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京大上海センターニュースレター
193号 20071227
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      中国・上海ニュース 12.17-12.23

○中ロ朝鮮3カ国の国境交流とシベリア鉄道活性化の”兆し“について

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中国・上海ニュース 12.17−12.23

ヘッドライン

■ 中国人民銀行:今年6回目の利上げの実施

■ 中国:70都市の不動産価格、11月10.5%上昇 

■ 中国:輸出入関税率を08年1月1日から調整

■ 中国:若年層人口が年々減少

■ 中国:個人所得税課税ライン引き上げを審議

■ 天然ガスタリム油田、今年は国内最高の150億立方メートルを生産

■ 自動車:GM、中国での販売台数が100万台を突破

■ 中国: ブロードバンド利用者、1.22億ユーザーアカウント突破

■ 上海:中国製コミューター機「ARJ21」がラインオフ

■ 上海:国内初の大型海上発電プロジェクト始動 

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中国、ロシア、北朝鮮3カ国の国境交流とシベリア鉄道活性化の

”兆し“について

               2007年12月10日

                京都大学上海センター協力会副会長 

                   中国吉林省琿春経済合作区経済顧問 大森經コ

                        

 私は去る20071118日(日)〜1122日(木)迄、所属している京都中心の北東アジア・アカデミックフオーラム主催の「ロシア沿岸地方調査交流訪問団」に参加し、ウラジオストク市とナホトカ市を訪問し、両市役所をはじめ、沿岸地方議会、ウラジオ港、ナホトカ港、ナホトカ・ボストチヌイ港湾管理局、シベリア鉄道を管理運営しているロシア鉄道極東支社、極東国立総合大学、在ウラジオストク日本国総領事公邸、ウラジオストク日本センター等を訪問して来ました。

 つきましては、今回は、その諸調査、見聞録の中から、かねてより関心があり、京都大学上海センターが200673日に行った国際シンポジウム「中国東北振興と日本海両岸交流」や20073月に京大上海センターの日本海対岸貿易研究会が発行し、上海センター協力会の皆様に配布させて頂いた「日本海対岸貿易の可能性について」の報告の続編的な諸情報、即ち、掲題の通り、シベリア鉄道の活性化を軸に、中国、ロシア、北朝鮮の3カ国国境地帯の物流インフラの整備とその活用が今後活発になるものと思われますので、主にこの点に的を絞った最新のロシア情報を報告させて頂きます。

 尚、本報告の背景は「日本海対岸貿易の可能性について」でも触れてある通り、京大ニュースレターでたびたび健筆を振るっておられる京大上海センター協力会理事会社である(株)小島衣料の小島正憲社長が、武漢近郊の黄石市や上海市では、いい人材が集まりにくくなった上、人件費、電力料金、輸送費等全ての上昇により、コスト高となり、その対策として2005年秋より中、朝、ロ3カ国国境の街・吉林省延辺朝鮮族自治州琿春市に子会社を設立され、操業中です。私達京大上海センターチームも、この小島社長の応援の為も含め、在瀋陽日本国総領事館の小河内前総領事のご支援も頂きながら、何度か琿春市を訪れ、今後の工場移転の有力候補地の一つとして、調査、研究を進めております。その結果、私はこの琿春辺境経済合作区の経済顧問を委嘱されており、小島社長も琿春市全体の経済顧問に就任されておられる、という背景があります。

 

ここの最大の問題点は、目下のところ日本海へ直接出る港がないことで、現在は已む無く、大連港迄陸送の上、日本へ輸出していることです。その解決策としては、琿春市より至近距離のロシアのザルビノ港(42km)か、北朝鮮の羅津港(54km、但し、こちらは、拉致問題解決後の話)経由新潟港、富山港、舞鶴港又は、韓国の束草港か釜山港経由日本の諸港へ等の日本海横断航路が開設されることが最も望ましいのです。本件では、直近のニュースとして小島社長をはじめ、新潟市や新潟の環日本海経済研究所(ERINA)等の努力により、関係4カ国の自治体と企業が共同出資する合弁会社が運航するフエリーが2008年3月17日より新潟〜束草〜ザルビノ(〜琿春)〜新潟間に就航することが一応決まっています(The aily NNA 韓国版第2183号。出発直前に京大経済学部の塩地洋教授よりお知らせ頂きました。)この様な事情がありましたので、私たちの情報は主に琿春市や吉林省延辺自治州、長春市、北京外交部(外務省)等の中国サイドからの情報と在瀋陽日本国総領事館をはじめ琿春の(株)小島衣料の子会社、環日本海経済研究所(ERINA)、新潟市富山市舞鶴市等の日本サイドの情報が主でした。

 そこへ今回はロシアサイド又はロシア+北朝鮮サイドの情報が採れそうだ、ということで、ロシアの専門家ではなく、ウラジオストクに2年前に1度行っただけの私ですが、大いに期待してロシアが専門の先生方に混じり参加させて頂いた次第です。

 結果は下記の通りですが、この2年間で事態は大きく動きつつあることと、中国とロシアの関係は、特にこの極東地区では、過去の歴史的ないきさつ(1858年の愛琿条約、1860年の北京条約、注)もあり極めて微妙、複雑でまだまだ意思の疎通が充分でない点が多い、ということがよく分かりました。

(注)この二つの条約で帝政ロシアは、外興安嶺の南、アムール河(黒龍江)の北の地

域とウスリー江以東の現沿海州の地、合計現在の日本の約3倍の土地を獲得したが、中国は、両条約が不平等条約として、この国境線を認めていない。(世界の歴史第19巻中華帝国の危機、P194、中央公論社刊)

以下下記4項目に分け諸情報を報告します。

1)羅津(北朝鮮北西部の中国、ロシア国境に近い港町、水深も深い天然の良港である

上、日本統治時代に作られた立派な埠頭のあることでも有名。港湾ヤードも広い。)〜ハサン(ロシア側国境のシベリア鉄道最端の駅のある街)間の鉄道と図們江の鉄橋の改修工事並びに羅津港の改修工事計画について、

2)ザルビノ港の改修補強・拡張工事とそこを起点とするシベリア鉄道の大活用計画について、

3)琿春(中国)〜ザルビノ港(ロシア)〜新潟〜束草(韓国)〜ザルビノ港(ロシア)ルートの新規航路の可能性等について、

4)琿春(中国)〜羅津(北朝鮮)間の高速道路の建設と〜舞鶴、富山、新潟ルートについて、

              

1、羅津(北朝鮮)〜ハサン(ロシア側国境の町)間の鉄道改修工事計画並びに羅津港の改修工事計画について

 出発前、京大上海センター副センター長の大西広教授より、5/27付連合ニュースで「北朝鮮とロシアが、羅津〜ハサンの鉄道区間の近代化に関し、了解覚書を締結した。この覚書には、この為に両国は合弁企業を設立し鉄道の近代化に当たると共に、羅津港のコンテナターミナルも建設し、完成後は、この合弁企業が、東アジアから、羅津港を経由し、ロシアや欧州に向かう商品を扱う基盤施設の共同運営にあたる」という情報と、6/5付東亜日報の「北朝鮮、羅津港の外国船舶への開放をロシアと合意」との2つの記事について、可能であれば内容を確認してきて頂きたい、との依頼を受けていました。

 これらの質問に関するロシア当局の回答は以下の通りでした。

ロシア鉄道極東支社の回答

 その通り、羅津〜ハサン間の鉄道近代化について覚書(memorandum)を交換した。目下その鉄道の改造再建(reconstruction)について検討している。2008年中に完成させる予定である。

 沿海地方議会議長の回答

 羅津〜ハサン間の鉄道の近代化を検討中である。沿海州ハサン地区の近代化を検討中である。

ウラジオストク市役所の回答

 羅津〜ハサン間の鉄道の近代化はロシアも大いに関心あり、これはきっちり強化する。

 

 回答は以上の通りで、羅津〜ハサン間の鉄道の近代化工事(reconstructionと表現していた)は、予定通り2008年末までに完成するか否かは別として、一応そういう覚書が交換され、目下、具体的改修、改造計画を立案中、というところです。これらの回答の中では、鉄道改修の話ばかりで、羅津港の改修強化やコンテナターミナルの建設とか、合弁会社でやる予定とか、羅津港の外国船舶への開放等の話や回答は引き出せていません。

 しかし、本件に関する別途の情報として、在ウラジオストク日本国総領事館の安木経済専門調査員のお話では、東シベリアの石油をパイプラインで太平洋(日本海)迄持ってきて、ナホトカ近くのコジミノ港から輸出する計画があり(太平洋パイプライン計画)、すでに工事は着工されており、順調に行けばあと2〜3年で少なくともハバロフスク迄は来るであろうが、そこからコジミノ迄は、かなりの距離がある上、石油輸出港も新たに作る必要があり、時間も金も大変なので、これはいつ出来るか分からない。従って、むしろより現実的なのは、ハバロフスクでシベリア鉄道の石油タンク貨車に積み替え、それを羅津港まで運び、そこから輸出するのではないか、という話が出ている。羅津港を使うのでは、とのもう一つの理由として、羅津港近辺には、ソ連時代にソ連の援助と指導で作った立派な石油精製工場(年600万tの精油能力)があること、その近辺と羅津港そのものにもかなり広いスペースがあり、且つ、水深も深く日本統治時代に作られた立派な港なので、この港に少し手を入れて石油輸出基地として当分はここを使おうとしているのではないか、とのことでした。

 これに関してもう一つのウラジオストク情報は、先般の朝鮮の南北会談の結果の宣言には、韓国がこの羅津港の開発、活用化についても支援する、という項目が入っており、羅津〜ハサン間の鉄道近代化が完成すれば、韓国は釜山港その他から、ロシア西部及び欧州向けの電化製品、完成車、同部品等あらゆる貨物をここ羅津港へ運び、そこからシベリア鉄道経由で送ることを考えている筈である。ロシアはこの間の事情もよく知っているので、この鉄道改修工事と羅津港の改修工事はロシアがやる、と言っているが、その必要資金は、結局韓国に出させるであろう、ロシアはその位がめつい国である、との話しもあったことを付け加えておきます。

 これらが全て現実化すると、シベリア鉄道の東の起点は、北朝鮮の羅津だ、ということになります

 現在の東の起点はウラジオストク港とナホトカのボストチヌイ港です。

 この計画を更に長期的視点から見れば、現在老朽化が激しく、殆ど貨物輸送の役に立たぬ北朝鮮内の鉄道の全近代化が完成すると、韓国の釜山がシベリア鉄道及びTCR(中国経由中央アジア、中東欧へのルート=Trans hina ailway)の東の起点ということになります。韓国は、いつのことか分からぬが最終的にはこれを狙っているのです。

 

(大森注1)東シベリアの石油を送る太平洋パイプラインの終点について調べたところ、今回お世話になったウラジオストクの旅行代理店  ew ours nt. の回答は、この計画は2つあり、1つがナホトカ近郊のコジミノ、もう1つがハサンに近いペレボスナヤ湾の

South rimorye で、現在、この2つのどちらになるかは明らかにされていない、とのことでした。この他、本件到達点に関しては、直近に発売された2冊の書物では、太平洋パイプラインの終点として、このハサンに近いペレボスナヤ湾とした図面が掲載されています。(柴田明夫、エネルギー争奪戦争、2007,12,10発行,PHPペーパーバックス)(小森敦司、資源争奪戦を超えて、2007,,30発行(株)かもがわ出版)

尚、この2つの情報、ペレボスナヤ湾が太平洋パイプラインの終点という案と、この石油輸出港として羅津港を考えているのではないか、という情報については、新潟の環日本海経済研究所の辻久子特別研究員は、前者案はもう消えており、ナホトカ/コジミノに絞られている。後者については、自国のナホトカルートがあるのに、わざわざ重要戦略物資の石油を、いくら友好国とはいえ、他国から出す、などということは、とても考えられない、とのご意見だったことを付言しておきます。それよりも、この東シベリア産の石油の産出量が、中国、大慶油田へ先に行く3,000万t/年以上にあるかどうかが問題になっている案件だ、との話もあったことも報告しておきます。

 

(大森注2)この羅津〜ハサン間の鉄道は、元々北朝鮮側の軌道巾は、標準軌道(1,435o、中国と同じ)、ロシア側の軌道巾は広軌で(1,520o)でロシア側の巾が少し広いため、この間の相互乗り入れが出来ず、貨物も都度積み替えが必要であったが、これが不便で手間もかかるので、何年か前から相互乗り入れが可能な様に、広軌用レール2本(単線)と標準軌道用レール2本(単線)の計4本のレールが敷かれ、少なくとも羅津、ハサンまでは、夫々の国の列車が相互乗り入れ可能となって今日に至っています。

 従って、今回の改修工事も比較的簡単で、複線化をする訳でもなく、新たに広軌道のレールを新設する訳でもありません。ただここ10年以上殆ど使用していないので、軌道のレール取替え(?)、駅舎、貨物ヤードの整備程度で、あと国境を渡る図們江上の鉄橋を作り替える必要があるか否か、位が大きな問題だと思います。こう考えると、その気になってやれば4〜50kmの区間の改修工事は1年(2008年末)もあれば充分可能と思われます。むしろ、羅津港の港湾施設の改修工事やコンテナターミナルの建設の方が手間がかかるかもしれません。

 

(大森注3)以上の通り、羅津港の改修工事迄覚書に書いてあるか否かの確認がとれないまま帰国しましたが、たまたま帰国の翌日、2007,11,23(金)13時のNHK総合TVニュースでNHK北京総局発の本件に関する明快な内容のニュースが流れていたので、以下にそのほヾ全文を報告しておきます。この中で、ロシア側は、羅津の港湾施設についても改修事業に着手すると明快に報告されています。

 このニュースの全文から、今迄の要確認事項を、北朝鮮の朝鮮中央通信報として確認することが出来ますので参考として下さい。

 

 2007,11,23(金)13時のNHK総合TVニュースの北朝鮮とロシア関係部分の記録(NHK北京総局発)

 「北朝鮮は、北部の都市羅津とロシア極東とを結ぶ鉄道の改修にロシアがあたることになったと伝え、北朝鮮としては友好国の協力を得ながら羅津を整備することで経済の活性化につなげようという思惑があるものとみられる。

 これは、北朝鮮の朝鮮中央通信が昨夜(22日)伝えたものである。

 それによると、北朝鮮入りしているロシアの鉄道関係者が現地調査に当たった結果、北朝鮮北部の都市、羅津と、ロシア極東の都市、ハサンを結ぶ鉄道について、ロシアが改修に当たる事になった。

 ロシア側は、羅津の港湾施設についても改修事業に着手するということだ。

 羅津は、ロシアと中国にほど近く、北朝鮮は、これまでに、羅津と中国を結ぶ高速道路の建設を中国の企業に請け負わせ、その見返りとして、企業側に羅津の港の運営を長期間にわたって委託するという計画を進めている。

 今回の報道は、北朝鮮が、ロシアや中国の協力を得ながら、両国に近い羅津を物流の拠点として整備することで、経済の活性化につなげようという思惑を持っていることを示すものとみられる。」

 

(大森注4)羅津:北朝鮮北西部の中国、ロシア国境に近い港湾都市、水深も深い天然の良港である上、日本統治時代に作られた立派な埠頭のある事でも有名。港湾ヤードも広い。

      ハサン:図們江の日本海出口に近いロシア側国境のシベリア鉄道最南端の駅のある街。ウラジオストクより約170km。図們江を渡れば北朝鮮。中国吉林省琿春市にも極めて近い。

 

2、ロシア沿海州ザルビノ港の改修、補強、拡張工事とそこを起点とするシベリア鉄道の大活用計画について

 ザルビノ港は、中国の国境の街、琿春市より42kmにある小さな港で、元はロシア産の木材、スクラップ、石炭等の輸出港と漁港です。これに2006年度半ばより、富山の伏木港から週1便、日本製中古車の輸入船が入港しているほか、韓国籍のフエリーが2004年より週3便韓国東海岸の束草港との間を往復している位しか知られていない小さな港で、コンテナターミナルもなく、車専用の埠頭設備もない状態でした。

 今回の出張では、羅津〜ハサン間の鉄道近代化工事と東アジア産品を羅津港からシベリア鉄道経由ロシア西部及びヨーロッパへ輸出する話が出ていたので、それなら、ロシア領内のザルビノ港経由のシベリア鉄道利用便の増強計画はないのかと質問したところ、次の様な大巾増強計画がある旨の回答を得ました。

 ロシア鉄道極東支社の回答:我々は昨日(11/20(火))ザルビノ港の担当者と正にその件につきここウラジオで話し合ったばかりだ。次の様なプランでザルビノ港の近代化をする予定である。我々はつぎの3つの埠頭設備の整備をする予定である。 

 1つは、車専用の港湾整備、2つ目は、コンテナターミナルの整備、3つ目は漁港ほかの一般港湾整備である。

 すでにこのザルビノ港を経由し、シベリア鉄道を使ってロシア及びヨーロッパへ車を輸送するプロジエクトがあり、すでに日本の完成車メーカーが実験をしている。すでに車も送った。との回答を得ました。

 この回答をヒントに、その後、前述のウラジオストクの安木経済専門調査員に確認したところ、先日この辺へ出張して見て来ました。既存バース4つと、今後の拡張予定バースの所有者は夫々違います、とのことでした。

 帰国後、日本の専門家に確認したところ、工事はすでに始まっている。完成車メーカーの輸送実験は、日本の会社だけではない。韓国メーカーもこのルートを使おうと狙ってテストをしています、とのことでした。

 

 このシベリア・ランドブリッジ(SLB:Siberian and ridge)、現在ではシベリア横断鉄道(TSR:Trans-iberian ailway)を利用して、ロシア西部及びヨーロッパ各地への各種部品、電化製品、完成車等の輸出に成功しているのは、早くからロシア西部へ工場進出してきた韓国勢です。

 韓国勢は、釜山からナホトカのボストチヌイ港へ定期便を利用して運び、そこからシベリア鉄道に積み込み、ロシア西部及びヨーロッパへ送るルートの活用に成功してきました。

 今度は、この経験を活かし、釜山〜ザルビノ〜シベリア鉄道ルートや釜山〜羅津〜シベリア鉄道ルートの活用を狙っているのです。この韓国勢は、長距離鉄道輸送の問題点とされる振動被害を避けるべく、梱包技術ほか今迄いろいろ工夫努力をして来たそうです。更に、本件に関しては私の質問に対するロシア鉄道の幹部の説明では、そういう重要な部品を運ぶ貨車の台車は、人間の乗る客車用台車を使用しているので、問題ない。韓国の学者とも情報交換し、工夫しあっているが、これなら大丈夫だ、OKだ、と言ってくれている、との事でした。

 以上の説明から、今後ザルビノ港が大変身を遂げる”兆し“を感じ取って頂けたものと思います。

 

3)琿春(中国・吉林省延辺朝鮮族自治州)〜ザルビノ港(ロシア)〜新潟〜束草港(韓国)〜ザルビノ港ルートの新規航路の可能性等について、

このルート開設の必要性と希望、並びにこれまでの経緯については、既述の2007年3月京大上海センター刊の「日本海対岸貿易の可能性について」の小冊子をご参照願いたいが直近の情報としては、いよいよこのルートにカーフエリーが2008年3月17日より就航することが決まっています(The aily NNA韓国版第2183号)。

が、今回は、羅津〜ハサン間の鉄道改修の話やザルビノ港の大改修とシベリア鉄道ルートの活用計画等ロシアサイドから大きな話しが出ているので、これとの関連でウラジオストクで取材した情報の報告から入らせて頂きます。

 沿海地方議会議長:今沿海州ハサン地区の近代化を検討中である。

 中国の琿春から、中国の貿易品をザルビノ港経由で輸出する話は、豆満江(中国名図們江)の開発にからんでいる。ロ、中、北朝鮮の3カ国で、となっているので、この3カ国の決定がなかなか難しい。過去12年間国連も拘ってきたが、経済的に難しかったので余り進んでいない。特に中国の貨物が少ないのでなかなか進まない。もう一つ、琿春〜ザルビノ間の鉄道について、一部に私企業が入りうまく行かなかった。大きな事件があり停滞していたが、これは乗り越えた。一応解決したので今後前向きに進めるいい見通しが生まれている。

 今後、北朝鮮、韓国、中国、ロシア、それに日本も入れた協議をやる、協議を進める予定である。

 

 尚、この琿春〜ザルビノ近郊迄の鉄道について、ウラジオストクでの情報では、この鉄道は廃線になり、今後はトラック、トレーラー輸送一本になる、という話があったので、本件は琿春市に絡んだ話なので、(株)小島衣料の琿春子会社の副総経理の日本人に聞いたところ、この鉄道は廃線にならない筈だ。何故なら、ロシアから中国へ輸出されるものは、木材が多く、その他も資源、等大型且つ重量のある物が多く、トラック輸送には不向きで、鉄道でなければとても無理と思う、とのことでした。

 もう一つ、今年(2007年)は、「ロシアに於ける中国年」で中ーロ間で様々な交流があったが、つい先日、11月上旬にその閉会式がモスクワで行われました。その時、多項目にわたる経済協力協定に中国側呉儀副首相、ロシア側も副首相級の方がサインされているが、その協定の中に「図們江開発」の一項目が入っているので、今後この地域の経済が中ーロ間で活性化すると思う、とのことでした。

 

4、琿春(中国)〜羅津(北朝鮮)間の高速道路の建設と舞鶴、富山、新潟ルートについて

本件は、今回のロシア出張とは直接の関係はないが、同じ図們江開発に関する一連の案件につき、一項目として最新情報を簡単に報告しておきます。

琿春市は、かねてより、中国東北3省の石炭や穀物、その他鉱産物、ロシアの木材及び木材加工製品等を中国の華東、華南地区へ送る港としてこの羅津港の長期使用権の獲得に努力してきました(借港出海政策=港を借りて日本海へ出る政策)。その結果、2007年11月23日のNHKTVニュースにもある通り2005年8月に琿春市の中国企業と北朝鮮羅先市人民委員会経済合作社とが合弁で羅先国際物流合弁会社を羅津市に登記設立しました。同社は、琿春(圏河)〜羅津港間48kmの高速道路建設の権利と義務を負いました。同時に羅津港3号バースの利用権と4号バースの建設ならびに経営権を向う50年間に亘り得ました。その後、2006年10月に北朝鮮政府から道路建設許可が下りたが、羅先市人民委員会との合弁会社とはいえ、小さな1私企業に50kmに及ぶ高速道路を作らせることは、当初から無理があり、資金難からとても出来る話ではなく、結局今日迄着工すらされていません。

 この間、私は琿春市政府幹部や北京の中国外交部(外務省)の要人(邱国洪亜洲司副司長・アジア局副局長・元駐大阪中国総領事)に、例え50kmとはいえ、これだけ重要な道路を、しかも他国内に建設する諸困難と、完成の暁には、中国東北3省が大いにうるおい、東北振興政策にも合致するので、本件は、地方政府か中央政府マターとされるべきだと強く提言しましたが、今中国政府は、私企業に出来る案件に政府は金は出さない、という大方針を出しているので無理である、との回答でした。

 そこへ、今回、ロシアが羅津港の改修もするし、そこ迄の鉄道の改修もする、との覚書を交換したとのニュースが入ったので、中国サイドもやヽあせり気味で、元々中国が先んじていた筈が、今やロシアに先を越されそうになっている訳で、結局、もっと力のある中国企業にやらせるか、琿春市のみならず、少なくとも長春の吉林省政府迄巻き込んで、目下対策を検討中の模様で、近々何らかの対策が考えられるのではないか、と期待されているのが現状です。(本件も2007年3月京大上海センター発行の「日本海対岸貿易の可能性について」を参照して下さい。)

 

5、まとめ

1)年内に京都大学上海センターニュースレターに掲載して頂こうと12月7日に脱稿し、校正、見直ししていた時に、今回の主テーマであるシベリア鉄道の活性化を裏付ける2つの重要記事が相次いで出ましたので、記録の意味も含め、先ずご紹介しておきます。

 その1つ目は、12/7付日経新聞の記事です。

 「近鉄エクスプレス、シベリア鉄道で完成車を輸送。2008年を目途に、ロシア極東のザルビノ港より。船便でフインランド経由で運ぶ従来のルートより4050日短縮の20日程度で到着。」

2つ目は、12/9付朝日新聞の記事です。

「韓国与党系大統領候補・民主新党の鄭東泳候補、南北朝鮮の鉄道網の整備強化とシベリア鉄道の活用により、シベリア、欧州をつなぐ経済領土拡張時代を開く。」とテレビで選挙公約をした。「10年間で南北朝鮮半島に総延長1,175kmの鉄道網を建設、整備する。」と強調した。

 

2)今回の出張では、ロシア極東地区が、シベリア鉄道の活用により、大きく発展、変貌しそうだ、とのかなり明るい、前向きな報告をしましたが、ご一緒させて頂いたロシアとのお付き合い歴40年以上の超ベテランの教授お2人をはじめ、在ウラジオストク日本総領事館の皆様や、その他の方々迄、ロシア(旧ソ連時代も含め)は、本当に難しい不可解な国で、政策、方針も次々と変るし、なかなか予測なども出来ない国である。しても当たるかどうか分からない。何度も裏切られた経験がある。従って、今回の諸計画や覚書の締結がされたからと言ってそれを実行する資金計画や技術的裏付けや、推進母体が何処なのか等々が全てあいまいで、結局実現しなかったり、極端に延び延びになるケースが多い。むしろ計画は立てるが、資金や実行は他人任せ、という感じが強い。その証拠に、琿春の貨物をザルビノ〜新潟〜束草(韓国)〜ザルビノとフエリーで運航させる計画も、元々この11月に実現させる、と計画、発表していた案件です。これも本当に来年3月17日から運航されるかどうかはわかりませんよ、とのご意見もあったことを付言しておきます。

 

3)これらの計画実行力に問題あり、との貴重なご意見も考慮に入れた上で、今回話題に上がった諸計画の実現可能性を、それこそ当たるかどうか分かりませんが、私なりの判断で大胆に順序付けすると、次の通りです。

(イ)一番実現可能性が高くて、早い、と思われるのは2、で述べた、ザルビノ港を改修・増強の上、日本製、韓国製の完成車、及び部品ほかの諸貨物をシベリア鉄道経由ロシア西部や欧州へ輸送する計画です。

  その理由は、車専用埠頭やコンテナターミナルの増強等の工事は必要だが、北朝鮮や中国とは全く関係なく、ロシア一国内の工事であること、又、シベリア鉄道そのものは既存のものをそのまま利用出来(既にウスリースク郊外のバラノフスキー駅迄は再建済)、鉄道の改修工事は不要であること。何よりも心強いのは、世界有数の競争力を持つ日本や韓国の大メーカーが、すでにその必要性を認め、輸送テストを開始していることです。このルートが定着すると、大量の輸送貨物となることから、ザルビノ港、シベリア鉄道及びその周辺地域へ及ぼす経済効果は、極めて大きいと期待されます。もっとも、ここでの問題点は、埠頭の所有者が2社で、必ずしも協調的でない、とも言われており、一部ではマフイアが絡んでいる、とも言われている点です(未確認情報)。従って、埠頭の改修、増設工事が問題なく早く進み、完成するか否かに成否がかかっています。

 

(ロ)2番目に可能性の高いのは、3、の中国・琿春の貨物をザルビノ〜新潟〜束草〜ザルビノと回る日本海横断フエリーの開通です。

  理由は何と言っても2008年3月17日から運航させるとすでに発表し、目下関係者間で、運賃の設定や採算等に関し、協議が行われていることです。

  又、こちらは、新しい設備投資は不要ですし、シベリア鉄道経由ロシア西部や欧州向けのコンテナ船が出入りし出すと、その帰り船で(株)小島衣料のコンテナを日本へ送る可能性も出て来る、等々からです。

 

(ハ)3番目に実現すると思われるのが、1、の羅津〜ハサン間の鉄道改修と羅津港の改修、コンテナターミナルの新設等による北朝鮮経由のシベリア鉄道便の開通案件です。こちらは2008年末までには完成させる、と言っていますので、この目標期限内に開通するか否か、注視したい、と思います。

 

 (ニ) 一番開通が困難で、時間がかかると思われるのが、4、の琿春〜羅津間に高速道路を建設の上、中国・東北3省の貨物を華東、華南地区へ輸送したり、外国へ輸出することです。

     理由は、なんと言っても力のある建設主体が、まだ決まっていない事と、中央政府(北京政府)は、原則的に援助出来ない、と現在までのところ明言していることです。

 

(4)              3カ国国境地域を中心とする物流拠点整備とシベリア鉄道活用計画等の話は、ここ

までとし、最後に、可なり気になるロシアー中国間の関係についての懸念材料を一つ報告しておきます。

それは、2007,10,1よりロシア政府は、全土で外国人に対し、今後は労働VISAは発行しない、と発表し、それが実施されていることです。その為、ウラジオストクでもナホトカでもこのところ多くいた中国人が可なり減っているそうです。ナホトカでは、中国人商店が集中的に入居していた市中心部の“万里の長城”(外観が似ている為)と言われているチャイナタウンが、今空っぽになっているそうです。ウラジオストクでも中国人はだんだん減っている、とのことでした。シベリア地方には、中国人以外に、多くの北朝鮮労働者が来ており、その多くが、シベリア木材伐採に従事しています。そのほか所謂3Kの仕事等は、中国人ではなく、ここでは北朝鮮の労働者がしています。こういう人達まで帰ったら、3Kの仕事はどうなるのか、と心配もし、話題にもなっていましたが、明解な理由も分からないまま帰国しました。

      帰国後、種々関係者に聞いたところ、以下のことが判明しました。即ち、これは、表向き、全外国人労働者締め出し運動の様に見えますが、実態は、中国人追い出し運動である、という意見の方がおられたので報告しておきます。

      ロシア西部で、中国人がどの位進出しているのか分かりませんが、又その他の国の労働者がどの位いるのかも分かりませんが、極東地区では外国人と言えば中国人が圧倒的に多く、次が北朝鮮人だそうです。が実は北朝鮮とはVISA不要で両国民共相互に自由に出入り出来る条約があり、本件の対象外なので3Kの仕事も森林伐採の仕事も何ら支障なく行われている、とのことでした。ということで結局、あまりにも多くなりすぎた中国人が脅威なのでロシア人の失業対策もあり、こういう措置に出たものと思われる、とのことでした。

    しかし、私はもう一つ、重要な問題が隠されているのではないか、と思います。それは、頭初の部分で少し述べた通り、1858年の愛琿条約と1860年の北京条約で、アムール河(黒龍江)以北の地と現在の沿海州、合わせて、日本の約3倍の土地を帝政ロシアが清朝から割譲させた件に絡んでいるのでは、と思っています。

実際にウラジオストクで聞いた話ですが、今でも中国人とロシア人が酒席などで一緒になると、時折、この話が出るそうで、中国人の中には、ここの土地はついこの間迄は、我々の土地だったんだ、と言う者もいるそうです。第二次アヘン戦争の結果として、弱体化していた清朝から二つの不平等条約で奪った土地、と言われているものです。ウラジオストクもナホトカも、ハバロフスクも全部その中に含まれています。その問題さえなければ、中国は、北方とは言え、自国で日本海へ出る港を持っており、今苦労している諸問題は全て起こっていない訳で、中国人の想いも理解出来ますが、我々外国人はこういう問題には拘らない方がよい、と思います。こういう因縁のある土地に、今多くの中国人が入って来ているので、ロシア政府も不安を感じてやったのではないか、という意見の方もおられるということを報告しておきます。この話しの延長線として、中国・琿春の貨物をザルビノ港経由で日本や韓国に出す件について、あるロシア人が、ロシアにとって、あまりプラスにならず、中国側にだけメリットのある様な案件に何故付き合わねばならないのか、という発言を今回の一連の会議のどこかでしていたことを、今思い出しています。

    この様に、「ロシアに於ける中国年」を1年間いろいろやって来た年の末に、ウラジオストクでこんな話がでているとは、といった感じです。いづれにしろ、ロシアと中国の関係は、決して、一枚岩でアメリカの一極支配に対抗しよう、としているのではなく、お互いの間でも、この様に、極めて微妙、複雑な関係にあり、互いに疑心暗鬼といった点もある、ということを実感した次第です。

 

5) 現在核廃絶を中心に、米朝協議と6カ国協議が鋭意行われています。

   こちらもまだまだ紆余曲折がありそうですが、そうは言っても今回は、ブッシュ大統領が直接親書を出すとか、韓国新大統領の就任式の翌日に当たる2008,2,26のニューヨークフイル平壌公演が発表されるなど意外と早く、どこかで突然決着、ということもあり得る状況で、その先には、米朝国交正常化も視野に入れておく必要がありそうです。難しい北朝鮮相手の話しですから、今後もどう展開するか予断を許しませんが、羅津港の開発案件一つを見ても、今迄は中国のみが先行して、いろいろ話し合ったり、合弁会社を作って開発に協力する話が、ここ2年半ずーと出ていたのに、ここへ来て先ず南北会談で韓国が開発を支援すると共同宣言したかと思えば、今度はロシアが鉄道と羅津港共々その改修、再建に合弁会社を作って参加する旨の覚書に調印するなど、その急展開振りは、目を見張るものがあります。これらは全て、核放棄後の北朝鮮の資源をはじめ、あらゆる経済開発に先鞭を付けておこう、との各国の思惑もからんでいると思います。

   こういう国際情勢ですから、私達も、どのような状況の変化にも、素早く対応出来る様、常日頃から準備だけはしっかり整えておく必要があると思います。

 

6)最後に、同行させて頂いた藤本団長以下団員の皆様、又、現地で種々情報をお教え頂いた在ウラジオストク日本総領事館の蒲原総領事様、安木経済専門調査員様(”ザルビノ・ハサンを行く“ロシアNIS経済速報NO1399ほか)はじめ総領事館や日本センターの皆様、又、日本で種々の情報を頂いた環日本海経済研究所の特別研究員辻久子様、(株)小島衣料小島正憲社長様、同じく現地子会社の及川副総経理様ほかの皆々様に厚く御礼申し上げます。特に辻久子様の直近のご労作“シベリア・ランドブリッジ、日ロビジネスの大動脈”(成山堂書店、平成191028日発行)は、シベリア鉄道の東と西全ての地域の経済、物流の歴史と現状、将来について網羅され、今回の私の調査、疑問点に殆ど全て回答を与えてくれる名著でした。この地域の案件にご興味をお持ちの方は、是非ご一読をお勧め致します。ありがとうございました。

 私は去る20071118日(日)〜1122日(木)迄、所属している京都中心の北東アジア・アカデミックフオーラム主催の「ロシア沿岸地方調査交流訪問団」に参加し、ウラジオストク市とナホトカ市を訪問し、両市役所をはじめ、沿岸地方議会、ウラジオ港、ナホトカ港、ナホトカ・ボストチヌイ港湾管理局、シベリア鉄道を管理運営しているロシア鉄道極東支社、極東国立総合大学、在ウラジオストク日本国総領事公邸、ウラジオストク日本センター等を訪問して来ました。

 つきましては、今回は、その諸調査、見聞録の中から、かねてより関心があり、京都大学上海センターが200673日に行った国際シンポジウム「中国東北振興と日本海両岸交流」や20073月に京大上海センターの日本海対岸貿易研究会が発行し、上海センター協力会の皆様に配布させて頂いた「日本海対岸貿易の可能性について」の報告の続編的な諸情報、即ち、掲題の通り、シベリア鉄道の活性化を軸に、中国、ロシア、北朝鮮の3カ国国境地帯の物流インフラの整備とその活用が今後活発になるものと思われますので、主にこの点に的を絞った最新のロシア情報を報告させて頂きます。

 尚、本報告の背景は「日本海対岸貿易の可能性について」でも触れてある通り、京大ニュースレターでたびたび健筆を振るっておられる京大上海センター協力会理事会社である(株)小島衣料の小島正憲社長が、武漢近郊の黄石市や上海市では、いい人材が集まりにくくなった上、人件費、電力料金、輸送費等全ての上昇により、コスト高となり、その対策として2005年秋より中、朝、ロ3カ国国境の街・吉林省延辺朝鮮族自治州琿春市に子会社を設立され、操業中です。私達京大上海センターチームも、この小島社長の応援の為も含め、在瀋陽日本国総領事館の小河内前総領事のご支援も頂きながら、何度か琿春市を訪れ、今後の工場移転の有力候補地の一つとして、調査、研究を進めております。その結果、私はこの琿春辺境経済合作区の経済顧問を委嘱されており、小島社長も琿春市全体の経済顧問に就任されておられる、という背景があります。

ここの最大の問題点は、目下のところ日本海へ直接出る港がないことで、現在は已む無く、大連港迄陸送の上、日本へ輸出していることです。その解決策としては、琿春市より至近距離のロシアのザルビノ港(42km)か、北朝鮮の羅津港(54km、但し、こちらは、拉致問題解決後の話)経由新潟港、富山港、舞鶴港又は、韓国の束草港か釜山港経由日本の諸港へ等の日本海横断航路が開設されることが最も望ましいのです。本件では、直近のニュースとして小島社長をはじめ、新潟市や新潟の環日本海経済研究所(ERINA)等の努力により、関係4カ国の自治体と企業が共同出資する合弁会社が運航するフエリーが2008年3月17日より新潟〜束草〜ザルビノ(〜琿春)〜新潟間に就航することが一応決まっています(The aily NNA 韓国版第2183号)。この様な事情がありましたので、私たちの情報は主に琿春市や吉林省延辺自治州、長春市、北京外交部(外務省)等の中国サイドからの情報と在瀋陽日本国総領事館をはじめ琿春の(株)小島衣料の子会社、環日本海経済研究所(ERINA)、新潟市富山市舞鶴市等の日本サイドの情報が主でした。

 そこへ今回はロシアサイド又はロシア+北朝鮮サイドの情報が採れそうだ、ということで、ロシアの専門家ではなく、ウラジオストクに2年前に1度行っただけの私ですが、大いに期待してロシアが専門の先生方に混じり参加させて頂いた次第です。

 結果は下記の通りですが、この2年間で事態は大きく動きつつあることと、中国とロシアの関係は、特にこの極東地区では、過去の歴史的ないきさつ(1858年の愛琿条約、1860年の北京条約、注)もあり極めて微妙、複雑でまだまだ意思の疎通が充分でない点が多い、ということがよく分かりました。

(注)この二つの条約で帝政ロシアは、外興安嶺の南、アムール河(黒龍江)の北の地域とウスリー江以東の現沿海州の地、合計現在の日本の約3倍の土地を獲得したが、中国は、両条約が不平等条約として、この国境線を認めていない。(世界の歴史第19巻中華帝国の危機、P194、中央公論社刊)

以下下記4項目に分け諸情報を報告します。

1)羅津(北朝鮮北西部の中国、ロシア国境に近い港町、水深も深い天然の良港である上、日本統治時代に作られた立派な埠頭のあることでも有名。港湾ヤードも広い。)〜ハサン(ロシア側国境のシベリア鉄道最端の駅のある街)間の鉄道と図們江の鉄橋の改修工事並びに羅津港の改修工事計画について、

2)ザルビノ港の改修補強・拡張工事とそこを起点とするシベリア鉄道の大活用計画について、

3)琿春(中国)〜ザルビノ港(ロシア)〜新潟〜束草(韓国)〜ザルビノ港(ロシア)ルートの新規航路の可能性等について、

4)琿春(中国)〜羅津(北朝鮮)間の高速道路の建設と〜舞鶴、富山、新潟ルートについて、

 

1、羅津(北朝鮮)〜ハサン(ロシア側国境の町)間の鉄道改修工事計画並びに羅津港の改修工事計画について

 出発前、京大上海センター副センター長の大西広教授より、5/27付連合ニュースで「北朝鮮とロシアが、羅津〜ハサンの鉄道区間の近代化に関し、了解覚書を締結した。この覚書には、この為に両国は合弁企業を設立し鉄道の近代化に当たると共に、羅津港のコンテナターミナルも建設し、完成後は、この合弁企業が、東アジアから、羅津港を経由し、ロシアや欧州に向かう商品を扱う基盤施設の共同運営にあたる」という情報と、6/5付東亜日報の「北朝鮮、羅津港の外国船舶への開放をロシアと合意」との2つの記事について、可能であれば内容を確認してきて頂きたい、との依頼を受けていました。

 これらの質問に関するロシア当局の回答は以下の通りでした。

ロシア鉄道極東支社の回答

 その通り、羅津〜ハサン間の鉄道近代化について覚書(memorandum)を交換した。目下その鉄道の改造再建(reconstruction)について検討している。2008年中に完成させる予定である。

 沿海地方議会議長の回答

 羅津〜ハサン間の鉄道の近代化を検討中である。沿海州ハサン地区の近代化を検討中である。

ウラジオストク市役所の回答

 羅津〜ハサン間の鉄道の近代化はロシアも大いに関心あり、これはきっちり強化する。

 回答は以上の通りで、羅津〜ハサン間の鉄道の近代化工事(reconstructionと表現していた)は、予定通り2008年末までに完成するか否かは別として、一応そういう覚書が交換され、目下、具体的改修、改造計画を立案中、というところです。これらの回答の中では、鉄道改修の話ばかりで、羅津港の改修強化やコンテナターミナルの建設とか、合弁会社でやる予定とか、羅津港の外国船舶への開放等の話や回答は引き出せていません。

 しかし、本件に関する別途の情報として、在ウラジオストク日本国総領事館の安木経済専門調査員のお話では、東シベリアの石油をパイプラインで太平洋(日本海)迄持ってきて、ナホトカ近くのコジミノ港から輸出する計画があり(太平洋パイプライン計画)、すでに工事は着工されており、順調に行けばあと2〜3年で少なくともハバロフスク迄は来るであろうが、そこからコジミノ迄は、かなりの距離がある上、石油輸出港も新たに作る必要があり、時間も金も大変なので、これはいつ出来るか分からない。従って、むしろより現実的なのは、ハバロフスクでシベリア鉄道の石油タンク貨車に積み替え、それを羅津港まで運び、そこから輸出するのではないか、という話が出ている。羅津港を使うのでは、とのもう一つの理由として、羅津港近辺には、ソ連時代にソ連の援助と指導で作った立派な石油精製工場(年600万tの精油能力)があること、その近辺と羅津港そのものにもかなり広いスペースがあり、且つ、水深も深く日本統治時代に作られた立派な港なので、この港に少し手を入れて石油輸出基地として当分はここを使おうとしているのではないか、とのことでした。

 これに関してもう一つのウラジオストク情報は、先般の朝鮮の南北会談の結果の宣言には、韓国がこの羅津港の開発、活用化についても支援する、という項目が入っており、羅津〜ハサン間の鉄道近代化が完成すれば、韓国は釜山港その他から、ロシアほか西ヨーロッパ向けの電化製品、完成車、同部品等あらゆる貨物をここ羅津港へ運び、そこからシベリア鉄道経由で送ることを考えている筈である。ロシアはこの間の事情もよく知っているので、この鉄道改修工事と羅津港の改修工事はロシアがやる、と言っているが、その必要資金は、結局韓国に出させるであろう、ロシアはその位がめつい国である、との話しもあったことを付け加えておきます。

 これらが全て現実化すると、シベリア鉄道の東の起点は、北朝鮮の羅津だ、ということになります。

 現在の東の起点はウラジオストク港とナホトカのボストチヌイ港です。

 この計画を更に長期的視点から見れば、現在老朽化が激しく、殆ど貨物輸送の役に立たぬ北朝鮮内の鉄道の全近代化が完成すると、韓国の釜山がシベリア鉄道及びTCR(中国経由中央アジア、中東欧へのルート=Trans hina ailway)の東の起点ということになろう。韓国は、いつのことか分からぬが最終的にはこれを狙っているのです。

(大森注1)東シベリアの石油を送る太平洋パイプラインの終点について調べたところ、今回お世話になったウラジオストクの旅行代理店  ew ours nt. の回答は、この計画は2つあり、1つがナホトカ近郊のコジミノ、もう1つがハサンに近いペレボスナヤ湾の

South rimorye で、現在、この2つのどちらになるかは明らかにされていない、とのことでした。この他、本件到達点に関しては、直近に発売された2冊の書物では、太平洋パイプラインの終点として、このハサンに近いペレボスナヤ湾とした図面が掲載されています。(柴田明夫、エネルギー争奪戦争、2007,12,10発行,PHPペーパーバックス)            (小森敦司、資源争奪戦を超えて、2007,,30発行(株)かもがわ出版)

尚、この2つの情報、ペレボスナヤ湾が太平洋パイプラインの終点という案と、この石油輸出港として羅津港を考えているのではないか、という情報については、新潟の環日本海経済研究所の辻久子特別研究員は、前者案はもう消えており、ナホトカ/コジミノに絞られている。後者については、自国のナホトカルートがあるのに、わざわざ重要戦略物資の石油を、いくら友好国とはいえ、他国から出す、などということは、とても考えられない、とのご意見だったことを付言しておきます。それよりも、この東シベリア産の石油の産出量が、中国、大慶油田へ先に行く3,000万t/年以上にあるかどうかが問題になっている案件だ、との話もあったことも報告しておきます。

(大森注2)この羅津〜ハサン間の鉄道は、元々北朝鮮側の軌道巾は、標準軌道(1,435o、中国と同じ)、ロシア側の軌道巾は広軌で(1,520o)でロシア側の巾が少し広いため、この間の相互乗り入れが出来ず、貨物も都度積み替えが必要であったが、これが不便で手間もかかるので、何年か前から相互乗り入れが可能な様に、広軌用レール2本(単線)と標準軌道用レール2本(単線)の計4本のレールが敷かれ、少なくとも羅津、ハサンまでは、夫々の国の列車が相互乗り入れ可能となって今日に至っています。

 従って、今回の改修工事も比較的簡単で、複線化をする訳でもなく、新たに広軌道のレールを新設する訳でもありません。ただここ10年以上殆ど使用していないので、軌道のレール取替え(?)、駅舎、貨物ヤードの整備程度で、あと国境を渡る図們江上の鉄橋を作り替える必要があるか否か、位が大きな問題だと思います。こう考えると、その気になってやれば4〜50kmの区間の改修工事は1年(2008年末)もあれば充分可能と思われます。むしろ、羅津港の港湾施設の改修工事やコンテナターミナルの建設の方が手間がかかるかもしれません。

(大森注3)以上の通り、羅津港の改修工事迄覚書に書いてあるか否かの確認がとれないまま帰国しましたが、たまたま帰国の翌日、2007,11,23(金)13時のNHK総合TVニュースでNHK北京総局発の本件に関する明快な内容のニュースが流れていたので、以下にそのほヾ全文を報告しておきます。この中で、ロシア側は、羅津の港湾施設についても改修事業に着手すると明快に報告されています。

 このニュースの全文から、今迄の要確認事項を、北朝鮮の朝鮮中央通信報として確認することが出来ますので参考として下さい。

 

 2007,11,23(金)13時のNHK総合TVニュースの北朝鮮とロシア関係部分の記録(NHK北京総局発)

 「北朝鮮は、北部の都市羅津とロシア極東とを結ぶ鉄道の改修にロシアがあたることになったと伝え、北朝鮮としては友好国の協力を得ながら羅津を整備することで経済の活性化につなげようという思惑があるものとみられる。

 これは、北朝鮮の朝鮮中央通信が昨夜(22日)伝えたものである。

 それによると、北朝鮮入りしているロシアの鉄道関係者が現地調査に当たった結果、北朝鮮北部の都市、羅津と、ロシア極東の都市、ハサンを結ぶ鉄道について、ロシアが改修に当たる事になった。

 ロシア側は、羅津の港湾施設についても改修事業に着手するということだ。

 羅津は、ロシアと中国にほど近く、北朝鮮は、これまでに、羅津と中国を結ぶ高速道路の建設を中国の企業に請け負わせ、その見返りとして、企業側に羅津の港の運営を長期間にわたって委託するという計画を進めている。

 今回の報道は、北朝鮮が、ロシアや中国の協力を得ながら、両国に近い羅津を物流の拠点として整備することで、経済の活性化につなげようという思惑を持っていることを示すものとみられる。」

(大森注4)羅津:北朝鮮北西部の中国、ロシア国境に近い港湾都市、水深も深い天然の良港である上、日本統治時代に作られた立派な埠頭のある事でも有名。港湾ヤードも広い。

      ハサン:図們江の日本海出口に近いロシア側国境のシベリア鉄道最南端の駅のある街。ウラジオストクより約170km。図們江を渡れば北朝鮮。中国吉林省琿春市にも極めて近い。

 

2、ロシア沿海州ザルビノ港の改修、補強、拡張工事とそこを起点とするシベリア鉄道の大活用計画について

 ザルビノ港は、中国の国境の街、琿春市より42kmにある小さな港で、元はロシア産の木材、スクラップ、石炭等の輸出港と漁港です。これに2006年度半ばより、富山の伏木港から週1便、日本製中古車の輸入船が入港しているほか、韓国籍のフエリーが2004年より週3便韓国東海岸の束草港との間を往復している位しか知られていない小さな港で、コンテナターミナルもなく、車専用の埠頭設備もない状態でした。

 今回の出張では、羅津〜ハサン間の鉄道近代化工事と東アジア産品を羅津港からシベリア鉄道経由ロシア西部及びヨーロッパへ輸出する話が出ていたので、それなら、ロシア領内のザルビノ港経由のシベリア鉄道利用便の増強計画はないのかと質問したところ、次の様な大巾増強計画がある旨の回答を得ました。

 ロシア鉄道極東支社の回答:我々は昨日(11/20(火))ザルビノ港の担当者と正にその件につきここウラジオで話し合ったばかりだ。次の様なプランでザルビノ港の近代化をする予定である。我々はつぎの3つの埠頭設備の整備をする予定である。 

 1つは、車専用の港湾整備、2つ目は、コンテナターミナルの整備、3つ目は漁港ほかの一般港湾整備である。

 すでにこのザルビノ港を経由し、シベリア鉄道を使ってロシア及びヨーロッパへ車を輸送するプロジエクトがあり、すでに日本の完成車メーカーが実験をしている。すでに車も送った。     との回答を得ました。

 この回答をヒントに、その後、前述のウラジオストクの安木経済専門調査員に確認したところ、先日この辺へ出張して見て来ました。既存バース4つと、今後の拡張予定バースの所有者は夫々違います、とのことでした。

 帰国後、日本の専門家に確認したところ、工事はすでに始まっている。完成車メーカーの輸送実験は、日本の会社だけではない。韓国メーカーもこのルートを使おうと狙ってテストをしています、とのことでした。

 このシベリア・ランドブリッジ(SLB:Siberian and ridge)、現在ではシベリア横断鉄道(TSR:Trans-iberian ailway)を利用して、ロシア西部及びヨーロッパ各地への各種部品、電化製品、完成車等の輸出に成功しているのは、早くからロシア西部へ工場進出してきた韓国勢です。

 韓国勢は、釜山からナホトカのボストチヌイ港へ定期便を利用して運び、そこからシベリア鉄道に積み込み、ロシア西部及びヨーロッパへ送るルートの活用に成功してきました。

 今度は、この経験を活かし、釜山〜ザルビノ〜シベリア鉄道ルートや釜山〜羅津〜シベリア鉄道ルートの活用を狙っているのです。この韓国勢は、長距離鉄道輸送の問題点とされる振動被害を避けるべく、梱包技術ほか今迄いろいろ工夫努力をして来たそうです。更に、本件に関しては私の質問に対するロシア鉄道の幹部の説明では、そういう重要な部品を運ぶ貨車の台車は、人間の乗る客車用台車を使用しているので、問題ない。韓国の学者とも情報交換し、工夫しあっているが、これなら大丈夫だ、OKだ、と言ってくれている、との事でした。

 以上の説明から、今後ザルビノ港が大変身を遂げる”兆し“を感じ取って頂けたものと思います。

 

3、琿春(中国・吉林省延辺朝鮮族自治州)〜ザルビノ港(ロシア)〜新潟〜束草港(韓国)〜ザルビノ港ルートの新規航路の可能性等について

このルート開設の必要性と希望、並びにこれまでの経緯については、既述の2007年3月京大上海センター刊の「日本海対岸貿易の可能性について」の小冊子をご参照願いたいが直近の情報としては、いよいよこのルートにカーフエリーが2008年3月17日より就航することが決まっています(The aily NNA韓国版第2183号)。

が、今回は、羅津〜ハサン間の鉄道改修の話やザルビノ港の大改修とシベリア鉄道ルートの活用計画等ロシアサイドから大きな話しが出ているので、これとの関連でウラジオストクで取材した情報の報告から入らせて頂きます。

沿海地方議会議長:今沿海州ハサン地区の近代化を検討中である。

 中国の琿春から、中国の貿易品をザルビノ港経由で輸出する話は、豆満江(中国名図們江)の開発にからんでいる。ロ、中、北朝鮮の3カ国で、となっているので、この3カ国の決定がなかなか難しい。過去12年間国連も拘ってきたが、経済的に難しかったので余り進んでいない。特に中国の貨物が少ないのでなかなか進まない。もう一つ、琿春〜ザルビノ間の鉄道について、一部に私企業が入りうまく行かなかった。大きな事件があり停滞していたが、これは乗り越えた。一応解決したので今後前向きに進めるいい見通しが生まれている。

 今後、北朝鮮、韓国、中国、ロシア、それに日本も入れた協議をやる、協議を進める予定である。

 尚、この琿春〜ザルビノ近郊迄の鉄道について、ウラジオストクでの情報では、この鉄道は廃線になり、今後はトラック、トレーラー輸送一本になる、という話があったので、本件は琿春市に絡んだ話なので、(株)小島衣料の琿春子会社の副総経理の日本人に聞いたところ、この鉄道は廃線にならない筈だ。何故なら、ロシアから中国へ輸出されるものは、木材が多く、その他も資源、等大型且つ重量のある物が多く、トラック輸送には不向きで、鉄道でなければとても無理と思う、とのことでした。

 もう一つ、今年(2007年)は、「ロシアに於ける中国年」で中ーロ間で様々な交流があったが、つい先日、11月上旬にその閉会式がモスクワで行われました。その時、多項目にわたる経済協力協定に中国側呉儀副首相、ロシア側も副首相級の方がサインされているが、その協定の中に「図們江開発」の一項目が入っているので、今後この地域の経済が中ーロ間で活性化すると思う、とのことでした。

 

4、琿春(中国)〜羅津(北朝鮮)間の高速道路の建設と舞鶴、富山、新潟ルートについて

本件は、今回のロシア出張とは直接の関係はないが、同じ図們江開発に関する一連の案件につき、一項目として最新情報を簡単に報告しておきます。

琿春市は、かねてより、中国東北3省の石炭や穀物、その他鉱産物、ロシアの木材及び木材加工製品等を中国の華東、華南地区へ送る港としてこの羅津港の長期使用権の獲得に努力してきました(借港出海政策=港を借りて日本海へ出る政策)。その結果、2007年11月23日のNHKTVニュースにもある通り2005年8月に琿春市の中国企業と北朝鮮羅先市人民委員会経済合作社とが合弁で羅先国際物流合弁会社を羅津市に登記設立しました。同社は、琿春(圏河)〜羅津港間48kmの高速道路建設の権利と義務を負いました。同時に羅津港3号バースの利用権と4号バースの建設ならびに経営権を向う50年間に亘り得ました。その後、2006年10月に北朝鮮政府から道路建設許可が下りたが、羅先市人民委員会との合弁会社とはいえ、小さな1私企業に50kmに及ぶ高速道路を作らせることは、当初から無理があり、資金難からとても出来る話ではなく、結局今日迄着工すらされていません。

 この間、私は琿春市政府幹部や北京の中国外交部(外務省)の要人(邱国洪亜洲司副司長・アジア局副局長・元駐大阪中国総領事)に、例え50kmとはいえ、これだけ重要な道路を、しかも他国内に建設する諸困難と、完成の暁には、中国東北3省が大いにうるおい、東北振興政策にも合致するので、本件は、地方政府か中央政府マターとされるべきだと強く提言しましたが、今中国政府は、私企業に出来る案件に政府は金は出さない、という大方針を出しているので無理である、との回答でした。

 そこへ、今回、ロシアが羅津港の改修もするし、そこ迄の鉄道の改修もする、との覚書を交換したとのニュースが入ったので、中国サイドもやヽあせり気味で、元々中国が先んじていた筈が、今やロシアに先を越されそうになっている訳で、結局、もっと力のある中国企業にやらせるか、琿春市のみならず、少なくとも長春の吉林省政府迄巻き込んで、目下対策を検討中の模様で、近々何らかの対策が考えられるのではないか、と期待されているのが現状です。(本件も2007年3月京大上海センター発行の「日本海対岸貿易の可能性について」を参照して下さい。)

 

5、まとめ

(1)年内に京都大学上海センターニュースレターに掲載して頂こうと12月7日に脱稿し、校正、見直ししていた時に、今回の主テーマであるシベリア鉄道の活性化を裏付ける2つの重要記事が相次いで出ましたので、記録の意味も含め、先ずご紹介しておきます。

 その1つ目は、12/7付日経新聞の記事です。

 「近鉄エクスプレス、シベリア鉄道で完成車を輸送。2008年を目途に、ロシア極東のザルビノ港より。船便でフインランド経由で運ぶ従来のルートより4050日短縮の20日程度で到着。」

2つ目は、12/9付朝日新聞の記事です。

「韓国与党系大統領候補・民主新党の鄭東泳候補、南北朝鮮の鉄道網の整備強化とシベリア鉄道の活用により、シベリア、欧州をつなぐ経済領土拡張時代を開く。」とテレビで選挙公約をした。「10年間で南北朝鮮半島に総延長1,175kmの鉄道網を建設、整備する。」と強調した。

(2)今回の出張では、ロシア極東地区が、シベリア鉄道の活用により、大きく発展、変貌しそうだ、とのかなり明るい、前向きな報告をしましたが、ご一緒させて頂いたロシアとのお付き合い歴40年以上の超ベテランの教授お2人をはじめ、在ウラジオストク日本総領事館の皆様や、その他の方々迄、ロシア(旧ソ連時代も含め)は、本当に難しい不可解な国で、政策、方針も次々と変るし、なかなか予測なども出来ない国である。しても当たるかどうか分からない。何度も裏切られた経験がある。従って、今回の諸計画や覚書の締結がされたからと言ってそれを実行する資金計画や技術的裏付けや、推進母体が何処なのか等々が全てあいまいで、結局実現しなかったり、極端に延び延びになるケースが多い。むしろ計画は立てるが、資金や実行は他人任せ、という感じが強い。その証拠に、琿春の貨物をザルビノ〜新潟〜束草(韓国)〜ザルビノとフエリーで運航させる計画も、元々この11月に実現させる、と計画、発表していた案件です。これも本当に来年3月17日から運航されるかどうかはわかりませんよ、とのご意見もあったことを付言しておきます。

(3)これらの計画実行力に問題あり、との貴重なご意見も考慮に入れた上で、今回話題に上がった諸

計画の実現可能性を、それこそ当たるかどうか分かりませんが、私なりの判断で大胆に順序付けす

ると、次の通りです。

(イ)一番実現可能性が高くて、早い、と思われるのは2、で述べた、ザルビノ港を改修・増強の上、日本製、韓国製の完成車、及び部品ほかの諸貨物をシベリア鉄道経由ロシア西部や欧州へ輸送する計画です。

その理由は、車専用埠頭やコンテナターミナルの増強等の工事は必要だが、北朝鮮や中国とは全く関係なく、ロシア一国内の工事であること、又、シベリア鉄道そのものは既存のものをそのまま利用出来、鉄道の改修工事は不要であること。何よりも心強いのは、世界有数の競争力を持つ日本や韓国の大メーカーが、すでにその必要性を認め、輸送テストを開始していることです。このルートが定着すると、大量の輸送貨物となることから、ザルビノ港、シベリア鉄道及びその周辺地域へ及ぼす経済効果は、極めて大きいと期待されます。もっとも、ここでの問題点は、埠頭の所有者が2社で、必ずしも協調的でない、とも言われており、一部ではマフイアが絡んでいる、とも言われている点です(未確認情報)。従って、埠頭の改修、増設工事が問題なく早く進み、完成するか否かに成否がかかっています。

(ロ)2番目に可能性の高いのは、3、の中国・琿春の貨物をザルビノ〜新潟〜束草〜ザルビノと回る日本海横断フエリーの開通です。

理由は何と言っても2008年3月17日から運航させるとすでに発表し、目下関係者間で、運賃の設定や採算等に関し、協議が行われていることです。

又、こちらは、新しい設備投資は不要ですし、シベリア鉄道経由ロシア西部や欧州向けのコンテナ船が出入りし出すと、その帰り船で(株)小島衣料のコンテナを日本へ送る可能性も出て来る、等々からです。

(ハ)3番目に実現すると思われるのが、1、の羅津〜ハサン間の鉄道改修と羅津港の改修、コンテナターミナルの新設等による北朝鮮経由のシベリア鉄道便の開通案件です。こちらは2008年末までには完成させる、と言っていますので、この目標期限内に開通するか否か、注視したい、と思います。

()一番開通が困難で、時間がかかると思われるのが、4、の琿春〜羅津間に高速道路を建設の上、中国・東北3省の貨物を華東、華南地区へ輸送したり、外国へ輸出することです。理由は、なんと言っても力のある建設主体が、まだ決まっていない事と、中央政府(北京政府)は、原則的に援助出来ない、と現在までのところ明言していることです。

(4)3カ国国境地域を中心とする物流拠点整備とシベリア鉄道活用計画等の話は、ここまでとし、最後に、可なり気になるロシアー中国間の関係についての懸念材料を一つ報告しておきます。

それは、2007,10,1よりロシア政府は、全土で外国人に対し、今後は労働VISAは発行しない、と発表し、それが実施されていることです。その為、ウラジオストクでもナホトカでもこのところ多くいた中国人が可なり減っているそうです。ナホトカでは、中国人商店が集中的に入居していた市中心部の“万里の長城”(外観が似ている為)と言われているチャイナタウンが、今空っぽになっているそうです。ウラジオストクでも中国人はだんだん減っている、とのことでした。シベリア地方には、中国人以外に、多くの北朝鮮労働者が来ており、その多くが、シベリア木材伐採に従事しています。そのほか所謂3Kの仕事等は、中国人ではなく、ここでは北朝鮮の労働者がしています。こういう人達まで帰ったら、3Kの仕事はどうなるのか、と心配もし、話題にもなっていましたが、明解な理由も分からないまま帰国しました。

帰国後、種々関係者に聞いたところ、以下のことが判明しました。即ち、これは、表向き、全外国人労働者締め出し運動の様に見えますが、実態は、中国人追い出し運動である、という意見の方がおられたので報告しておきます。

ロシア西部で、中国人がどの位進出しているのか分かりませんが、又その他の国の労働者がどの位いるのかも分かりませんが、極東地区では外国人と言えば中国人が圧倒的に多く、次が北朝鮮人だそうです。が実は北朝鮮とはVISA不要で両国民共相互に自由に出入り出来る条約があり、本件の対象外なので3Kの仕事も森林伐採の仕事も何ら支障なく行われている、とのことでした。ということで結局、あまりにも多くなりすぎた中国人が脅威なのでロシア人の失業対策もあり、こういう措置に出たものと思われる、とのことでした。

しかし、私はもう一つ、重要な問題が隠されているのではないか、と思います。それは、頭初の部分で少し述べた通り、1858年の愛琿条約と1860年の北京条約で、アムール河(黒龍江)以北の地と現在の沿海州、合わせて、日本の約3倍の土地を帝政ロシアが清朝から割譲させた件に絡んでいるのでは、と思っています。実際にウラジオストクで聞いた話ですが、今でも中国人とロシア人が酒席などで一緒になると、時折、この話が出るそうで、中国人の中には、ここの土地はついこの間迄は、我々の土地だったんだ、と言う者もいるそうです。第二次アヘン戦争の結果として、弱体化していた清朝から二つの不平等条約で奪った土地、と言われているものです。ウラジオストクもナホトカも、ハバロフスクも全部その中に含まれています。その問題さえなければ、中国は、北方とは言え、自国で日本海へ出る港を持っており、今苦労している諸問題は全て起こっていない訳で、中国人の想いも理解出来ますが、我々外国人はこういう問題には拘らない方がよい、と思います。こういう因縁のある土地に、今多くの中国人が入って来ているので、ロシア政府も不安を感じてやったのではないか、という意見の方もおられるということを報告しておきます。この話しの延長線として、中国・琿春の貨物をザルビノ港経由で日本や韓国に出す件について、あるロシア人が、ロシアにとって、あまりプラスにならず、中国側にだけメリットのある様な案件に何故付き合わねばならないのか、という発言を今回の一連の会議のどこかでしていたことを、今思い出しています。

この様に、「ロシアに於ける中国年」を1年間いろいろやって来た年の末に、ウラジオストクでこんな話がでているとは、といった感じです。いずれにしろ、ロシアと中国の関係は、決して、一枚岩でアメリカの一極支配に対抗しよう、としているのではなく、お互いの間でも、この様に、極めて微妙、複雑な関係にあり、互いに疑心暗鬼といった点もある、ということを実感した次第です。

(5)現在核廃絶を中心に、米朝協議と6カ国協議が鋭意行われています。

こちらもまだまだ紆余曲折がありそうですが、そうは言っても今回は、ブッシュ大統領が直接親書を出すとか、韓国新大統領の就任式の翌日に当たる2008,2,26のニューヨークフイル平壌公演が発表されるなど、意外と早く、どこかで突然決着、ということもあり得る状況で、その先には、米朝国交正常化も視野に入れておく必要がありそうです。難しい北朝鮮相手の話しですから、今後もどう展開するか予断を許しませんが、羅津港の開発案件一つを見ても、今迄は中国のみが先行して、いろいろ話し合ったり、合弁会社を作って開発に協力する話が、ここ2年半ずーっと出ていたのに、ここへ来て先ず南北会談で韓国が開発を支援すると共同宣言したかと思えば、今度はロシアが鉄道と羅津港共々その改修、建設に合弁会社を作って参加する旨の覚書に調印するなど、その急展開振りは、目を見張るものがあります。これらは全て、核放棄後の北朝鮮の資源をはじめ、あらゆる経済開発に先鞭を付けておこう、との各国の思惑もからんでいると思います。

こういう国際情勢ですから、私達も、どのような状況の変化にも、素早く対応出来る様、常日頃から準備だけはしっかり整えておく必要があると思います。

(6)最後に、同行させて頂いた藤本団長以下団員の皆様、又、現地で種々情報をお教え頂いた在ウラジオストク日本総領事館の蒲原総領事様、安木経済専門調査員様(”ザルビノ・ハサンを行く“ロシアNIS経済速報NO1399ほか)はじめ総領事館や日本センターの皆様、又、日本で種々の情報を頂いた環日本海経済研究所の特別研究員辻久子様、(株)小島衣料小島正憲社長様、同じく現地子会社の及川副総経理様ほかの皆々様に厚く御礼申し上げます。特に辻久子様の直近のご労作“シベリア・ランドブリッジ、日ロビジネスの大動脈”(成山堂書店)は、シベリア鉄道の東と西全ての地域の経済、物流の歴史と現状、将来について網羅され、今回の私の調査、疑問点に殆ど全て回答を与えてくれる名著でした。この地域の案件にご興味をお持ちの方は、是非ご一読をお勧め致します。ありがとうございました。