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京大上海センターニュースレター
195号 2008110
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      中国・上海ニュース 1.1-1.6

中国における自動車購買者の店舗選択について

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中国・上海ニュース 12.31−1.6

ヘッドライン

■ 中国:07年小型火力発電ユニット1438万KW分を閉鎖

■ 中国:北京−上海高速鉄道で837億元分発注、国内4社受注 

■ 中国:07年繊維貿易18%増、貿易黒字の6割稼ぐ

■ 中国:貨物取扱う量1億トン以上の大型港、14港に

■ 自動車:08年の自動車生産量は1000万台超へ

■ 石油:勝利油田の新規発見の石油埋蔵量、25年連続で年間1億トン超増加

■ 北京:住民に旧市街地からの転出を奨励

■ 北京:出稼ぎ労働者居住区で500人が集団下痢

■ 上海:07年の結婚登録人数が3割近く減少

■ 上海税関対外貿易総額が5100億ドル、同期比19%アップ

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中国における自動車購買者の店舗選択について

20078月のユーザー調査から―

大阪商業大学総合経営学部准教授 孫飛舟

はじめに

 20078月に北京の自動車購買者を対象に行われたアンケートの中に、店舗選択に関する設問があった。アンケート調査票A票(新車購買者対象)の「問21」はそれであった。アンケートでは、選択の対象となる店舗形態を「交易市場内のスーパーマーケット」、「交易市場内の4S店」、「交易市場外の4S店」と「交易市場外の一般業販店」の4つに分け、それぞれの形態の店舗を「非常に利用したい」〜「絶対利用したくない」の5段階評価を設定している。さらに、続いた設問(「問22」)において、店舗選択の際に重視する要素として、「交通の便が良いか」、「接客が良いか」、「価格が安いか」、「信用できるか」、「比較できるか」、「アフター・サービスが良いか」の6つを挙げ、それぞれの要素を「最も重視する」〜「まったく重視しない」の5段階評価を設定している。

 本稿では、筆者は今回のアンケート調査の結果を踏まえて、上記4形態の店舗に関するユーザーの選好度及びその原因を探ることにする。そして、アンケート調査を通じて、現段階各自動車メーカーが展開している販売チャネルにはどのような問題点が存在するのか、今後採るべき方向性について一定の示唆を与えたい。

 

T.店舗選択を取上げる理由

 

 近年、中国の自動車流通業界において「4S店神話」が吹き荒れている。4S店とは、新車販売、部品販売、アフター・サービスと情報フィードバックの4機能を持つ四位一体型の店舗のことである。簡単に言えば、日本の正規ディーラーの店舗と同様に、新車のショールームと整備工場が一体化し、部品倉庫やお客様相談室などの設備と機能を持つ店舗のことである。それに加え、中国の平均的な4S店は日本の平均的なディーラー店舗に比べ、遥かに大規模な店舗面積を有し、敷地面積だけでも3000平米以上のものがほとんどである。また、整備工場のピット数は一般的に10以上もある。

 4S店が登場したのは1990年代末のことである。後発の外資合弁メーカー(日系、アメリカ系)が販売チャネルの構築に際してそれを導入したことをきっかけに、2000年以降、既存の大手メーカーを中心に一気に広まったのである。しかし近年、中国の大都市を中心に環境規制が厳しくなり、板金や塗装などの重整備を行う4S店の整備工場は騒音や排気などの発生源となる恐れがあるという理由で、中心市街地において規制の対象となったのである。そのような状況の中、一部のメーカーは中心市街地に整備工場を持たない新車販売のみの店舗(1S店)、または新車販売と部品販売の両方を行う店舗(2S店)を出店させている。一部の4S店も整備工場を持たないサテライト拠点を開設している。

4S店や1S店、2S店のようなメーカー指定専売店以外に、複数ブランドの車種を併売する一般業販店も存在する。中国にはまだ数多くの弱小メーカーが存在しており、彼らの車種は一般業販店経由で売られる場合が多い。そして、メーカー指定専売店(1S店〜4S店)から一般業販店へ製品が横流しされているケースもある。このように、店舗形態の面からいえば、今の中国自動車流通は「メーカー指定専売店VS一般業販店」の様相を呈している。現在、各メーカーは4S店に代表される指定専売店をどんどん増やしており、それが中国自動車流通の主勢力となりつつある。

他方では、店舗立地の観点から見れば、中国の自動車流通には「集中立地型店舗VS分散立地型店舗」の様相も見られる。自動車交易市場は自動車販売店が集中立地する代表例である。交易市場には4S店が入居する区域と一般業販店が入居する区域があり、両方は同じ敷地内にある。多くの交易市場には「スーパーマーケット」と呼ばれるフロアがあり、そこには一般業販店以外に、4S店のサテライト拠点も入居している場合がある。交易市場は中国全土で約500ヵ所ある(2004年時点)とされ、特に経済が進んでいる東沿海地方の大都市に多く見られる。多数の車種を一同に展示販売でき、さらに業者間の価格競争が激しいという理由で交易市場は多くの消費者を惹きつけ、高い集客力を持っている。

以上の状況を踏まえて、今回のアンケート調査において、「形態(4S店と一般業販店)×立地(集中と分散)」という観点から、ユーザーに対して「交易市場内のスーパーマーケット」、「交易市場内の4S店」、「交易市場外の4S店」と「交易市場外の一般業販店」の4つの選択対象を提示し、各種店舗に対するユーザーの選好度を調査することにしたのである。

 

U.店舗選択についての調査結果

 

 図1と図2は、今回のアンケート調査における店舗選択(A票問21)及び店舗選択の際に重視する諸要素(A票問22)についての集計結果である。

1 店舗選択        図2 店舗選択の際に重視する要素

    

 ユーザーがもっとも利用したい店舗の第1位は「交易市場内の4S店」、以下、「交易市場内のスーパーマーケット」、「交易市場外の4S店」、「交易市場外の一般業販店」の順となっている。店舗選択の際に重視する諸要素の中で「アフター・サービスの良さ」の度合いがもっとも高く、以下は「信用できるか」、「価格の安さ」、「接客の良さ」、「比較できるか」、「交通の便」の順となっている。

調査の結果から、今の中国のユーザーは店舗を選択する際に「サービス」と「信用」を重視すると同時に「価格」や「比較」なども重視する、より総合的な判断に基づいて店舗を選んでいる、ということが伺える。そして、「交易市場内の4S店」はその総合的な判断に基づいて選択されたもっとも利用したい店舗となっている。

ここで注目したいのは、「交易市場外の4S店」より「交易市場内の一般業販店」の方が店舗選択の面において高いスコアを得ていることである。この点からいえば、分散立地型の4S店は集中立地型の一般業販店に比べて、ユーザーに評価されておらず、やはり、サービスが良いとか信用が高いということだけでは一般業販店に対する競争上の優位を確立できないと言わざるを得ない。

 

V.メーカーのチャネル政策へのインプリケーション

 

 今回の調査結果から、メーカーのチャネル政策にとってどのようなインプリケーションが得られるのか。この点について、主に二つの面において一定の示唆を与えることができるといえる。

 まず、メーカーの現行のチャネル政策において「4S店重視」という店舗形態やマーケティング機能ばかりこだわるようなやり方は必ずしもユーザーに評価されるとは限らない、ということに目を向けるべきである。そこには「立地」という観点が欠如しているからである。アンケートの結果から分かるように、集中立地型の4S店はユーザーに高く評価されている一方、分散立地型の4S店に対するユーザーの評価は決して高くない。したがって、メーカーにとって今後の店舗展開に際してもっとユーザーの利便性を考慮し、店舗の立地面において交易市場のような店舗集積の活用や他の商業施設とのコラボレーションを念頭においた方がよいといえよう。

 次に、一般業販店に対する競争上の優位をどのように構築すればよいのかという問題への取組みが必要である。多くのメーカーは4S店のサービス面だけを重視し、サービスさえしっかりしていれば、一般業販店に対する競争上の優位を簡単に講じることができると考えている。しかし実際に、一般業販店は4S店などのメーカー指定専売店から製品の横流しを受け、しかも、4S店よりかなり安い価格でそれを販売している。4S店からの横流しについて、その背景にはシェア拡大を急ぐメーカーによる販売店への押し込み販売が4S店の在庫圧力を高めてしまい、それを解消するために多くの4S店が一般業販店へ製品を横流しするようになった、という経緯がある。したがって、横流しの問題を解決するために、まずメーカーによる4S店への押し込み販売を根絶する必要がある。さらに、メーカーにとって、一般業販店が4S店より低い価格で横流しの製品を販売できることに対してもやはり何らかの対策を講じる必要があるといえる。つまり、指定専売店に対して一般業販店に対抗しうる販売価格を打ち出せるようなオペレーションを実行させる必要がある。この点について、塩地(2003)が提唱した「The more tiers, the more lower prices」から一定のヒントが得られる。大規模な4S店は一般業販店に比べ、固定費や販管費の面において遥かに高いオペレーション・コストが強いられているため、結果的に仕入コストが一般業販店より安いにもかかわらず、最終販売価格は高く設定せざるを得ない状況に置かれてしまうことになる。それを打開する方策として、指定専売店の固定費と販管費を抑えるようなロー・コスト・オペレーションが必要不可欠といえよう。

 

おわりに

 

 いずれにせよ、まだ成長の初期段階にある中国自動車市場においてどのようなチャネル政策を採るかについて、かなり多くの議論が必要ということに間違いない。少なくとも今回のアンケートを通じて、中国の一般消費者がどのような店舗を望んでいるかについては一定のヒントが得られたといえる。今回のアンケート調査は北京の特定の販売施設で行われたことから、得られたデータは必ずしも中国の一般的な状況を反映したものとはいえない、ということについて重々承知しているつもりである。これをきっかけに今後さらに調査の範囲を広げ、中国自動車市場の全体像の把握に一歩ずつ近付けていけたらと願っている。