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京大上海センターニュースレター
第35号 2004年12月14日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 上海センター講演会のご案内
○ 中国・上海情報 12.6 -12.12
○ 中古車流通管理弁法における改善点と不明確点
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上海センター講演会のご案内
日時 2005年1月24日(月) 14:00〜16:00
場所 京都大学百周年時計台記念館 2階国際交流ホール
演題 「最近の中国事情と今後の日・米・中関係における日本の積極的役割について」
講師 日中経済貿易センター名誉会長 木村一三氏

木村氏は、1954年に故高碕達之助氏の紹介で日中貿易に参画され、日中国交正常化にも民
間人として尽力されました。日中交流の最古参として故周恩来首相から胡錦濤総書記にいた
るまで、中国側有力者と親密な友人関係をもたれています。奮ってご参加ください。
参加を希望される方は、
北野(kitano@econ.kyoto-u.ac.jp FAX:075-753-3492)までご一報ください。
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中国・上海ニュース 12.06−12.12
ヘッドライン
■ 中国CPI上昇率:11月2.8%、1−11月期4%
■ 中国:1−11月期貿易総額1.03兆ドル、36%増
■ 温家宝総理:弾力性ある為替制度の実施、3つの要素に成否
■ 中国:携帯電話の輸出、1〜10月で1億台突破
■ 中国:旅行ブームで年間9億人が国内観光
■ 銀行巨額不良債権:60%が行政関与、発生未然防止へ
■ 中国:2005年発電用石炭価格は上下8%調整可能
■ 聯想集団(レノボグループ):IBMパソコン事業を1800億円で買収
■ 最高人民法院:司法改革に「三権分立導入できない」
■ 商務部:鋼材など5品目の輸入指定経営権を開放
■ 上海―南京間:特急列車増便、最速2時間17分
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              中古車流通管理弁法における改善点と不明確点

 本年9月に「中古車流通管理弁法」(意見徴集版)が出された。中国においては従来、体系的
本格的な中古車流通政策が存在せず,きわめて規制の強い現状追認的な政策しか存在しな
かったが、今回の中古車流通管理弁法においては、「中古車経営公司」に対して買取制を法
認し、中古車販売店の設置地点も自由化する等、中古車政策において大きな改善がみられる。
筆者は10月25日から30日まで北京において,この中古車流通管理弁法に関する現地調査をお
こなった。本稿では,中古車流通管理弁法の改善点と残された課題を検討する。

1)中古車流通管理弁法における改善点
@買取制が認められる
  第6条の冒頭において、「中古車の経営主体とは、中古車経営公司、経紀公司、競売公司、
 鑑定査定機構を指す」とした上で,同条第1項で「中古車経営公司とは、中古車の取引活動に
 従事する企業(中古車取引に従事する自動車生産企業、自動車販売企業を含む)を指す」と
 規定した。後の第8条第1項では「中古車取引とは、中古車経営公司が中古車を買取り、販売
 する経営活動を指す」と規定し,明文上、中古車経営公司が中古車の買取をおこなうことを法認
 した。さらに、上記の第6条第1項では括弧内で「中古車取引に従事する自動車生産企業、自
 動車販売企業を含む」と指摘されている故、自動車メーカーおよび新車販売企業も中古車取
 引に参入できることが明文化されたこととなる。
 このことは、従来、中古車交易市場に入居している中古車販売店のみに中古車の取引が制
 限されてきた規制がほぼ完全に取り払われたことを意味している。

A他方「中古車交易市場公司」は、中古車経営活動を制限される
  他方、従来中古車交易市場の運営会社であった中古車交易市場公司は,第7条で「中古
 車交易市場とは、法に基づいて設立され、売買双方に中古車の集中取引を提供する場所で
 ある。中古車交易市場は直接に中古車の経営活動を行なってはならない」とされ、中古車の
 経営活動(中古車買取・販売、中古車仲介,中古車競売,中古車査定の四分野)が禁止され
 る こととなった。従来、中古車交易市場公司は、査定や競売,時には中古車仲介をおこな
 って きていたが、今回の政策でそれらが不可能となった。だが、「(中古車交易市場公司が)
 別会 社を設置すれば可能である」との「対策」があるとも言われている。

B店舗設置場所の制限が廃止される
  従来,中古車経紀公司(中古車の仲介会社。ただし実質的には買取をおこなっていた)は、
 行政機関によって指定された「中古車交易市場」内に販売店を設置しなければならず,「中
 古車交易市場」外での店舗設置が認められていなかった。しかしながら,今回の中古車流
 通管理弁法では、第10条で「中古車経営公司は以下の資質条件が備わるべきである:(一)
 固定的な経営場所を有する、(二)中古車の買取り、販売の能力を有する、(三)顧客に中古
 車のアフター・サービスを提供できる、(四)顧客の代わりに中古車の鑑定査定、移転登録、
 保険、納税等の手続を代行できる」という四つの資質条件が課せられることになったが,これ
 らの中には設置場所に関する地域的制限はまったく含まれていない。従って新車販売店は
 自らの新車ショールームで中古車の下取や販売を行えることとなった。なお、逆に新規に
 規定された中古車経営公司が従来の中古車交易市場に入居できるかについては、制限
 は現時点ではないと言われている。とりわけ中古車交易市場公司が経営多角化のために,
 交易市場内に新車販売店を誘致しようとしており、そうした新車販売店がもし中古車経営公
 司の資格をとるならば,中古車(および新車)交易市場内に中古車経営公司の資格を有す
 る新車販売店が登場することも現実的となってきた。

Cメーカーや流通企業が交易市場公司や中古車競売公司に参入できる可能性
  自動車メーカーや流通企業が中古車交易市場や中古車競売公司に参入する可能性も見
 え始めた。すなわち,第9条では「中古車交易市場は以下の資質条件が備わるべきである:
 (一)企業法人、(二)所在都市の発展及び都市商業の発展に関する関連規定に符合する、
 (三)中古車経営に必要な固定場所及び施設を提供できる。(四)顧客に中古車の鑑定査定、
 移転登録、保険等の手続を行う諸条件を提供できる」とされ,また第12条では「中古車競売
 公司は以下の資質条件が備わるべきである:(一)『競売法』の関連規定に符合する、(二)固
 定的な競売場所を有する」とされている」されている。いずれも従来のような厳しい制限は廃
 止され、自動車メーカーや流通企業が中古車モール事業やオークション事業に参入できる
 方向が見え始めたと言えよう。

D名義変更手続の簡素化が進む可能性
  第10条第4項には(中古車経営公司=中古車買取・販売店)は「顧客の代わりに中古車
 の鑑定査定、移転登録、保険、納税等の手続を代行できる」とされ、従来のように、新車販
 売店従業員が顧客に同行して中古車交易市場に出向き、そこで名義変更手続(それに伴
 う査定や現車検査)を受けなければならないことはなくなると思われる。すなわち、この第10
 条第4項を読めば,客が行かなくても、新車販売店従業員が客に代わって名義変更手続に
 行くことが可能であると解釈できる。具体的にどのような手続が必要なのかは未だ分からな
 い点が多いが,現行よりも簡素化されることは明白であろう。

E売手責任が明確となりつつある
  今回の中古車流通管理弁法の最大の改善点は、売手責任、すなわち売手が車両に関す
 る情報の開示責任を負うこと、そうした情報開示をしていない場合は売手が返品や賠償責
 任を負うことを明確に規定したことである。第24条では「中古車の売り手は買い手に対して
 車輌に関する真実な情報を告知しなければならない。その情報には、製造出荷日時、使用
 期間、走行距離、技術状況及び販売価格等が含まれる。情報を隠したり、偽ったりしては
 ならない。売り手の情報隠しや詐欺によって買い手が購入した中古車は移転登録ができな
 い場合、売り手は無条件でその返品に応じなければならない。そして、相応の責任も負わ
 なければならない」と述べ、売手責任が明確に打ち出されつつある。裏を返して言えば、買手
 (一般消費者)が取引車両に関する詐欺や情報隠しを発見できなかった責任はまったく問わ
 れていない。先進国における中古車取引の発展プロセスを振り返ると,売手責任の強化と買
 手責任の免除の方向が明確化されることによって中古車市場の健全な発展が進んだこと
 は明白である。

 以上6点にわたって今回の中古車流通管理弁法によって改善された(あるいは改善されそ
うな可能性がある)点を指摘した。

2)中古車流通管理弁法においてなおも不明解な点
@中古車取引にかかわる税体系には何も言及していない
  第21条で「中古車交易市場及び各経営主体は法に基づいて経営と納税を行なわなけれ
 ばならない」と述べているだけで、税については何も具体的な叙述がない。今後出される政
 策・規約等に注目する必要がある。

A中古車の取引規範作成も今後の課題
  新たに定義された中古車経営公司がおこなう、具体的な取引規範については,第23条
 で「中古車経営公司は中古車の取引規範に基づいて取引をしなければならない。中古車
 の取引規範は、国務院の商務主管部門及び工商行政管理部門の共同によって新たに制
 定、公布される」とされ、今後策定されることとなっている。この取引規範の内容が,日本
 の自動車公正取引協議会が作成している『自動車公正取引規約』のような消費者の立場
 にたったものとなることが望まれる。
                                                   (塩地 洋)
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