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京大上海センターニュースレター
194号 200813
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      新年のご挨拶

      中国・上海ニュース 12.24-12.31

中国自動車販売におけるインターネット情報の影響分析

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新年の御挨拶

上海センター長 山本裕美

新年明けましておめでとうございます。本年も宜しく御協力のほどお願い申し上げます。

昨年度の上海センターの活動は以下の如くでした。

国際会議開催では、200772日 国際シンポジウム「内陸部に拡がる中国の経済発展」を開催し、西安交通大学西部開発研究中心の朱正威教授、藤井重樹積水(青島)塑膠総経理、大西広上海センター副センター長、宮崎卓准教授がそれぞれ報告しました。

また、国際会議共催では、経済学研究科及び上海センターは、918.19日に京都大学COE21プロジェクトとして国際会議「東アジア経済のガヴァナンス問題」を開催しました(実行責任者:八木紀一郎教授)。海外からW・パッシャ教授(デュイスーエッセン大学)、林其昂教授・周徳宇副教授(台湾・国立政治大学)、陳平教授(北京大学中国経済研究中心)、盛洪教授(北京天則経済研究所)、盧荻副教授(中国人民大学)、レスリー楊教授(香港中文大学)、ムン・ウーシク教授(韓国ソール大学)、リー・ヨンウー教授(韓国慶北大学)が参加し、京大から下谷政弘教授、八木紀一郎教授、山本センター長、大西広副センター長、堀和生教授 宇仁宏幸教授、村瀬哲司教授(国際交流センター)が参加しました。国内からは藤田正久京大名誉教授・甲南大学教授、今井健一アジア経済研究所地域研究センター次長が参加しました。

1267日には実行委員会(委員長:堀和生教授)が組織した韓国の慶北大との第7回国際シンポジウムに慶北大学通商学部から金熙鎬教授、崔種a教授、河仁鳳教授、文桂完教授が参加報告する一方京大側からは経済学研究科の宇仁宏幸教授、若林靖永教授、経営管理大学院の若林直樹教授、国際交流センターの村瀬哲司教授が参加報告しました。

国際会議参加では、マスワナ講師が12月に上海で開催された中国経済学会に参加報告しました。

国内セミナー開催では、113日には塩地洋教授主宰の中国自動車シンポジウム「中国におけるユーザーの購買行動」が開催され、フォーインの周政毅第1調査部長、大阪商業大学総合経営学部の孫飛舟准教授、金沢学院大学経営情報学部の西川純平講師、JD・パワー・アジアパシフィックの木本卓部長、京大大学院経済学研究科博士課程学生李澤建氏が参加報告しました。

また1110日にジョージ・クー(顧屏山)博士を招待して「日米中関係の将来」と題する講演会を開催しました。クー博士はMITで化学工学の学士号、修士号を取得後、スチーヴン工科大学で博士号を取得し、サンタクララ大学でMBAを取得しています。博士は中国福建省生まれで中国系米国人組織の百人委員会のメンバーであり、米中関係に直接関係していた経験があります。現在はデロイト・トーシュ・トーマツの中国担当部長です。

国内セミナー共催では、7月に山本センター長が三井住友銀行中国部、福井商工会議所との共催セミナーで中国経済に関する講演を行いました。また三井住友銀行、JETRO金沢事務所との共催セミナーで中国経済の講演を行いました。

受託調査では、7月には国際協力銀行からの受託プロジェクト「重慶市は配電網改善プロジェクト」で山本センター長、宮崎卓准教授が北京、重慶において調査を行いました。

京大内部協力では、宮崎卓准教授が松井啓之准教授とともに国際交流センター主催の復旦大学との学生交換科目において学生の中国研修を行うとともに京大において復旦大学の学生研修を行いました。

本年218-19日には中国農業問題に関する国際セミナーを開催する予定しており、人民大学、南京大学、吉林大学等から3人程度の教授を中国から招聘する予定でいます。また3月には西安交通大学の招待で山本センター長、大西副センター長、宮崎准教授が講義を行う予定です。

また、人事面では宮崎准教授が10月に副センターに任ぜられました。

 最後に、上海センターの研究年報『東アジア経済研究』第1巻第1号が3月に刊行され、本年3月にも第2巻第1号が刊行される予定です。

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中国・上海ニュース 12.24−12.30

ヘッドライン

■ 中国:国家統計局予測、07年のGDP成長率11.5%

■ 中国:08年から主要農作物の輸出に暫定関税 

■ 中国:香港の直接選挙、2017年から開始

■ 国際:日中共同声明、気候変動対策の科学技術分野で協力強化

■ 中国:1−11月期住宅ローン急増

■ 中国:新たに7都市(非直轄市)、GDP3000億元を突破

■ 浙江: 銭塘江に第3の鉄道橋が起工、2010年開通予定

■ 上海港:07年間貨物取扱量5.6億トン、3年連続世界一

■ 上海: 財政収入が初めて2000億元を突破

■ 上海:地下鉄、新たに3線2区間が正式に開通 

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中国自動車販売におけるインターネット情報の影響分析

李 澤建(京都大学大学院経済学研究科博士課程)

1、はじめに

表1 中国自動車消費の構造変化

 

2002

2006

特徴

市場規模

125万台

416万台

急拡大;8割が初心者

女性顧客率

20.3%

30.9%

女性向け製品出現

ユーザー平均年齢

35.3

32.3

初代一人っ子世代が浮上

保有世帯平均月収

9235

10193

連年、車価格下落と収入上昇で市場が急規模拡大

車購入予算≒年間収入額

都市世帯平均月収

7703

11759

成熟市場

北京、上海、広東

低成長率、高保有台数

成長市場

浙江、江蘇、山東、四川

高成長率、高保有台数

始動市場

河南、内モングルなど

高成長率、低保有台数

出典:「中国汽車ユーザー消費形態報告」新浪・新華信連合調査報告。

 WTO加盟目前の2000年、中国国内の自動車生産及び販売台数が共に200万台を超えた。2006年には同数字が720万台を超え、市場の急成長を示している。更に、こうした急激な市場拡大の背景に、表1で示すとおり、市場規模の拡大とともに、構造変化も伴っている。先発した沿海部大都市では市場が成熟段階に入りつつあると同時に、モーターリゼーションが大都市から周辺へ、内陸部へ次第に浸透していく様子が鮮明である。本稿では今現在こうした市場構造の変化の下、20078月中国北京で行われた「北京ユーザーアンケート調査」(以下:「北京調査」と呼ぶ)の調査結果を用い、中国の自動車消費者の購買行動にインターネットで流された情報の影響を分析することに試みる。

2、なぜインターネット情報なのか

(1)中国インターネットの現状

まず、インターネットの発展状況について見てみよう。右図(出典:「中国インターネット発展状況統計報告」各年版。中国インターネット情報センター:CNNIC)で示す通り、中国におけるインターネットユーザー数が97年の63万人から071月時点の1.37億人へ急成長した。接続コンピューターの台数も同期間において、29.9万台から一気に5940万台まで拡大してきた。インターネットが中国人の生活に深く関わりこんだと言えよう。次に、車購入との関連において、前述した「北京調査」だけでなく、他に多数の研究報告が類似する結論を出している[1]。つまり、それはインターネットが情報源として車購入際に重要な役割を果たす結論である。それで、「北京調査」の結果に限って言えば、82.2%の潜在ユーザーが購入前インターネットを通じて、情報収集を行った。

(2)インターネット情報の種類

表2 車関連サイトTop10

汽車之家 www.autohome.com.cn

新浪車行天下 auto.sina.com.cn

太平洋汽車網 www.pcauto.com.cn

網易車訊 auto.163.com

捜狐汽車 auto.sohu.com

汽車網 www.xcar.com.cn

中国汽車網 www.chinacars.com

汽車天下 www.chetx.com

網 www.ucar.cn

汽車網址大全 www.chelink.com

出典:www.chinarank.org.cn

インターネット情報と消費者購買行動の関連をより明確に引き出すために、インターネット情報の発信源から分類してみることにしよう。

まず、サードパーティの役割を果たす車関連専門サイトから見てみよう。表2ではこの分野のトップ10位のアクセスアドレスをリストアップした。各サイトで多少内容の構成には違いが生じるものの、自動車業界の関連ニュース、購入に関連する車種情報(写真、スペック、価格情報、店案内)、広告、掲示板、関連論説などの機能が一般的に設けている。一般報道機能以外に、メーカーとっての情報チャンネル、ユーザーとってのコミュニケーションの場とする情報を総合的に発信する場の特色を有している。

次に、バーチャル・コミュニティがある。上記車関連専門サイトでのコミュニケーション機能に特化したサイトのことと言えばよかろう。しかし、両者の最たる違いとは、車関連専門サイトでの情報が専門編者の手を通して、採取、あるいは編集され、そして公開する流れに対し、バーチャル・コミュニティでは専門の方ではなく、一般ユーザーが自らの言論やその裏付けとなる情報の貼り付けなどがバーチャル・コミュニティでの主な情報構成となっていることである。日本でいえば、有名な「2ちゃんねる」はこのようなサイトである。従い、発信力と影響力の面からいえば、強力な影響を持つ場合もあるものの、その情報が正確であることに必ずしも保証があるとは言えない。それはバーチャル・コミュニティの最たる特徴である。しかし、消費者が直接に書き込んだ情報のため、口コミ形成の場として、消費者の購買行動への影響が無視できない。

最後に、メーカーや関連販売店のホームページである。このようなサイトでは前述二者と異なり、自社の製品に関して、直接情報を発していることは特徴だと言える。

前述した「北京調査」では「購入際に重視される要因」について、調査した結果を右図にまとめた。現時点、中国北京では車を購入する際に最も重視される要因は車の安全性であることを分かった。価格要因が安全性を初めとする車性能に関連する諸指標の下に来た結果はWTO加盟後、商品価格の連年下落と新商品の多数投入によって、消費者の選好が購入を検討する際に以前の価格重視から現在の製品性能重視へ変わったことを反映している。一方、環境、燃費、残価などへの関心が最も低いことから、中国市場が日本市場のような成熟度にはいまだ到達していないことも言えよう。ここで、安全性、燃費、維持費用を事例に、前述三種類の異なる情報源からの発信された情報の影響度を検討していく。

3、インターネット情報の影響分析―事例分析

(1)安全性

表3 C-NCAP衝突実験成績一覧(得点順)

フォード・Focus一汽トヨタ・クラウン、東風日産・ティアナ、広州本田・オデッセイ

★★★★★

一汽VWSagitar東風本田・シビック、神龍汽車・プジョー307スズキ・SWIFT、本田City、東風日産・TIIDA上海VWPassat、一汽奔騰、上海GMLaCROSSE

★★★★

奇瑞A5、長城哈弗、BYDF3、東風悦達起亜・Cerato、北京現代・Accent、一汽海馬・Family、一汽夏利・威志、湖南長豊・猟豹

★★★

吉利・自由艦、上海GM五菱・SPARK

★★

出典:C-NCAPホームページ。(2007年第二次実績まで)

表4 書き込み分析

肯定的意見

否定的意見

どちらでもない・無意味な書き込み

181人・回

975人・回

138人・回

 2006年、サードパーティ評価機関として、中国天津にある「中国汽車技術研究中心」が「中国新車評価規程」(C-NCAP: China New Car Assessment Process)を導入した。C-NCAPでは市場で販売台数の多い車種を選び、独自に一定なスピードで正面、正面斜め40%、側面の衝突テストをそれぞれ行い、総合的採点するシステムである。ここで、日系車の評価を見ていこう。表3の採点結果から、日系現地生産車が高い安全性を有していることは明瞭である。一方、異なる情報源のインターネット書き込み情報から、日本車の安全性に対し、異なる見解も伺える。分析には「国際金融報」2004123日の記事[2]を使う。記事の内容に関して、同紙がAutoBild() の公表した「2004年度ドイツ国内自動車品質調査」を用いて、近年日本車の品質が日々改善されるため、ドイツ車より高いと論じたものであったが、分析対象として使うのは記事に対する個人が記入した2004123日から2007918日まで合計1294本の書き込みである。その分析結果を表4に纏めた。驚くことに、日本車の品質に対する疑問な声が多かったことである。その内、中国消費者の車の安全性に対する消費心理を伺える。その特徴とは、まず、車の安全性を交通事故での損傷具合で測られる傾向である。その背景にはC-NCAPのような客観的な評価基準の整備が遅れる理由に、軽い損傷が修理に出しても少額で済むため、心理的要因も働いていると思われる。更に、重大な人身事故の影響は特にマイナス影響が大きいと言える。従来中国のインターネットでは写真付きの交通事故の情報がしばしば見られる。関心の高い商品の場合、その情報が個人のインターネットユーザーによって各バーチャル・コミュニティの間に素早く転載していく。そして、車関連総合サイトも報道や調査に乗り出し、真相解明と同時に、影響を拡大していくこともある。例えば、2005年杭州周辺の高速道路で起きた「婚礼門事故」はその典型事例である。結婚式当日、花嫁を迎えに行く途中の事故で、日本A社の車が真ん中から真二つに裂けた写真が、インターネット上では重大な出来事として続けて注目されてきた。次に、その心理影響で、車を購入する際に、車ボディの安全設計技術より、車台の重量や使われた鋼板の厚さが安全性を測る要素として注目する言動も常に存在する。こうした消費心理の影響で、日本車の安全性について、単純な反日感情の要因が除かれても、日本車は車台の重量が軽い、鋼板の厚さが薄い、前述した重大な事故の影響に、更に「日本車の品質は世界中(他国)で良いかもしれないが、中国での現地生産車は別だ」というダブル・スタンダード論の主張が加えられ、表4で日本車の安全性について否定的意見が対照的に多い結果となったわけである。

(2)燃費・維持費用―新浪汽車(Auto.Sina.Com.Cn)を事例として

中国インターネット上の車関連専門サイトでは多少異なりがあるものの、車の使用やメンテナンスに関する情報が多く存在する。ここでは新浪汽車を事例として紹介してみよう。新浪汽車では車種別に中国現在販売している全車種の評価機能を設け、情報開示している。各車種の紹介ページでの内容項目の構成は車種と関係せず、何れも同じである。車種に関するメーカー名、発売時期、指導価格、排気基準 燃費、車体のスペーク、標準写真という基本情報の他に、サイトの方から、安全基準、車種ランキング、実際写真、テストドライブ報告、競争車種比較分析などのデータや調査報告や評価などの情報も掲載している。更に、全体なページの中に、最も注目されやすい位置に、ユーザーが直接記入した使用の口コミ情報がサイトからの情報の項目の占める合計面積より大きな面積で開示している(読まれるチャンスも大きい)。詳細内容には実際燃費や維持費用のようなデータ、テストドライブや使用・修理・改装を行った感想、更に使用中の不満や改善注意点などメーカーへの提言や自由評価などの実に様々な口コミ情報を網羅した。例えば、現地生産されているカムリの燃費について、メーカー提示の参考数字は時速90キロの際、100キロ当たり6.86.9Lの燃料が消費される情報に対し、一般ユーザーの書き込みでは走行する路面情報などの使用条件と共に、記入した燃費の平均値は100キロ当たり11.95Lとなっている。メーカーの提示情報と大きく乖離している。

4、結論

表5 インターネット情報の影響度分析

N=245

情報ルート

最も重視

間接

個人口コミ

知人、親戚の口コミ(見知り)

38.11%

インターネットにおけるユーザーの評価(見知らぬ)

21.37%

マスコミ評価

伝統マスコミ*評価

情報発信源の違い

20.82%

伝統マスコミ*広告

20.16%

インターネット主要サイトの評価

18.29%

直接

メーカー宣伝

インターネット上の広告

12.22%

販売店の推薦

9.38%

注:*伝統マスコミとは新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどのマスコミ手段を指す。

 上述した通り、現時点中国市場では車商品の口コミ情報が、サードパーティの情報、あるいはメーカー発信情報と大きく一致しないことがしばしば起こる。現状ではこの三種に大きく分けられた情報が各自に影響を果たしているに違いない。今回「北京調査」ではその影響度の違いについて、調査を行った。結果を「最も重視」と答えされた高い順に各情報ルートからの発信の影響力を表5に纏めた。

現時点に限って、表5から顕著に言えることはメーカー側からの商品に関連する「直接発信情報」より、個人の口コミやマスコミ評価などのような「間接発信情報」の方がより重視されている傾向が鮮明に出ている。こうした「間接情報重視・直接発信軽視」現象の背景に、車消費文化がいまだ成熟していないことが原因として指摘できる。同時に、7割以上より一方も減らないエントリユーザーの比率に、WTO加盟後から急増し続ける車種の数という要因も加えられた結果、自ら使用経験の浅い、あるいは経験のないユーザーが大半に占める中国では「とりあえず、騙されたくない」という心理が強く働き、消費者が素直にメーカーやディーラーを信用しようともしない現象が起こった。より重視された「間接発信情報」の内にも、より信頼できる知人・親戚の経験や、個人の生経験を反映しているインターネットにおける個人評価がマスコミ評価より重視されていることを改めて強調しておきたい。順位では個人口コミより下がるものの、重視度では、インターネットを含む広い範疇のマスコミ情報がサードパーティ発信として影響力を持つことは疑う余地がない。メーカー側では、自らの「直接発信」が軽視されていることを如何に克服すべきかの課題が依然残っている中、日系メーカーにとって、現時点の中国市場では、他国企業の製品への評価と比べ、日系車への評価により多く感情的な要素が含まれていることが明瞭である。なお、前述した課題を解消するために、他国企業より一層の努力が必要されるに違いない。これで、本稿では、「北京調査」の結果を下に、現時点中国自動車消費者の車購買行動にインターネット情報が果たした影響を種類別に明らかにした。



[1] KPMGTNS(2007)Automotive Dealerships in China: Accelerating Performance」に参照。

[2] 「質量報告:是日本車好還是徳国車質量好(日本車とドイツ車はどちらの品質が良いのか?)」「国際金融報」2004.12.03 http://www.pcauto.com.cn/teach/step1/0412/175090.html