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京大上海センターニュースレター
第32号 2004年11月24日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 中国・上海情報 11.15 -11.21
○ 上海センター講演会「メコン開発をめぐる東アジアの域内協力」の報告
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中国・上海ニュース 11.15−11.21
ヘッドライン
■ 中国:10月の固定資産投資26%増
■ 中国:1-9月期原油輸入量34%増
■ 中国副総理:鉱物資源の有効利用に4つの課題を指摘
■ 中国:個人資産の海外移転、私費留学に新しい管理規則
■ 中国鉄鋼業:国際価格の高騰で輸出増、輸入減
■ 上海:1−10月期コンテナ取扱量全国首位
■ 上海:1−10月期労災334件、死者351人
■ 中国:海外就労人口52万人、収入20億ドル
■ 内モンゴル:電力事業に注力、北京五輪の電力需要確保
■ 中国:石炭価格04年10%強上昇、来年5−7%と予想
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      上海センター講演会「メコン開発をめぐる東アジアの域内協力」の報告
 
 上海センターの活動範囲は、北東アジアに限らず広く東アジア全域である。個人的にはインド
も東アジアに含めるべきと考えているが、それはさておき、11月18日に開催された上海センター
講演会では、中国雲南省を含むメコン河流域に焦点があてられた。講師は、(社)海外農業開
発コンサルタンツ協会専務理事の的場泰信氏。同氏は農水省出身で、世界銀行、国際協力事
業団、国際協力銀行等に出向され国際協力分野での豊富な実務経験をお持ちであり、1995〜99
年にかけてメコン河委員会の初代事務局長として活躍された。講演では、主にメコン河委員会
設立の経緯から現在の活動と今後の課題についてお話いただいた。以下概要をご紹介する。

 メコン河は、長さでは世界で12番目、年間総流量では10番目の東南アジア最大の河川である。
流域面積は795千km2で、中国(主に雲南省)、ミャンマー、ラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの
6カ国にまたがる国際河川である。メコン河中下流域は第2次大戦後、度重なる戦火に喘ぎ開発
が遅れていたが、現在では政治的にも比較的安定し、経済活動が活発になっている。この地域
で国力を測る基準はなんと言っても人口であり、人口4千万人を超えるのが、ベトナム、タイ、ミ
ャンマー、中国雲南省、1千万人を超えるのがカンボジアである。これに対してラオスは約5百万
人で域内における発言力は極めて小さいといえる。
メコン河流域の開発をめぐっては、「政治」が重要な役割をもってリードしており、「経済」は言って
みればひとつの「事象」であると捉えることができる。メコン河委員会(Mekong River Commission)
は、1957年に設立されたメコン委員会を継承するかたちで、「メコン河流域の持続可能な開発の
ための協力に関する協定」に基づき1995年に設立された。タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの
4カ国による政府機関であり、各国の外務省を窓口とするという意味で、「経済」よりも「政治」が
リードする枠組みであるといえる。アジア開発銀行が支援している「拡大メコン(GMS)」構想(流
域5カ国プラス中国雲南省)が越境インフラ整備など経済開発主体であるのと対照的である。事
務局本部は加盟国の持ち回りになっており、2004年7月にプノンペン(カンボジア)からビエンチ
ャン(ラオス)に引越したばかりである。
 メコン河委員会は、流域全体を対象として持続可能な開発を目的としている。そのために、デ
ンマーク、スウェーデン、UNDP等の支援によりローリングプラン方式の流域開発計画、世界銀
行、日本(国際協力機構)等の支援により水利用規則の策定が行われているが、前者は作業
が遅延しており、後者は水量と水質をどのように規制するかについての加盟国間の合意が未
形成の状況である。

 今後の課題としては、流域開発計画と水利用規則の策定の他に、加盟国のデータ収集能力
の強化、カンボジア、ラオスの水資源政策立案促進、水質問題への本格的取り組み、中国が
上流で建設済・中のダムに対する対応、中国とミャンマーの加盟問題への対応、メンバー国自
身の全面的コミットと組織運営(現在も事務局長はドナー国国籍(ベルギー人))、現在は協定
に含まれていない土地資源管理に対する考え方の整理等が挙げられる。
 日本は、米、仏と並ぶ最古参支援国であり、当該地域に対しては、地理的、歴史的理由から
継続的に強力な支援が必要である。日本にとっての今後の課題として、Japan Fundの創設等
による援助の増額や、ヨーロッパがEUを中心として相互協力体制を構築しているように、パー
トナーを探しての当該地域に対する協力が挙げられる。
(参考)メコン河委員会ホームページ http://www.mrcmekong.org/
                                              (文責:北野 尚宏)
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