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京大上海センターニュースレター
164号 200766
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○上海センターシンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展」のご案内

      中国・上海ニュース 5.28-6.3

○「経済発展と民主化:台湾と東アジア」国際学術会議のご報告

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上海センターシンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展

のご案内

 中国の経済成長が内陸部に向かって広がっています。2003-5年の三年間、もっとも成長率の高かった省(自治区・直轄市)は内モンゴル自治区で、たとえば2005年の場合、23.8%の成長を実現しています。この流れは、沿海部の労働力不足と賃金上昇、電力や土地不足などによる企業立地のシフト、それに西部大開発のような大規模な開発政策の推進によって加速されています。今回のシンポジウムでは、この傾向を@内陸部開発への日本企業による貢献、A政府開発援助による日本の貢献、B西部開発の現状と課題、C省別成長率の分析のそれぞれの角度から解明する予定です。

開催日時 200772()2:00-5:30 時計台記念館2F国際交流ホール

主催 京都大学経済学研究科上海センター

共催 京都大学上海センター協力会   後援 環日本海アカデミック・フォーラム(予定)

あいさつ 森棟公夫 京都大学経済学研究科長

コーディネーター 山本裕美 上海センター長

報告者 1)藤井重樹 積水(青島)塑膠総経理 「積水化学の中国事業と内陸部開発」

2)宮崎 卓 京都大学准教授 「内陸部開発への日本の経済協力について」

3)朱 正威 西安交通大学西部開発中心教授 「中国西部大開発の進展と今後の課題」

4)大西 広 京都大学教授 「沿海部から内陸部に向かう高成長地域」

シンポジウムに先立ち、13:00-13:45の間(前前号ではこの時刻を書き間違っていました。申し訳ございません)経済学部2F大会議室におきまして、上海センター協力会総会を開催、またシンポジウムの後には同会議室で懇親会を開催します。懇親会は協力会のご支援で無料で開催しますので、非会員の皆様も是非ご参加ください。

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中国・上海ニュース 5.28−6.3

ヘッドライン

■ 中国:上海、深圳両株式市場は大幅値下げ

■ 中国:「国家気候変動対応方案」の公布を決定

■ 自動車:一汽VW、1−4月の販売台数は25.2%

■ エネルギー:メタンハイドレードのサンプルが南シナ海で採取

■ 産業:液晶テレビ生産台数、1−4月で426万台

■ 雲南:プーアル市でM6.4の地震発生

■ 四川:干ばつが深刻化、400万人近く飲み水不足

■ 江蘇・無錫:太湖で藻が異常発生で水道水に悪臭が立ち込み 

■ 新疆:タリム天然ガス田工事完了、今後30年東部地域に安定供給 

■ 北京:新築住宅10.7%値上がり、全国第3位

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「経済発展と民主化:台湾と東アジア」国際学術会議のご報告

京都大学教授 八木紀一郎

 上記のタイトルの国際会議が4月13日に台北の国立政治大学で開催された。この大学がその前身であった中国国民党の党務学校・政治学校時代から数えて80周年を迎えたことの記念行事の一つである。

日本からは、東京大学の伊藤元重教授と私、また立命館アジア太平洋大学のD.シンハ博士が招待され、欧米・シンガポールから4人の学者、ホストの国立政治大学の4人の学者とともに報告をおこなった。そのあとに、「経済発展・民主化と地域安全保障:両岸関係」というパネル討論があった。テーマも経済問題と政治問題の双方にわたり、1日のコンファレンスとしては欲張った内容であったが、たしかに多くのことを学ぶことができた会議であった。なお、使用言語はパネル討論も含め、すべて英語でおこなわれた。

伊藤教授は、安倍政権になって積極性がやや増した日本の東北アジア地域におけるFTAに対する態度を説明し、また経済理論の側から論評を加えた。日本、中国、韓国とどの国もFTAに前向きになっているが、現在のままではASEANに日本、中国、韓国(さらにインドなど)が付け加わるASEAN1+1+1+・・・になりそうであり、経済理論にたちもどって考える必要がある、また中国との関係では関税の引き下げよりも投資保護や知的財産権などのWTOの取り決めの遵守を徹底させることの方が効果が大きいというのがその要旨であった。

私は、東アジアの「開かれた地域主義」を欧州の経済統合と比較し、欧州で発展させられた重層的な地域的パースペクティヴとそれに対応した重層的なガバナンス(統治)論を東アジアについて適用する可能性について論じた。東アジアでは、マクロ・リージョンのレベルで考えれば、すべてが国際政治の問題となるが、サブ・リージョンのレベルで考えればかなり様相が異なってくる。そこでは、機能的協力や地方自治体を加えた多様な地域協力の可能性がある。また条件が整っているところでは、ミクロ・リージョンにおける越境地域協力(Cross-border Collaborations)も有意義である。このように検討したあと、こうした下位レベルの地域国際協力を推進させるためには、国レベルでのコンセンサスと資金を支援する何らかのプログラムが必要であろうと結んだ。これまで欧州統合に重点を置いて研究をしてきた私にとっては新しい領域に踏み込んだ報告であったが、司会をしてくれた国立政治大学の林副学長(Dr. Bih-Jaw Lin)から、東アジアにおける国際緊張を緩和するための重要な視点であるという評価を受けた。

台湾問題については、パリのScience Po から来た政治学者FMenginM・フーコーの造語を用いて、台湾を「ユートピア」ならぬ「ヘテロトピア」(矛盾する雑多な属性が同居する現実)であると特徴づけた。他方、国立シンガポール大学の頼博士(Dr. Hongyui Lai)は、台湾と大陸中国の経済的相互依存の進展が中国に対しては自制を生み出しているが台湾では特異な政治的ナショナリズムを生み出していると分析した。この2人は外部からの見方であったが、最後のパネル討論は政策立案者を含む公開討論会で、台湾における政治討論の熱気を垣間見させるものであった。そこでは、経済的な相互依存を歓迎しながら、政治的独立性をいかに確保するかについて真剣な討論がおこなわれていた。

その他、大陸中国の民主化問題のほか、経済面では、金融、環境、技術特許の問題がとりあげられた。

なお、この会議を開催した国立政治大学は、その歴史からもわかるように人文社会科学系に重点をおいた台湾の主要大学の一つである。台北郊外の無柵に広大なキャンパスをもち、多くの研究施設を有している。キャンパス内の丘を登って行くと初代学長であった蒋介石の騎馬像がある。しかし、国際会議の討議でもそうだったが、民主化後の現在では政治的な制約はまったくなくなっているようだ。京都大学経済学研究科が学術交流協定(2005年締結)を結んでいる社会科学学院のなかに、政治学・法学とともに経済関連の3学科があり、そのスタッフは合計で60人近くになっている。国際会議が終わったあと、社会科学学院長の高永光教授から京都大学との交流を具体化したいという要望があったので、帰国後、関係者と協議の上、授業料の相互不徴収を定めた学生交流協定を締結し、学生・院生レベルの教育も含めて交流を拡大することとした。また、国際シンポジウムや共同研究などにおいても今後連携を拡大したい。

なお、コンファレンスのプログラムほかは以下にあります。

  http://www.css.nccu.edu.tw//economic/index.html

国立政治大学のサイトは次です。

  http://2007.nccu.edu.tw/