車市場拡大の勢いを一時的
に止める可能性がある。
 加えて,「環境の壁」が大きく立ちはだかっている。既に排ガスによる環境汚染の深刻化は
大都市ばかりでなく,地方都市にもおよびつつある。もし中国が先進国並に国民2人に1台
の所有比率まで行くと仮定すると,保有台数は6億5,000万台となる。現在,保有台数約3,000
万台で既に深刻化している環境悪化が保有台数6億5,000万台で,どの程度まで進むかまっ
たく予想できない。ただ言えることは,現在の環境技術を前提とすると,おそらく保有台数1億
台程度で市場拡大は足止めになってしまうとのではなかろうか。根本的な省エネ・環境技術
の改善がなされないかぎり,中国自動車市場にとって「原油の壁」と「環境の壁」は大きいよう
に思われる。
                                                   (塩地 洋)
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