=======================================================================================
京大上海センターニュースレター
165号 2007613
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

○上海センターシンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展」のご案内

      中国・上海ニュース 6.4-6.10

○琿春から日本海を見つめる

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

上海センターシンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展

のご案内

 中国の経済成長が内陸部に向かって広がっています。2003-5年の三年間、もっとも成長率の高かった省(自治区・直轄市)は内モンゴル自治区で、たとえば2005年の場合、23.8%の成長を実現しています。この流れは、沿海部の労働力不足と賃金上昇、電力や土地不足などによる企業立地のシフト、それに西部大開発のような大規模な開発政策の推進によって加速されています。今回のシンポジウムでは、この傾向を@内陸部開発への日本企業による貢献、A政府開発援助による日本の貢献、B西部開発の現状と課題、C省別成長率の分析のそれぞれの角度から解明する予定です。

開催日時 200772()2:00-5:30 時計台記念館2F国際交流ホール

主催 京都大学経済学研究科上海センター

共催 京都大学上海センター協力会   後援 環日本海アカデミック・フォーラム(予定)

あいさつ 森棟公夫 京都大学経済学研究科長

コーディネーター 山本裕美 上海センター長

報告者 1)藤井重樹 積水(青島)塑膠総経理 「積水化学の中国事業と内陸部開発」

2)宮崎 卓 京都大学准教授 「内陸部開発への日本の経済協力について」

3)朱 正威 西安交通大学西部開発中心教授 「中国西部大開発の進展と今後の課題」

4)大西 広 京都大学教授 「沿海部から内陸部に向かう高成長地域」

シンポジウムに先立ち、13:00-13:45の間(前前号ではこの時刻を書き間違っていました。申し訳ございません)経済学部2F大会議室におきまして、上海センター協力会総会を開催、またシンポジウムの後には同会議室で懇親会を開催します。懇親会は協力会のご支援で無料で開催しますので、非会員の皆様も是非ご参加ください。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

中国・上海ニュース 6.4−6.10

ヘッドライン

■ 中国:5月物価指数3.4%増、食品類価格高騰

■ 中国:1−5月の貿易総額23.7%増、8千億ドル突破

■ 中国:「姓名登記条例」完成

■ 自動車:5月の乗用車販売昨年同月比23.4%増、前月比10.5%減

■ 中国:外資系不動産企業の設立に報告提出を要求

■ 中国:華南の豪雨・洪水で71人死亡13人行方不明

■ 中国:7月1日から外資系旅行会社に内国民待遇を付与

■ 中国:高齢者が人口の11%、1億4400万人に

■ 上海:総合株価指数続伸、4000点に回復

■ 北京:児童など325人、手足口病に感染

=============================================================================

琿春から日本海を見つめる

大阪府日中経済交流協会副会長、関西日中関係学会会長 原田 修

 5月中旬 一団を率いて15年ぶりに琿春を再訪した。

 そこは中朝露の国境のまち、図們江が日本海に注ぐその15キロ手前に中国側の国境(防川)があり、河口に架かる鉄橋の両端にロシアと北朝鮮がある。

 15年前の防川にはロシアとの境界線に低い鉄柵があって、境界を示す石碑しかなかったが、いまはその地点より遙か後方に警備の守備隊が行く手を阻み、3階建ての望楼が建っていた。

 鉄橋を渡る列車はないが、ロシア側の駅で作業する人たちの姿があった。

遙か地平線の彼方に日本海がある、目を凝らすと海岸線に一艘の船が見てとれる、あぁ、船だよ、あれは海だ、日本海だと、一同が納得する。

 いまは、中朝露の国境地点にいるのだ、日本への最先端である。

 

吉林省延辺朝鮮族自治州

 関空から大連経由で瀋陽に着いた一行は、土曜日の午後ではあったが在瀋陽日本国総領事館の経済担当領事にお出ましいただき、レクチュアーを受ける。

 総領事館の管内は東北三省―遼寧省(瀋陽、大連)、黒竜江省(ハルピン)、そしてこれから出かける吉林省(長春、延吉)である。それぞれがロシアまたは北朝鮮に国境を接しているが、両国に連なっているのは吉林省のみである。その国境線は北朝鮮とは1,206キロ、ロシアとは232キロもあり、総面積は日本の約半分、総人口は約27百万人、省都の長春は四分の一強の730万人とあり、これから出かける延辺朝鮮族自治州は220万人(内朝鮮族は40%)である。州都は延吉市、目指す琿春市はその下部に属する人口25万人の、中国で見れば小都市。それが、いま、なぜ琿春なのか、ということになるのだが、この地の歴史を、もう少しトレスしておこう。

 清朝のはじめ、この地方は易学上満州族の不可侵の場所として入植を禁じられていたが、時代が下がるにつれ朝鮮族の開拓民が当初は日帰りで川を渡り耕作するようになった。一八六〇年代、朝鮮において自然災害が発生、以後朝鮮族の移民が公認され、森林や荒地を開墾、水田開拓に取り組んだ。いまでもこの地でとれる米は中国でもトップクラスといわれる。

 日韓併合と満州国の成立で、この地は日本軍の支配するところとなり、総領事館が間島省龍井市(いまは延吉市の下部都市)におかれていた。敗戦でソ連軍に追われて退却するとき、日本軍が爆破した橋桁がいまも図們江に残っている。このためこの地に来ていた日本の開拓団が取り残された。NHKドラマ“大地の子”の冒頭シーンを想起させる悲劇が、いまなおホームページ上で語られている。

 

 瀋陽から延吉へのフライトは、2時間ほど遅れて出発した。

このところ国内線の便数も増えたようであるが、機材繰りの関係からかタイムテーブル通りに飛ばないことも多いとか。

延吉空港に出迎えに来ていた現地ガイドは、日本に3年ほど留学したこともある朝鮮族の女性。アルバイト先で覚えたのであろうか、日本の若い女性のような“・・・ジャナイデスカ”という語りかけに戸惑いを覚えたのは、こちらの年のせいだろう。

それから三日間、彼女のこの語り口が続くのであるが、北朝鮮と中国籍朝鮮族の人々との交流は、人為的に作られた国境線を越えるものがあるようである。

 

人が歩いて道が出来る

 翌日は日曜日、延吉から琿春への道すがら図們江口岸に立ち寄る。

 図們江をはさんで中国と北朝鮮をつなぐ全長350メートルの橋、15年前は橋の中央まで行けたが、今回は警備の兵士が50メートルほどでストップをかける。

以前見かけた、この橋を往来する中国籍朝鮮族の姿はない。韓国などの観光客の姿も見えないのはまだオフシーズンのせいだろうか。

 ガイド嬢の話では、北朝鮮の親族を訪問するにはこれまで同様一回200元の通行証を申請すれば可能だという。彼女の父親たちは中国の自然災害や文革のときは北朝鮮に行き、治まるとまた中国へ戻ってきていたので向こうには親戚が多いという。数年前までは荷車に一杯食料を積んで行ったが、いまではお金さえあれば何でも買えるというので、ドルを届けているという。

 

 琿春 は1991年、国連のUNDPの提唱で、中国、ソ連、モンゴル、北朝鮮、韓国などを含めた地域開発計画に基づき、中国が先行投資を決定、わたしが前回訪れたとき街中は土埃の舞い上がる開拓途上で、ロシアとの国境の琿春税関(長嶺子税関)しかなかった。その帰路、省都長春市政府の責任者は事務レベルの話し合いは現地で進められているが、朝・露とも現地に決裁権限がなく、なかなか決まらなくて困っていると話していた。その後は中国が同地を国家級の開発区に指定、独自に開発が進められて来たのであった。

 

 15年間で街並みは一変していた。

 輸出加工区などが整然と区画され、道路は四通八達していたが、95年以降の開発は空回りで誘致が進まず、3年前まではゴーストタウン化しかけていたという。朝・露との足並みがそろわず、ロシアのザルビノ港や北朝鮮の羅津港を活用した日本海航路の物流が計算どおりに機能しなかったことが主因。

 しかし、琿春に吹く風は3年前から変化を見せはじめている。

 そのひとつは今回のわたしたち視察団派遣のきっかけとなった、鰹ャ島衣料の現地進出の動機。世界の工場の中国で労働力不足が見込まれ、その人件費アップで労働集約型産業の立地再検討の動きである。

 ふたつめは北朝鮮経済の改革を外から推し進めようとする中国と韓国の動き。

 疲弊した北朝鮮経済の建て直しには市場経済の導入を強力に推し進めさせること。韓国の軍事境界線北の開城(ケソン)工業団地の設立と中国の琿春と北朝鮮の羅津を結びつけようとする動き。

 そのいずれもが北朝鮮の経済的自立を促すものであるが、実質的には中国の人件費の半分以下で優秀な北朝鮮の労働力を確保することでもある。

 小島衣料は設立後2年で、すでに600名の労働者を抱え、今年中には千名は越える。琿春市周辺だけでは労働力は確保できない。すでに吉林省、黒龍江省の奥地からの民工を抱えているが、ねらいは当然対岸の北朝鮮の労働力となる。彼女たちが図們江を渡ってくるのか、ケソン工業団地のように中国の工業団地が羅津地区に出来るのか、水面下の動きはまだ結論が出ていないようであるが、すでに賽は投げられている、とみる。

 

 魯迅もつぎのように語っている。

  「地上本没有路、走的人多了、也便成了路」

 

日本海を見つめる

 3日目、昼食の後、ロシア人の買い物ツアーの現場を視察する。

 中国への入国はひとり3千元以下(の品物)は無税、帰国時は手荷物25キロ2個まで無税の、バスでの一泊旅行。昨夜もホテルで彼らの姿を見かけたが、税関前のおばさんたちの前に並べられた同じ袋の手荷物は、スポンサーつきの

商品(多分日用品)と見た。極東ロシアからの入国には同じような海産物が持ち込まれるとあるから、これは欧州での中国人の高級ブランド商品の買出しツアーと類似する。その手口と仕掛け人には、相通じるものがあるのだろう。

 ロシア製のバス3台が、買出し人と商品を満載して税関を越えて行った。

 

 東北三省の海の玄関口は、大連港のみである。

 吉林省、黒龍江省、そして内蒙古は鉄路で大連まで荷物を運ばなければならない。海外だけではなく、中国の南部の都市へも、木材や糧食など単価の低い大容量の貨物を運ぶのに鉄路運賃のコストでは競争力が低下する。

 京都大学上海センターの資料「日本海対岸貿易の可能性について」をみると、中国の琿春、ロシアのザルビノ、北朝鮮の羅津、それに韓国の束草や日本の新潟などを運行する定期コンテナ船の就航についての提案なり、予測が述べられている。日本海への直接の窓口を持たない中国、琿春にとって、当面の日本海への出口はロシアのザルビノ経由日本が最有力ルートになるだろう。

 小島衣料一社でも従業員が三千人規模になれば定期コンテナ船就航は可能との読みがあるが、ここに来てトヨタの動きが注目されて来ているようである。 

 昨年の通関統計(06.111)によると、吉林省の対日輸入大手10社の輸入額は8.5億ドルで、その最大手は第一汽車集団の自動車部品の輸入である。ここはいわずと知れたトヨタの合弁相手。そのうえロシアのサントペテルブルグ(旧レニングラード)での現地生産が本格化する。日本から南回りの輸送では一月以上かかる時間を極東ロシア経由の鉄路輸送に切り変えた場合、物流コストをいかほど削減できるか(輸送中に寝ている物品のコストも馬鹿にならない)。長春の第一汽車との活用を考えた場合、ロシアのザルビノ港の荷揚げ施設に若干の投資をしても、ウラジオストクに陸揚げするよりもシベリア鉄道に直結する上、琿春まで陸路12時間、線路幅さへ調整すれば鉄路で長春まで直行できるメリットがある。日本から琿春経由で23日での物流が可能となるのである。

 

 琿春から日本海を見つめる旅は終わりに近づいてきた。

 同行の知人で、中・露ビジネスにも経験豊富なSさんがつぶやいた。“もう20歳若かったらなぁ!”、わたしも同じ思いがしていた。日本海を平和の海にする仕事は、次の世代にバトンタッチしなければならないが、政治を動かすのに経済の力が大きいことは「政冷経熱」で実証されている。開かれた道を踏み固め、広げて行かなければならない。(200763日 記)