=======================================================================================
京大上海センターニュースレター
121号 2006810
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

   中国・上海ニュース 7.31-8.6

○ウオッカ>白酒>清酒

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

上海ニュース .31−8.
ヘッドライン
 中国:新たに2銀行に海外証券投資業務の限度額を認可
 中国:1−6月エネルギー利用率悪化、省エネ目標達成できず
 中国:二酸化硫黄排出量は世界最高
 青海:チベットと鉄道開通で観光収入3割増
 江蘇:「無錫尚徳」が数億ドルで日本MSKを買収
 山東:済寧市、狂犬病で16人死亡
 広東・広西:台風6号で死者77人
 香港:香港空港管理局、広東省の珠海空港経営権を獲得
 上海:高温天気で急診患者が激増
 上海:最低賃金を690元から750元へ引き上げ
=============================================================================

ウオッカ>白酒>清酒

株式会社小島衣料社長、中小企業家同友会上海倶楽部副代表 小島正憲 

05.AUG.06

 最近、ロシア人とビジネスを行う機会が多くなった。それにともなって、彼らとの宴席も増え、ウオッカという酒にもお目にかかるようになった。このウオッカは凍らせて、ドロドロにして飲むとおいしいのだそうである。私は酒というものは大杯でぐいぐい飲むものだと思っていたので、ロシア人の大男がドロドロのウオッカを小さな杯でちびちび飲む姿を見て、すこし変な感じがした。たしかにあの60度を超える酒を、一気にぐいぐい飲んだらたいへんなのだろう。考えてみれば、中国の白酒も50度を越えるものが多いが、みんな小さな杯で飲んでいる。

一般に中国人には酒豪が多い。16年前、中国に進出した当初、酒の飲めない私は連夜の宴会に、たいへん困った。酒が飲めないということを告げると、いかにも軽蔑したような目を向けられた。そんなとき私はあたかも男性失格を告げられたような気がして落ち込んだものだった。また合弁相手としては、格不足であるかのように、あからさまにバカにされたこともあった。とにかく仕事の辛さよりも、宴席での乾杯の連続に閉口したものである。

ところが最近は少し事情が変わってきたようである。中国の政府側の幹部は、あまりにも宴会が多いので、体調をこわす人が続出し、肝臓病・糖尿病予備軍が多くなった結果、上海あたりでは宴会を5時から始め、7時頃には終わってしまい、さっさと家に帰ってしまう人が多くなった。おもしろいのはその宴会の主役が、赤ワインの水割りだということである。水に赤い色がついているだけのグラスで乾杯を続け、それで適当に終わってしまう。白酒など最初から出さない。さすがに酒豪の多い中国人の幹部も健康に注意し、暴飲しなくなったのである。先日、東北のある地方の役所に行ったとき、局長室に入って、そこの片隅にベッドが置いてあるのに気づいた。単純な私は、<ここの局長は非常に働き者で徹夜で仕事をするのにちがいない。あのベッドは仮眠用なのだろう>と思い、局長に聞いてみた。すると彼はニコニコ笑いながら、「あれは酔い覚ましベッドだ」と言った。とくに昼の宴会で酒を飲んだときに使うということだった。その後、ちがう部局に行ったのだが、そこにも同様のベッドがあった。政府の幹部たちは、昼夜連日の宴会で、閉口している様子だった。このような状況は多分、中国の全土の共通現象であり、これを機会に、中国人の酒の飲み方が変わってくるのではないかと思う。

中国人ならずとも、日本人でも中国の地で、酒で失敗する人は多い。私は酒を一滴もたしなまない。したがってどんな宴席でも常に素面なので、そのような日本人の中国での醜態をよく見かけたし、それらを明瞭に覚えている。日本人の酒豪はその自信の故に、清酒のように白酒を飲み、大失敗する例が多い。50度を超える白酒を、中国人と競い合って暴飲し、あげくのはての大失態である。たとえば泥酔した結果、2階のドアと窓を間違えて、階下に落ち、全治3ヵ月の大怪我をした人もいた。何十万円もするローレックスの時計を、気前よく中国人女性にやってしまい、翌朝、落としたのだと思い宴会場を探し回っていた日本人もいた。酔っ払った挙句、わざわざ中国人の耳元へ尻を向け、大きな屁を放ち、一瞬のうちに大型商談をフイにした豪傑日本人もいた。また1年ほどいっしょに仕事をした同僚日本人が、ある日の宴席で泥酔し、「おれはお前がきらいだ」と大声でからんできたことがあった。私は彼とは、それまでずっと仲良く仕事をしていたのでびっくりした。彼の心の奥底には、こんな意識が沈殿していたのである。翌日、彼は普段とまったく変わりない態度で私に接してきたが、私の方にこだわりができてしまい、二人はほどなくして別れることになってしまった。

こんなに失敗が多いのに、また体を壊してまで、人間はなぜ酒を飲むのだろうか。私はたいへん不思議に思う。たしかに昔から、日本でも「酒を飲んで、肝胆相照らす」という。また男らしいとされるのは、大体、酒豪である。残念ながら、酒が飲めない男にはなよなよした印象がついて回る。もし男らしさが決断力ではかられるとするならば、酒の勢いを借りて決断する男と、借りないで決断する男を比較すれば、軍配は歴然として後者に上がると思うのだが、いかがなものか。また「酒は百薬の長」とも言われる。しかし飲みすぎて病気になる人の方が多いわけだから、結果としてこの格言は有効ではないのではないか。

イスラム諸国は禁酒を国是としている。私はエジプトに知人がいるし、ヨルダンの工場を指導したこともある。それらの国々では酒は禁止されていた。国民も厳格にそれを守っていた。教祖ムハンマドは酒が人間を狂わす根源であると考え、禁止したのであろう。私は今後、イスラム諸国で仕事をする機会を増やし、酒のない環境での男の生き方やビジネスのあり方を研究してみたいと思っている。