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京大上海センターニュースレター
第46号 2005年2月28日
京都大学経済学研究科上海センター

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目次
○河上肇記念シンポジウムと講演会のご案内
○中国・上海情報 2.21-2.27
○ドサクサの中国市場:勝者はだれか?
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京都大学大学院経済学研究科・経済学部/京都大学上海センター/京都大学21世紀COE
プログラム「先端経済分析のインターフェース」共催 
河上肇記念シンポジウムと講演会のご案内

第T部 記念シンポジウム「中国と日本の政治経済学−河上肇と中国、その後−」
 2005年3月16日(水) 午後2時から5時
 京都大学時計台記念館百周年記念ホール
パネル
三田 剛史(経済思想史研究者、『甦る河上肇−近代中国の知の源泉』藤原書店著者)
張 小金 (政治経済学、アモイ大学教授)
大西 広 (社会統計学、京都大学経済学研究科)
本山 美彦(国際経済論、京都大学経済学研究科) 
八木紀一郎(経済学史、京都大学経済学研究科)
山本 裕美(中国経済論、京都大学経済学研究科)

第U部 公開講演会「河上肇と比較経済思想」
 同日 午後6時15分から8時 京都大学時計台記念館百周年記念ホール
中野 一新(京都大学名誉教授・河上肇記念会代表世話人) 
    「あいさつ:河上肇と京都大学」
住谷 一彦(立教大学名誉教授・東京河上会代表)
    「河上肇と比較経済思想:河上肇におけるヴェーバー的問題」 
住谷氏紹介 
 1925年京都市に生まれる。立教大学名誉教授。マルクス、ヴェーバーを基礎にして、
資本主義を比較思想的に考察するとともに、日本の宗教観念・経済思想についても探求し、
『共同体の史的構造論』、『リストとヴェーバー』、『河上肇の思想』、『日本の意識』など、
多数の著書がある。
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中国・上海ニュース 2.21−2.27
ヘッドライン
■ 中国人民銀行報告:「インフレ圧力は継続」
■ 上海:小学校で人質事件 警察の突入で逮捕
■ 中国:1月の工業生産額、実質成長率9%
■ 三峡ダム:2005年の発電量が600億Kwhへ
■ 中国:私営経済の発展を推進、電力、石油、軍需等に民間企業参入認可
■ 中国:今年中に人民元資本項目の兌換制限が一部緩和へ
■ 中国人民銀行:今年4月、上海に地域本部設立へ
■ 台湾:上海民営書店が台北進出、最大の「簡体字」書店オープン
■ 中国:2005年通信業界売上総額680億米ドルへ
■ 上海ローソン:初の経常黒字に
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                 ドサクサの中国市場:勝者はだれか?
                  小島衣料代表取締役社長、上海センター協力会理事 小島正憲
 
 2005年に入って、「中国は世界の市場」の掛け声のもとに、外資が中国市場になだれ込ん
できた。それはあたかもかつてのゴールドラッシュを思い起こさせるようだ。しかしながら現実
の中国市場は、幾重ものドサクサの渦中にある。果たして、だれがこの市場の勝者になり、金
をつかむのだろうか?

<第1のドサクサ>
 1月11日、上海で開催された東京三菱銀行の講演会は、あふれんばかりの参加者とその熱
気で、むせ返るようであった。その講演会のテーマは、「中国の商業開放の現状」であり、立ち
席も含めてざっと400名の受講者がそこに参集した。
 昨年4月、中国政府はWTOに加盟したときの公約通り、外資への商業分野への開放政策を
打ち出した。しかしその法令は大枠が示されただけで、細則が未発布のまま、12月11日の実
施期限を迎えた。その結果、中国市場への参入を目論み、当局に商業公司の設立を申請した
外資企業は、ごく少数の企業を除いて、ほとんどが未認可のままとなり立ち往生してしまった。
したがって現在、多くの外資企業とそのビジネスマンが、血眼になって法令の行方とライバル会
社の動向を追っている。その結果が、上記の講演会の大盛況となった次第である。

 従来、中国政府は商業分野の部分的開放政策として、暫定弁法と称する試行法令を重ねて
きた。結果、それらの先行法令と、今回の法令との間で整合性が取れず、細則を発布するの
にかなりの無理が生じているようなのである。上記の講演会の講師も、今後の細則の発布を待
ち、それまで慎重に様子を見ることがのぞましいとの見解であった。うがった見方をすれば、こ
の状態は中国政府が国内商業企業を守るために、中国市場を早急には無制限の開放をしな
い方がよいと判断し、時間稼ぎをしているようでもある。しかし一方では、なぜか運よく認可され
た一部の外資企業が、中国全土を席捲する勢いで販売活動を開始している。その現状を見る
と、いちがいに時間稼ぎが細則発布遅延の主因であるとは思えない。
 いずれにせよ未認可の外資企業は始発のバスに乗り遅れたわけだから、細則未発布という
暗闇の中でも、手探りで前進し、せめてこのドサクサの渦中から、1日でも早く脱け出すことが
できるように、情報収集に全力をあげ、認可を得るために奔走しなければならない。

<第2のドサクサ>
 1月、中国政府は突如として、繊維製品に輸出関税を課した。この事態には、だれもが驚き、
対策のために右往左往した。これは中国政府のセーフガード対応の奇策であった。WTOに加
盟した中国は、外資企業への市場開放と引き換えに、対欧米繊維クォーターの撤廃という絶
対の条件を手に入れた。これによって中国繊維業界にとっては、対欧米輸出の最大の難関
が取り除かれたことになり、大量に製品を輸出し、大儲けすることが基本的には可能になっ
た。しかし欧米側は、セーフガードの発令という輸入制限のための最後の手段を残しており、
昨年来、欧米政府と中国当局との間で、虚々実々の駆け引きが行なわれていたようである。
われわれもこの行方を注視していた。ところが昨年12月半ばになって、中国当局はこのセー
フガードをかわす奇策を繰り出してきた。繊維製品に輸出関税を掛け、欧米への怒涛のよう
な輸出を自主規制しようというのである。この法令は事前にはいっさい通知されておらず、す
べての企業にとってまさに寝耳に水であった。わずか半月後の1月1日には、細則まで含め
て発布され、即、実施となった。しかもその関税は、輸出先を欧米に限定したものではなく、
全世界向けに適応となり、日本向けまでがそのトバッチリを受け、相応の輸出関税を払わな
ければならなくなった。この法令はまさに電光石火、有無を言わさず断行された。

 この数年、中国の繊維企業はクォーター撤廃後の欧米市場への輸出を目指して、生産規
模を飛躍的に拡大させてきた。これらの繊維企業がこのドサクサで立ち往生し、製品を国内
市場販売などに向け、一時避難をしなければならなくなった。一方、国内市場向けの生産企
業は、突然の参入者を迎えて、これまた熾烈な販売競争に巻き込まれることになった。もち
ろんこの余波は、日本向けの繊維製品輸出にも少なからぬ影響を及ぼすことになった。
 報道によれば、欧米側はこの輸出関税政策を評価せず、やはりセーフガードを発令する
準備を進めているという。これに対して、中国政府は、輸出関税額を大幅にアップすることを
考えているらしい。さらにまた次なる奇策を準備しているという。まさに繊維業界では一寸先
は闇のドサクサ状態の中で、今後も熾烈な戦いが続く様相である。

<第3のドサクサ>
 数年前から武漢の街中に、繊維製品を中心にした一大卸売市場が出現している。そこに
は数棟の雑居ビルの中に、1〜2坪ほどの広さの店が約4千社集結している。それは戦後
の日本の闇市に匹敵するドサクサ市場であり、また韓国の東大門市場の数倍規模の卸売
市場である。連日、大勢の買出し客でごったがえしており、大きな袋を担いだ人が右往左往
し、大声を出さないと会話ができないぐらい騒がしい。地理に不案内の人間が紛れ込むと迷
子になることは必定だし、大混雑の中で、スリに気をつけながら買い物をしなければならない
ほどである。商品は安いものでは10元から、高いものでも100元以内で売られており、品
質も悪くはない。また衣服関連製品のすべてがそろっている。さらにほとんどが現金決済で
あり、客は商品をその場で大きな袋に詰め担いで帰る。増値税の発票などの現場はまった
く見当たらない。ここの業者はほとんどがもぐり販売をしているようだ。この雑居ビル群のオ
ーナーはほとんど温州商人だという。それだから法令無視もまかり通るのだろう。とにかく
客は近くの駐車場まで大きな袋を担いで運び、そこで目的地別のトラックに乗せている。何
十台ものトラックで道路が麻痺してしまっている。ビルの窓からその光景を見ると、無数の
人間がうじゃうじゃと働き蟻のようにうごめいている。まさに、これが「世界の市場=中国」と
いう感じである。
 このような卸売市場が、現在、中国各地に多数出現しているという。これが13億人の中
国の真の市場なのである。そしてこれらのドサクサ市場は、武漢の卸売り市場のように、温
州商人の類に牛耳られている。だから世界から参戦してくる外資は、最終的にはこれらの
土着の商人と激突することになるだろう。外資はこの闇市場の主に果たして勝てるのだろ
うか。この数年で温州商人はドサクサ市場を足場に、確実に成長してきており、さらに肥大
化し巨大企業に変身する可能性も持ち合わせてきた。外資にとっても、このドサクサ市場
で勝たないかぎり、「13億人の中国市場」は虚構で終わるのではないか。百貨店などでご
く少数の高所得者を対象にした商品の販売を狙うだけでは、緒戦は勝てても、最終的には
淘汰され、駆逐されるのではないだろうか。

<第4のドサクサ>
 日本企業の多くは、「中国は世界の市場」の掛け声に踊らされて、これらのドサクサ市場
の現実を見ないで、あたふたと進出してきている。どっこい中国市場はそんな簡単なもの
ではない。商業分野での先発企業のカネボウ化粧品ですら、つい最近、店頭商品のいっ
せい引き上げを余儀なくされたように、それは複雑怪奇である。もちろん従来から指摘さ
れている代金回収や知的所有権の問題などは未解決のままであるし、商標権の問題も意
外に煩雑である。バックマージンの慣行に習熟するのにも、かなりの時間がかかるだろう。
中国市場は進出してすぐに儲かるような容易なものではない。

 私は今から3年前、すでに「中国は世界の市場」を予測して、日本企業に中国市場への
進出を呼びかけた。それらの企業の販売拠点兼常設展示場として、上海の世界貿易商城
(通称:上海マート)内に100ブースを借りきり、上海日本服装商城としてオープンさせた。
そこで日本の進出企業が頭を寄せ合い、中国市場への販売を実践練習しておけば、来る
べき商業開放のときに、その流れに一気に乗って、大飛躍ができると考えたからである。
日本企業が100社ほど固まり、そこに日本商店街を作れば、上海名物になることは間違
いなしであり、共同で顧問弁護士や会計士も雇用できるし、なによりも団体の圧力で政府
機関との交渉が有利に展開できると考えたからでもある。私は上海日本服装商城へ日本
企業を勧誘するために、大規模なファッションショーや展示会、モデルオーディション、定期
的な講演会などを積極的に行ない、マスコミをはじめとして多いに宣伝活動を行なった。ま
た私自身が多くの企業に勧誘に歩いた。しかしながら、私の熱意は多くの人に伝わらなか
ったばかりか、鼻であしらわれることが多かった。結果として15社ほどの出店があったが、
100社には遠く及ばず、見事に私の上海日本服装商城構想は頓挫した。しかしながら、3
年後、私の読みどおり、波が来た。上海マートへの日本企業入居者も増えてきており、すで
に30社に及んでおり、年内には50社を超えるだろう。そのような中で先発の15社は、この
3年間ですでに中国市場に対して、いろいろなチャレンジを繰り返し、温州商人にも勝てるノ
ウハウを蓄積してきた。それらは企業秘密なので、ここでは紹介はできないが、大きな成果
を勝ち取っている企業もある。このドサクサ市場に勝つには、泥縄では勝てない。3年前か
ら地道に研究してきた企業のみが、大きく飛躍できるのである。ドサクサと駆け込んできた
だけでは、まず勝てない。

<さて、ドサクサの勝者は?>
 いずれにせよ、日本のみならず世界の著名大企業が中国市場になだれをうって出てきて
いる。まさにかつての米国のゴールドラッシュさながらである。しかしながらあのゴールドラッ
シュのとき、実際に金を掘り当てた人間は皆無に近く、結局、大儲けしたのはツルハシ屋と
弁当屋だけだったという。われわれ中小企業家は、むしろツルハシ屋や弁当屋の役割を狙
った方が、おもしろいかもしれない。
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