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京大上海センターニュースレター
第34号 2004年12月6日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○上海センター ブラウン・バッグ・ランチのご案内
○上海センター講演会のご案内
○ 中国・上海情報 11.29 -12.5
○渤海湾地区、東北三省、北京視察見聞記(下)
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上海センター ブラウン・バッグ・ランチのご案内
(Brown Bag Lunch:BBLとは、お弁当など昼食持込自由のセミナーの事です)
日時 2004年12月13日(水) 12:00〜13:30
場所 京都大学法経総合研究棟2階大会議室
    地図 http://www.econ.kyoto-u.ac.jp/loc/campus-map.html
演題 「東アジアで今なにがおきているか」(仮題)
講師 外務省国際情報統括官組織第三国際情報官 垂秀夫氏(本学法学部OB)

北京、香港、台北、朝鮮半島担当部署で勤務された経験をもとに、東アジアの現状と展望、特
に日中関係、台湾海峡問題、朝鮮半島情勢、そして東アジアの域内連携について論じていた
だくものです。参加を希望される方は、
北野(kitano@econ.kyoto-u.ac.jpないしFAX:075-753-3492)までご一報ください。
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上海センター講演会のご案内

日時 2005年1月24日(月) 14:00〜16:00
場所 京都大学百周年時計台記念館 2階国際交流ホール
演題 「最近の中国事情と今後の日・米・中関係における日本の積極的役割について」
講師 日中経済貿易センター名誉会長 木村一三氏

 木村氏は、1954年に故高碕達之助氏の紹介で日中貿易に参画され、日中国交正常化にも
民間人として尽力されました。日中交流の最古参として故周恩来首相から胡錦濤総書記にい
たるまで、中国側有力者と親密な友人関係をもたれています。奮ってご参加ください。
参加を希望される方は、北野(kitano@econ.kyoto-u.ac.jp FAX:075-753-3492)までご一報くだ
さい。
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中国・上海ニュース 11.29−12.5
ヘッドライン
■ 中国:中央経済工作会議招集、来年の経済運営方針決定
■ 温家宝総理:「現状では人民元切り上げは行なわない」
■ 中国:人民元の国外持ち出し金額を2万元に
■ 中国:1−10月国有重点企業474社、48%増益で過去最高水準
■ 東京大学:南京大に交流センターを設置
■ 上海:「庭付き一戸建て」購入、新上海人が7割に
■ 中国:エネルギー開発の重点を水力発電に
■ 中国:エイズ感染者、年40%増で現在84万人に
■ 中国:外資系持ち株会社の流通業務を全面開放
■ 武漢−広州間:時速250キロ、4時間で結ぶ鉄道新線建設
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             渤海湾地区、東北三省、北京視察見聞記(下)
                                 上海センター協力会副会長 大森經徳
 
 次に、東北三省の振興について感想を報告する。先ず主な訪問先、視察先は次の通り。
1.瀋陽、長春、吉林市内。
2.瀋陽では、このほか約45km東郊外の石炭の露天掘で有名な撫順炭鉱。
3.長春では、旧満州国の最高行政機関だった国務院旧址(現吉林大学)及び旧関東軍旧址
  (現中国共産党吉林省委員会)
4.吉林市南約20kmの松花江の豊満ダムと豊満発電所及び松花湖。
5.在瀋陽日本国総領事館小河内総領事と面談。

 先ず、2.の露天掘で有名な撫順炭鉱は、日本が来てから開発されたものだそうだが、当初
の西鉱区は約30平方kmという広大なもので、それを永年掘り進んだため、遂に深さ約500m
のところで鉱脈が尽きて、現在はその少し東の第二鉱区で同じく露天掘で掘られているそうで
ある。こちらには行く時間がなかったが、そこの石炭を搬出しているトラックの運転手と親しく
なり、その運転手の話では、この第二鉱区の広さは西鉱区の約1/2で15平方km位で、現在
地表より250m位迄掘り進められているそうである。
 次に、4.の豊満ダムであるが、これは旧満州国時代に日本が作った最大の土木工事と
言われており、堰堤の長さ1100m(黒四ダム500m、三峡ダム2000m)、ダムの高さ101m(三
峡ダムは約180m)で、壮観であった。発電容量は誰に聞いても知らないので、結局分から
ずじまいだった。長春行きの話であるが、朝7時30分に普通急行で瀋陽北駅を発ち、すぐに
例の9.18事件の柳条湖を過ぎ、周恩来が中学時代を過ごしたという鉄嶺を通過し、長春駅
に着いたのが11時40分、約330kmを4時間10分かかったことになる。この間車窓の景色は
行けども行けども収穫の済んだトウモロコシ畑ばかり。緩やかな丘陵と平野がくり返すのみ
の単調な同じ景色が4時間以上も続いた。しかもこの間山は一切なし。“さすがに中国の東
北地方(旧満州国)は広いなあ!”というのが実感である。さらに地図をよく見れば、長春か
らハルピン迄の約300kmもほぼ同じ様な平野が続いていることがよく分る。東北の米は中
国で一番美味しく、且つ高い、とよく言われるが、その米を作っている筈の水田も、小麦畑
(これは冬から春のものなので、今はなくて当たり前か)も一切目に入らなかった。水田は
一体どのあたりにあるのだろうか?

 車中でチチハル市の製紙会社の採用係をしているという中年の男性と親しくなり、いろ
いろ会話をした。今、中国各地で電力不足が大きな話題になっているので、ここでも調査
のため電力事情につき質問したところ、この男性の答えは極めて明快であった。彼氏曰く、
「この辺りは重化学工業地帯で、しかも軍需産業が多い。が、この戦争のない平和な時代
に、戦車も大砲も鉄砲も殆んどいらないので、20トンプレス、30トンプレスなども仕事がな
くて昼寝をしている。従って下崗(シアガン=レイオフされた実質失業者)も多く、皆貧乏で
困っている。この辺りでまともに操業しているのは長春の第一汽車(中国の有名な高級乗
用車“紅旗”を作っている自動車会社…フォルクスワーゲン、トヨタ、マツダ等とも提携)位
しかない。だからまともに電力を使う様な企業は殆んどないので電力不足など全く起こり様
もない」との話で極めて説得力があり、“納得”といった感じ。ではその軍需工場は何を作っ
て生き延びているのか、と聞くと、エレベータとか一般的な日用品を細々と作っているだけ
だ、とのこと。大半が国有企業だから倒産はないのだろうが、失業対策も含め地域経済活
性化の足を引っ張っている状態が良く理解出来た。こういう状況の上大連港迄遠すぎること
もあり、また大連港以外に近くに大きないい港もないので東北振興は大変困難な仕事だな、
どんな手があるのか、農業以外でこの広い土地で一体何をしたらよいのか、一寸考えただ
けでは思いつかぬ位深刻な問題だと思った。丁度瀋陽と長春の真ん中あたりに四平市とい
うかなり大きな市があるが、そこへ来た時、例の中年の男性が説明してくれるのに、ここは
第二次大戦後の国共内戦の時の大激戦地で、その折何もかも破壊され、その後今日迄結
局立直れず、この辺りでは一番貧しい地域だ、と説明してくれたのが印象的だった。更に彼
氏曰く、長春迄行くのなら更に一寸足を延ばして、吉林市の南にある松花江の豊満ダムを
是非見に行け、あれは日本が旧満州時代に作った最大の土木工事で、ものすごく大きなダ
ムで且つ周りの景色も綺麗だ、春先は特に綺麗でいい所だ、との話だったので長春見学後
吉林(長春の東120km)迄行き、豊満ダムと豊満発電所並びに松花湖(人工湖)を見て来た。
堰堤の長さ1100m(高さ101m)だけあってなかなか堂々とした風格のあるダムであったが、
あの1930年代にこんな奥深い異国の地に、よくもまあこんな大きなダム(黒四ダムは500m)
を作ったものだ、と感心もし、びっくりもした。発電機はさすがに古くなったので今取り替え中
であった。発電容量を質問しても誰も知らないのでこれは結局分からずじまいだった。

 これらの現場視察後11月1日にあの有名な瀋陽総領事館で小河内総領事にお会いし、長
時間に亘り意見交換をした。その折総領事のおっしゃるのに、「東北振興が容易でないこと
は事実です。しかし、まさにそうした東北振興のネックになっている問題を中央政府の支援
をも得て一つ一つ解決していこうというのが東北振興であると考えていただきたい。去る3/30
-3/31の2日間仙台で東北三省の全省長、日本の東北7県の全県知事が参加して開催された
仙台会議は、日中関係史上画期的なものと言える。その後、いくつかの日本の有力経済団
体が瀋陽・東北を訪れている。ただ、東北振興に対する関心もさることながら中国側の積極
性に引っ張られてお付き合いで来ているとの面もなしとはしない。ともあれ、仙台の次は来年
5月ここ瀋陽でフォローの会議がジャパン・ウィーク(瀋陽市・日本総領事館共催)のなかで開
催されることになっており、さらに大きな規模にすべく準備が進められているが、その成功を
期待したい。再来年は「2006瀋陽世界園芸博覧会」が中国最大規模で開催されることとなっ
ています。何れにせよ、いきなり日本の投資が急増するというわけではないにしても、2020
年、2030年という長期でみれば地理的近接性や心理的親近感もあり、この地域と日本企業
との経済提携・協力関係は深まっていくことは間違いない。他方、基本的に東北三省の人は
日本が好きで、日本語教育が盛んなことや水準の高さを誇りにしている他、いい人材が工場
現場にも若者のなかにも多い。日本をよく知ってくれているし、親戚縁者で日本に行っている
人や、行ったことのある人も多い。NHKが2007年以降における"坂の上の雲"の大河ドラマ化
を検討しているが、これが実現すれば、このときに一つの東北ブームが来るのではないかと
思う。」とのことであった。

 瀋陽総領事のこの話を聞いてもう1つ疑問が解けた感じがすることがある。それは残留孤
児のことである。あの戦争直後の混乱期に多くの日本人の子供を主に中国東北三省の農
民が助けてくれ、もらってくれて育ててくれたのは何故だろう、とかねてから素朴な疑問を持
っていたが、こういう感情が戦前からあったからだと分かった。ということは満州開拓団で行
っていた民間日本人は殆んどの方々が現地の中国人農民達とも仲良くやっていたからでも
ある、ということにも気づいた。総領事のお話では、チチハルで遺棄化学兵器の爆発で大変
なご迷惑をかけたのに西安やサッカーの折の様な騒ぎになっていないのもこうした日本に対
する好感情がベースにあるからだ、とのご説明の意味もよく分かった様な気がする。

 この項の最後に、この小河内総領事は日中間の相互理解と友好親善、日中間の問題解
決によく努力されている結果、日本の総領事としては初めて、長春市と四平市の名誉市民に
なっておられることを報告しておく。
これらの見聞と、その後の北京の日本大使館での公使や一等書記官ほかの皆さん方との
会談、ジェトロ北京の皆さんとの面談等々を全て合わせて小生の東北振興に関する直感的
感想を述べると大体以下の通りである。
1.現状では東北振興はかなり困難な仕事で簡単ではない。その理由は、
(1) 近くに良港がない。大連港迄遠すぎる。
(2) 広すぎ。物流インフラを相当急速によくする必要がある。
(3) 近年温暖化したとは言え、やはり寒冷の地で派遣される日本人スタッフの生活上の問
   題もありそうである。
(4) もっと近くて且つ良港にも近い開発区が中国にはまだまだ多い。

2.従ってこれらのハンディをはねのけて東北を振興させる為には、
(1) 遼東湾の錦州か営口あたりと、北の図們江の出口あたりに大きな良港を作ること。
   又そこへの高速道路を整備すること。既に計画はあると思うが、特に北のハルピン市
   −牡丹江市−延吉市間の高速道路の整備が必要である。
(2) 南の沿岸部工業開発区と競争条件を揃える意味で、当分の間中央政府及び省政府は
   三重県の北川元知事がシャープを誘致した時の様な思い切った補助金を出すと共に
   税制面でも進出企業をバックアップし、競争条件を対等以上にする様な税優遇策を打
   ち出すこと。
(3) 優秀な日本語の出来る人材を更に多く教育し世に送り出すこと。
(4) 遠距離輸送のハンディの少ない業種…例えばIT関係、コンピュータソフト関係、コール
   センター等を選んで特別優遇政策を打出し誘致すること。
(5) 外資のみに頼らず、中国の有力企業で東北進出のメリットのありそうな企業、業種に、
   同じく税制面や補助金政策等で進出を後押しすること。
(6) 余った電力を華東地区へ売電すること。石炭産地や水力発電のし易い場所に発電所を
   多く作り、その発電収入を振興策に当てること。
(7) 農村他の若年余剰労働力に日本語教育をしっかりして、多くの優秀な研修生を日本へ
   送り出すこと。これは国策としての農民の総数そのものを減らすことにも役立つ。
(8) これらの諸施策を息長く続けると同時にそのPRも長く続けること。
   これらを根気よく続けていると、やがて沿岸部が電力不足、土地不足、人手不足、交通
   渋滞等々によるコスト高になって来るので、少しずつ北へチャンスは拡がって行くと思う。

 最後に今の中国経済全体の懸念として、バブルではないか、少なくとも一部業種では既に
バブル化しているのでは、との懸念もあり、中国政府は今年の4月以降マクロ調整、マクロコ
ントロールが大切と全国に大号令をかけて来たが、この成果が徐々に表われてきつつある、
ということに一言触れておく。
 これは北京の日本大使館の一等書記官方3名の皆さんとの面談時に出ていた話だが、こ
の4月、5月からの中国政府のマクロコントロール政策は、かなり成果が上がりつつある。こ
の点は在北京の欧米系大使館や同じく北京に駐在している欧米系シンクタンクが、この政
策の浸透振り、成果を高く評価しているそうで、朱鎔基首相時代のアジア通貨危機の折に人
民元を切り下げなかった時に匹敵する様な高評価を得ている、又これによって中国政府の
評判を高めている、タイミングも良かった、との話があったことをご報告しておく。
 と同時に中国はまだまだ腐敗、格差ほか難問山積で中国政府は大変である、という話も
出ていたこともつけ加えておく。
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