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京大上海センターニュースレター
120号 200683
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

   中国・上海ニュース 7.24-7.30

○「児童同伴出勤」の禁止

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中国・上海ニュース 7.24−7.30

ヘッドライン

           中国:1−6月農民現金収入12%増、伸び率下がる

           中国:79月、経済全体は好調と専門家が予測

     中国:中央政府、「10大省エネ事業」に意見書を発表

     中国:外資会社の通信ライセンスの管理を強化

     中国:家電量販店の1位「国美」と3位「上海永楽」統合

     新疆:中国・カザフ石油パイプライン、商業運転スタート

     山東:黄河デルタ、5年間に2.7万ヘクタール拡大

     自動車:奇瑞汽車、省エネ小型セダン「A51.6」発売

     北京:頻繁な降雨で大気環境良好

     上海:蘇州河沿いを大規模再開発がスタート

     北京:日中環境協力支援センター、北京に事務所を開設

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「児童同伴出勤」の禁止

             30.JUL.06

株式会社小島衣料社長、中小企業家同友会上海倶楽部副代表 小島正憲 

                                                             

≪ 入居各社へのお願い ≫                                    

最近、当上海マートの各階で、子供が大声をあげて遊んでいるのを、よく見かけます。

意外な事故が発生する可能性がありますし、また仕事に差しさわりが出ているとの声も出ていますので、子供を連れて出勤するのをご遠慮ください。

子供の安全を守り同時に仕事がしやすい環境をつくる為、何とぞご協力をよろしくお願いします。

                                              上海世貿商城 管理部

 

わが社の上海での商品展示場兼オフィスは、市内中心部に位置する上海世貿商城にある。そこは通称上海マートと呼ばれ、世界各国の会社が、約1000社入居している。日本で言えば、卸センターのようなものであり、その中には日本の会社も繊維を中心にして、70社ほどがブースを構えている。9年前にオープンしたビルで、当初は閑古鳥が鳴いていたが、最近では来客も多くなり、結構賑わいをみせるようになってきた。

7月21日の朝、そのマートの管理者が私のもとに1枚の文書を持ってきた。そこには上記のようなことが書かれていた。わが社には子供は出入りしていないので不思議に思い、管理者に問い合わせてみると、ある階で「子供が走り回ってうるさい」という苦情がお客さんから寄せられたので、すべてのブースに通知文書を持って回っているという。そう言われてみると、たしかにこの2〜3日前から、エスカレーターを子供たちが昇り降りしてうるさかった。子供たちが夏休みになったので、他のブースに勤務している親たちが、職場に連れてきているのだろうと、私は気にも留めなかった。しかし上海マートの管理部は、多くの会社の社員が「児童同伴出勤」をいっせいにやりだしたら、たいへんなことになると思い先手を打ったのだという。

たしかに一般の中国人社員ならば、まだ会社の規律などに対して無頓着なので、平気で子供を職場に連れてきて、そこで遊ばせていてもおかしくはない。さらに加えて、その子供たちが、ほとんど一人っ子なので、傍若無人に振舞うことも予想できる。したがってそれらの事態を禁止せずに看過すれば、その結果、当マートの中を大勢の子供たちが嬌声をあげて走り回り、保育園のようになることはまちがいない。また子供がたくさん来れば、当然に予想外の事故が起きるにちがいない。危険なものがいっぱいあるからである。日本では回転ドアがほぼ禁止になったが、ここでは使用されている。また上海マートにはエレベーターが10基近くある。シンドラー製ではないので安心だが、それでもなにが起こるかはわからない。しかもここには国際級展示会場があり、毎週末には大きな展示会が催されており、そこで迷子になることある。さらに中国では子供の誘拐も多いので、気を付けるに越したことがない。このように考えれば上海マート管理部の「お願い」は、職場規律を守るという点からも、また子供の安全を守るという点からも適切な事前対策であったといえよう。

幸いにも、この通知文書の効果があがって、翌週からは、子供の姿はほとんど見かけなくなり、ふたたび職場に静謐が戻ってきた。しかし逆に今度は、あの子供たちがどこに行ったのかが心配になった。あの子供たちの母親の多くは、単身で上海に出稼ぎに来ている人たちで、その母親を慕って田舎から子供たちが夏休みを利用して上海に遊びに来ているのである。それらの母親が預かってくれる人もなく、さりとて子供を家の中に閉じ込めておくわけにもいかないので、会社に連れてきていたからである。

たとえば、私のところのマンションの掃除と食事を任せているメードさんも、単身赴任で安徽省の田舎から出てきている。彼女からも、「この夏、子供を上海に連れてくるので、仕事中はマンションに連れてきてもよいか」との問い合わせがあった。最近ではよいメードさんを探すのはなかなか難しいので、私は断るわけにもいかず、それを承知した。彼女の子供は女の子で、彼女がマンション内で働く間、おとなしくテレビを見たり、宿題をしたりしていた様子なので、あまり気にはならなかったし、問題も起こらなかった。

しかしオフィスで働く女性たちが、子供を連れて出勤してきた場合は、とても私のところのメードさんの場合のようにはいかないだろう。仕事どころではなく、私も絶対に許可をしないであろう。でも親子の身になって考えると、そんなことばかり言ってもいられない。こんな場合、上海マート管理者側も、個々人の苦しい立場を理解して、臨時の保育施設を設けるとか、逆転の発想で、2〜3日間、子供デーを作り、その日はOKとするとかの妙案を出してくれれば、たいへん助かったのだろうが。そんな工夫があれば、多くの母親が子供のことを心配せずに働けるはずである。中国では管理者側がこのような発想で、いろいろな方法を取るようになるには、まだまだ時間がかかりそうである。

かつて日本の高度成長時代には、このような現象はなかったように思う。おそらく中国では女性つまり母親が単身で出稼ぎに出ているから、こんな珍現象が現れてきたのだろう。いずれにせよ、こんな些細なことだが、資本主義の浸透とともに、これから中国にいろいろ生起してくるだろう。そしてそのたびに新たなルールが設定され、モラルが向上し、それを生かすための工夫がなされ、よりいっそう住みやすい国になっていくことだろう。