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京大上海センターニュースレター
153号 2007321
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      中国・上海ニュース 3.11-3.18

      近代上海の都市発展と都市総合競争力

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中国・上海ニュース 3.11−3.18

ヘッドライン

■ 中国:金利0.27%引き上げ

■ 中国:1−2月消費財小売総額14.7%増

■ 中国:2月消費者物価指数2.7%上昇

■ 中国:米州開発銀行へ加盟協議に進展

■ 中国:郵政貯蓄銀行が開業、規模第5位の商業銀行となる

■ 北京:小中高生体力20年連続下降、肥満率上昇

■ 四川:国内2位の大規模天然ガス田発見

■ 上海:若手弁護士の半数が年収1−5万元

■ 上海:万博の海外来場者数目標は350万人

■ 上海:地下鉄11号線、北側部分の建設開始

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近代上海の都市発展と都市総合競争力

上海社会科学院経済研究所  張忠民

 近代上海は、開港直後の江南の一県城から、20世紀前半に近代中国最大の商工業都市、近代中国経済の中心にまで成長した。その要因は、上海が近代中国のその他の都市よりも強い総合競争力をそなえていたからである。

 近代上海の都市総合競争力は、大きく4つの側面から考察と分析を加えることができる。第1に地理的要因である。これは近代上海の都市総合競争力の最も基本的な出発点である。上海がゆえに上海となったのであり、上海がゆえに中国のその他地方と都市は取って代わることができなかった。つまり上海の地理的位置の非代替性が最も重要であり、もしこの点を踏まえなければ、我々のすべての議論は最も基礎的な前提条件を失ってしまう。第2に制度環境・社会人文環境である。周知のように、近代中国は戦争と内乱が頻発して、政治は混迷していた。一都市、一地域が外界から各種の「要素」を吸収する能力をそなえるためには、相対的に安定した制度環境と、その制度環境に対応する社会人文環境が必要である。これは近代上海の都市総合競争力のなかでも重要な「ソフト面の実力」であった。第3に地理的要因と制度環境・社会人文環境を基礎にして要素と資源が集中することである。これによって産業発展が形成され大きな経済力を持つようになる。19世紀半ばに西洋諸国に対して正式に開港されると、貿易に主導された近代都市経済の形成過程がみられたが、とりわけ上海は貿易が集中しその効果が放射状に波及する顕著な優位性がみられ、内外貿易を一体化した貿易競争力を形成して、当代並ぶもののない商業貿易の中心となった。次に、近代製造業が出現すると、上海の地理的位置は製造業にとっても必要な資源と要素を集中させる働きをして、強大な工業競争力を形成し、近代中国製造業の中心となった。この基礎の上に、上海は巨大な金融資源を集中させて、近代中国の最も重要な金融の中心と経済の中心になったのである。このような段階を経て形成された経済実力と経済競争力が近代上海の都市総合競争力の核心部分を構成した。第4に、先述した3点を基礎に、大量の人口流入を誘発し、この流入人口が上海という空間と範囲内に集中して、経済、社会、文化の各種事業に従事した。これによって都市行政と都市サービスに対する需要が生み出され、都市管理、そして都市サービスの競争力も培われた。

 この他に、近代上海の都市総合競争力研究において、国際競争力も重要な研究課題の一つである。近代上海の都市国際競争力については、開放性ある国際観念、租界の外国人人口、外国貿易依存度、外国資本の集中度、対外金融の活発性、上海産品の国際競争力、国際活動場所としての重要度といった側面から分析ができよう。本報告は、香港などその他の中国の都市と比較することで、この問題について検討した。当然ながら、上海の都市国際競争力は、歴史学の学術的課題であるだけでなく、現実の社会経済をめぐる問題でもある。中国という範囲内において、上海は絶対的な総合優位性と総合競争力をそなえていたという点は、検討した歴史時期においておそらく大きく改変されることはないであろう。しかし、上海の都市競争力にとって、国際競争力の問題は重要な課題である。この問題については、国際間の比較研究、共同研究が有効である。

 最後に、近代上海の都市総合競争力が中国の社会経済に及ぼした影響と意義は、正負両面があった。上海の都市吸引力と都市競争力は上海に持続的な資源の流入と都市の繁栄をもたらした。上海のような商工業の中心となる東洋の大都市が中国に生み出されたという点は、総体としてみれば、中国の社会経済に貢献したと言える。上海の発展は内地の社会経済にも波及効果があった。しかし、上海の都市総合競争力の上昇は、内地の人材、資金、そして資源を上海に集中させ、内地にとって発展のための資源が「出血」しているという事態も避けられず、近代中国の経済発展構造にみられる開港場と内地の「二元化現象」を一定程度強めた。ただし、近代の上海だからこそ近代中国の中で絶対的な競争優位がもたらされたのである。根本的に、中国は巨大な後発国であったと言え、その社会経済の発展過程の中では、必然的に発展速度と発展水準の不均衡が発生する。そして、このような不均衡発展の過程の中では、最も経済立地と制度上の優位性を持つ地域が必然的に優先的な発展と主導的な立場に置かれることになる。そのため経済資源の配置は自然とこのような地域に集中し、社会経済全体の中で突出した指導的中心が生まれるのは、理にかなっている。ただし長期的に持続可能な発展という観点からみると、上海の場合、上海は自身が都市的に発展しさえすればよかったのではなく、上海以外のその他内地の都市や地域が質量ともに持続的に発展する必要があった。そうでなければ、上海の発展は持続的に支えとなり頼りとなる拠り所を失っていたであろう。

(以上は本年121日に開催された上海センター・シンポジウムの報告を報告者に要約いただいたものです。来週以降も同シンポジウム報告の要約を掲載します。 事務局)