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京大上海センターニュースレター
139号 20061214
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      「国際シンポジウム 近代上海史像の再検討」のご案内

      中国・上海ニュース 12.4-12.10

中国の貧困解消の為の税制改革大森私案

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京都大学経済学研究科上海センタ−主催

「国際シンポジウム 近代上海史像の再検討」のご案内

■主催 京都大学上海センター   ■共催 上海センター協力会

日時 2007121日(日)午前9〜午後6時

■会場 京大会館(京都市左京区吉田河原町15-9 電話075-751-8311

■プログラム

午前9時〜12時

◇発表者 張忠民(上海社会科学院)近代上海における都市の発展と都市総合競争力

コメンテーター 金丸祐一(立命館大学)

◇発表者 陳計堯(東海大学)「近代上海食糧市場の変遷―米穀と小麦粉の比較研究1900-1936

コメンテーター 城山智子(一橋大学)

◇発表者 堀和生(京都大学)「上海の経済発展と日本帝国」

コメンテーター 久保亨(信州大学)

午後1時30分~6時

◇発表者 李培徳(香港大学)1920年代から1930年代まで上海銀行家の横領

                         上海商業儲蓄銀行を事例として─」

コメンテーター 金丸祐一(立命館大学)

◇発表者 蕭文嫻(大阪経済大学)「中国幣制改革と外国銀行」

コメンテーター 城山智子(一橋大学)

◇発表者 小瀬一(龍谷大学)「開港場間貿易と中国の市場統合」

コメンテーター 古田和子(慶応大学)

◇発表者 木越義則(京都大学)「両大戦間期上海における貿易物価構造」

コメンテーター 久保亨(信州大学)

午後記念レセプション

■事務連絡先 606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学大学院経済学研究科  堀 和生    

       電話 075−753−3438 ファックス 075−753−3499

       e-mail      hori@econ.kyoto-u.ac.jp

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中国・上海ニュース 12.4−12.10

ヘッドライン

                     中国:中央経済工作会議招集、来年経済運営の基調を定め

                     中国:11月の消費者物価指数、食料品価格高騰で1.9%上昇

          中国:111月、貿易額が約16千億米ドルに

          中国人民銀行:不動産価格下落で金融リスク発生の可能性

          中国:外資銀9行が現地法人化申請受理、人民元リテール業務に参入

          中国:エネルギー、資源分野の国費留学生大幅増加へ

          自動車:06年の自動車販売台数、中国が日本越えほぼ確実に

          貿易:日本「ポジティブリスト制度」5項目の緩和、対日農産物輸出回復 

          天津:次世代型路面電車が開通、投資総額は1.9億元

          上海:洋山港2期工事完了、上海港コンテナ取扱量が2000万個突破

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中国の貧困解消の為の税制改革大森私案

京都大学上海センター協力会副会長、青海民族学院顧問 大森經コ

 私は昨年(2005年)5月に京都大学上海センターと在瀋陽日本国総領事館共催で行った日中経済交流セミナー“日本からの提言”会で、若年サラリーマンに影響の大きい所得税の課税最低限度額800/月が、約20年間の年平均GDP成長率9.5%という驚異的な高成長を永年に亘り続けている中で、実に24年間も据置かれたままになっていた点を問題とし「直ちに、1,000元以上で、財政上許す限り高く迄引上げること」と共に、少なくともマルクス主義を標榜する社会主義国で大きな貧富の格差を作っては絶対に不可なので、累進課税の強化も訴え、最高税率を現行の45%から70%位に迄引上げるべし」とも提言した。

 しかし結果は、本年(2006年)1月1日より課税最低額は1,600/月と2倍に引上げられたが、税率表は一切改定されず、税率も5%から45%のまま据置かれている。

 7%成長が20年続けばGDPは約4倍になり、それを小康社会への到達点として目指している国で、しかも ようやく貧富の格差解消を目指している今日の中国で、この格差解消の折角のチャンスに、累進課税率の引上げ改定を行わなかったことは、誠に残念なことである。 と同時に課税最低限度額を25年間も改定しなかったのに、単に2倍の1,600/月迄しか引上げなかったことも、大いに問題である、と言わざるを得ない。

 そこで本日は、折角の機会を頂いたので、相対的には貧しい省に入っている青海省の皆さんの為に、更には中国全体の個人間、地域間の貧富の格差を少しでも解消する為に、税制上の改革案=大森私案をこの際、提言させて頂く。

 

提言1.個人所得税率表を別表第1表の通り改定する。

 (注)個人給与所得税率表は、今回の改定(2006.1.1〜)では全く改定されなかったため、

まだ中間層以下に相対的に重い負担となっている点を考慮し、税込み給与月額(元)の税率変更基準額の刻み巾を中所得層以下の減税額が大きくなる様、刻み巾をやや大きく改定した案とした。

 中国のこの所得税率に見合う日本の過去の最高税率(1984)88(所得税率70%+地方税率18)だった。松下幸之助、本田宗一郎等はこの高率の税負担をしながら高度成長期を乗り切ったのである。日本の方が余程社会主義的、ケ小平的である。日本の現在は50(所得税率37%+地方税率13)であるが、これも低すぎると思う。中国は所得税のみ。

提言2.課税最低限度額は高度成長下に25年間も据置いて来たことを考慮し、当初の800/月の4倍の3,200/月とする。

    高度成長期は給与もどんどん上がるので、所得税率表を長期間改定せずに置くと、相対的に給与水準の低い中・低所得者に年々増税強化となるので、政府はこの実態をよく見て、この不公平化を解消する為、ひんぱんに課税最低限度額並びに個人給与所得税率表を改定の要がある。

提言3.現行、個人給与所得税は全額地方税となっている。従って、人口も少なく、相対的に個人所得も少ない青海省や貴州省等は不利で、上海市や広東省は極めて有利な制度となっている。

 これはケ小平の考えていた先富論にはなかったもので、ケ小平は先に豊になった者の所得を

税制等で調整し、貧しい者を助ける=共同富裕論を主張していた。この原点に戻り、今後は

第1案.個人給与所得税の1/2は地方税とし、残り1/2は国税とする。

第2案.全額国税とし、後日、中央政府で調整の上、妥当な額を各省、市、自治区へ地方交付税として再配分する。

のいずれかとすること。

提言4.中国の税制は、間接税中心で、現行間接税70%、直接税30%程度と聞いている。

    これは、人口も多く、公正な所得把握が難しいことも原因の様であるが、結果的に一般庶民に重税となっている。従って、特に発展途上国では間接税の比率を50%以下位に引下げるべきである。

提言5.この直接税を高め且つ貧富の格差解消乃至緩和策として、

@         累進課税の強化、

A         相続税、贈与税制の新設、(日本の現在の両税の最高税率は共に50%、過去の最高税率(2003

年迄)70%だった。)

B         固定資産税(都市建物土地税、房産税等)の強化、等を急ぐこと。

提言6.先般の憲法改正で”私有財産権”が認められたにも拘らず、それを実務上担保すべき”物権法”が諸般の事情から先送りされている。しかし、これは今迄の提言を実現させる為にも必要なものであり、相続税法等々と一括制定すべきである。

 

第1表       大森提案の改定個人給与所得税率表 (2006.11.13作成発表)

税込給与月額()      

手取給与月額() 

速算控除金額()

適用税率(%)

       1,000以下

     

    

                  5

  1,000    4,000

   こ

      

                 10

4,000   10,000

   は

      

                 15

   10,000   30,000

     

      

                 20

   30,000   50,000

     

      

                 25

   50,000   60,000

      

 

                 30

   60,000   80,000

     

 

                 35

   80,000  100,000

     

 

                 40

100,000  150,000

         

 

                 45

  150,000  300,000

         

 

                 50 

  300,000  500,000

         

 

                 55

  500,0001,000,000

         

 

                 60

1,000,0003,000,000

           

 

                 65

          3,000,000

           

 

                 70

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

() 所得控除基準:毎月3,200(現行1,600元)。

  この個人給与所得税率表は3,200元の所得控除額差引後の課税対象の税込給与月額を基準とした

  税率表である。

  外国人の基礎控除額:毎月7,200元(現行4,800元)。

 

第2表        現行の個人給与所得税率表 (今回改定されず・不変)

税込給与月額()      

手取給与月額() 

速算控除金額()

適用税率(%)

           500以下

          475以下

 

                    5

       500  2,000

     475  1,825

                25

                   10

     2,000  5,000

    1,825 4,375

               125     

                   15

     5,000 20,000

    4,37516,375

               375

                   20

    20,000 40,000

   16,37531,375

             1,375

                   25

    40,000 60,000

   31,37545,375

             3,375

                   30

    60,000 80,000

   45,37558,375

             6,375

                   35

    80,000100,000

   58,37570,375

            10,375

                   40

         100,000

         70,375

            15,375

                   45

() 現行の所得控除基準は毎月1,600元である。 従って、この個人給与所得税率表は1,600元の所得控除額差引後の課税対象の税込給与月額を基準とした税率表である。尚外国人の基礎控除は4,800元。

(本稿は去る2006年11月13日に青海省西寧市の青海民族学院と青海省社会科学院の主催、京大上海センターの共催、京大上海センター協力会の協力で開催された「日中経済理論学術報告会」での報告です。)