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京大上海センターニュースレター
第40号 2005年1月17日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○ 上海センター講演会のご案内
○ 上海センター特別セミナーのご案内
○ 中国・上海情報 1.10-1.16
○ 浙江省3都市視察ツアーのご案内
○ 自己の思考の相対化に向けて
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上海センター講演会のご案内
日時 2005年1月24日(月) 14:00〜16:00
場所 京都大学百周年時計台記念館 2階国際交流ホール
演題 「最近の中国事情と今後の日・米・中関係における日本の積極的役割について」
講師 日中経済貿易センター名誉会長 木村一三氏

木村氏は、1954年に故高碕達之助氏の紹介で日中貿易に参画され、日中国交正常化にも民
間人として尽力されました。日中交流の最古参として故周恩来首相から胡錦濤総書記にいた
るまで、中国側有力者と親密な友人関係をもたれています。奮ってご参加ください。
参加を希望される方は、
北野(kitano@econ.kyoto-u.ac.jp FAX:075-753-3492)までご一報ください。
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上海センター特別セミナー
「今日の東北アジアと朝鮮半島経済」のご案内
 日韓条約締結40周年の今日、日本では韓国・北朝鮮についての関心は高まっており、情報
は量的には増えていますが、質的にはまだまで一面的な議論が多いようです。そこで、お二人
の専門家をお招きし、現在の東北アジアにおける朝鮮半島経済に関する包括的な問題につ
いて、研究成果をお聞かせ願いたいと思います。是非御来聴ください。
報告者 
 深川由起子教授(東京大学)「日韓FTAと東アジア経済統合」
 安秉直教授(福井県立大学)「破綻した北朝鮮経済改革の営繕−7.1経済管理改善措置−」
日時 2月10日午後 
会場 経済学研究科総合研究棟 8階リフレッシュル−ム
参加を希望される方は、堀(hori@econ.kyoto-u.ac.jpあるいはFAX:075-753-3499)までご一報
ください。
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中国・上海ニュース 1.10−1.16
ヘッドライン
■ 中国:株式市場が約4カ月ぶりにIPO再開へ
■ 大陸と台湾間:「春節」期間の直行便開通で合意
■ 中国:2004年末外貨準備高6000億ドル突破
■ 中国:2004年入国者数1億人突破、世界第4位の観光大国になるか
■ 中国人民銀行:2005年予測GDP8.5%、CPI3.28%
■ 上海:対外貿易総額2800億ドルを超す
■ 中国:北京−台北間道路を盛り込む全国高速道路網整備計画発表
■ 中国:2004年ハイテク製品が初めて輸出超過
■ 中国:国有企業など過去5年間で4割削減、利益22倍に
■ 四川:日本最大手のモリタ、中国の最大手消防車メーカーに出資
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浙江省3都市視察ツアーのご案内
 幾人かの上海センター協力会会員・理事が参加している「日中友好経済懇話会」という経済
団体があり、これまでも経済調査の協力を得ていますが、このたび浙江省の3都市(杭州、紹
興、寧波)の調査旅行を計画しています。日程などは以下のとおりで、特に今急成長している、
その3都市の開発区、進出企業を一緒に訪問されませんか。ちなみに協力会副会長の大森經
徳氏は紹興市の経済顧問で、その関係で当市には歓迎会をセットいただけることとなっていま
す。また、協力会参加企業も2社訪問いたします。
ご希望の方は、大西(ohnishi@econ.kyoto-u.ac.jpないしfax:075-753-3492)まで今月中を目途に
ご連絡ください。

日程 2005年3月24-29日 5泊6日
参加費 180,000円前後(四つ星級以上のホテルを予定)
訪問先
3月24日(木) 関空からANA便で杭州へ 到着後直接紹興へ 開発区および協力会会員企業
漬新さんを訪問、開発区からの歓迎会 紹興泊
3月25日(金) 紹興市内の酒造工場見学、魯迅博物館、蘭亭など訪問。 紹興泊
3月26日(土) 寧波市へ移動 木下電子提携工場および開発区を訪問
3月27日(日) 寧波の港湾施設見学と天童寺、阿育王寺訪問 午後移動で杭州へ。杭州泊
3月28日(月) トーセ株式会社=京都商工会議所杭州事務所および淅江大学、さらに西湖、
          岳廟、浄慈寺見学 杭州泊
3月29日(火) 開発区訪問 ANA便で帰国
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                   自己の思考の相対化に向けて
                                                   井出 晃憲

 北京に赴任したのは、ちょうどサッカーのアジア・カップの試合で反日暴動が起こった直後だ
った。講義を始める前にはある研究者の方から、「反日的学生がいるかもしれないので注意し
たほうがいい」とも言われた。そんなわけで、少々戦々恐々としながら初講義に臨んだのだった。
しかしながら、日本研究を志す大学院生達と深く接していくうちに、一般の反日感情とは縁遠い
と感じたことはもちろん、自分のこれまでの考えを問い直すきっかけを与えられもした。学生達
との関わりからいくつかの例を挙げて、思うことを述べたい。

例えば、以下のようなやりとりがあった。
学生「日本は“普通の国”ではありません。」
私「どういう点でですか。」
学生「軍隊がないからです。」
私「軍隊の有無が普通の国であるかどうかの基準ですか。」
学生「そうです。」
私「日本では憲法を遵守して、平和国家として世界に臨もうという主張もありますが…。」
学生「そんなことでは甘いです。早く正規軍を持つべきで、そうしないと良好な中日関係も築け
    ません。」

 そして、自民党の新たな憲法改正案で自衛軍の創設が謳われたことを私が話すと、彼は満
足気な様子だった。彼にとっては、日本の正規軍の保有はアメリカの傘の下から離れることを
意味するのだ。もちろん、多くの学生は日本が正規軍を持つことに反対するが、集団的自衛
権を持たないことを根拠に“普通”ではないとする点では一致している。かつて日本の国連加
入に際して、そのことが問題となったのは事実だが、私はこれまで日本が“異常な国”だと考
えたことは一度もなかった。いつか日本が“普通”で他のほとんどの国が“異常”とされる日も
来るのかな、と思ってみたりもする。
 また、日の丸・君が代について議論をしているとき、私はこう発言してみた。
「そもそも、国旗・国歌は必要なものでしょうか。私は、旗や歌のようなシンボルでまとめなけ
ればまとまらない集団など、まとめる必要性を感じません。私はたまたま“日本人”として生ま
れただけで、顔も名前も知らない“日本人”と、同じ国籍をもつという一つの共通点だけでは
連帯感を感じない。私は自己の主体性で選び取った集団だけに連帯感を感じる。その際、
国籍も民族も関係ないのです。」
それを聞いて、「なるほど、そういう意見もあるんですか。」と一学生が驚いた風に答えたの
みで、ほかの学生達はきょとんとしていた。これはもちろん、五星紅旗(国旗)や義勇軍行
進曲(国歌)を含めた中国での愛国心のあり方を踏まえた上での発言だった。
 こちらでは、リベラルな感じのする人達の間でも本当にナショナリズムが顕著だし、その
表現もストレートだ。敗戦時、すでにその“処女性を失った”と言われもする戦後日本のナ
ショナリズムの屈折したあり方と対比して考えると興味深い。さらに、こちらの日本研究で
は武士道精神への興味が高く、身近な学生達のうち何人かもそれをテーマにするそうだ
が、私にはあまりなじみがない。
 例えば『葉隠』について質問を受けたりするのだが、私は読んだことすらない。振り返っ
てみると、学校教育でも武士道について詳しく習ったことはなかった。むしろ高校の日本
史の授業では、先生が江戸時代の思想としては安藤昌益の『自然真営道』を取り上げて
熱心に語っていらしたことなどを思い出す。私の場合、武士道と聞くと、その内容や受容
者層を異にはするだろうが、明治以降の軍国主義との連関をつい考えてしまう。彼らに、
「武士道を批判的に検討するのか」と聞いてみると、そうではなく「日本人の心性一般を客
観的に理解するためだ」と言う。果たして日本人の心性なるものはどこにあるのだろう。

 最近、『<民主>と<愛国>』(小熊英二)という戦後思想の変遷を詳述した本を興味
深く読んだ。現代の日本では既定とされる概念や枠組みが、敗戦時から60年代末までの
あいだに、いかに形成されてきたのかが記されている。私が生まれた1970年には、それ
らの概念や枠組みはすでに固定化されたものだったし、豊かさや平和や自由や民主主
義がすでに前提となった時代だった。そうした社会のなかで、私は戦後教育というものを
受け、90年代の国民国家問い直しの議論などを見聞しつつ、自己の思考を形成してきた
わけだ。そうした自分を育んだ諸々の環境を顧みるきっかけが、こちらの異なった社会に
身を置くことで与えられた。書物を読んで過去を辿ればある程度は顧みることができるだ
ろうが、中国では“いま・ここ”の視点から自己の思考を相対化してみることができる。そう
した意味で、たいへん勉強になっていると感じる。
(いで あきのり。経済学部95年卒。現在、中国社会科学院研究生院に勤務。中国籍モンゴ
ル族の妻子と北京在住)
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