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京大上海センターニュースレター
188号 20071122
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○第7回京都大学―慶北大学共同国際シンポジウムのご案内

      中国・上海ニュース 11.12-11.18

○人民元の切り上げ:新たな構図と予想外の影響

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第7回京都大学―慶北大学共同国際シンポジウムのご案内

 

京都大学経済学部は、韓国の慶北大学経済通商学部およびソウル大学経済学部と交流協定をむすび、それぞれと交互にシンポジウムを開催するなど活発な学術交流を行ってきました。このたび京都大学上海センターの主催で、下記の要領で国際シンポジウムを開催いたします。公開の催しなので、ふるってご参加下さい。

日時 2007126(木曜)・7日(金曜)

会場 京都大学経済学部 総合棟2階大会議室

主催 京都大学上海センター 共催 慶北大学通商経済学部

後援 京都大学上海センター協力会

126日(木曜)9時〜11時半

第Tセッション(経済) 使用言語……日本語・韓国語 司会 岩本武和(京都大学)

宇仁宏幸(京都大学)「輸出にかたよった生産性上昇と為替体制東アジアとヨーロッパの比較」 鎬(慶北大学)「外国為替のリスクプレミアムの測定誤差」

126日(木曜) 1時〜3

第Uセッション(経営) 使用言語……日本語・韓国語・英語 司会 菊谷達弥(京都大学)

若林直樹(京都大学)「日本の企業間関係におけるネットワークと信頼」

崔 種 a(慶北大学)IOSsの情報流通にもとづいた組織間関係の構造」

          126日(木曜)3時半〜5時半

第Vセッション(経済) 使用言語……英語 司会 大西広(京都大学)

村瀬哲司(京都大学)「アジア通貨制度への展望と課題」

鳳(慶北大学)「韓国通貨危機のマクロ経済的要因」 

レセプション 6時〜7時半 於 時計台記念館第3会議室

12月7日(金曜)9時〜11時半

第Wセッション(経営) 使用言語……日本語・韓国語・英語 司会 曳野孝(京都大学)

若林靖永(京都大学)「顧客第一主義の崩壊と再構築」
完(慶北大学)「知識の創出空間における実践共同体の効果的な実現

― 一つの事例研究(サムソン電子)」

連絡先 京都市左京区吉田本町 京都大学経済学部 堀 和生(電話 075−753−3438)

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中国・上海ニュース 11.12−11.18

ヘッドライン

■ 中国総理:成長率11.5%を予想 経済過熱に警戒感

■ 中国国務院:物価上昇に対応、肉、卵、牛乳の備蓄を指示

■ 中国人民銀行総裁:頻繁な利上げ不要、預金準備率引き上げ

■ 中国:中国海軍艦艇、初の日本訪問

■ 中国:1−10月原油輸入量14%増

■ 天津シンガポールの全面協力でエコ・シティーを建設

■ 山西:1−10月、コークスの輸出額56%増 

■ 上海:今年のHIV感染者、7割が高学歴者

■ 上海:10月消費者物価指数の上昇率5.1%  

■ 北京初の風力発電所、風車の設置を完了

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人民元の切り上げ:新たな構図と予想外の影響

京都大学専任講師 ジャンクロード・マスワナ

20071019日に行われた先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)後に発表された声明では、中国政府が「実効為替レートの上昇加速を容認する」必要があることが強調された(ロイター)。

 
ユーロの上昇により記録した対ドル最高値($1.43以上)を受け、ヨーロッパ代表らはG7において弱いドルに焦点を当てた協議をしたいと考えていた。ドルの対ユーロ安によって被害を受ける輸出とユーロ圏経済を危惧していたからである。しかしながら、ユーロはドルとは異なり、人民元に対しても上昇しており、これによりユーロ圏の対中貿易赤字が拡大し、ヨーロッパの輸出業者に圧力がかかっている状態である。ヨーロッパの対中赤字は膨らむ一方で、2002年から2006年までの間に、EUの対中赤字は540億ユーロから1280億ユーロに増加している。この状況は、ヨーロッパとアメリカが緊密に協力し、中国が通貨調整するよう圧力をかけることに共通の利益が存在することを示している。ユーロ高に転じたのは最近のことであるため、ヨーロッパは中国に対して切り上げを要求する理由が以前はなかったが、それが変わったのである。

ドルがユーロ、円、その他の貨幣に対して値を下げているのと同様に、人民元も値を下げている。これは単なる通貨ペッグ制の特徴である。一部のアメリカ人製造業者と政治家が主張するように、中国が輸出を人為的に安くするために通貨を操作しているのではない。ドルに対して過去9年間行ってきたように、中国通貨の価値を維持しているだけである。ユーロ高と人民元安を引き起こしたのは、弱いドルである。よって、ユーロの悲劇は、主にドルとの関係において見られるものであり、人民元との関係は、より程度の少ないものと考えられる。

 

中国は1994年以降、人民元をアメリカドルに連動させてきた(1ドル8.3元)。これは他国と同じように、経済成長を支える貿易と投資を為替変動が妨げないようにするためである。中国は2005年にドルペッグ制をやめ、通貨バスケット制を導入したが、このバスケットもドルへ大きく傾いていた。ドルに連動するということは、中国の通貨がドルと並行して上昇・下落することを意味する。よって、1990年代後半のアジア金融危機の期間、人民元は近隣アジア諸国の輸出競争相手の減価通貨に対して、ドルとともに40%も強くなっていた。皮肉にも、中国政府がアジア危機の間に行った、この人民元高の維持こそが、アジアにおける通貨の切り下げ競争スパイラルに陥ることを効果的に阻止し、当該地域の金融市場を落ち着かせた要因であると考えられる。中国のドルペッグは地域的な利益を生み出したが、アメリカの増大する貿易赤字の説明の一つとして中国政府による通貨操作の疑惑が挙げられている。

外貨を購入して人民元の上昇を制限することによって、中国が人民元のコントロールを行っていることは明らかである。しかしながら、中国の競争力は安い人民元によるものというよりも、中国の資源コスト(主に豊富で安価な熟練労働者)、そして低い貿易障壁と新しい技術によってもたらされた更なる効率性によるものである。よって、人民元の切り上げを行っても、アメリカおよびヨーロッパ経済に一時的な救済をもたらすにすぎないであろう。

ワシントンで開催された先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議において、中国人民銀行の呉暁霊副総裁は、中国通貨は正しい方向に進んでおり、最終的には他諸国にも満足してもらえるであろうと話した。現段階での人民元の大幅な切り上げによって、中国経済が世界経済の大きな足かせへと変化し、さらには日本のように回復期にある経済に悪影響を及ぼす危険がある。というのも、中国製品は現在、日本製品のグローバル・バリューチェーンに十分統合されているからである。よって、人民元の上昇が日本の景気回復を覆す原因になる可能性は除外できないと思われる。