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京大上海センターニュースレター
185号 2007111
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      京都大学上海センター 中国自動車シンポジウムのご案内

○ジョージ・クー氏講演会のご案内

      中国・上海ニュース 10.22-10.28

○本音で語るミャンマー情勢

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京都大学上海センター 中国自動車シンポジウムのご案内

「中国におけるユーザーの購買行動―クルマの選び方・乗り方・売られ方―」

2007113() 12時  於  京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホール

挨拶 京都大学理事・副学長  西村周三

テーマと報告構成の説明 京都大学大学院経済学研究科教授  塩地 洋

報告 フォーイン 第一調査部部長 周 政毅   中国乗用車市場における製品競争力

 

大阪商業大学准教授    孫 飛舟    自動車購買者の店舗選択

                                            ――20078月北京ユーザー調査から――

 

京都大学大学院学生    李 澤建   インターネット情報の影響分析

金沢学院大学講師          西川純平  ユーザーの買い方とディーラーの売り方

J.D.パワー・アジアパシフィック部長木本 卓   ユーザーのクルマの選び方

                                   ――IQS(初期品質調査)からのインプリケーション――

入場無料、終了後懇親会を予定(これも無料です)

参加希望者は塩地(shioji@econ.kyoto-u.ac.jp)まで御連絡ください。

また、本シンポジウムは上海センター協力会の後援で開催されます。

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デロイトトウシュ トーマツ中国部長ジョージクー氏講演会のご案内

「日米中三国関係の将来」

(The Future of China, Japan and the US on Three Troubling Trajectories)

ジョージ・クー(顧屏山)氏は、中国におけるアメリカ企業ヘのコンサルタントとして30年近い経歴を有し、またその間日米間の国境を越えた業務に も携わって来られました。氏はまた、著名な中国系アメリカ人で組織された百人会(the Com mittee of 100のメンバーであり、つい先日まではその副会長 もされていた方で、米中間の関係について公に 意見を述べて来られました。この度の講演会では、中国の経済発展が日米中三国関係に及ぼす影響(インパクト)についてお話して頂きます。
 尚、この講演は都合により英語で行って頂きますが、日本語資料を準備させて頂く予定です。中国経済や日中経済関係の講演会が多い中で、日米、米中の経済関係にまで踏み込んだ講演会は少ないと思います。参加無料ですので、是非多くの方々のご参加をお願いします。

日時 20071110()  10:00-12:00

会場 京都大学経済学研究科2F大会議室

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中国・上海ニュース 10.22−10.28

ヘッドライン

■ 中国:石油製品小売価格、8%引き上げ

■ 中国:1−9月、中国銀行の営業利益は749.76億元

■ 中国:民間8社に石油製品卸売りの経営資格

■ 中国:内陸部のCPI上昇率、経済先進地域より大きい

■ 中国:1−9月の主要鉱工業製品の生産量を発表

■ 中国:北京−上海高速鉄道プロジェクト、最高建設作業部会発足へ

■ 人材: 日本在住卒業生1万人、復旦大学「日本校友会」が発足  

■ 自動車:GM、上海でハイブリッド車などの開発センターを建設

■ 上海:大型農産品取引センター建設へ

■ 上海:9月の物価上昇率4.5% 今年最高

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本音で語るミャンマー情勢

10.OCT.07

株式会社小島衣料代表取締役社長  小島正憲

先週のマスメディアでは、ミャンマー情勢の報道が目に付いた。ことに軍の手によって、日本人ジャーナリストの長井健司さんが射殺されたこともあり、僧侶や民衆側に好意的な報道が多かった。しかし軍の強行介入の結果、デモなど民衆側の行動は沈静化させられた模様である。この残念な報道に接して、一般の日本人ならば、できうれば近い将来、スーチー女史が決起し、軍政を打倒し、射殺された長井さんの恨みを晴らしてくれることを望むにちがいない。しかしこの事態を本音で考えた場合、ミャンマーにはそのような感情論だけでは済まされない固有の事情がある。以下にそれを推敲してみたい。                                         

10年前、私はミャンマーの旧首都ヤンゴンで、600人規模の縫製工場を経営していた。ちょうどそのときヤンゴン市内で、軍政当局と民衆との間でこぜりあいがあって、日本から私たちの安否を気遣う緊急電話が入ったことがあった。日本国内のテレビで、その騒動が大きく報道され、画面にヤンゴン市内に戦車が出動した映像が流されたからであった。ところがそのとき私の工場は平穏無事で、通常操業を続けており、その騒ぎとはまったく無関係であった。私にはどこに戦車がいるかさえもわからなかった。そこでさっそく調べさせたところ、市内の橋のたもとに1台だけ、ぽつねんと置いてあった。それを日本のマスメディアが大きく放映したので、その画面を見て驚いた日本の家族が、緊急電話をかけてきたのであった。

私は、今回もおそらくマスメディアの誇大報道の面があるだろうと思っていたが、長井さんの射殺という事態にいたったので、前回とは展開が違っていくかもしれないと思った。そこでさっそくヤンゴンの友人たちに電話を入れてなまの情報を聞いてみた。彼らによれば、工場などは平穏に操業しているし、なにも問題がないという返事だった。ただし夜間外出禁止なので、従業員を5時にいっせいに帰宅させなければならないので、残業ができなくなり、納期が遅れてその面で苦労しているということであった。日系企業の中には、駐在員を帰国させたところもあるようだが、大半は通常操業を続けているという。確かに、国際電話やインターネットが一時的に中断されたことはあったようだが、もともとそれらが不便な国だったこともあって、彼らに慌てふためいている様子はなかった。私は彼らからこのような情報を聞いて、今回も事態は前回同様で、民衆側が押さえ込まれる結果になるだろうと思った。

今回のこのようなミャンマーの騒動を見て、一般には軍政の崩壊を期待する声が大きいが、冷静に本音で考えた場合、この国では当面のところ軍政が続行した方がよいのではないかと思う。なぜなら、もし軍政が崩壊した場合、そこはアフガンやイラクのような内戦状態になる可能性が強いからである。ミャンマーの各地には、カレン・カチン・モン・シャンなどをはじめ、武装勢力が跋扈しており、現状はかろうじてビルマ族が軍事力でそれらを抑えている。それらは120を超え、ゴールデントライアングルと呼ばれる世界的に有名な麻薬の栽培基地を押さえている少数民族もいる。つまり軍政崩壊という事態は、民族紛争というパンドラの箱を開けることになるのである。

また隣国バングラデシュがイスラム国家であることを忘れてはならない。ミャンマーの軍政がイスラムパワーの浸透に対して、壁になっているという現実を念頭に置いておくべきである。もしミャンマーが民主主義体制に代わり、自由世界に仲間入りしてきた場合、最初に浸透してくるのはイスラム教であろう。現状のミャンマーのイスラム教徒の人口比率は4%であるが、かつて私はヤンゴン市内のイスラム教の寺院の前で、祭礼に遭遇し、数千人の白服の集団に道をふさがれ、立ち往生した経験がある。そのときの印象から、ミャンマーでもイスラム教の影響を軽視できないと思っている。また理由はさだかではないが、近年、イスラム教徒の男性と仏教徒の女性が結婚するケースが増えているという。もちろん女性の方はイスラム教に改宗しなければならない。イスラム教が悪いというつもりはないが、ミャンマーがイスラム国家に変わる可能性も考えておくべきである。ミャンマーは仏教国であるという既成概念にとらわれていてはいけない。

先進国の中でミャンマーへもっとも肩入れしている日本は、当然のことながら、ミャンマーの軍政が崩壊し、民主化された場合、国際協力として多額の費用負担を求められる。一般の日本人はこの事態を、簡単に考えているが、民族紛争やイスラムパワーに巻き込まれ、際限のない支出を迫られるかもしれない。借金国家日本は、それには耐え切れないだろう。現状でも、アフガンやイラク、北朝鮮、アフリカ諸国など、国際平和への資金協力はまだまだ必要である。これにミャンマーの混乱が加われば、ミャンマーを救うために、日本国内の消費税をあげるという事態になりかねない。一般の日本人は、それを望まないはずである。できればイラク・アフガン・イラン・北朝鮮などの問題が一段落して、国際的に支援資金の余裕ができるまで、ミャンマーにはこのままフタをしておいた方が得策なのではないだろうか。ミャンマーには北朝鮮とは違い、現在、飢えて死んでいる人はいない。政府の力で主食の米が、国民に安価で豊富に供給されているからである。また軍政が北朝鮮の拉致問題のようなことを起こして、他国に迷惑をかけているわけではない。だから、先進資本主義国の人間が、善人ぶって、民主主義の押し売りをしない方がよいのではないだろうか。

元ミャンマー大使の山口氏が、週刊新潮(先週号)でミャンマー情勢を分析している。山口氏は大使時代の体験から判断して、今回の騒動も一般のマスメディアがかなり誇大報道をしていると主張している。私もこの見方に賛成である。また彼は文中で、かつてミャンマー駐在中の出来事として、スーチー女史の自宅前の演説現場の模様を取り上げ、マスコミの誇大報道の弊害を例証している。私もこの現場を見に行ったことがあるが、事態は山口氏の指摘と同様であったし、スーチー女史がこのような行為を続行してなんの意味があるのだろうかと不思議に思ったものである。さらに彼は「スーチー女史が善玉で政府が悪玉という時代劇のような構図でミャンマーを報じることを止めるのが、国際社会として心得るべき第一のステップでではないでしょうか」と結んでいる。マスメディアや一般世論に迎合しないこの勇気ある山口氏の発言に、私は敬意を表する。

ただし、企業家としてこのミャンマー情勢を見た場合、本音を言えば、体制の変換がのぞましい。なぜならそのドサクサにまぎれて金儲けをすることができるからである。どの国の場合でも、旧体制が崩壊するときには、没落する旧支配者側から、金銀財宝や骨董品の類が大量に放出される。だからそれを安値で買い取り、大儲けをするチャンスがにわかに出現する。かつて私はそれを、ベトナム戦争終結直後のサイゴンで経験した。また私の知人は東西ドイツの壁の崩壊直後のポーランドで、イコンを買い集め大儲けをした。最近のイラク戦争では、フセイン政権崩壊の混乱に乗じて、国立博物館の宝物が大量に盗み出され、どこかに売り払わられてしまった。この裏では、だれかが大儲けしているはずである。ミャンマーはルビーや翡翠の産地であり、金銀や象牙の骨董品なども多い。有事の際には、これらを所有している軍の要人やその周辺の資産家が、それをドルなどに換金し国外の安全な地に送金しようと画策する。そこに大儲けのチャンスがうまれる。

また新体制が勃興するときは、従来の既得権益の構造が大きく変わるので、さまざまな分野で新規参入が容易となり、そこに金儲けのチャンスが産まれる。さらに現在までの日本からのODAなどの支援形態も、おそらく見直され、大企業中心の利権の構造が崩れ、われわれのようなミャンマー情勢に熟知した中小企業にもその恩恵が回ってくるはずである。さらに経済支援のために、各国からの特恵待遇政策も発令されるので、ミャンマーがチャイナプラスワンの適地になるはずである。この国は現在でも世界最貧国の中に数えられているぐらいだから、当分の間、労働者の賃金は世界の最低水準を保つであろう。労働者の教育水準なども中国と比べて遜色がないので、ミャンマーが「世界の工場」になる可能性は高い。しかもその上、為替レートなどが激変し、想定外の利益が上がる可能性もある。

企業家としての私は、その日のためにミャンマーに人脈を残し、いつでも新事業を開始できる状態にしている。現在、再進出のタイミングを虎視眈々と狙っている次第である。