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京大上海センターニュースレター
第172号 2007年8月1日
京都大学経済学研究科上海センター
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目次
○国際コンファレンス「東アジア経済のガバナンス問題」のご案内
○
中国・上海ニュース 7.23-7.29.
○フライト遅延とゴネ得
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国際コンファレンス「東アジア経済のガバナンス問題」のご案内
前号でもお知らせしましたように、京都大学21世紀COE経済学プログラムは、上海センターと共催で、「東アジア経済のガバナンス問題」をテーマとした国際コンファレンスを9月18−19日に開催します。会場は、京都大学百周年時計台記念館の2階国際交流ホールです。
コンファレンスの目的は、従来以上に緊密な相互依存関係をもつようになった東アジア諸国民のかかえる経済問題を「ガバナンス」の視角から検討することです。この目的で、地域空間経済学、国際通貨・金融、コーポレート・ガバナンス、地域・公共政策、環境保全などのさまざまな領域での研究の発展を統合するとともに、制度と組織の経済分析の成果を生かす必要があります。
コンファレンスにはこの地域の指導的研究者を招くとともに、提携関係にある大学に積極的な参加をよびかけています。また、経済学研究科と提携関係にある東アジア4大学からは、若手研究者も参加して、京都大学の若手研究者とともに、引き続く9月20−21日に開催されるヤング・スカラーズ・ワークショップで研究報告するとともに交流を拡大します。なお、使用言語はコンファレンス、ワークショップともに英語です。詳細は前号「ニュースレター」ないし、経済学研究科COE支援室(tel. 075-753-3452: coe-jimu@econ.kyoto-u.ac.jp)にお願いします。
(組織委員:八木紀一郎)
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中国・上海ニュース 7.23−7.29
ヘッドライン
■ 中国:1−6月、都市部住民可処分所得実質14.2%増
■ 中国:インフレを懸念、電力値上げ認めない
■ 中国:工作機械、生産規模が世界4位に
■ 中国:07年農業インフラ整備に100億元拠出
■ 中国:教育部直属6師範大学、学費免除生1万人余り受け入れ
■ 証券:上海、深圳証取の時価総額が19兆元を突破
■ 上海:原料高で豆腐2割値上げ
■ 上海:個人向け住宅ローンの伸び加速
■ 江蘇:蘇州−下関間、8月28日からフェリー就航
■ 北京:1−6月、日本からの観光客28%増の28万人
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フライト遅延とゴネ得
30.JUL.07
株式会社小島衣料代表取締役社長 小島正憲
7月18日、私は延吉空港14時発、中国南方航空公司:CZ6551便で、煙台経由上海に向う予定だった。いつもどおり、定刻の1時間前に延吉空港に着き、搭乗手続きを行い、そしてセキュリティチェックを済ませ、搭乗待合室に入った。そこまでは順調だった。ところが搭乗予定時刻になってもなんの案内もなく、30分ほど過ぎてから、やっと機体整備のため出発は16時半になるとの放送があった。仕方がないので、その時刻まで待った。しかし予定の16時半になったとき、さらに2時間遅れるとの放送がされた。そのとき上海行きの搭乗口付近には、ざっと100人ほどの乗客が待っており、それらの人々がいっせいに大きなため息をついた。
その後すぐに、一部の乗客が騒ぎ出した。なかでも背が高く、腕っ節の強そうな40歳代の赤いシャツを着た男性が先頭に立ってわめいた。「飛行機を早く出せ」というのである。このような場合、私はいつも、「整備不十分で早く飛び立っても、途中で落ちたら元も子もない。だから我慢して待つべきだ」と思っているので、「ムチャなことを言う馬鹿なやつもいるもんだ」という気持ちで、その騒ぎを横目で見物していた。
18時30分に、搭乗開始のアナウンスがあった。そのとき、さきほどの赤シャツの男が、搭乗者を整理する金属スタンド付きのラインで搭乗口をふさぎ、なにやら大きな声で騒いだ。しかしすぐに男性服務員がそれを撤去し、搭乗手続きを開始したので、私はさっさと機内に入った。私に続いて、機内には20人ほどが入った。ところがなかなか後の人たちが入って来なかった。座席でシートベルと締めて、いらいらしながら30分ほど待っていると、客室乗務員が私の側にやってきて、100元札を差し出し、「遅くなってもすみません。お詫びのお金です」と言った。私が怪訝な顔をして、受け取らずにいると、彼女は同じ言葉を繰り返し、私の手に札を握らせ、次の乗客の席に向った。客室乗務員は機内の乗客全員に100元を配って回った。そのとき私は、「待合室での大騒ぎの結果、100元の弁償金で決着がついたのだろう。そのおすそわけが私たちにも回ってきたのにちがいない」と思った。
しかしそれでも他の人たちは、乗り込んでこなかった。さらに30分ほど過ぎて、先ほどの客室乗務員がまた100元札を配ってきた。今度は素直に受け取った。そして「外での交渉の結果が、200元に値上がりしたのだろう。しかしこの200元には受領サインもしていないので、航空会社はこれをどのように経費処理をするのだろう。ひょっとすると責任者のポケットマネーだろうか」などと、余計なことを考えた。そのうち、ようやく、赤シャツ男性を先頭に、多くの客が乗ってきた。彼は英雄気取りであった。さぞかしこのゴネ得交渉はおもしろかったことだろう。私は早く機内に入ってしまっていたので、この光景を見られなかったことを残念に思った。
冷静に考えてみれば、このフライトは200元の戦果のおかげで、さらに1時間遅延した。おかげさまで、合計5時間半遅れの出発となった。しかもこの1時間の遅れのせいで、その日のうちには上海に着けず、煙台泊まりになってしまった。なぜなら、経由地の煙台で雷雨に見舞われ、当日の上海行きフライトがキャンセルとなってしまったからである。1時間早ければ、雷雨に会わずにすみ、その日のうちに上海に着いていたのである。私は200元よりも、その日のうちに上海に着きたかったので、赤シャツを恨んだ。
私が仕方なく、航空会社が用意したホテルに向おうとしていたとき、赤シャツの男がまた騒ぎ始めた。私は、今度はこの騒動の結末を見届けようと思ってその場に居残った。そこには30人ほどの乗客が集まっていた。赤シャツは大声で、南方航空の煙台責任者とおぼしき男性に、「琿春では4時間で200元だった。明朝までは8時間だから400元を払え」と、怒鳴っていた。他の乗客たちも、同調して気勢をあげた。30分ほど押し問答していると、とうとう空港警察がやってきた。それでもさらに30分ほどもめ続けた。そのうち男性責任者がなにやらメモを書いて、赤シャツに渡した。どうも弁償金の約束のようであった。それでやっと決着し、全員が航空会社差し回しのバスに乗ってホテルへ向った。ホテルに着いたとき、時計は1時をはるかに過ぎていた。
翌朝7時、昨日と同じバスで空港へ着いた。待合室は拍子抜けするほど、平穏であった。あの赤シャツ男性は黄色いシャツに着替えており、なぜか昨晩とはまったく違い、おとなしかった。おかげで乗客全員がスムーズに搭乗口まで進むことができた。ただ搭乗口のところに大きな白板が置いてあり、そこには、「われわれは南方航空の接客態度にたいへん不満である。これからは南方航空には乗らないようにしよう。CZ6551便:乗客一同」と、大書してあった。しかもこの抗議の白板は、搭乗口をふさぐようにして、堂々と置いてあった。私は、「航空会社はこの白板をなぜ撤去しないのだろうか。ひょっとすると昨晩のうちに、あの赤シャツたちだけが多額の弁償金をせしめており、この看板は他のもらっていない乗客へのカムフラージュなのかもしれない」と考えながら、白板の脇をすり抜けて機内に入った。
いずれにせよ、この騒動で私を含めて乗客全員が、現金で200元の弁償金をもらったことは事実である。本来、航空約款に従えば、このような場合、航空会社は乗客に弁償金を払うべき責任を負わない。これが先進国の常識である。今後、今回のように乗客のゴネ得に負けて、航空会社が契約を曲げて妥協し、勝手に弁償金を払うようなことが続けば、その悪しき前例はまたたくまに中国全土に普及し、どこの空港でもフライト遅延が起きるたびに乗客が大騒ぎすることになり、収拾がつかなくなってしまうだろう。だから航空会社の責任者は、たとえどんなことがあっても、どんなに罵声を浴びせかけられても、毅然とした態度を貫き、弁償金などを支払うべきではない。
マスコミなどで中国事情が報じられるときは、中国政府の非道な政治にあえぐ、虐げられた中国人民という図式が多い。しかし事態はそんな単純なものではなく、中国政府がまっとうな法治国家を目指し努力を重ねていても、中国人民が集団の力を背景に、その法律を踏みにじり、ゴネ得をまかり通らせている事例も少なくない。もし政府の側が不法な人民の圧力に負け、ゴネ得に負け、法治を貫かず、かたや人民側がゴネ得で法治を骨抜きにするならば、中国はいつまでも先進国の仲間入りをすることはできないだろう。だから中国人民は、徒党を組んで法律無視のゴネ得を押し通してはならない。また法治を標榜する政府の側も、法律厳守の立場から、ゴネ得に対しては、毅然たる態度を取らねばならない。不法な要求に対しては、妥協してはいけない。