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京大上海センターニュースレター
160号 2007510
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      中国・上海ニュース 4.30-5.6

○なぜ、中国人は、いまだに移民するのか?

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中国・上海ニュース 4.30−5.

ヘッドライン

■ 中国:1ドル7.70元台に突入、元高加速か
■ 中国:GWで小売高15.5%増
■ 中国:渤海湾で埋蔵量10億トンの大油田を発見
■ 中国:農村部1人当たり純収入、10年来初めて実質7%増
■ 中国:自営業者と民間企業雇用者数が1.2億人に
■ 天津:経済開発区の外資導入額、356億米ドルを突破
■ 上海:GW期間の観光客480万人で32億元の収入
■ 上海:今年の電力供給が16%増
■ 北京:連休の観光ラッシュ、天安門広場で迷子数、1日で1000件
■ 北京:連休7日間、たん吐き行為で89人が罰金 

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なぜ、中国人は、いまだに移民するのか?

--移民に関する両国人民の考え方の違い--

10.APR.07

小島正憲

 日本人 : 日本で食い詰めて、他国へ新天地を求める。成功して祖国に戻ることを望んでいる。

 中国人 : 中国で財産を築き、それを持って安全な他国に逃げる。祖国を捨て、戻る気はない。   

 

今や、中国は世界の工場から世界の市場へ脱皮し、一流のビジネス大国となった。世界中のビジネスマンが「儲けは中国にある」・「起業するなら中国へ行け」・「中国株で100万ドル儲ける」などと呼号して、中国へ殺到している。また華僑もそのブームに乗って中国回帰を強めている。海外留学組もそのビジネスチャンスをつかもうとして、帰国を早めている。しかしその反面、奇妙なことに中国人社会では、いまだに海外への移民が多い。その証拠に、新聞や雑誌を開いてみると、そこには移民斡旋会社の広告が掲載されている。つまりそのようなビジネスが成立するほど、移民希望者が多いということである。それはなぜなのだろうか。

10年前、私はミャンマーで、香港華僑といっしょに仕事をしたことがある。彼はカナダの臨時居留証を持っていた。その会社から派遣されてきていた香港人技術者も同様であった。彼らはミャンマーで半年ほど働いて、カナダへ帰って行き、2ヶ月ほど後にまた戻ってくる。そのようなサイクルで働いていた。不思議に思ったのでその理由を聞いてみると、「香港返還時にカナダに移民したが、カナダにはよい仕事がなかった。カナダ国籍を取得した後、香港に戻って仕事を続けたかったが、国籍取得許可条件が5年間に最低2年間はカナダに在住しなければならないということであった。仕方がないのでこのようなサイクルで仕事を続行している」というのだ。つまり彼らは香港やその関連地で働きたいが、カナダ国籍の取得権も放棄したくないので、そのような奇妙な働き方になっていたのである。私はそのとき、それは香港返還時のドサクサに伴う一過性の現象であると思っていた。

しかし最近に至っても、雑誌や新聞などに移民斡旋会社の広告が載っているので、移民の流れが続行しているのだと考え、あの香港華僑を訪ねてみた。彼の話から、やはり今も移民の流れは続いており、昨今では香港人ではなく、大陸中国人の流出となっていること、また移民先のトップはやはりカナダであるということなどがわかった。また移民の方法には投資移民・事業家移民・技術移民などの種類があり、それぞれにかなり厳しい審査があるようだった。なかでも健康診断については厳しさが徹底していた。受診できる病院はカナダ当局から指定されており、上海には3カ所しかないという。そこでその病院に行ってみると、カナダ移民用健康診断のところに、多人数が順番待ちをしていた。それを見ただけで移民がいかに多いかがわかった。健康診断の結果は、一切本人には知らされず、病院からそのままカナダ当局に郵送される。結核・エイズ・肝炎などの疑いがある場合は、その時点で有無を言わさず移民申請は不受理となる。さらにこれらの難関を突破して、晴れて臨時居留証を取得し、カナダへ着いてからも、彼らの前には、まだいろいろと難関が待ち構えているようだった。

私は現地でその実情を探るために、香港華僑を頼って、昨年、2回、カナダのバンクーバーに足を運んでみた。その結果、おもしろいことがわかった。現地ではすでに中国人移民ネットワークが整備されており、空港の出迎えから、安いホームステイの紹介、その後のケアなど、弁護士や会計士、教師、医者などを含めて、しっかりとシステムができあがっていた。そこで私もそのネットに連絡をつけて、民宿風の一軒にしばらく滞在してみた。するとそこにはそのネットを頼って、毎日、つぎつぎと中国人移民が入ってきた。そして彼らは数週間をそこで過ごし、いろいろな人と相談し、身の振り方を決めたり定住先をみつけたりして、そこを出て行った。それらを見聞していると、それらはすべてそのネットワークを通じた口コミで処理されており、公的機関など表面化するものはほとんど利用されていなかった。その家の応接間や食堂では、日夜、移民者たちの真剣な情報交換が続けられていた。

そこでは同郷のよしみか、多くの人が意外にその心境を素直に語り合い、互いに親身にアドバイスをしていた。彼らは事業に成功し金を持ってきた人、高度な技術を持っている人、子弟の教育に熱心な人、なにか訳ありの人などであったが、食い詰めて流れてきたという人はいなかった。夫婦で移民し、ひとまず奥さんがカナダに定住し、主人が中国で事業を続け、カナダと中国を行き来しているというパターンも少なくなかった。

年齢は30〜50代の人が多く、60代は皆無であった。また出身は全国各地にまたがっていた。とにかくバンクーバーには、そのような中国人移民が多く、すでに大きな中国人街が何カ所もできあがっており、英語をまったく話せない人でも、不自由なく暮らせるようになっていた。しかし反対に、もともとそこに住んでいたカナダ人が中国人の騒がしさを嫌って静かな田舎へ移住したので、カナダ全体で住宅が高騰し続け、日本のバブル経済期を思わせるほどとなっていた。

そんなある日、傑作な情報が耳に入った。近くのマンションの高層階に、密輸で大儲けしカナダに逃げたアモイの元共産党幹部が、カナダの警察当局の手で軟禁されているという。私はさっそくそこまで見に行ってきた。そのマンションは、格別厳重ではなく、ガードマンなどもいなかった。彼には中国政府からカナダ政府に、正式に償還要請が出ているが、帰国させれば死刑は間違いないところから、カナダ政府が人道的な見地からその要請を無視しているらしい。その反面、放任しておくわけにもいかず軟禁しているのだという。

これらの中国人移民と比較して、日本人の移民スタイルはかなり違う。私は今、中国の吉林省琿春市で仕事をしているが、ここはかつての満州の一角で、日本人がたくさん移民してきた土地である。ことに岐阜県とはなじみが深く、この地で苦労し帰国した人たちを中心にして満蒙開拓団の記録誌などが編纂されている。それらを読んでみると、移民の動機は、ほとんどが内地で食い詰めて、新天地を求めて行った人が多かった。戦後の南米移民も基本的にはそのパターンであった。最近の日本では、移民という話題は久しく聞かない。また金持ちが日本を脱出するということも一般的現象になってはいない。

ところが今の中国人はそのようなパターンではなく、中国で財をなし、それを持って国外に移民する人がほとんどである。つまり中国人は根底のところで、現在の国家や政府を信用しておらず、自分自身の手で財産を守るために、その最適地を選んでいるのである。その結果、安全なのは国外となり、それが移民の多さとなって現れているのである。全人代で私有財産法が制定されたとはいうものの、一般人民の政府不信を払拭し、移民を根絶するまでにはいたらないだろう。