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京大上海センターニュースレター
162号 2007523
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○上海センターシンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展」のご案内

      中国・上海ニュース 5.14-5.20

○山東省煙台の韓国華僑

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上海センターシンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展

のご案内

 中国の経済成長が内陸部に向かって広がっています。2003-5年の三年間、もっとも成長率の高かった省(自治区・直轄市)は内モンゴル自治区で、たとえば2005年の場合、23.8%の成長を実現しています。この流れは、沿海部の労働力不足と賃金上昇、電力や土地不足などによる企業立地のシフト、それに西部大開発のような大規模な開発政策の推進によって加速されています。今回のシンポジウムでは、この傾向を@内陸部開発への日本企業による貢献、A政府開発援助による日本の貢献、B西部開発の現状と課題、C省別成長率の分析のそれぞれの角度から解明する予定です。

開催日時 200672()2:00-17:00 時計台記念館2F国際交流ホール

主催 京都大学経済学研究科上海センター

共催 京都大学上海センター協力会   後援 環日本海アカデミック・フォーラム(予定)

あいさつ 森棟公夫 京都大学経済学研究科長

コーディネーター 山本裕美 上海センター長

報告者 1)藤井重樹 積水(青島)塑膠総経理 「積水化学の中国事業と内陸部開発」

2)宮崎 卓 京都大学助教授 「内陸部開発への日本の経済協力について」

3)朱 正威 西安交通大学西部開発中心教授 「中国西部大開発の進展と今後の課題」

4)大西 広 京都大学教授 「沿海部から内陸部に向かう高成長地域」

シンポジウムに先立ち、12:00-12:45の間、経済学部2F大会議室におきまして、上海センター協力会総会を開催、またシンポジウムの後には同会議室で懇親会を開催します。懇親会は協力会のご支援で無料で開催しますので、非会員の皆様も是非ご参加ください。

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中国・上海ニュース 5.14−5.20

ヘッドライン

■ 中国:人民元の日中対米ドル変動幅拡大、上下0.5%に

■ 中国人民銀行:利上げと預金準備率の再度の引き上げ

■ 中国:1−4月、都市部の固定資産投資が25.5%増加

■ 中国:広告業、06年売上高1573億元で世界4位に

■ 中国:銀行ATMでの引き出し、一日2万元まで可能に

■ 広西:メタンガスの家庭普及率36%で全国トップ

■ 内蒙古:風力発電設備容量が全国一に

■ 上海:2020年風力発電目標、190万KWに

■ 上海:アフリカ開発銀総会、上海で開幕

■ 北京:肉、タマゴが大幅値上がり

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山東省煙台の韓国華僑

李 正熙(京都創成大学助教授)

 筆者は2006822日から1週間中国の山東省煙台などで韓国華僑関係のフィールドワーク調査を行った。その調査結果の一部を紹介したい。

 山東省煙台はソウルの仁川国際空港から1時間しかかからないほど地理的に非常に近いため、昔から韓(朝鮮)半島と交流が盛んに行われた。とくに19世紀後半から朝鮮の植民地期の間に大量の中国人が韓半島に移住して、朝鮮半島居住の中国人、いわば今の韓国華僑(現在約2万人)及び北朝鮮華僑(1万人)を形成するようになった。植民地期と解放後における韓国華僑のうち9割以上は山東省出身が占めていたし、その半分以上は山東省の中でも煙台地域を故郷としている。

 煙台は2004年現在約647万人の人口で山東省の中では3位を占めている。GRDPは最近省都の済南を抜かして青島の次の2位である。GRDP増加率は17.5%で山東省ではもっとも経済成長率が高い都市である。さらに、韓国と遼東半島に近い港町という有利な位置を利用して外国からの直接投資も2004年現在18億ドルを受け入れている。(韓中交流センター編「山東半島都市群発展戦略の主要内容」『月刊韓中』20069)

 1992年韓中国樹立以後、韓国華僑をめぐる新しい流れが形成されつつある。19世紀後半から1940年代までは、中国人が山東省などから朝鮮半島へ一方的に移住する時代であったが、最近韓国華僑が山東省などに逆戻りする興味深い移住のパターンが生じている。

 韓中関係の改善と中国の高度経済成長は、韓国華僑の中国への再移住を可能かつ促進させる契機となった。韓国華僑が中国に経済的なチャンスを求めて往来したのは19909月仁川と威海の間の定期航路が設けられた時からである。その後仁川‐青島、仁川‐大連、仁川‐煙台などの航路が次々と開設されて中国への往来が一層容易になった。

初期は定期航路の旅客船を利用して貿易を行う韓国華僑の小貿易商が多かった。国富氏(37)もその一人である。氏は1994年から2年間仁川−威海を往来する旅客船を利用して小貿易商の仕事をやっていた。当時仁川‐威海の定期航路を利用した韓国華僑の小貿易商は約200300名にのぼったという。氏は1996年現在居住している煙台に移住し、2002年漢族の女性と結婚して、夫婦が仁川−煙台の定期航路を利用した小貿易商に従事している。

煙台‐仁川は定期旅客船が週3回運航するほか、航空便も設けられていて韓国との交通便はとても便利である。煙台には韓国人25,000名が居住し、韓国語の看板を掲げる店がたくさんある。煙台に進出した韓国企業は2,800社にのぼり、日本企業1,250社をはるかに超える。(『週刊東洋経済』200723日、77)

煙台に進出した韓国華僑の企業もある。張忠智氏(48)1994年韓国の江原道の注文津から煙台に移住した韓国華僑の一人。張氏は1994年注文津にあった漁具工場を煙台に移転して「煙台永進漁具有限公司」という名前の企業を設立した。張氏は当時韓国の賃金が上昇したほか、労働組合の問題もあって、技術者3人を連れて煙台に移住したという。現在「煙台永進漁具有限公司」の従業員は80人。張氏はこの企業以外にも農場を所有し梨を栽培している。現地の人を雇って栽培した梨の半分は内需、半分は輸出している。張氏の年間の売上高は約100万ドルであり、煙台に移住した韓国華僑の中では成功した人の一人である。張氏の夫人は韓国人で、息子3人は中国に移住して生活している。張氏が成功すると注文津に居住していた彼の兄の家族も4年前煙台に移住した。

張氏は「2000年頃から韓国華僑の移住者が増え始め、2001年集まれば力になると考えて『煙台韓華聯誼会』を組織した。最初事務室をもうけたが、会員は増えなかったが、現在は会員が約200人に増えた。家族を含めば400人程度になる」と言った。しかし、張会長は聯誼会に加入せずに生活している韓国華僑も多く、すべてを合わせば1,000人程度と推定していた。聯誼会は会長1人、副会長4人、顧問、理事、監査などで構成され、役員の数は28人である。事務室は煙台市内にある「虹口大厦」というビルの中にあり、3人の漢族の女性が事務員として働いている。会長の選挙は2年ごとに行われる。張会長は2003年選出されてから現在まで会長を務めている。聯誼会の運営は役員から月100元を徴収して充てていて、とくに会員から会費を徴収することはない。

 張会長のように中小規模の工場を経営している韓国華僑は少なくない。韓国で成功した華僑が煙台に設立した牛乳工場が一つ、キムチ工場二つ、飼料工場一つ、醤油工場などがある。そのほかに、食堂を経営している人が15人程度。聯誼会副会長の宋永俊氏は煙台の開発区で和食食堂の「魚佳」を経営している。孫文武氏は韓国料理の食堂の「大韓門」を経営している。煙台埠頭にある「味味香」は韓国華僑経営で比較的規模が大きい韓国式中華料理店である。

張会長は「会員は60歳以上の老人が多い。とりわけアメリカへ移住した韓国華僑が煙台へ再移住する人が多い。アメリカでは言葉が通じないし、物価が高くて生活が不便だけど煙台は彼らのもとの故郷で、物価が安く、言葉も通じるから老後を過ごすに最適の環境だ」と話した。聯誼会事務室の一角にはマージャンを打つ老人が多く、穏やかな雰囲気が漂っていた。

 今後韓国はともかく、台湾、アメリカに居住している韓国華僑の煙台への再移住はもっと増えるだろう。韓国の江菱から来た孫楽儀氏は煙台の魅力に魅せられている。「ここの生活は余裕がある。物価がとても安い。言葉も通じるから何の不便を感じない。これから煙台で住み続けたい。娘一人は煙台の韓国人学校に、もう一人は中国人学校に通わせている。」

 中国政府は帰国華僑を配慮する措置を出している。1991年には帰国華僑と華僑家族に対して国家の適切な配慮を保障する法案が採択された。1994年には「中華全国帰国華僑聯連合会」(僑聯)傘下に8,000の組織が作られ、中央政府と地方政府の華僑業務を担当する部署の「僑辧」が設置された。煙台地方政府の「僑辧」は韓国華僑の煙台投資を働きかけている。張会長は「僑辧」が聯誼会及び韓国華僑に対して優遇してくれることは今のところないけれども必要な時は「僑辧」を訪ねて助けを求める時もある」と話した。

 19世紀末と植民地期における韓国華僑は中国大陸と朝鮮半島を華僑ネットワークで結びつき、相当な経済力を形成していた。今回の煙台のフィールド調査で、今後中国経済の発展と韓中経済関係のさらなる緊密化は、世界に散っている韓国華僑には新しい経済的チャンスを提供するだろうと思った。韓国華僑は韓中関係、東北アジア地域を把握するに欠かせない存在であり、今後もその動向を注視していきたい。