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京大上海センターニュースレター
182号 20071011
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      京都大学上海センター 中国自動車シンポジウムのご案内

○ジョージ・クー氏講演会のご案内

      中国・上海ニュース 10.1-10.7

○頻発するストライキにどう対処するか

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京都大学上海センター 中国自動車シンポジウムのご案内

「中国におけるユーザーの購買行動―クルマの選び方・乗り方・売られ方―」

2007113() 12時  於  京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホール

挨拶 京都大学理事・副学長  西村周三

テーマと報告構成の説明 京都大学大学院経済学研究科教授  塩地 洋

報告 フォーイン 第一調査部部長 周 政毅   中国乗用車市場における製品競争力

 

大阪商業大学准教授    孫 飛舟    自動車購買者の店舗選択

                                            ――20078月北京ユーザー調査から――

 

京都大学大学院学生    李 澤建   インターネット情報の影響分析

金沢学院大学講師          西川純平  ユーザーの買い方とディーラーの売り方

J.D.パワー・アジアパシフィック部長木本 卓   ユーザーのクルマの選び方

                                   ――IQS(初期品質調査)からのインプリケーション――

入場無料、終了後懇親会を予定(これも無料です)

参加希望者は塩地(shioji@econ.kyoto-u.ac.jp)まで御連絡ください。

また、本シンポジウムは上海センター協力会の後援で開催されます。

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米国デロイト・グループ中国部長ジョージ・クー氏講演会のご案内

「日米中三国関係の将来」

(The Future of China, Japan and the US on Three Troubling Trajectories)

この度、アメリカ企業の対中進出のサポーターとして有名な表記ジョージ・クー氏の来日を記念し、この度、講演会を企画しました。変化する米中関係とその中での日本の位置について、ビジネス最先端の視点から鋭い指摘を受けることになります。通訳あり、参加費無料ですので、是非多くの方の参加をお願いします。

日時 20071110()  10:00-12:00

会場 京都大学経済学研究科2F大会議室

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中国・上海ニュース 10.1−10.7

ヘッドライン

■ 中国:6月末対外債務残高、3278億米ドル

■ 中国:連休で消費品小売総額が前年比16%増

■ 中国:国慶節の鉄道輸送量、前年比14%増

■ 中国:1−9月小型火力発電ユニット903万kw停止

■ 中国:07年粗鋼生産量5億トン超か

■ 中国:06年留学生16万人を受け入れ、08年5000院生を海外留学させ

■ 中国:運転免許証所持人数、1億突破

■ 自動車:国産乗用車価格、7カ月連続で下落 

■ 北京:地下鉄5号線、試運行開始

■ 上海:供給過剰、上海蟹の値段が下がる

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頻発するストライキにどう対処するか

15.SEP.07

株式会社小島衣料代表取締役社長  小島正憲

9月5日の時事速報によれば、広東省深圳の日系企業の凸版印刷で1000人規模のストライキが起きたという。労働者側の要求は、「月曜日の振り替え出勤として、土曜日に出勤したので割り増し賃金を支払え」というものだった。ストライキそのものは、労使間の話し合いで昼ごろに解決したという。同工場は週休2日制で、通常は土日が休み。しかし月曜日に停電が頻発することから、必要に応じ、月曜日を休日、土曜日を出勤日としている。勤務体制の変更については、「地元労働当局に事情を説明し、理解を得ている」としている。

現行労働法では、振り替え出勤の場合には、たとえそれが土・日・祝祭日であっても、割り増し賃金を支払う必要はない。ましてこの深圳の工場のように、地域全体の停電という個別企業では避けがたい理由であった場合、しかも労働局の了解済みならば、経営者側に非はない。ところが残念ながら労使間のコミュニケーション不足で、上記のような不測の事態となった模様である。

8月31日の北京時事では、四川省成都でリストラ補償金の削減に怒った労働者3000人がストに突入し、警官隊と衝突する事件が報じられた。最近、中国全土で大小のストライキが頻発しているが、その中で報道されるのは、このように1000人以上の規模のものだけである。私の周辺でも、よく見かける100人ぐらいのストライキなどは、ニュースにもならなくなってきているのである。

昨日、私のもとに同友会上海倶楽部の会員さんで、東莞で機械部品を生産している日本独資公司の社長さんがたずねてきた。「1か月ほど前に、工場内で給与のアップを要求したストライキが起きたので、それを拒否すると50名ほどの従業員が突然やめてしまった。今では、従業員の補充がまったくできず、たいへん困っている。なにか名案はないだろうか」という相談だった。私は、その社長に私の経験や今後の対策などを詳しく、2時間ほどかけて話した。彼は別れ際に、「今、東莞ではたくさんのストライキが起きている。それを専門でたきつけて回っている連中もいる。たいへん困った状態だ」と嘆いて帰って行った。確かに、東莞については台湾の電気・電子機器メーカー団体が、「東莞市への投資は薦められない」との見解を発表している。理由はコスト高・治安悪化・ストライキの多発などである。しかしこれらの理由は、東莞市だけに限られたことではなく、広東省全体の現象である。やがてこれらの事態は、中国全土に波及するであろう。

一般の日本人経営者は、ストライキなどへの対処が下手である。なぜならば、日本では民間企業での大きなストライキなど、絶えて久しく、それに対処した経験のある人材がいないからである。だから中国で、ストライキが起きた場合、日本人経営者はどのように対処してよいかわからず、右往左往してしまうのが現状である。さて中国で不幸にしてストライキが起きた場合、日本人経営者はいかに対処すべきだろうか。今回はそれを考えてみたい。

いったんストライキが起きた場合、経営者はその時点で工場を捨てるつもりで、腹をくくり、開き直ることがもっとも重要である。命まで取られるわけではないから、動揺しないこと。そしていたずらに譲歩せず、とにかく毅然としてのぞむこと。それがもっとも正しい態度である。現状の中国では、経営者側が勝利することは困難であり、結局、経営者側が譲歩し、労働者側の要求を呑まねばならない。そしてその後の工場経営では、労働者側の要求はどんどんエスカレートしていき、経営者側はずるずると後退せざるをえない。不幸にしてストライキが起こってしまった場合、その後の工場経営は、どうせうまくいかないのだから、その時点で腹をくくればよい。そうすれば逆に、交渉は有利に運ぶ。労働者側につけいる隙を見せないように振舞うことである。まずそこからである。

15年前、私の上海の工場でも、30人ほどが夏季手当てを要求して、いっせいに職場放棄をする事件が起きたことがある。そのとき、私はただちに職場復帰を命じ、復帰者には話し合いに応じ、復帰しない者には解雇をすると宣言した。1日待ったが、残念ながら一人も復帰してこなかったので、全員解雇し、その場を乗り切った。ただしこれは15年前の話である。現在では、労働法が変わり、労働者の意識も変わり、さらにこれに反日意識も加わっているので、こんなムチャなことはできない。

私は日本では、若いころ、労働者側の立場で、赤旗を振ってデモを行い、ストライキを支援していた。したがってストライキや大群衆には慣れており、それにびびることはない。したがってこのような老人を現場に立たせ、陣頭指揮をさせれば、未経験の若者よりもはるかに役に立つ。そしてなによりも、すでに現役をリタイアしており、このことで首になっても経済的には困らないので、このような事態に毅然として対処できる。私たち団塊の世代には、似たような体験を持つ人が多い。その老人たちはボランティアで、喜んで中国の地に馳せ参じてくれるにちがいない。これもストライキ対策として考えておいていただきたい。

以上は冗談だが、率直に言って、ストライキが起きてからでは手遅れであり、それを未然に防ぐことが、もっとも肝要である。以下にその方法を列挙しておく。

@労働関係法規をよく勉強して、それを遵守しておくこと。中国の労働関係法規は、日本のものとは違う。その上、来年から労働契約法が施行される。しかも各地方で、固有の条例もある。それらをしっかり勉強して、その法令を遵守しておくことである。労働者は仲間内で、労働法規に関する新情報を携帯電話でやり取りし、経営者よりもそれらを熟知しているのが現実である。他都市の紛争が瞬時に、自分の工場に飛び火すると考えておくべきである。ちなみに上海倶楽部では、8月以降、弁護士を講師に労働契約法の勉強会を開催し、多くの日本人経営者とその対策について検討を重ねている。

A弁護士などと常に相談しておくこと。その場合、できれば日本人弁護士がのぞましいが、経費面も考えて、日本語を話せる中国人弁護士を顧問に頼んでおくと都合がよい。なにしろ法律問題が絡んでくるので、通訳を介していては面倒である。中国人弁護士でも日本語が話せるとなると、顧問料が格段に高くなるが、この際それを惜しんではいけない。その弁護士と日常的に相談し、公司の内容についてよく理解してもらっておき、紛争が起きた場合でも被害が最小限にとどまるように、ただちに手が打てるようにしておくことである。事件が起きてから、公司の内情について弁護士に説明していても手遅れなのである。

B常日ごろの労使関係を良好にしておくこと。労働組合を毛嫌いするのではなく、労働組合幹部と常日ごろから、労働者の状況について話し合っておき、問題が起きそうならば、事前に手を打っておくことである。些細なことかもしれないが、たとえば労働者が病気で休んでいる場合など、それが会社に起因する場合でなくても、労働者に労働組合を通じてお見舞いをしておけばよい。そうしておけば、最悪、病欠が長期化した場合、労働組合幹部から本人に辞表を出させるように仕向けることが可能で、病気を理由にした解雇という事態を避けることができる。

C行政当局とのパイプを太くしておくこと。労働局の幹部などと、適時、会食などを行い、その地方の労働状況などをよく聞いておくことが必要である。近所で労務紛争が起きれば、当然のことながら、すぐに自分の工場に影響が及ぶ。だから事前にそれに手を打つために、情報の入手につとめておくべきである。また解決方法などのアドバイスをもらえるような良好な関係を築いておくべきである。また自分の工場の労働者から投書などが行った場合、できれば内密に情報を知らせてもらうような関係になっておくとよい。

D幹部を現地化しておくこと。労務紛争が起きた場合、日本人の中途半端な中国語では対応できない。そのとき矢面に立ってくれるような中国人幹部を養成しておくことが重要である。裁判ともなれば出頭しなければならないのは総経理であることが多いので、その職務は中国人に任せることがのぞましい。

E公司を細分化しておくこと。大規模な工場の場合、全社いっせいにストライキなどという事態になり、それが長期化すれば、公司の経営に甚大な被害を及ぼす。もし可能であれば、工場を細分化し、それぞれ分社化しておくと、その被害を最小限に食い止めることができやすく、場合によっては、1〜2工場ぐらいは閉鎖するという作戦も取りうる。ただし、公司の分社化の場合は、公司間の増値税などを含めてクリヤーしておかねばならない課題が多いので、必ず、弁護士と相談の上、実施していただきたい。

F困った場合は、ただちに駆け込める組織と連絡を取っておくこと。たとえば上海倶楽部では、これらの事態に、常時対応可能な事務員を配置し、複数の弁護士と連絡をとっている。さらにいろいろな人脈も築き、臨戦態勢を引いている。最近では、この部隊の出動回数も増えている。このように、問題が起きたときにただちに駆けつけ、親身になって相談してくれる仲間を作っておくことが大事である。