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京大上海センターニュースレター
149号 2007222
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○北京日中ワークショップのお知らせ

     中国・上海ニュース 2.12-2.18

      中国の外貨準備の急増と経済成長

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今年度の上海センター・シンポジウム、協力会総会の日程は72()となりました。ご予定くだされば幸いです。

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北京日中ワークショップ「経済成長過程におけるガバナンス問題」開催のお知らせ

 京都大学のCOE経済学プログラムは、若手研究者を含む日中国際ワークショップ Governance Problems in the Process of Economic Development: China and Japan を、3月1113日に北京の中国人民大学経済学院で開催します。包括的テーマとして、東アジアにおける経済成長にともなう経済・経営・社会問題をとりあげ、それをガバナンスの視点から検討・討論します。これは、博士後期課程の大学院生の教育の高度化・国際化を実現することも目的としています。そのため、COE分担研究者である森棟公夫教授、下谷政弘教授、植田和弘教授と私(八木)のほかに、大学院生の参加希望者を募りました。プレゼンテーションによる選考の結果、9名の大学院生を参加させることとしました。そのなかには、韓国・中国からの留学生も含まれ、日本を出国する前からすでに国際的な顔ぶれです。人民大学側も、于同申教授ほか3人の教員スタッフと6人の大学院生が研究報告をします。北京在住の方で参加希望の方は事前にcoe-jimu@econ.kyoto-u.ac.jpにご連絡いただき、是非お越しください。ワークショップ終了後、CAEADiscussion Paper などで成果を公表していく予定です。(昨年2月に復旦大学でおこなわれた日本側参加者の報告内容は、CAEA Discussion Paper No.121となっています。これも入手希望者はcoe-jimu@econ.kyoto-u.ac.jpにご請求ください。)

ワークショップは英語でおこなわれますが、報告タイトルを日本語に直して以下に紹介します。(開催責任者:八木紀一郎)

京都側:「東アジア経済発展過程のガバナンス問題」

    「日本特殊的企業間関係」

    「環境問題と環境政策」

    「ボラティリティ・モデル」

    「準公共財を用いた貧困削減と所得再分配の政策」

    「人民元交換レート決定レジーム・資本統合・金融発展」

    「新疆ウイグル自治区における郷鎮企業とその雇用効果」

    「マルクスの労働価値説」

    「日本における中小企業向けシンジケート・ローンとリレーションシップ・バンキング」 

    「競争はチャンネルにおける協働を促進するか:日本型vs.米国型」

    「労働市場への参加時の地位が将来のキャリアに及ぼす影響」

    「持続的開発を計量する:CISD(持続的開発総合指標)の構築」

    「戦時期日本における社会主義経済計算論争」

北京側 :「東アジアの開放経済型キャッチアップモデル」

WTO加盟以来の中国をめぐるアンチ・ダンピング対立」

「貿易におけるグローバル・ガバナンス:調和的な世界貿易システムの構築」

     「中国における株式シェアの改革と日本における証券移譲機関」

    「中国の製造業企業の剰余価値率・資本構成・利潤率:1978-2004
     「技術革新の促進と中国の発展戦略の変化」
     「将来におけるロシアの金融的発展」
     「国民的イノベーションシステムと東アジアの技術キャッチアップ経路」
     「工資双軌制のもとでの公平問題」
     「人民元交換レート・レジームの変化とインフレーションの変化」
     「日本の郵政民営化の分析」

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中国・上海ニュース .12−2.18

ヘッドライン

                     中国人民銀行:預金準備率を0.5%引き上げ

                     中国:06年の保険料収入、14.4%増の5641億元に

          中国:1月末マネーサプライ、M2は15.9%増の35.2兆元 

          中国:旧正月、爆竹と花火で全国ゴミだらけ、北京900トン、上海1450トン

          中国:北方地域の水資源が著しく減少

          上海:2006年1人当たり消費支出7.2%増

          上海:地盤沈下最悪箇所、2.6メートルも沈下

          広東:深圳市、春節後30万人の労働力不足と予測

          北京:北京五輪の入場券、中国人も外国人も一律価格へ

          北京:賃貸用不動産所得税の納税申告者はわずか

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中国の外貨準備の急増と経済成長

広島修道大学経済科学部教授 張南

2007年初頭から、中国経済に関する二つの数字が世界に注目されている。一つは115日に中国人民銀行による2006年末時点で中国の外貨準備残高が10663億ドルに達したという公表数字である。もう一つは、125日に中国国家統計局により発表された2006年の経済成長率が10.6%という速報である。ここで、対外資金循環という視点から外貨準備の増大と今後の経済成長について、検討してみたいと思う。

1992年から2006年まで、中国の国内投資は増加傾向となったと同時に、平均42%の貯蓄率による家計部門の貯蓄超過の傾向が続いてきた。通貨当局は金融危機を防ぐため、また企業部門も将来にかけて利潤を最大化しようとして、兎に角外貨を稼ぐという目的で対外輸出がどんどん行われていた。その結果、経常収支は1993年を除いて持続的な経常黒字となっており、年平均の経常黒字が437億米ドルで、2006年に経常黒字が最大値の1775億ドルに達している。一方、資金の流れをみると、国内貯蓄超過が増大しているが、海外の資金流入が1992年の302億ドルから2006年の2835億ドル(2006年の数字は上半期のデータ。http://www.safe.gov.cn/model_safe/index.htmlより)に上り、9倍増となっている。モノの流れとマネーの流れを総合的にみるとき、アメリカの「双子の赤字」と対照的に、中国には経常収支黒字と資本収支黒字という「双子の黒字」が存在しており、その影響で、中国の外貨準備高も1992年の194億ドルから2006年末の10663億ドルに達し、世界一の外貨保有国となっている。

このように、投資・貯蓄、対外貿易および国際資本移動を結び付けて、中国の対外資金循環を見る場合に中国経済の特別な成長パターンが読み取れる。つまり、発展途上国の経済発展は常に国内資金不足と外貨不足という二重の制限に受けられるが、中国の場合、国内貯蓄超過、経常収支と資本収支の「双子の黒字」の増大によって、外貨準備の規模が急速に増大され、それによる大規模な国内資本の純流出も続けているという途上国にはめったに見られない特別な経済現象が目立っているのである。ただ、国際資金循環の流れに既に乗っている中国にとっては、このような経済状態が長く続いていくわけにはいけないので、中長期的にこのような特別な現象は解消しなければならない。

外貨準備の急増は金融危機の対応能力を向上させる面があると同時に、為替リスクと資金資源の合理的配置や金融政策上の不胎化問題を生じる。問題を明らかにするため、モノの流れとマネーの流れから増大してきた外貨準備の形成要因について述べてみたい。

表にある通り、1992年から海外から中国への資金流入は大規模に増大し、1997年までの年平均資金流入量が4414億元であったのが、アジア金融危機後2006年上半期までの年平均の資金流入量は7609億元に上昇した。また、中国から海外への対外投資や対外貸出などによる資金流出は、1992-1997年の年平均2321億元から1998-2006年上半期の4496億元まで上昇している。海外からの資金流入と中国から海外への資金流出の差額をみると、15年間で中国への資金純流入となっていた。国際資本移動の面から見れば、資金流入の増加とともに中国国内企業の対外進出も徐々に拡大している中で、国際資本移動を完全に管理することは困難になりつつある。

      表 中国の対外資金循環(単位:億元)     

 

1992-97

1998-2006

資金流入 (A)

4414

7609

資金流出(B)

2321

4496

純流入 (A-B

2093

3113

外貨準備(C)

-1681

-7309

誤差脱漏(D)

-1007

-264

資金過不足(E

-595

-4460

 出所:中国人民銀行(1998.12006.4)『中国人民銀行統計季報』

 注:表のデータが平均値で2006年が上半期の数字、外貨準備増が負の表示、(A-B)+C+D=E

しかし、表にある資金純流入に外貨準備を引いて誤差脱漏を加えて得られた資金過不足はマイナスの数字となっている。つまり、この15年間、中国の対外資金調達は積極的であったが、対外資金運用も大規模に行われ、最終的な結果として中国からの資金純輸出があったのである。外貨準備の増加と誤差脱漏の影響で海外への資金純輸出は1997年以前の年平均595億元からその後の年平均4460億元に増大し、2006年上半期だけでも7333億元に達している。特にアジア金融危機後の9年間(1998-2006年)は年平均資金純流入が3113億元だったのに対して、年平均の外貨準備増は7309億元の運用、さらに、年平均の誤差脱漏の-264億元を計上すると、最終的に海外部門の資金不足は4460億元となっている。つまり、外貨準備の増大と誤差脱漏の変化により、中国の海外への資金純輸出は年平均で4460億元となるのである。

新しく増加した外貨準備の構成をみると、この9年間で年平均の外貨準備増は7309億元であったが、同期間の経常収支黒字が年平均で4421億元となっているので、外貨準備増加の約40%は、経常黒字の規模を超えて資本収支黒字(資本流入)から生じたことがわかる。さらに資本黒字による外貨準備増の構成を調べてみると、外国直接投資が外貨準備増の2割程度を占めていることの外、海外証券投資が16%で、人民元切上げを期待したホットマネーの流入がその4%となっているので、中国の外貨準備には不安定な要因が存在するものの、基本的には健全な構成となっていると言えるであろう。

通貨当局の外貨準備は中央銀行の負債になるので、人民元の切上げによる大きな為替リスクをもたらすだけでなく、外貨準備の急増に伴う流動性の急増をどのようにコントロールするかの問題も迫ってくる。そして、さらに注目すべきなのはこれからの外貨準備の変化である。1998以来の中国経常収支の平均伸び率は23%、海外資本流入の平均伸び率は11%であったが、2007年から2010年まで、経常収支の伸び率を6%、海外資本流入の伸び率を5%に抑えたとし、また人民元の対ドルの為替レートが2006年の7.9から2010年の6.8に切上げられたとしても、筆者の作成した国際資金循環モデルを用いて推計すれば、2010年の中国の外貨準備残高は約1.6兆ドルになるとの予測となる。

このようになれば、国際収支のアンバランスが更に拡大され、外貨準備の運用管理がもっと大きいリスクとなるので、これから暫くの間、外貨準備フローの量をゼロにすることが通貨当局の政策目標になるであろう。そのためには、従来の「双子の黒字」型の資金循環のパターンを国際収支のバランスがとれるように調整しなければならない。沿海地域と内陸との間に大きな格差が存在している以上、政治面での大きいな内憂外患がなければ、持続的成長の可能性は十分残っている。大規模な貯蓄超過を解消するために、国内消費を拡大し、医療、教育、社会保障および環境などの国民生活基盤となる安定成長のインフラをきちんと整備する必要がある。このようにして、中国経済の発展は従来の量的成長から質への向上に変更していくことになるであろう。