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京大上海センターニュースレター
196号 2008117
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      寧夏大学人文学院霍維洮教授講演会のご案内

      中国・上海ニュース 1.7-1.13

○中国における自動車ユーザーの買い方とディーラーの売り方

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寧夏大学人文学院霍維洮教授講演会のご案内

テーマ 「近代西北回族の社会組織化過程」

日 時  131()午後

会 場と時間は追ってお知らせします。

維洮教授のプロフィール:中国近代史研究の専門家。特に回族を中心とする少数民族史研究で名高い。寧夏大学歴史学部長を経て現在寧夏大学人文学院長、教授。寧夏歴史学会副会長。著書は『同治年甘粛反清運動性質の再考』、『近代西北回族の社会組織化過程に関する研究』など。

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中国・上海ニュース 1.7−1.13

ヘッドライン

■ 中国:北京上海間高速鉄路、18日に着工へ、工期は5年

■ 中国:07年貿易総額、初の2兆ドル突破、黒字も過去最高 

■ 中国:6月からレジ袋の無料提供禁止

■ 中国:北京とハンブルクを結ぶコンテナ列車、試行運転開始

■ 自動車:タタ自動車、28万円低価格車を発売か

■ 中国:人工林面積の増加率が世界一

■ 石油:長慶油田の年間産出量が2千万トンを突破

■ 中国:07年の外国人出入国者数は5千万人超、韓国が首位

■ 中国:バイオマス発電所、10カ所稼働中

■ 浙江:民間企業の輸出額、省全体の半数を占める

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中国における自動車ユーザーの買い方とディーラーの売り方

金沢学院大学経営情報学部 西川純平

 はじめに

 本報告の目的は、中国の自動車販売におけるユーザー(個人消費者)の購入の判断基準と、その判断の基となる情報源を明らかし、ユーザーの購買行動を考察することにある。なぜなら、現在、そして今後の中国自動車市場の成長を支える個人消費者の購買行動を明らかにすることで、中国自動車市場の現状や課題を考えることが可能となるからである。

また、さらにこうした個人のユーザーの車の「買い方」に対する自動車メーカーやディーラー(販売店)の対応、「売り方」についてもふれていく。

 

1.ユーザーの車の買い方

 

 中国の自動車販売台数は、急速な経済発展を受け、昨年2006年には700万台を超えており、中国は世界第2位の自動車市場となった。こうした中国の自動車販売の拡大を支えているのは企業や政府関係機関ではなく個人消費者である。例えば 2005年の中国の自動車保有量は3,160万台であったが、その内、個人の保有台数は全体のおよそ6割となる1,848万台にものぼっている。

一方で、中国では自動車を購入しようとしている、あるいは購入したユーザー(個人消費者)の多く(およそ70%程度)がエントリーユーザー(初めて車を買う客)であると言われている。では、こうしたエントリー・ユーザーが多い中国のユーザーは、自動車を購入する際にどのような購買行動をとるのであろうか。

 

表1 車を購入する際に最も重視する要素    表2 車を購入する際にどのような情報源を重視

するか

 

 

まず、表1は自動車を購入する際に最も重視する要素(内容)を質問した結果をまとめたものである。表1では安全性や故障のしにくさ、燃費の良さなどの項目に関して、「最も重視する」と回答されたものをまとめている。さて、表1にあるように、中国(北京市)では多くのユーザーが、車を購入する際には安全性を重視し、次いで故障のしにくさ、燃費の良さ、走行安定性、アフター・フォローと続いている。つまり、中国のユーザーは価格よりも車の安全性や品質、そして購入後のアフターサービスを重視していることが分かる。だが、ユーザーは車の安全性や品質に関する情報をどのように得ているのであろうか。この問に関して質問した結果が次の表2である。

 表2を見ると、まず中国のユーザーは「知人・親戚の口コミ」を重視していることがわかる。次いで、「ネットでのユーザーの評価」「マスコミでの評価」となっており、最後に「販売店の推薦」となっている。このような結果の背景には、先ほども指摘したが、中国では多くのユーザーがエントリー・ユーザーであるため、自動車という高額商品を購入するにあたって慎重な購買行動をとっていることが存在しているのであろう。他方で、中国のユーザーは、自動車メーカーや販売店に対してあまり信頼感を持ち合わせていないと言えよう。

 

2.3人のユーザーに対するインタビュー(北京市)を踏まえて

 

 さて、今回の調査ではアンケート調査だけでなく、3人のユーザーに対するインタビューを行っている。3人はそれぞれ奇瑞汽車のA5、上海大衆汽車のパサート、そしてメルセデスベンツのE280のユーザーである。なお、表33人のユーザーの概略と質問に対する回答をまとめたものである。この表3を参照しながら、先ほどのアンケートの結果と同様に「購入の際に重視する内容」「購入の際の情報源」に注目しながら説明していこう。

 

             表3 3人のユーザーに対する質問結果

まず、「購入の際に重視する内容」をユーザーごとに見ると、奇瑞汽車のA5のユーザーは価格をまずあげており、ついで以前所有していた奇瑞汽車のQQの使用経験から信頼性をあげている。先ほど、中国はエントリー・ユーザーが多いと指摘したが、一方で本年、北京市内(北京アジア村汽車交易市場)で行った調査では、自動車を購入しようしている消費者の約半分が買い換え客であった。すなわち、このA5のユーザーを含め、大都市圏ではこうした買い換え客が過去の経験を踏まえて車を購入している現状が見られつつある。

そして、次いでパサートのユーザーを見てみよう。パサートのユーザーは性能や品質、価格をあげているが、特に安全性を重視している。これはあくまで報告者(西川)の推測ではあるが、使用目的を見ると娘の通学に使用すると回答していることから、交通事故死が年間十数万人とも言われている中国において大切な家族を安全な車で送迎したいというユーザーの感情が背景にあるのではないだろうか。なお、このパサートのユーザーはパサートを購入する以前にジェッタを所有しており、ジェッタ(一汽-大衆汽車)の使用経験を踏まえた上でパサートを購入している。

さて、3人目のベンツEクラスのユーザーを見ると、先のA5、パサートのユーザーが共通して品質、価格をあげているのに対し、Eクラスのユーザーはブランドやディーラーの対応の良さをあげている。これは奇瑞A5や上海大衆汽車のパサートといった大衆車のユーザーと、ベンツのEクラスという高級車のユーザーとの購入基準に差が存在していることに起因しているのであろう。しかし、3人のユーザーともに車の信頼性や品質を重視している。これは先ほどのアンケートの結果とほぼ同じ解答と言えよう。

 では最後に、「購入の際の情報源」について見ていくことにしたい。情報源としては、3人のユーザーがそろって口コミとインターネット(コミュニティサイト等での評価)をあげている。したがって、購入の際の情報源に関しても、アンケートの結果と同様の回答を得たことになる。ただし、Eクラスのユーザーは、「新しく出てきたものについて、ネット上でいくら『良い』と評価されても、生の声が聞こえないと信用し難い」と慎重な意見を述べていた。

この点に関しては、先ほど紹介した「中国のユーザーが車を購入する際にどのような情報源を重視するか」というアンケート結果に関連している。その中では、中国のユーザーはネット(コミュニティサイト等)におけるユーザー評価よりも、知人や親戚からの情報を重視していた。すなわち、Eクラスのユーザーの意見を踏まえると、中国のユーザーは同じ口コミでも“顔の見える評価”を重視する傾向が強いのである。

 

3.むすびにかえて 〜ユーザーの買い方に対するディーラーの売り方〜 

 

さて、これまで「購入の際に重視する内容」「購入の際の情報源」を焦点に、アンケート結果やインタビューの結果を明らかにしてきた。それでは最後に、これまで明らかにしたことを踏まえつつ、中国でのユーザーの車の買い方に対して、ディーラー(販売店)はどのように車を販売していかなくてはならないのかを検討しよう。

本報告では、中国では自動車の購入に際しては、ユーザーは価格よりも安全性や品質を重視しており、アフターサービスに対しても期待していることが明らかとなった。さらに、自動車を購入する際の情報源として、ユーザーは知人・親戚、ネットなどからの「口コミ」を重要視していたこともわかった。

すなわち、まず自動車メーカーとしては「安全性」「品質」を向上した自動車を開発、生産することが求められることは言うまでもないであろう。しかし、ここで重要視すべきことは、中国ではディーラーを中心とした綿密な販売体制(販売活動)の構築が不可欠となっていることであろう。というのも繰り返し述べるが、中国ではユーザーの多くが自動車を購入する際に口コミに頼っている現状が存在しているからである。

そもそもなぜ中国の自動車市場において、消費者は口コミを購入判断の情報源としているのであろうか。“バズマーケティング”、言い換えれば口コミマーケティングを研究しているエマニュエル・ローゼンによると、消費者の購買活動において口コミの重要性が増す要素としては、“ノイズ(情報・広告が多すぎてノイズになる)”、“懐疑的な態度(都合のいい広告を信じなくなる)”、“つながり(インターネットの拡大によって、広範囲な人と人とのつながりが可能に)”という三つの要素があげられるという。そこで、これらを中国におけるユーザーの自動車購買行動に当てはめて考えてみよう。

まず“ノイズ”に関して考えよう。中国には多くの自動車メーカーが存在しており、こうしたメーカーはテレビ、新聞、雑誌、インターネットと様々な媒体を通じて膨大な広告(情報)を流している。先ほどから指摘しているようにユーザーの多くは車を初めて購入するエントリー・ユーザーであるため、メーカーからの無数の情報を消化することができるはずがなく、このようなメーカーからの宣伝は“ノイズ”となる。また、言うまでもなく、このような情報の多くは、原則的にメーカーにとって都合の良い内容のみであり、ネガティブな内容のものは通常存在しえない。したがって、このようなメーカーからの宣伝活動はユーザーを“懐疑的な態度”をとる方向に向かわせてしまう。つまり、こうした混沌した購買環境の中で、中国の多くのユーザーは口コミに依存することになる。さらに、現在ではインターネットの拡大(特に自動車のコミュニティーサイトの増加)が、中国での自動車購入にあたって口コミの重要度をさらに高めていると言える。

 

 

ではメーカーや販売店は、中国のユーザーに対してどのように接していけばよいのであろうか。結論としては、メーカーあるいは販売店として求められていることは、自社製品の購入時、使用時において、いかにしてユーザーに安心感を与えられるかにつきる。もちろんその安心感とは、車の性能や信頼性、価格といった車自体が持つ安心感に留まらず、購入後のアフターサービスを含めたトータルとしての安心感であることは言うまでもない。そのためにも、特に販売店は購入者に対する徹底したアフター・フォローを行う必要があろう。具体的に図に示したように、それは点検の入庫案内や修理における適切な案内・対応、そしてイベント開催の案内などを積極的に行うことである。このような購入者(ユーザー)との関係づくりを通して、販売店とユーザーとの信頼関係を構築し、次回の買い換えにつなげていかなければならない。このような積極的かつ地道な活動の結果が口コミとなって家族、知人、ネットを通して新たな顧客の創造を生むことこそが、現在の中国自動車市場では求められていると思われる。