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京大上海センターニュースレター
175号 2007822
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○国際コンファレンス「東アジア経済のガバナンス問題」のご案内

      中国・上海ニュース 8.13 -8.19

○中国西部大開発の進展と今後の課題

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国際コンファレンス「東アジア経済のガバナンス問題」のご案内

前号でもお知らせしましたように、京都大学21世紀COE経済学プログラムは、上海センターと共催で、「東アジア経済のガバナンス問題」をテーマとした国際コンファレンスを9月18−19日に開催します。会場は、京都大学百周年時計台記念館の2階国際交流ホールです。

 コンファレンスの目的は、従来以上に緊密な相互依存関係をもつようになった東アジア諸国民のかかえる経済問題を「ガバナンス」の視角から検討することです。この目的で、地域空間経済学、国際通貨・金融、コーポレート・ガバナンス、地域・公共政策、環境保全などのさまざまな領域での研究の発展を統合するとともに、制度と組織の経済分析の成果を生かす必要があります。

コンファレンスにはこの地域の指導的研究者を招くとともに、提携関係にある大学に積極的な参加をよびかけています。また、経済学研究科と提携関係にある東アジア4大学からは、若手研究者も参加して、京都大学の若手研究者とともに、引き続く9月20−21日に開催されるヤング・スカラーズ・ワークショップで研究報告するとともに交流を拡大します。なお、使用言語はコンファレンス、ワークショップともに英語です。詳細は前号「ニュースレター」ないし、経済学研究科COE支援室(tel. 075-753-3452: coe-jimu@econ.kyoto-u.ac.jp)にお願いします。

(組織委員:八木紀一郎)

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中国・上海ニュース 8.13−8.19

ヘッドライン

■ 中国:今年4回目の利上げ実施、インフレ懸念に対応

■ 中国:07年に輸出総額が世界2位か

■ 中国:個人による海外証券投資、中国銀行天津支店でスタート

■ 中国:1−6月全国鉄道旅客輸送量、6.48億人

■ 中国:7月の建物物件価格7.5%上昇、伸び率拡大

■ 自動車:上海GM、国内初のゼロ金利自動車ローン

■ 自動車:上海汽車07年中間期決算、純利益4.58倍

■ 北京:五輪までにレンタル自転車5万台を導入

■ 上海:1−7月対台湾貿易赤字47億米ドル 

■ 上海:7月の賃貸料、昨年同期比8.5%上昇

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中国西部大開発の進展と今後の課題

西安交通大学教授 朱正威

72日のシンポジウムで朱教授が報告した内容は、西部大開発計画における陝西省の位置づけ、西部大開発に関連する同省の現在までの成果、直面する課題および西部大開発全体を見るに際して考察すべき点、からなる。

中国の西部は陝西省を含む12の省、直轄市および自治区からなる。同じ西部とは言ってもこれらの地域間において相違がある。中でも陝西省は資源開発産業が強く、伝統的工業の基礎も有し、人材面でも優位であるなど、西部の他地域にくらべより強固な発展の基礎を有しており、西部大開発計画の実施において、他の西部諸地域に比べてもより重要な役割を持っていると考えられる。

陝西省の西部大開発に関する成果に目を向けると、たとえばインフラ建設、退耕還林の急速な進展、産業構造における第二次産業の貢献度合の増大、貿易額の増加に見られる対外開放の進展、および科学技術の領域における多数の賞の獲得などに代表されるとおり、他地域に比してより良好なパフォーマンスを見せていると評価できる。

しかしながら、同省は西部大開発の実施過程においていくつかの課題に直面している。まずは経済成長そのものについて、陝西省自体は西部大開発開始後に明らかに成長速度を増してきているが、本実施前後の、西部地域が全国に占める比率を比較してみると、ほとんど横ばいであり、他地域の経済成長速度は同省と同等、もしくはそれ以上であると考えられる。また資源開発産業が巨大な利潤を生み出しているにも関わらず、それが一般の市民を裨益するに到っておらず、都市と農民の間の格差感が強まってきている。

こうした陝西省の状況を踏まえ、以下、西部大開発全体を見渡した場合に、考察すべきいくつかの点を述べる。

まずは計画目標を更に明確に定めることが必要である。目標を絶対的水準として策定するか、他地域との比較を配慮した相対的目標をするか。実現期間を明確かするか、それはどれくらいの期間であるべきか、といった点につき、十分に検討・明確化する必要がある。

次に、目標実現の過程を正確に把握しておく必要がある。この過程として広く認識されているものは以下の諸類型に整理可能と考える。すなわち、平等な条件の下での競争や効率向上を重視する考え方、生態環境保証を重視する考え方、および一定の成長率実現を重視する考え方、である。しかしながらそれぞれの考え方につき検討してみると、平等な競争は、沿海部が優遇政策により発展してきた経緯に鑑みると、公平とは言いがたく、効率重視の考え方は、効率の高い沿海部への投資集中をもたらしうる。生態環境保証の重視は、三大河川の源泉の立地に代表されるとおり、要保護地域を多く擁する西部がより大きな負担を課せられうるし、成長率一定の政策は現時点で初期条件に大きな差異がある以上格差を拡大をもたらしうる。以上のように、広く議論されている目標実現過程は、残念ながらいずれも西部地域に対し不利な考え方である。

また更に、以下の利益関係にも十分に留意する必要がある。すなわち西部開発による利益が西部に帰着することの確保(単なる西部の利益流失にならないこと)、都市と農村の関係、少数の富裕者と多種の一般民衆との再配分問題を解決すること、政府財政と民衆の社会保障を調整すること、及び中央政府が地域間格差是正・再配分の役割を果たすための財源確保に関連して地方政府との関係を整理する、といったように、これらの諸関係を十分認識しつつ、問題に取り組む必要がある。