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京大上海センターニュースレター
179号 2007920
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○京都大学上海センター 中国自動車シンポジウムのご案内

      中国・上海ニュース 9.10-9.16

○新労働契約法の自己流解釈

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京都大学上海センター 中国自動車シンポジウムのご案内

「中国におけるユーザーの購買行動―クルマの選び方・乗り方・売られ方―」

2007113() 12時  於  京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホール

挨拶 京都大学理事・副学長  西村周三

テーマと報告構成の説明 京都大学大学院経済学研究科教授  塩地 洋

報告 フォーイン 第一調査部部長 周 政毅   中国乗用車市場における製品競争力

 

大阪商業大学准教授    孫 飛舟    自動車購買者の店舗選択

                                            ――20078月北京ユーザー調査から――

 

京都大学大学院学生    李 澤建   インターネット情報の影響分析

金沢学院大学講師          西川純平  ユーザーの買い方とディーラーの売り方

J.D.パワー・アジアパシフィック部長木本 卓   ユーザーのクルマの選び方

                                   ――IQS(初期品質調査)からのインプリケーション――

入場無料、終了後懇親会を予定(これも無料です)

参加希望者は塩地(shioji@econ.kyoto-u.ac.jp)まで御連絡ください。

また、本シンポジウムは上海センター協力会の後援で開催されます。

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中国・上海ニュース 9.10−9.16

ヘッドライン

■ 中国:06年1人当たりGNP、2010米ドルに

■ 中国農業部:食糧自給率95%以上で安全保障に問題なし

■ 中国:1―8月海外からの直接投資額12.79%増の419億米ドル 

■ 中国人民銀行:今年5回目の金利引き上げを決定

■ 中国:都市住民と農民の収入格差さらに拡大

■ 中国:1−7月豚肉輸入量2.3倍増、輸出39%減

■ 内モンゴル:オルドス盆地に埋蔵量5億6800万トンの油田発見

■ エネルギー:石炭液化油の年産能力、08年に14万トンに

■ 上海:水素燃料電池バスが登場

■ 上海:8月、外食産業の売上高が20.2%増

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新労働契約法の自己流解釈

                   16.AUG.07 

株式会社小島衣料代表取締役社長  小島正憲

 

最近、中国の日系企業の間では、2008年1月1日から施行される労働契約法について、熱心な勉強会が相次いで催されている。これはこの新法が、経営者側に不利、労働者側に有利なものと考えられているため、多くの企業が危機感を持って受け止めていることの現われである。わが中小企業家同友会上海倶楽部でも、8月6日に錦天城法律事務所の李倍良弁護士を講師に招いて、上海マートの会議室で勉強会を開催した。そこにも30名ほどの参加者があり、講義のあとも真剣な質疑が繰り返された。また、この新法は中国の一般市民の間でも関心が高く、当局が開いているインターネットのサイト上でも、かなり具体的なやり取りが展開されている。さらに民間企業経営者の間では、「あまり儲からない事業は、この新法が施行される前に、思い切ってやめてしまった方が痛手が少ないのではないか」という言葉が、ささやかれているほどである。

今回は、勉強会での情報や各種資料などをもとにして、以下に労働契約法の自己流解釈を試みてみたい。ただし、これらはあくまでも私的な見解なので参考程度にとどめていただき、重大案件については必ず弁護士などと協議して対応していただきたい。なお本法施行までに、随時、施行細則が発表される予定であり、その段階でも手直しが加えられる可能性があるので、それにも十分な関心を払っておいていただきたい。

 ※ ◎の部分は本法の要約解説。 →の部分は私の自己流解釈。

 

1.労働規則制度の確立(第4条)と告知義務(第8条)

◎雇用単位は、労働規則制度を確立、整備しなければならず、その制定や修正などについては、従業員代表大会または全従業員と討議し、工会または従業員代表と平等協議して決定しなければならない。またこの決定は労働者に公示するか告知しなければならない。

◎雇用単位は労働者を雇用する場合、労働条件および労働規則について、労働者に正しく告知しなければならない。

→これらの条項は従来の労働法の中にも見られたが、今回はその厳正な執行が求められている。労働規則については、決定にいたる過程では若干の弾力的な運用が許されると考えられるが、決定後は公示するか告知を義務付けられている。しかも修正については工会か従業員代表と平等協議しなければならないとされている。この結果、おそらくすべての企業に工会が必要不可欠となり、工会とは日常不断に意志統一をしておく必要にせまられる。また雇用の際には、後日この告知義務をめぐって紛争になることが予測される。したがって必ず労働規則読了のサインの受領が必要となる。

→8/15:日経新聞によれば、広東省のある企業では、新法の施行を見越して、経営幹部と従業員代表が向き合い、労使対話の場として「発展委員会」を設けたという。今後日系企業の間で、このような動きが加速するであろう。

2.書面による労働契約の締結(第10条)

◎労働関係の確立は、書面による労働契約を締結しなければならない。1か月以内に結ばないと、雇用主は労働者に対して毎月の報酬の2倍を支給しなければならない。

→口頭でのあいまいな労働契約は一切無効であり、個別に確実に書類で締結しておかねばならない。また期限付き契約で、期限を過ぎても書面での再契約を忘れていた場合には、賠償金を支払わねばならない。したがって全従業員の入社年月日をしっかり記録しておき、とりこぼしのないようにしておかねばならない。これらの事務経費も相当額にのぼり、企業経営を圧迫することになる。

3.期限付き労働契約(第13条)と無期限労働契約(第14条)

◎以下の場合、雇用主は労働者との間で、期限の定めのない労働契約を締結しなければならない。

  @労働者が当該企業で満10年以上勤続した場合。

  A連続2回、期限の定めのある労働契約を締結した後、引き続き再契約をする場合。

  B期限付き労働契約満了日経過後、労働者と書面による労働契約を締結していない場合、雇用主が労働者と期限の定めのない労働契約をしたとみなす。

→従来の労働法では、期限付き雇用契約の繰り返しが何度も可能であったため、雇用主は短期雇用を繰り返すことによって、景気の変動に弾力的に対応してきた。つまり、労働者の解雇については従来の労働法でも十分な理由が必要とされていたので、雇用主は無用な紛争を避けるため、雇用契約をできるだけ短期にしておいて、解雇の必要性が生じた場合には、雇用満了日を待って雇用を解消させるという方法をとってきたのである。ところが今回の新法ではこれが禁じ手となった。したがってこの一点から見ても、雇用主にとって中国の労働環境は先進国とほぼ同様の厳しさとなったと判断できる。この手が使えなくなったので、雇用主は景気変動に対応して、労働者を増減させることが不可能となり、経営上大きな痛手となる。またBの規定も明記されたので、雇用主はくれぐれも労働者の個別事務管理を徹底しておかねばならない。

→すでにインターネット上では、この事態をかつての毛沢東時代の「鉄飯碗」の再来として、それを歓迎する文言が踊り始めている。つまりこの新法の普及で、実質的に雇用主がすべての労働者を終身雇用しなければならない羽目となり、一般市民は素直に、かつての共産主義時代の「働かなくても、食いっぱぐれのない生活がもどって来た」と喜んでいるのである。

4.試用期間(第19条)

◎試用期間は、その後の労働契約期間に基づき、期限を設定しなければならない。試用期間中の給与は、労働契約時の80%を下回ってはならない。試用期間中であっても、正当な理由なしで労働契約を解除することはできない。

→従来のあいまいな試用期間の雇用契約は不可能となり、試用期間といえども正規雇用とほぼ同等と考えなければならない。

5.契約解除時の経済補償(第47条)  

◎雇用単位は、労働契約を解除する場合、労働者に対して経済補償をしなければならない。

◎経済補償金は、労働者の勤続年数に基づき、満1年ごとに1か月分とする。

→この経済補償金は、契約満了での解除であっても支払わねばならず、いわば退職金と同等と考えておかねばならない。企業にとって、この人件費負担はきわめて大きなものとなる。

6.違法な契約解除の賠償金(第87条)

◎雇用主が本法の定めに違反し、労働契を解除した場合、2倍の賠償金を支払わねばならない。

→この条項は、雇用主が違法に労働契約を解除した場合、「1か月分の給与×勤続年数×2倍」の賠償金を雇用主に支払わせることで、紛争を金銭で短期に決着させることを目的としたものと思われる。この条項のみは、経営者側にとって有利と考えられる。つまり上記の金額を支払う覚悟であれば、解雇は可能ということである。しかしその場合でも、労働者が勤務を続行することを望んだ場合は、よほどのことがない限り、雇用主はそれを拒むことはできない。

 

ここまで書いて、この短文を発信しようとしていたとき、新たなニュースが手元に届いた。上海オンラインサイト上に、上海市労働仲裁部発で、労働者向けに、「年末に向けて、駆け込みリストラがあるので注意しよう」という情報が発信されたのである。来年11日に、新労働契約法が実施されるので、経営者は労働者を解雇することが難しくなる。したがって年内中に、各公司にリストラの嵐が吹くと思われるので、労働者はそれを十分に頭に入れて、慎重かつ穏便に対応すべきであるという趣旨のものである。

この指摘通り、経営者側は必ず年内に不適格労働者のリストラを行うだろうから、年末にかけて社会の大混乱が予測される。これを見越して、政府は労働者に警告を発し、注意を喚起しているのである。だが当局がそれだけでは収まらないと判断したとき、さらに奇策を繰り出すかもしれない。それは前倒しの新法実施である。経営者側、とくに日本人経営者などは過度に政府を信じているので、年内に事を片付ければよいと考えているに違いない。しかし中国当局は社会の大混乱を避けるために、たとえば10月1仮実施という挙に出て、経営者側の事前の動きを封じ込めることも予測できる。その場合、悠長に構えていた経営者は万事休すである。だから、新労働契約法への対応は9月末までに終わることがのぞましい。事態は急を要している。できうれば多くの経営者が、この私の短文を目にして緊急対応策を打たれることを望むものである。