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京大上海センターニュースレター
131号 20061019
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      京都大学上海センター中国自動車シンポジウムのご案内

      中国・上海ニュース 10.9-10.15

○蒙古を訪問して

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京都大学上海センター中国自動車シンポジウムのご案内

■日程  20061111()12時開始 17時終了

■場所  京都大学経済学部大会議室(時計台キャンパス総合研究棟2)

■主催  京都大学上海センター、■後援 京都大学上海センター協力会

■シンポジウム・テーマ

中国民族系自動車メーカーの競争力を探る――奇瑞汽車と吉利汽車に焦点を定めて――

■報告

京都大学経済学部 教授           塩地 洋   自動車産業の発展戦略と制約条件

                                             ――民族系メーカーを中心に――

元本田技研工業中国業務室 主幹       山口安彦  産業政策と五カ年計画の指向するところ

                                             ――「自主創新」への流れをたどる――

京都大学大学院経済学研究科博士課程    李 澤建   奇瑞と吉利の車種開発戦略

現代文化研究所中国研究室 主任研究員   廖 静南   外資合弁系・民族系乗用車メーカーの競争力比較分析                                ――補完関係から競合関係になるか――

J.D.パワー・アジアパシフィック      木本 卓   VOC視点から見る車両品質の現状

部長 J.D.パワーシンガポール事務所        ――IQS(初期品質調査)からのインプリケーション――

東京大学社会科学研究所 教授 丸川知雄  サプライヤー関係から見た民族系メーカーの競争力

大阪商業大学総合経営学部 助教授       孫飛舟    奇瑞と吉利の流通ネットワーク戦略

[終了後懇親会]

■連絡先  京都大学経済学部塩地研究室 ☎075-753-3428  shioji@econ.kyoto-u.ac.jp

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中国・上海ニュース 10.9−10.15

ヘッドライン

                     中国:外貨準備、9月末9879億米ドル

                     中国:農産物貿易赤字、18月は76%増

          中国:19月貿易黒字1099億米ドル

          中国:渤海新油田の生産開始、1日に2400バレル

          中国:非識字人口は1億以上、7割が女性

          自動車:18月、高級車を中心に、輸入車が5割増

          上海汽車:独自ブランド車発表

          広州:広交会名称変更、輸出のみから輸出入双方向へ

          上海:新駅、年内着工へ

          上海:最大規模のヨット製造基地を建設

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蒙古を訪問して

06726

日本大学国際関係学部講師 中川 十郎

 2006722日から26日まで「06年蒙古経済使節団」の一員として蒙古を初めて訪問した。この使節団はNPO法人・北東アジア輸送回廊ネットワーク、財団法人・環日本海経済研究所、日中東北開発協会、北東アジア経済委員会により組織され、19名が参加した。

 到着翌日の23日は、ウランバートルから50キロにある大草原で行なわれた、蒙古建国800周年記念の催し物を観覧。勇壮なジンギスカン時代の騎馬戦が再現され、日本からの多くの観光客も観戦していた。

 同日夜は草原のゲル(テント)に宿泊。蒙古遊牧民の生活の一端に触れた。満天の星の下での大草原の一夜は終世忘れえぬ思い出となった。

モンゴルは人口250万人。日本の約4倍の面積を有する。大草原の緑と環境を人類の貴重な財産として保持すべく、日本が官民協力してほしいものだと、みどりなす草原を遠望しつつしみじみと思うことであった。

 24日はウランバートルから南へ580キロのゴビ砂漠にある世界最大クラスのOyu Tolgoi銅鉱山開発現場を訪問。カナダのIvanhoe社が、これまで4億ドルを投下し、開発しているもので、砂漠の過酷な気象条件下、約1200人が仕事に従事していた。生産が軌道に乗ると、年40万トンの銅が生産され、インドネシアのGrasberg銅鉱山(27.7億トン)についで23億トンの世界最大クラスの銅鉱山となるとみられる。フェーズ1では2009年に生産開始目標で、日産85,000トン、フェーズ2では2011年に140,000トンの生産を予定している。初期投資を13.27億ドルを予定。当初は露天掘りで、そのあと構内掘りに入る。35年間で銅1500万トン、金340トンの生産を目指している。20022043の蒙古経済に及ぼす経済効果は実質経済効果を34.3%引き上げ、117,000人の雇用機会を創出。10.3%の雇用が増加するとIvanhoe社は予測している。

一人当たりの実質収入を11.5%増加、蒙古政府に対し、79億ドルの税収と、累計540億ドルに及ぶ輸出増加に資すると計算している。このプロジェクトは蒙古最大のプロジェクトに発展するものと思われる。

 同プロジェジェクトに関連し、精錬所建設、発電所(3040万キロワット)、道路、鉄道などのインフラ建設などビジネスチャンスが見込まれ、日本としても現段階からの介入が必要と思われた。

 Ivanhoe社は地域住民や地域社会への教育、医療など社会的貢献に努力しており、CSR(

Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の典型的企業との認識を強くした。

 銅の輸出は国境からの80キロの中国向けが有望視され、当初は80300トントラックで輸送。将来は鉄道270キロの連結鉄道の建設も必要となろうとの見方である。70キロ北東のTavan Tolgoiには50億トンの石炭の埋蔵が確認されており、年産40万キロワットの火力発電所の建設が計画されている。ODA最大の供与国である日本の官民の積極的な対応が望まれる次第だ。

 最終日の25日は通産省を中心とする蒙古政府関係者も出席し、日本―蒙古経済会議が通産省で開催され、終日、熱のこもった討議が行なわれた。後半の会議にはBazarsad通産大臣も出席され、長時間討論に参加された。

蒙古は70年の社会主義時代を経て、冷戦終結により1990年代はじめに市場経済に移行したが、後ろ盾のソ連の崩壊により苦難の道を歩いた。しかし、2000年代に入り、経済も上向きつつある。貿易は歴史的、地理的にもロシアを抜き、中国が最大の取引先となり、両国との取引が70%に達している。しかし近年、韓国の進出も目覚しい。

経済的に苦難の時期に日本がODAで最大の援助をし、蒙古の日本に対する感情はおおむね好意的との印象を受けた。ただし日本は公私にわたる意思決定が時間がかかるとの不満も一部に聞かれた。

市場経済の進展につれ、中央と地方、富めるものと貧者の格差が目立ちつつあり、その解決が今後重要になろう。農牧民の多くがゲルに生活しており、燃料のための古タイヤなどの公害や大気汚染が目立ち始めている由。その解決のための太陽光、風力発電面での援助、協力要請があった。

地政学的には依然として中国、ロシアとの関係が密であるが、一方隣国のカザフスタンとも歴史的にも人種的にも密接であるとの印象を受けた。今後蒙古が発展するためには中国、ロシア、カザフスタン、韓国、日本とのバランスの取れた関係構築、維持が大切だと思われる。

蒙古は地政学的にも将来の発展の可能性を秘めるユーラシアの中心にあり、EU(欧州連合),SCO(上海協力機構)の発展やロジスティックの観点からも今後戦略的に重要性を増すと思われる。ただ“Locked Nation”と言われるように、アジアの内陸部にあるため、物流上の不利は否めない。日本海への出口はウランバートルからロシアのナホトカ(ザルビノ)、天津の2ルートが中心で、今後、豆満江開発など、効率的輸送の研究が大切となろう。

 よってConventional Productsは輸送上不利は免れず、蒙古産品の競争力を付けるためには距離の不利を脱却するためにもValue Added Productsすなわち、IT、ソフト関連製品、バイオ、アニメなど高付加価値製品の開発に努力するとか、アジアのスイスとも言われる観光資源を生かし、観光開発などにも注力すべきであろう。

 また換金植物の花卉栽培に力を入れるとともに、カシミアを中心にハイファッションなどの高付加価値の衣服、伝統的な皮革製品の高度化など中小企業、軽工業の振興、輸出拡大についても研究の余地があろう。

蒙古は中国に先立つ1997年のWTOへの加盟。2004年、SCOへのオブザーバー参加。目下オブザーバーであるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)への早急な正式メンバーとしての参加が望まれる。なかんずく、今後30億人の巨大経済圏へ発展すると見られるSCOEU,NAFTA(北米自由貿易協定)AFTA(東南アジア諸国連合自由貿易地域)に匹敵する巨大エネルギー、貿易経済圏に発展する可能性を秘めている。蒙古が今後、北東アジア、中央アジアで発展するためにもSCOとの関係を強化することが望ましいと思われる。

725日、先方の要請で昼食時に懇談したEnkhbold通商局長には上記のような小生の考えを伝えたが、おおむね了承され、蒙古の貿易戦略について、小生と意見を共有できた。

同局長はモスコー大学でEngineeringを専攻後、英国のオクスフォード大学で国際マーケテイング論を研究され、あとジュネーブのWTOに勤務、FTAなど自由貿易協定を研究された由。小生の専門が国際マーケテイングで、WTO FTAを長年研究し、1995年以来のWTO船積み前貿易紛争処理委員、JETRO貿易アドバイザーなどの経験も生かし、米国コロンビア大学ビジネススクールでWTO,FTA、国際マーケテイング、貿易を研究し、同じ分野を大学で講義しており、同局長との不思議なご縁に驚いた次第である。今回の蒙古訪問で確立できたEnkhhold通商局長との、このようなご縁を今後大切にしていきたいと考えている。

以上を総合し、今回の蒙古訪問の結論として、国際マーケテイングの観点より、今後の蒙古の産業・通商戦略として下記を提案したい。

1)On Line でのソフトウエアーの開発、ならびに輸出

2)Distance Learning Systemの開発による遠隔地教育の振興

3)Telephone Serviceを活用した、ビジネスの振興

4)Telemedicineを活用した遠隔治療の振興

5)ハイファッション・カシミールの衣服、製品開発など伝統的産業の高付加価値化と輸出開拓

6)Coal Gasificationの実現による、環境保全、効率的輸送体制の確立

7)鉱物原料のSwap Businessの研究と実践

8)代替エネルギー・電力(太陽光、風力、バイオマスなど)の開発と活用

9)観光資源の開発と観光産業の振興

10)効率的な国際輸送ルートの構築

11)銅、石炭、金を中心とする大型プロジェクトのス推進と輸出振興

12)中堅、中小企業の発展振興

13)地域連携の更なる拡大―SCO, APEC, EAC(東アジア共同体)NEAFTA(北東アジア自由貿易圏) への積極的な参加

(結論)

 21世紀に進展するユーラシアの地政学的に重要な位置に存在し、発展の可能性を秘める蒙古の日本との貿易は対日輸出 0.6%(うちコメが68.2%を占める)という状態である。

 最近の日本の政治家の蒙古訪問、久間自民党総務会長、森元首相、さらに8月には小泉首相の蒙古訪問も検討されている由。ウランバートルは成田から直行便でわずか5時間弱の地にある。

 中国、ロシア、韓国に出遅れている日本が観光面でアジアのスイス、資源開発でアジアのチリーとして急速に浮上しつつある蒙古との関係強化、拡大に日本が公私にわたり努力することが21世紀のアジア、ユーラシアの時代における国際マーケテイング戦略上も重要である。

 今後日本としても、長期的観点から地政学的にも蒙古との関係をこれまで以上に強化、拡大すべきである。

 最後に花田団長をはじめ、今回の蒙古訪問に誘っていただいたERINAの吉田理事長、さらに事務局の岩崎幹事長、足立幹事、本間幹事、エンクバヤル幹事、それに団員各位、ガイドのナラさんに心から御礼申し上げる次第です。

 末筆ながら、蒙古政府関係者、Oyu Tolgoi 銅鉱山を案内いただいたIvanhoeMunkhbat副社長はじめ関係各位、特に忙しい合間に25日の昼食時時間を割いてSCOWTO, FTAなどを中心に蒙古の対外通商戦略について打合せさせていただいたEnkhbold通商局長に深甚の謝意を表する次第です。                                           以上