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京大上海センターニュースレター
第36号 2004年12月21日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 上海センター講演会のご案内
○ 中国・上海情報 12.13 -12.19
○ シンガポール探訪雑記
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上海センター講演会のご案内
日時 2005年1月24日(月) 14:00〜16:00
場所 京都大学百周年時計台記念館 2階国際交流ホール
演題 「最近の中国事情と今後の日・米・中関係における日本の積極的役割について」
講師 日中経済貿易センター名誉会長 木村一三氏

木村氏は、1954年に故高碕達之助氏の紹介で日中貿易に参画され、日中国交正常化にも民
間人として尽力されました。日中交流の最古参として故周恩来首相から胡錦濤総書記にいた
るまで、中国側有力者と親密な友人関係をもたれています。奮ってご参加ください。
参加を希望される方は、
北野(kitano@econ.kyoto-u.ac.jp FAX:075-753-3492)までご一報ください。
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中国・上海ニュース 12.13−12.19
ヘッドライン
■ 中国:11月小売額4966億元、前年比13.9%増
■ 中国:05年に時速300キロ以上の高速鉄道を建設
■ 温家宝総理:「農地の削減、転用、質的な低下は厳禁」
■ 中国:1−11月期不動産の平均価格12%増
■ 中国人民銀行:利上げで預金増加、消費意欲に影響なし
■ 中国:中央直属企業の利益66%は7社が創出、10%が赤字
■ 上海宝山鉄鋼:年明けに鋼材価格値上げ
■ 山西−秦皇島間鉄道:石炭輸送増のため9億元投入、大改造へ
■ 北京:預金増加速、中小企業の借り入れ難度高く
■ 上海:冬季電力ピークに備え電力対策発動
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                     シンガポール探訪雑記
                                         京都大学教授 田尾雅夫

 11月1日から7日まで、正確には6日の深夜過ぎまでシンガポールにいた。私にとってはじめて
のシンガポールである。今回の滞在の目的は、医療システムの国際比較ということ、これは、
大きな文脈でいえば、多摩大学の真野教授や名古屋大学の山内教授に同行した昨年末の渡
米の延長線上にある。医療システムが、その社会や国家によってどのように影響を受け、異な
るシステムを発達させるかということが、私たちのプロジェクトの主たる関心である。そのなかで、
病院システムの相違を調べること、新制度学派の組織論を、病院という組織に応用して、どれ
くらい説明できるかということが、私の担当である。この前のアメリカ行きは、医療に関しては抜
群の、お二人のプロの先生の後についてまわる、いわば鞄持ち。それでも面白いほど、アメリカ
の医療事情が理解できた。日本のシステムはまんざら捨てたものではない、というのが、私の
素朴な結論でした。今回は私ただ一人、心細いが何とかなるだろうという、生来のいい加減さで
とにかく行くことになった。

 滞在先はアレクサンドラ病院という、シンガポールでも5指には入るという大きな病院に滞在
した。資料室は勝手に使ってよいということだったので、かなり自由にさせていただいた。中庭
が大きく広く、まるで植物園のなかにあるような病院でした。リハビリには絶好でしょう。地理的
にはシンガポール島の南半分のそれもかなり南よりのほぼ真ん中、閑静な住宅街に位置して
いる。市の中心、シティホールから西へ、地下鉄に乗れば7つ目の駅からバスに乗って、しか
し、ほとんどは市のど真ん中のホテルからタクシーで往復したので、それで通えるくらいの距
離だと考えて差し支えない。
 正規の<学問的>成果は、近々、ワーキングペーパーにまとめたいが、それよりもここでは、
正式の記録として書けそうにない雑駁な印象を、以下で書きとめておきたい。
 まず上海との印象の比較。よく似ている。やや白人が多いようであるが、それでもやはり東
洋の都市国家との印象が、地下鉄で地上に上がった途端に焼きついた。中国系の人たちが
8割も占めるのだから当然といえば当然。それでも上海に比べると、やはり西洋に近いような
気がしないではない。上海の南京東路と、ここのオーチャード・ロード、ともにもっとも大きなメ
インの通りということでよく似ている。歩いている人の感じはそっくりに近い。ニューヨーク、ボ
ストン、シカゴ、デンバー、サンフランシスコ、ロンドン、シドニー、そしてメルボルン(私がブラ
ブラと夜歩きした街)などに比べると、いわゆる東洋的な雑駁さの漂う街である。にもかかわ
らず、上海と比べて少し違和感が残るのはどうしたことか。
 意外に、というと失礼かもしれないが、非常にきれいな街である。ゴミなどない、少しもない
とまではいえないが、大阪的な雑駁さを内心期待していたが、案に相違して、非常に整理整
頓された街である。品のよささえも感じてしまう。病院で私の世話をしてくれた、非常に気のい
い青年に、そのことを話すと、きれいさをむしろ否定して、いやそんなことはない、彼は日本
のほうがきれいという(提携している東京の病院に研修に来ている)。しかし、私は、シンガ
ポールの下町の隅を好んで歩いたが、それでも、その印象に大きく変わりはない。
 しかし、私にとっては、上海のほうがなじみやすい。大阪を歩いている錯覚に落ちることさ
えある。やはりシンガポールは、よくいわれるように人工都市だからか、とにかくきれいであ
る。清潔にできている。毎朝、タクシーで病院まで通ったが、大きな公園の中を走っている
感じだった。そのところどころに大きなアパートが建っている。公園都市といってもよいほど
である。
 国家的強権を発動すれば、これくらいの規模ならば、塵一つない、清潔な地方自治体を
建設できなくはないということなのか。スラムなどないのではないか(なお、上海では汚い
路地に迷い込んだことがあった)。小さな宇宙であれば、強権(いわゆる開発独裁)によっ
て一つの制度を完璧に普及させ定着させることができるのではないか、と考えた。それが
よいかどうか、私には判断できない。政治学や行政学としては真剣に考えなければなら
ないことではあろう。

 くだんの青年は、リー・クアン・ユーはすばらしい政治家だといっていた。しかし、カリスマ
による属人的な国家は、そのうちやがてルーティン化する。そのときになって、薄汚れた街
にならないことを願いたい。それでも、上海のような活気を残せば、それだけでもすばらし
いことである。それにしても、私は、どちらかといえば上海のような東洋的雑駁さの街路が
好きである。私の皮膚にしっとりなじむ。とくに夜、ぶらぶら歩くとその感がいっそう深くなる。
そういえば、シンガポールには町のあちこちに、大小さまざまのホーカーズという独特の集
合屋台があった。ホントに安いが、しかしゲテモノ的(たとえば、カキ氷にかける汁は甘臭い、
ドリアンという果物の果汁が原料らしい)であるのは、その雑駁さをまだよく残している。や
はり東洋の町だったのだ。
 なお都市国家ではあろうが、地下鉄で北に行くと、途中から地上に出て、まだ熱帯性の原
生林が多く残っているのが車窓から見えた。次回は、時間さえあれば、あの近辺をブラブラ
したいものである。マレーシアから通勤する人たちも多いとか(橋があるそうな)。ところがマ
レーシアの虎に対して、シンガポールの表象はライオンとか、政治的にその辺は微妙らしい。
時間があれば勉強してみたい。

 単純に驚いたこと。昼ごはんは、ほぼ病院関係者の人たちと一緒だったのだが、イングリ
ッシュで話をしていたかと思うと、突然チャイニーズに替わって、またイングリッシュに突然
替わったりして、ホントに面食らった。これが正真正銘バイリンガルかと思った次第。こうい
う自在変化の世界があるとは、私の世間はまだまだ狭いようである。また、最終日には時
間が多少余ったので、空港に荷物をチェックインした後でまた引き返し、空港とダウンタウ
ンの中間にある砂浜のレストランでビールを飲んだ。ジョッキを3つもお換わりをした。この
海の果てにインドネシアがあるのか、もしかして、このあたりが海賊の多いところかなどと、
酔いにまかせて空想を逞しくもした。
 毎度のごとく疲れた旅だが、それでも朽ちかけた頭を大いに刺激してくれた。
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