=======================================================================================
京大上海センターニュースレター
144号 2007117
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

      「国際シンポジウム 近代上海史像の再検討」のご案内

      中国・上海ニュース 1.8-1.14

○ 上海センター中国自動車シンポジウムのご報告

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

京都大学経済学研究科上海センタ−主催

「国際シンポジウム 近代上海史像の再検討」のご案内

■主催 京都大学上海センター   ■共催 上海センター協力会

日時 2007121日(日)午前9〜午後6時

■会場 京大会館(京都市左京区吉田河原町15-9 電話075-751-8311

■プログラム(一部変更になりましたのでご注意ください)

午前9時〜午後1時

◇発表者 張忠民(上海社会科学院)近代上海における都市の発展と都市総合競争力

コメンテイター 金丸裕一(立命館大学)

◇発表者 陳計堯(東海大学)「近代上海食糧市場の変遷―米穀と小麦粉の比較研究1900-1936

コメンテイター 城山智子(一橋大学)

◇発表者 木越義則(京都大学)「両大戦間期上海における貿易物価構造」

コメンテイター 久保亨(信州大学)

午後時分午後6

◇発表者 堀和生(京都大学)「上海の経済発展と日本帝国」

コメンテイター 久保亨(信州大学)

◇発表者 蕭文嫻(大阪経済大学)「中国幣制改革と外国銀行」

コメンテイター 城山智子(一橋大学)

◇発表者 李培徳(香港大学)1920年代から1930年代まで上海銀行家の横領

                       ──上海商業儲蓄銀行を事例として──」

コメンテイター 金丸裕一(立命館大学)

午後〜午後記念レセプション

■事務連絡先 606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学大学院経済学研究科  堀 和生    

       電話 075−753−3438 ファックス 075−753−3499

       e-mail      hori@econ.kyoto-u.ac.jp

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

中国・上海ニュース .8−1.14

ヘッドライン

                     中国:本土金融機関に香港での人民元金融債権発行を許可

                     中国:人民元年内5%上昇を容認

          国際: 中国−アセアンFTA、サービス分野に拡大

          中国:06年GD P10.5%増、20兆元を突破

          中国:06年中国の原油輸入量は1億4500万トン

          中国:国家人口発展戦略報告発表、2033年ピーク、15億人に

          中国:06年1−10月対日投資契約額は約1219万米ドル 

          自動車:06年生産・販売台数ともに720万台突破、世界第二位の新車市場に

          北京:ノロウィルス病例発見

          上海:06年賃金上昇率全国1位

=============================================================================

上海センター中国自動車シンポジウムのご報告

  1111日に京都大学上海センタ-中国自動車シンポジウム「中国民族系自動車メーカーの競争力を探る――奇瑞汽車と吉利汽車に焦点を定めて――」が開催され,230人が参加しました。自動車メーカー,部品メーカー,自動車流通関係企業,シンクタンク,研究機関,総合商社,報道機関等の,大学関係者以外の参加者が110名を超え,関東方面からの参加者も120名を超えました。NHKの取材もおこなわれ,同日の午後6時の全国向けのニュースで報道されました。以下、シンポジウム全体の基調講演の概要を報告します。

中国民族系自動車メーカーの成長戦略と制約要因

塩地洋(京都大学教授)

  中国の国内販売台数は2005年に580万台を記録し,2006年には700万台程度と予測され,日本の国内販売約580万台を抜き去る。中国の国内販売が急成長を続けている要因は,人口が大きいことにつきる。自動車保有率がたとえ低くても,それを人口の絶対的な大きさが補ってあまりある。自動車購入可能な所得水準に達する人口は今後も増え続け,環境制約要因や資源制約要因を無視し,所得要因のみで推察すると,2020年頃には国内販売台数が米国を追い抜いて1700万台を超える水準に達することも想定できる。例えば,もし5人に1台の保有率となると,中国全体で保有が約3億台となり,1台の車が15年で廃車・代替とすると,年2000万台の国内販売台数となる。これは米国(2005年約1700万台)をはるかに上回る水準である。

中国は国内販売台数は急激に増大しているが,現時点では輸出台数は小さい。2010年にも50万台程度輸出されると予想されている。だが,日本は1970年に100万台を輸出しており,40年後の2010年にも中国はその水準を達成できていない。この点から,「中国は日本に40年以上遅れている」という見方もある。ただし,2010年以降に輸出がどれほど伸びるかは,まったく予測不可能である。

いずれにせよ,現時点では,中国は内需に過度に依存しており,輸出競争力(コスト競争力と製品技術力)と海外生産展開が弱いことは事実である。とはいえ,「日本に40年以上遅れている」という類の議論は中国の成長戦略の特質とその意図を見誤っている。中国メーカーの成長戦略は思いもおよばないものである。次に中国の成長戦略を詳しく検討しよう。

中国民族系メーカーは,ゼロから自らの独自技術で開発しようとは考えていない。市場国のモデル・技術のリバース・エンジニアリングとコピーを技術蓄積の中核においている。すなわち,民族系メーカーが新モデルを開発する際には,まず市場国に現にある車をフォーカルモデルに定め,それをリバースエンジニアリングした上で,中国の市場環境に適合するようにスペックを変更する。例えばコストを引き下げるために部分的な設計変更をおこなう。そうしていわゆる「コピー車」を開発する。ただしこうした「コピー車」は、意匠権等を侵害していると訴えられることも多い。

中国自動車メーカーは,外資との合弁企業に所属している外国人技術者,あるいは外国メーカーの技術者を引き抜く,あるいは隠れてアルバイトで雇っている。外国メーカーの退職者を雇用することも多々ある。

上海汽車の双龍自動車(韓国)買収や南京汽車のローバー(英国)買収の最大の狙いは,開発図面とライセンスの獲得にある。加えて製造設備を一式入手することも狙いの一つである。加えて,連想によるIBM買収に見られるように,先進国ブランドを入手することも重要な目的である。

中国民族系メーカーは,当面は開発途上国向けの完成車輸出を進め,その後,輸出先国を先進国も含めて増大させている。例えば,中国政府のODAに結びつけて,アフリカ等へ完成車輸出をすすめている。他方,先進国メーカーには低価格を武器として進出する。例えば奇瑞汽車は2007年に北米輸出を開始する計画を持っている。米国側のインポーターも既に決定した(スバル,ユーゴ車輸入等を育てた企業)。既にディーラーも募集している(現時点では集まっていない)。最大の問題は,米国環境基準をクリアーできるエンジンを未だ開発できていないことであるが,おそらく自主開発ではなくエンジンの外部調達で切り抜けると思われる。

2005年現時点では中国の完成車製造コストはなおも日本より割高である。原材料コストおよび部品コストが高く,加えて部品の欠陥率の高さが一つの原因である。また,なおも国産できずに,あるいは国産品の技術水準が低く,自動車メーカーが受入を承認しないため,輸入に頼っている原材料や部品,機械設備もある。例えば,特殊高力黄銅,アルミニウム・マグネシウム合金,高級高張力鋼板,射出成形機等である。しかし今後は,これらの問題が克服され,2010年頃までには,中国自動車メーカーの方が先進国メーカーよりもコスト競争力が高くなる可能性もある。

中国における外国自動車メーカーとの合弁メーカーの製品品質は継続的に改善している。ただし,それらは主として外国メーカーのライセンス車である。中国民族系メーカーの独自開発車の品質については,問題点が大きい。初期品質は今後改善が進むが,耐久品質の改善には相当の年数を要する。まだ民族系メーカーの国産車が開発されて3〜4年以内であるため,本格的な耐久力が判明していない。しかし,「2〜3年でローカルの車はガタガタ」という声が聞かれる。一般的に言うと,コピー車は,トータルバランスが悪くなっているため,耐久品質は低下しやすい。

2010年には国内13億人という巨大な市場を背景として,自動車生産大国になる。世界3位以内は確実である。しかし,国内販売で乗用車販売台数をもっとも増大させるのは,外国メーカーのライセンス車である。輸出増大の可能性も,主として外資合弁メーカーのライセンス車である。中国民族系メーカーが開発した車の輸出競争力は未知数である。2010年までに独自開発車の生産規模という点で,民族系メーカーは世界のメジャープレーヤー(年間生産台数400万台)にはなれない。ただ,買収戦略によって先進国自動車メーカーを内部統合化した場合はこの限りではない。