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京大上海センターニュースレター
第42号 2005年2月1日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○上海センター特別セミナーのご案内
○上海センター・エレクトロニクス産業シンポジウムのご案内
○中国・上海情報 1.24-1.30
○浙江省3都市視察ツアーのご案内
○中国の金融開発と経済成長の和解(上)
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日韓・朝鮮問題関連上海センター特別セミナーのご案内
T 「今日の東北アジアと朝鮮半島経済」のご案内
 日韓条約締結40周年の今日、日本では韓国・北朝鮮についての関心は高まっており、情報
は量的には増えていますが、質的にはまだまで一面的な議論が多いようです。そこで、お二人
の専門家をお招きし、現在の東北アジアにおける朝鮮半島経済に関する包括的な問題につい
て、研究成果をお聞かせ願いたいと思います。是非御来聴ください。
報告者 
 深川由起子教授(東京大学)「日韓FTAと東アジア経済統合」
 安秉直教授(福井県立大学)「破綻した北朝鮮経済改革の営繕−7.1経済管理改善措置−」
日時 2月10日(木)午後2:00- 
会場 経済学研究科総合研究棟 8階リフレッシュル−ム
参加を希望される方は、堀(hori@econ.kyoto-u.ac.jpあるいはFAX:075-753-3499)までご一報
ください。

U 「応用一般均衡モデルによる日中韓FTAの効果分析」のご案内
 上記セミナーで扱われる日韓の自由貿易協定の是非はその産業別の効果分析の結果に
よっても左右されるものです。そのため、上海センターでは、ちょうど京都大学の国際数量分
析研究室に滞在中の韓国人学者である高鍾煥副教授にお願いをして、表記テーマの研究報
告をしていただくことになりました。数千本の巨大なモデルを個人としてくみ上げた貴重な研究
成果です。合わせ、ご来聴いただければ幸いです。
報告者 
 高鍾煥副教授(韓国国立釜慶大学校)
日時 2月14日(月)午後2:00-5:00 
会場 時計台記念館会議室W
参加を希望される方は、大西(ohnishi@econ.kyoto-u.ac.jpあるいはFAX:075-753-3492)までご
一報ください。
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上海センター・エレクトロニクス産業シンポジウムのご案内
当初2月19-20日の2日間の予定と案内しましたが、19日の1日のみとなりました。ご注意ください。
2月19日14:00-18:00 講演会(一般向) 終了後懇親会開催
会場: 京大経済学研究科2階大会議室 京阪出町柳或は市バス百万遍・東一条下車
報告予定者 安室憲一(兵庫県立大学経営学部教授)
        天野倫文(法政大学経営学部助教授)
        欧陽桃花(中国人民大学商学部助教授)
        椙山泰生(京都大学経済学研究科助教授)
その他、関連企業と交渉中
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中国・上海ニュース 1.24−1.30
ヘッドライン
■ 中国大陸と台湾:56年目にして初の直行便就航
■ 中国:日本の最大貿易相手国に
■ 中国:2004年のGDP成長率は9.5%
■ 中国石炭需要:2005年21億トン、供給不足が深刻化
■ 中国:チリと自由貿易区交渉を開始、中南米で初
■ 中国:自動車燃料税を導入へ、税率と施行時期は未定
■ 中国:大気汚染対策怠った46火力発電所のリスト公開
■ 黒龍江省:アムール川活用でロシアと石油貿易
■ 広東省:労働力不足、月給500元以下は求人困難
■ 上海:2004年の住宅平均価格14.6%増
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                     浙江省3都市視察ツアーのご案内
 
 幾人かの上海センター協力会会員・理事が参加している「日中友好経済懇話会」という経済
団体があり、これまでも経済調査の協力を得ていますが、このたび浙江省の3都市(杭州、紹
興、寧波)の調査旅行を計画しています。日程などは以下のとおりで、特に今急成長している、
その3都市の開発区、進出企業を一緒に訪問されませんか。ちなみに協力会副会長の大森經
徳氏は紹興市の経済顧問で、その関係で当市には歓迎会をセットいただけることとなっていま
す。また、協力会参加企業も2社訪問いたします。
ご希望の方は、大西(ohnishi@econ.kyoto-u.ac.jpないしfax:075-753-3492)まで2月中旬までにご
連絡ください。
日程 2005年3月24-29日 5泊6日
参加費 180,000円前後(四つ星級以上のホテルを予定)
訪問先
3月24日(木) 関空からANA便で杭州へ 到着後直接紹興へ 開発区および協力会会員企業
         漬新さんを訪問、開発区からの歓迎会 紹興泊
3月25日(金) 紹興市内の酒造工場見学、魯迅博物館、蘭亭など訪問。紹興泊
3月26日(土) 寧波市へ移動 木下電子提携工場および開発区を訪問
3月27日(日) 寧波の港湾施設見学と天童寺、阿育王寺訪問 午後移動で杭州へ。杭州泊
3月28日(月) トーセ株式会社=京都商工会議所杭州事務所および淅江大学、さらに西湖、岳
          廟、浄慈寺見学 杭州泊
3月29日(火) 開発区訪問 ANA便で帰国
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               中国の金融開発と経済成長の和解(上)
                      京都大学経済学研究科講師 ジャン・クロード マスワナ

1.はじめに
 
 十分に発達した金融システムは、情報コスト、取引コスト、そしてモニタリング・コストを削減す
ることにより仲介の効率を高める機能を持つことから、金融開発が経済成長に関連していると
いう議論がある。この金融開発と経済成長の関連性は、適切に機能する金融システムの存在
なしでは経済成長が起こらないことを示唆している(McKinnon[1973]、 Shaw[1973]、King &
Levine[1993]、Levine et al.[ 2000]、Beck et al. [2000]参照)。換言すると、もし金融システムが
資金配分を歪めて金融抑圧が起こるならば、経済成長は持続されず、金融深化 の不十分な
状態が維持されてしまうのである。
 中国の金融システムは最適貸付可能資金配分を大きく歪めており、金融セクターは大変非
効率的である、という一般的な見解と、過去20年間に見せた中国の力強い経済発展(実質GDP
成長率の平均は9.4%)は、明らかに矛盾している。本稿では、以下の問題について検討する。
 ・中国の金融システムの理解を深めるにはどうしたらよいか。
 ・中国で実施された金融政策は、開発目標達成にどの程度貢献してきたか。
 ・中国の高い経済成長は、金融システムの効率性を反映しているのか。
 本稿では、市場を基盤とした基準を用いて中国の金融システムを分析するのは適切でない、
そして現在の中国の金融システムは、中国の開発ニーズに貢献するのには有効であったことを
議論する。さらに、中国の金融システムは先進工業国の基準に沿って発展していないもかかわ
らず、金融仲介は、経済成長を助けるには十分な貯蓄と融資を促進するのに効率的であったこ
とを検討する。
本稿の構成は以下のとおりである。

 ・2節は、中国の金融開発に対する特定機関の状況と、1978年以降に達成された発展
  の様子を概観する。
 ・3節は、中国の金融システムの業績を正しく評価できる観点・基準を議論し、金融
  政策にも焦点を当てる。
 ・4節では、本稿の結論をまとめる。

2.中国の金融発展概観

 中国の金融システムを理解するためには、中国の金融発展をまず金融機関と開発業績の
観点から検討することが大切である。ここでは、中国の金融活動の大半が行われている銀行
部門に注目していく。

(1)制度的背景
 中国は改革開放政策を採用したため、金融市場は商業銀行、社会保障基金、信託会社、
保険会社、証券会社を受け入れただけでなく、2003年以降中国金融市場発展において重要
な役割を持つ「適格外国機関投資家」(Qualified Foreign Institutional Investors)を導入した。
さらに、金融市場の商品も徐々に多様化している。金融債務、財政部長期債券、中央銀行手
形、会社株や債務の性格を持つその他の商品もある一方で、革新的な証券や銀行商品が続
々と導入されている(Zhou Xiaochuan[2004])。
   
 中国の金融資産は銀行システムに集中している。資本市場は比較的小さく、銀行融資が中
国企業の主な財源(80%以上)となっている。本格的な法人公債市場は存在していない。Ligang
[2001]の調査によると、1998年、銀行融資は全資金調達活動の70%を占め、エクイティ・ファ
イナンスは6%にしか満たなかった。民間の商業銀行は、市場のごく一部を占めているに過ぎ
ない。政府の指導の下、国有銀行は市場価格をはるかに下回る金利での"政治的融資"を通
して、ほとんどの資金を国有企業に回した。最近になって中期、長期型融資の傾向が見られる
ものの、融資は主に短期型である。80を超える都市商業銀行は、国内銀行ビジネスの約4%
を所有している。都市信用組合(約3,200)は、約5%、そして多数(約41,500)の地方信用組合
とその他小規模機関は国内銀行ビジネスの9%を占めている(Ligang[2001])。
 銀行部門は、資産総額から計算して国内銀行ビジネスの60〜70%を占めている4大国有銀
行周辺に集中している。
4大銀行とは、
 ・中国銀行(もとは外国為替活動と輸出入の資金供与を担当)
 ・中国工商銀行(元来産業セクターへの融資専門)
 ・中国建設銀行 (従来はインフラ整備専門)
 ・中国農業銀行 (もとは農業への融資と農村開発専門)
この4大国有銀行は、2001年末には貯蓄と貸付事業の60%、支払い業務の80%のシェアを持
っていた。

 Xinghai[2001]によると、中国政府は1995年以降金融セクターにおいて多くの改革を行ってい
る。主に、大手銀行、証券会社、そして株式市場の政府コントロールの中央集権化、都市信用
組合の共営化の強制、融資割当の廃止、そして不良債権を取り扱う資産運用会社の設立など
である。1995年に公布された新商業銀行法は、残りの国有銀行が営利目的の融資に集中する
ことを許可するために、金融機関が融資業務に商業基準を組み込む必要性を強調した。中国
政府は操縦政策の実施と再建事業の資金供給という、特別な任務を持つ3つの国営銀行、す
なわち中国開発銀行、中国農業開発銀行、そして中国輸出入銀行を設立した。
 金融政策の実施と他金融機関の監視のために中国人民銀行に広範囲な権限を与えた中央
銀行法の導入にもかかわらず、中国人民銀行はほとんど独立実態をなすことがなかった。新
たな金融商品の開発、融資の金利の決定は依然政府にコントロールされていた。Lardy[1998]
は徹底調査の中で、中央計画時代が思い出されるかのように、中国にあるほとんどの銀行は
国有である事実を指摘している。銀行部門の局部集中は、GDPに対する広義マネー(M2)の比
率が極端に高いことから明らかであり、このことは経済開発の過程で資金供給が銀行部門に
偏りすぎでいることを示唆している。長い間M2比率が高い傾向にあったにもかかわらず、中国
の力強い金融発展のパターンが確認されているのである。

(2)1978年以降の金融発展
 本節では、金融活動レベルでの改善、銀行部門の安定性、そして実物部門の実績(すなわち
成長)に反映された資源配分の質、を含む広義に定義された金融発展に焦点を当てる。1980
年代前半以降、中国の金融深化は目覚しい。実質マネタリー・バランスは実体経済よりも速い
スピードで拡大している。M2のGDP比率で測定される金融深化は、1978年の24%から2004年
の182%に増加している。この比率は1994年から1999年の間に30%増加、そして1999年から
2004年には50%増加している。

 中国の経済実績は、ロシアのような同様に転換期にある経済と比較すると実に見事である。
1990年の貸付資金レベル(M2/GDP比率で代用計算)は、中国が71%、ロシアが70%であった。
しかしながら、ロシアは1995年に21%、2004年に29%と低下しているのに対し、中国は1995年
に103%、2004年に182%と大幅に増加している。実際ロシアの最新のデータは、中国の1980年
レベルになっている(IMF[2004])。金融深化から判断すれば、中国は最先進経済の一つである
といえる。この飛躍的な金融深化に寄与した要因としては、経済の貨幣化と一般家庭の金融貯
蓄増大が考えられる。2001年、一般家庭の預金は、準貨幣の77.9%、そして広義マネーの47.2
%を占めていた(Chen[2003])。そして国内貸付は国家予算支出に取って代わり、資本投資の
第一の外部財源となっている。1981年、国家予算支出は全固定資産投資の28.1%の融資をし
たが、国内貸付が行った融資シェアはわずか12.7%であった。しかし、2001年までには、融資
が外部金融の第一の手段となる一方で、国家予算はその重要性を失っている(Chen[2003])。

 金融開発に対する最善の評価基準は、M3貨幣ストックにおける貯蓄と定期預金のシェアで
ある。これは、短期支払いの資金繰りを超えて、どの程度長期投資への融資が可能であるか、
といった銀行の金融仲介の深さを示している。 これは、長期にわたる貨幣部門の傾向から観
察することができる。
 ・(銀行外にある)通貨の割合が次のように推移:1985年に全貨幣供給量の20%、1991年に
  17%、そして2003年に17%。
 ・取引預金(当座預金と決済性預金)の割合は、1985年の42%から1991年の31%、以降一
  定となっている。
 ・非取引預金(貯金と定期預金)の割合は、1985年の38%から1991年の52%、そして2003年
  の58%へと大きく増加している(Bernstam and Rabushka[2004])。

 最後に、会社や家庭への商業銀行融資のGDP比率においては中国では142%に達し、アメ
リカ(70%)の2倍となっている。この活動的な構図は、中国の銀行部門がいかに取引関係の
オペレーション(短期活動)から長期の資金システムへ移動したかを示唆している。これらのこ
とすべてを考慮すると、中国の金融システムは堅固であり、安定した経済成長を推進できるよ
うに思われる。

 近年の銀行間市場は、銀行とその他金融機関の流動性を向上させ、中央銀行が自由市場
操作を通して金融政策を実行する際の手助けをしてきた。自由市場操作は、大切な政策手段
となっている(Wang[2000])。中国はすでに、証券先物市場、マネー・マーケットそして銀行間外
国為替市場を基本的に設立している。そして、金融市場は多様な参加者を育てており、市場
の商品も徐々に多様化されている。しかしながら、先進経済と比較すると、中国の金融市場は
いまだ商品の種類と高度さが十分でない。近年中国は、大きな経済成長のはずみを利用して、
商業銀行の株式改革を加速している。
 Li[2004]によると、商業銀行改革はいくつかの重要な段階を経てきた。例えば、1998年中国政
府はRMB2700億元に達する特別財務部長期債券を発行した。集められた資金は国有商業銀行
に資本注入するため使われた。また、以下の例が挙げられる。1999年〜2000年にかけて、商
業銀行の一部不良債権を引き受けるために、資産運用会社4社が設立された。
 ・商業銀行は不良債権を償却するために、引当金、利益、資本を含む自己資金を使った。
 ・450億米ドルの外貨準備高は、2つの国有商業銀行、すなわち中国銀行と中国建設銀行に
  資本注入するために使われた。
 銀行システム全体としては、資産価値、適正資本量、そしてリスクに耐える能力を向上するに
至った(Li[2004])。中国で起きている高い経済成長は、基本的には莫大な資本流入の結果であ
ると説明されることが多い。海外直接投資が経済成長率の背後にあると議論することが自然で
あると思われる一方で、溢出効果というのは、その国の国内金融市場の開発程度に著しく依存
していると認識することが大切である。金融市場が大切であるという様々な状況が存在する。
 例えば、新しい投資とそれに伴う新しい知識を利用するためには、現地企業は毎日の活動を
改める、もっと一般的には組織を再構築し、新しい機械を購入、そして新しい管理職と熟練労働
者を雇う必要がある。多くの場合、こういったことへの外部からの融資は、国内資金に限られて
いる。金融市場の欠如は、潜在的企業家を制限することにもなる。効率的な国内金融システム
がなければ、海外直接投資は経済成長に全面的な影響を及ぼすことはできない。

 民間セクターの銀行融資へのアクセスは未だに大きく制限されている。民間企業が1998年の
工業生産高の約35%に貢献した事実にもかかわらず、1999年の第4四半期では、民間企業は
全銀行融資の0.62%しか受け取っておらず、国有銀行に至っては、全融資の0.5%にも満たな
かった(Bernstam and Rabushka[2004])。自由市場経済の基準から判断して、金融サービスの
ギャップは先進国のほうが大きくなっているが、中国の金融機関は低い資本価値、不適正資本
量、商品の多様性の欠如に苦しめられている。中国と海外の金融機関には、事業運営、経営
スキル、従業員の質において大きな差がある。2004年第2四半期、国有銀行の不良債権は、債
権資産の19.2%を占めるRMB1兆8898億に達している。中国の金融開発の成功にもかかわら
ず、その非効率性が強調され、様々な理由を挙げて批判されている。非効率性についての議
論すべては否定しないが、確かに解釈が偏っている部分があると思われる。
(Shaw[1973]の定義を採用。)
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