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京大上海センターニュースレター
161号 2007516
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○上海センターシンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展」のご案内

      中国・上海ニュース 5.7-5.13

○北東アジア経済開発専門家会議 報告

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上海センターシンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展

のご案内

 中国の経済成長が内陸部に向かって広がっています。2003-5年の三年間、もっとも成長率の高かった省(自治区・直轄市)は内モンゴル自治区で、たとえば2005年の場合、23.8%の成長を実現しています。この流れは、沿海部の労働力不足と賃金上昇、電力や土地不足などによる企業立地のシフト、それに西部大開発のような大規模な開発政策の推進によって加速されています。今回のシンポジウムでは、この傾向を@内陸部開発への日本企業による貢献、A政府開発援助による日本の貢献、B西部開発の現状と課題、C省別成長率の分析のそれぞれの角度から解明する予定です。

開催日時 200672()2:00-17:00 時計台記念館2F国際交流ホール

主催 京都大学経済学研究科上海センター

共催 京都大学上海センター協力会   後援 環日本海アカデミック・フォーラム(予定)

あいさつ 森棟公夫 京都大学経済学研究科長

コーディネーター 山本裕美 上海センター長

報告者 1)藤井重樹 積水(青島)塑膠総経理 「積水化学の中国事業と内陸部開発」

2)宮崎 卓 京都大学助教授 「内陸部開発への日本の経済協力について」

3)朱 正威 西安交通大学西部開発中心教授 「中国西部大開発の進展と今後の課題」

4)大西 広 京都大学教授 「沿海部から内陸部に向かう高成長地域」

シンポジウムに先立ち、12:00-12:45の間、経済学部2F大会議室におきまして、上海センター協力会総会を開催、またシンポジウムの後には同会議室で懇親会を開催します。懇親会は協力会のご支援で無料で開催しますので、非会員の皆様も是非ご参加ください。

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中国・上海ニュース 5.7−5.13

ヘッドライン

■ 中国:1−4月貿易黒字、87.9%増の633.1億米ドル

■ 中国:「中国・アフリカ発展基金」設立、初期規模10億米ドル

■ 国家統計局:1−3月、従業員報酬18%増える

■ 中国:競争力、日本上回る、スイスIMD研究所調べ

■ 自動車:06年、自動車部品生産額4157億元

■ 自動車:1−4月の自動車生産台数、300万台突破

■ 上海:外資系4行、4月預金額43億元増 

■ 上海:住宅価格、上昇の兆し

■ 北京:1−4月都市部住民可処分所得13.8%増

■ 蘇州:1.2万人が公務員試験に挑戦 

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北東アジア経済開発専門家会議 報告

--旧満鉄調査部:調査資料に基づく事業提案--

18.APR.07

株式会社小島衣料社長  小島正憲

4月17日、吉林省琿春市において、北東アジアことに図們江地域の経済開発の可能性を具体的に検討するために、日中双方の専門家・実務家の出席のもとで、研究会が開催された。この研究会は、この夏にも運航開始が予定されている日本海横断航路を黒字化させるために、図們江地域に産業を振興させ、日本との往復物量を増加させることを目的としたものである。なお、この日本海横断航路は中国が国家的課題として取り組んでいる中国東北部の振興、ことに吉林・黒竜江の2省の経済振興にとって不可欠であり、同時に日本の日本海側諸都市の経済活性化に、大きな効果を発揮すると予測されている。しかし当面は物量が少なく、この航路経営を早期に黒字化することはかなり難しいとも見られている。

この会議は、日本側からは、戦前のこの地域の経済事情に詳しい安部桂司先生、環境保護の専門家の小川博嗣先生、中国側からは琿春市政府、経済開発局およびそれぞれの関連事業公司の実務担当者が出席して行われた。

 

1.日本側からの事業提案。

日本側からは、旧満鉄の研究家である安部先生に、満鉄調査部の精細な経済開発調査の膨大な記録の中から、今日的有効性を持っており同時に琿春市に関連すると思われる事業を摘出してもらい、下記のような提案がなされた。なお満鉄調査部の調査資料については、中国政府もその有効性に着目し、中国全土に分散して保管されているその膨大な資料の情報を収集し、このほど「中国館蔵満鉄資料連合目録」を出版したほどである。ちなみにこの目録には、全国56カ所の図書館などに保管されている30万種類以上の資料が収録されている。安部先生によれば、旧ソ連軍によって没収された資料がモスクワにも大量に保存されているという。会議の席上では、安部先生から、これらの歴史的遺産が今後の旧満州地域の経済開発に積極的に活かされることに期待を込めて、中国側に対して情熱的に事業提案が行われた。

@琿春市の地下に埋蔵されている天然ガスの採掘 A図們江のさけますの放流

B図們江の浚渫及び砂利販売 C吉林、黒竜江省の稲わら輸出 D廃タイヤ利用のセメント工場

E吉林、黒竜江省のアルカリ土壌中和事業 F信州カラマツの植林 G特殊な石材の加工

これらの事業提案に対して、中国側から下記のような回答があった。

@天然ガスの有無はわからないがメタンガスはある。天津の探査会社が調査したことがある。

Aサケマスは、戦前は琿春川にも遡上してきていたが、現在は皆無である。

B図們江の砂利は海水が混じっているのでセメントには不向きである。しかし琿春川の砂利は高品質であり、利用可能である。

C稲わらの輸出は検討したが主に日本の受け入れ方法が厳格なので事業化できていない。

F戦前に信州カラマツの植林が行われていたという事情については、確認できる資料がない。

G特殊石材については、現在ではだれもその所在すらまったくわからない。

 

2.中国側からの事業提案。

琿春市合作局の張主任から、開発区全体の政策についての説明があり、ついで朴副主任から、具体的な事業が下記のような23項目に渡って、事業構想規模なども含めて提案された。さらに関係者からそれぞれの項目について、この事業を展開するにあたっての琿春市の優位性が説明された。

農業・林業 : 牛肉輸出 豚肉輸出 どんぐり豚飼育加工

食品・飲料 : 干し鱈加工 ウサギ肉加工 きのこ栽培 山菜加工 長白山人参加工

建材     : 石炭灰の加工 花崗岩加工 外壁保温パネル製造

木材・紙   : 高級家具製造 木製品製造 フローリング加工 生活用紙製造

金属     : 銅製品加工 自動車部品製造 電子部品製造

印刷     : 高級カラー印刷

インフラ   : 木材卸売り市場 工場建設 汚水処理場建設 工業団地造成

これらの提案は、日本側からの提案と重なっている部分があり、それらが集中的に議論された。安部先生からも、戦前は琿春材が日中双方で最高級建材としてもてはやされていたこと、日本の農耕牛はこの地域からの輸入が多かったこと、さけのえさは大豆が主体であり、養殖事業はこの地域に適していることなどが捕捉説明された。結果として、稲わらを利用し育成した子牛の輸出、どんぐり豚を使用した高級ハム製造、ロシア領の海を利用した銀サケ養殖、火力発電所の石炭灰と琿春川の砂利を利用したセメント工場などの事業化の可能性が有力視され、次回、それぞれの専門家や事業家を招き、さらに詳しく検討をすることになった。

 

3.小川先生から環境保護の重要性の提言。

小川先生から、中国側に日本の経済発展と環境保護の歴史などの説明があり、その重要性の提言が行われた。さらに会議後、琿春市幹部の案内で、汚水処理場、パルプ工場、火力発電所、銅精錬工場などの視察が行われ、小川先生から現場でそれぞれに厳しい指摘がなされた。その結果、それらの深刻な実情を琿春市の現場担当者がまとめ、意見書として上層部に提出することとなった。日本側でも環境保護技術の移転のために、日本の関係各所に支援を仰ぐ行動を起こすことになった。

 

4.今後の方向。

最後に日中双方が、それぞれの検討課題を持ち帰り、その回答を持って、3ヵ月後にふたたび会議開催することとなった。またこの会議の成果を日本各企業にPRし、企業誘致活動を積極的に行うこと、中国企業にも参画を促すことなどが取り決められた。