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京大上海センターニュースレター
151号 200738
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      中露企業システム比較国際セミナーのご案内

○「アジア太平洋ユースフォーラム」の開催について

      中国・上海ニュース 2.26-3.4

○山東省煙台の韓国華僑

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上海センター国際セミナー開催のご案内

「企業レベルから見た市場経済移行−中国とロシアにおける企業比較」

このたび、以下の要領にて、京都大学大学院経済学研究科上海センターの援助を受けまして、国際セミナーを開催することとなりましたので、ご案内申し上げます。

 本セミナーは、中国とロシアの工業企業システムにおける転換過程を比較することにより、市場移行のミクロレベルでの制度変化のあり方を探ることを意図したものです。2006年に企業比較研究の理論的意義と実証研究上の方法にかんする国際セミナーを京都大学経済研究所COEプロジェクトとして開催しましたが、その発展した形として今回企画いたしました。具体的には、両国の専門研究者によります、企業経営者、労働者に対する丹念な聞き取り調査をもとに、企業のステークホルダーの利害がどこにあるのかを今回考察することを課題としております。そこで、直接に調査にたずさわり、分析を行った、両国の研究者をお招きし、国際セミナーを開催することになりました。また、本セミナーは京都大学経済研究所をベースに、ロシアの高等経済大学、中国の華東師範大学、アメリカのルイズビル大学に所属の研究者と共同で、国際セミナーを開催しようする国際企画にもあたります。本セミナーでは、今後の共同研究の可能性もまた議論できればと考えております。

海外からお招きしております研究者は以下の通りです。Professor Leonid Kosals (The State University-High School of Economics, Moscow, Russia), 金潤圭教授(Professor Rungui Jin, 華東師範大學商學院)。また、中国からは、楊蓉博士(Dr. Rong Yang)もご一緒に参加・報告される予定です。なお、いずれの報告も英語で行います。

 参加(セミナーおよび懇親会)およびプログラムにつきましては、資料、会場の準備の関係で、事前に313(火曜日)までに、溝端(下記)まで、Faxあるいはemailにてご連絡いただきますようにお願い申し上げます。とくに、その際には、懇親会へのご参加もお知らせいただきますようにお願い申し上げます。

日時:2006315日(木曜日)−316(金曜日)

15日は午前10時から午後540を予定しております。中国企業・ロシア企業・国際比較研究の視座を軸に、次の3つのセッションを開催する予定です。

@中国企業における聞き取り調査結果 10:00-12:00

Aロシア企業における聞き取り調査結果  14:00-16:00

B国際比較研究  16:30-17:40

16日は午前10時から12時までを予定しております。原則として、方法と理論に関する情報交換を行う予定で、プロジェクト担当者のみを対象としております。この日の会合に参加を希望されます場合には、必ず事前にお問い合わせをお願いします。

 

場所:京都大学 経済研究所 1階 会議室

連絡先・問合せ先:〒606-8501 京都市左京区吉田本町 京都大学 経済研究所 

溝端 佐登史  Tel:075-753-7144  Fax:075-753-7148  E-mail: mizobata@kier.kyoto-u.ac.jp

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「アジア太平洋ユースフォーラム」の開催について

来たる317(土)、上海センターでは、アジア開発銀行、第40回アジア開発銀行年次総会京都開催支援推進会議及び学生団体ROADRoad of Asian Development)と共催で、こらからの国際交流を担う若い世代の情熱と行動力を生かすべく、「アジア太平洋ユースフォーラム」を下記の要領にて開催いたします。

これは、アジア太平洋諸国より、「アジア太平洋地域の持続可能な開発」というテーマにて論文を募集、審査を経た入選者20名余りを京都に招待し、国内の学生とともに産業・環境関連施設の見学や途上国の開発のあり方についての討論を行うことを目的としたフォーラムです。

本フォーラムの結果は、来たる5月に京都国際会館にて開催予定のアジア開発銀行年次総会にも提言として提出される予定です。本センターからは、山本センター長がパネリストとして参加、また宮崎助教授もリソースパースンとして参加予定です。

学生のみならず、アジア太平洋地域の持続可能な開発に関心をお持ちの方は奮ってご参加ください。参加ご希望の方は、下記申込方法に従って、FAXもしくはe-mailで京都開催支援推進会議宛にいただければ幸いですが、申込が間に合わない場合等、直接会場にお越しいただいてもかまいません。

                

1.日時 2007年(平成19年)317日(土)10時〜17

2.会場 京都大学百周年時計台記念館

3 内容)・学生によるテーマ別討論結果の発表

         【テーマ】@経済成長と環境保全は両立するか

              A人的資源と制度をいかに構築するか

              Bインフラと産業において優先すべきものは何か

       ・パネルディスカッション/クロージングセッション

4 参加費 無料

5 申込方法 第40回アジア開発銀行年次総会協と開催支援推進会議事務局まで、

               FAX075-212-6802 またはe-mailinfo@adbkyoto.jpで。

なお本件に関する問い合わせは、宮崎(miyazaki@econ.kyoto-u.ac.jp)まで。

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中国・上海ニュース .26−3.

ヘッドライン

                     中国:全人代が5日開幕、政府活動報告が注目

                     中国:国防費17.8%増、19年連続で2ケタ増 

          中国:07年の経済社会発展の6大目標が提出

          中国:不動産業への圧力緩和、新引き締め策せず

          石炭:07年1月、初めて純輸入国に転じる

          天然ガス:輸入急増、前年比で1400倍に達する

          天津:エアバス旅客機の組み立て工場が今年末にほぼ竣工

          上海:来年9月、万博が初の入場券を販売、1枚20米ドル 

          上海:40%の大卒、初年度月給2000元

          遼寧:56年ぶりの最大風雪、農業に大打撃

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山東省煙台の韓国華僑

李 正熙(京都創成大学助教授)

 筆者は2006822日から1週間中国の山東省煙台などで韓国華僑関係のフィールドワーク調査を行った。その調査結果の一部を紹介したい。

 山東省煙台はソウルの仁川国際空港から1時間しかかからない。地理的に非常に近いため昔から韓(朝鮮)半島と交流が盛んに行われた。とくに19世紀後半から朝鮮の植民地期の間に大量の中国人が韓半島に移住し、現在の韓国華僑(2万人)及び北朝鮮華僑(1万人)を形成した。植民地期と解放後における韓国華僑のうち9割以上は山東省出身が占めていたし、山東省の中でも煙台及び隣接地域を故郷とする韓国華僑が多い。

 煙台は2004年現在約647万名の人口で山東省の中では3位、GRDPは省都の済南を抜かして青島の次の2位である。GRDP増加率は17.5%で山東省ではもっとも経済成長率が高い都市である。さらに、韓国と遼東半島に近い港町という有利な位置を利用して外国からの直接投資も2004年現在18億ドルを受け入れている。(韓中交流センター編「山東半島都市群発展戦略の主要内容」『月刊韓中』20069)

 1992年韓中国樹立以後、韓国華僑をめぐる新しい流れが形成されつつある。19世紀後半から1940年代までは、山東省などから朝鮮半島へ一方的に移住する時代であったが、最近韓国華僑が山東省などに逆戻りする興味深い移住のパターンが生じている。

 韓中関係の改善と中国の高度経済成長は、韓国華僑の中国への再移住を可能かつ促進させる契機となった。韓国華僑が中国に経済的なチャンスを求めて往来したのは19909月仁川と威海の間の定期航路が設けられた時からである。その後仁川‐青島、仁川‐大連、仁川‐煙台などの航路が次々と開設されて中国への往来が一層容易になった。

初期は定期航路の旅客船を利用して貿易を行う韓国華僑の小貿易商が多かった。国富氏(37)もその一人である。氏は1994年から2年間仁川−威海を往来する旅客船を利用して小貿易商の仕事をやっていた。当時仁川‐威海の定期航路を利用した韓国華僑の小貿易商は約200300名にのぼったという。氏は1996年現在居住している煙台に移住し、2002年漢族の女性と結婚して、二人が仁川−煙台の定期航路を利用した小貿易商に従事している。

煙台‐仁川は定期旅客船が週3回運航するほか、航空便も設けられていて韓国との交通便はとても便利である。煙台には韓国人25,000名が居住し、韓国語の看板を掲げる店がたくさんある。煙台に進出した韓国企業は2800社にのぼり、日本企業1250社をはるかに超える。(『週刊東洋経済』200723日、77)

煙台に進出した韓国華僑の企業もある。張忠智氏(48)1994年韓国の江原道の注文津から煙台に移住した韓国華僑の一人。張氏は1994年注文津にあった漁具工場を煙台に移転して「煙台永進漁具有限公司」という名前の企業を設立した。張氏は当時韓国の賃金が上昇したほか、労働組合の問題もあって、技術者3人を連れて煙台に移住したという。現在「煙台永進漁具有限公司」の従業員は80名。張氏はこの企業以外にも農場を所有し梨を栽培している。現地の人を雇って栽培した梨の半分は内需、半分は輸出している。張氏の年間の売上高は約100万ドルであり、煙台に移住した韓国華僑の中では最も成功した人の一人である。張氏の夫人は韓国人で、息子3人は中国に移住して生活している。張氏が成功すると注文津に居住していた彼の兄の家族も4年前煙台に移住した。

張氏は「2000年頃から韓国華僑の移住者が増え始め、2001年集まれば力になると考えて『煙台韓華聯誼会』を組織した。最初事務室をもうけたが、会員は増えなかったが、現在は会員が約200名に増えた。家族を含めば400人程度になる」と言った。しかし、張会長は聯誼会に加入せずに生活している韓国華僑も多く、すべてを合わせば1,000名と推定した。聯誼会は会長1名、副会長4名、顧問、理事、監査などで構成され、役員は28名である。事務室は煙台市内にある「虹口大厦」というビルの中にあり、3名の漢族の女性が事務員として働いている。会長の選挙は2年ごとに行われる。張会長は2003年選出されてから現在まで会長を務めている。聯誼会の運営は役員から月100元(約1500円)を徴収して充てていて、とくに会員から会費を徴収することはない。

 張会長のように中小規模の工場を経営している韓国華僑は少なくない。韓国で成功した華僑が煙台に設立した牛乳工場が一つ、キムチ工場二つ、飼料工場一つ、醤油工場などがある。そのほかに、食堂を経営している人が15名程度ある。聯誼会副会長の宋永俊氏は煙台の開発区で和食食堂の「魚佳」を経営している。孫文武氏は韓国料理の食堂の「大韓門」を経営している。煙台埠頭にある「味味香」は韓国華僑経営で比較的規模が大きい韓国式中華料理店である。

国富によれば、仁川−煙台を往来する韓国華僑の小貿易商は約100名あると言う。韓国華僑の小貿易商は全体の23割を占めて、最近12年の間に急増している漢族の小貿易商が全体の45割を占め、残りの24割は韓国人と朝鮮族が占めていると言う。韓国華僑が韓国企業の煙台投資に案内役を果たしていると聞いたが、具体的な事実は把握していない。

張会長は「会員は60歳以上の老人が多い。とりわけアメリカへ移住した韓国華僑が煙台へ再移住する人が多い。アメリカでは言葉が通じないし、物価が高くて生活が不便であるけど煙台は彼らのもとの故郷であり、物価が安く、言葉も通じるから老後を過ごすに最適の環境である」と話した。聯誼会事務室の一角にはマージャンを打つ老人が多く、穏やかな雰囲気が漂っていた。

 今後韓国はともかく、台湾、アメリカに居住している韓国華僑の煙台への移住はもっと増えるだろう。韓国の江菱から来た孫楽儀氏は煙台の魅力に魅せられている。「ここの生活は余裕がある。物価がとても安い。言葉も通じるから何の不便を感じない。これから煙台で住み続けたい。娘一人は煙台の韓国人学校に、もう一人は中国人学校に通わせている。

 中国政府は帰国華僑を配慮する措置を出している。1991年には帰国華僑と華僑家族に対して国家の適切な配慮を保障する法案が採択された。1994年には「中華全国帰国華僑聯連合会」(僑聯)傘下に8,000の組織が作られ、中央政府と地方政府の華僑業務を担当する部署の「僑辧」が設置された。煙台地方政府の「僑辧」は韓国華僑の煙台投資を働きかけている。張会長は「僑辧」が聯誼会及び韓国華僑に対して優遇してくれることは今のところないけれども必要な時は「僑辧」を訪ねて助けを求める時もある」と話した。

 19世紀末と植民地期における韓国華僑は中国大陸と朝鮮半島を華僑ネットワークで結びつき、相当な経済力を形成していた。今回の煙台のフィールド調査で、今後中国経済の発展と韓中経済関係のさらなる緊密化は、世界に散っている韓国華僑には新しい経済的チャンスを提供するだろうと感じた。韓国華僑は韓中関係、東北アジア地域を把握するに欠かせない存在であり、今後もその動向を注視していきたい。