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京大上海センターニュースレター
199号 200827
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

○国際セミナー「中国社会主義新農村建設下の農業問題」のご案内

      中国・上海ニュース 1.28-2.3

○共に「44歳必読書」から学ぶ

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上海センター国際セミナー「中国社会主義新農村建設下の農業問題」のご案内

主催 京都大学大学院経済学研究科付属上海センター

京都大学人文科学研究所現代中国研究センター

協力 京都大学上海センター協力会

日時 218()-19()

会場 京都大学経済学研究科大会議室

 

218()

開会挨拶 9:40-

1セッション「グローバル化の下における中国農業の産業化と貿易」10:0012:00

山本裕美(京大)「中国の農業発展と貿易戦略」

2セッション「中国の少数民族自治区における農業」13:3016:50

大西広(京都大学)「寧夏自治区東部貧困県の平均的回族家庭の生活状況について」

中林吉幸(島根大学)「寧夏南部山区における農業生産と雇用創出」

張冬雪・ウマルジャン=アイサン(京都大学)「新疆ウイグル自治区における兵団農業と地方農業」

 

219() 

3セッション「中国農業と環境問題」10:0012:00

張玉林(南京大学)「中国の環境戦争と農村社会」

胡霞(中国人民大学)「中国西部の農村発展と生態環境の再編成―寧夏自治区南部山区の事例を中心に」

4セッション「中国農業部門における労働移動と土地問題」13:3015:30

厳善平(桃山学院大学)「『民工荒』現象の社会経済的背景」

徐林卉(立命館大学)「土地使用権買い上げと農民の社会保障問題」

5セッション「中国の林業問題」15:5017:50

宮崎卓(京都大学)「中国・インドの植林実施体制比較」

劉春發(京都大学)「中国南方集団林地域の経営組織の発展」 

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上海ニュス .28−2.

ヘッドライン

 中:豪雪で燃料切れ稼動停止の電所相次ぐ

 中:世銀予測、08年中国経済成長率は9.6%に減速

 中:1月大雪で保金支い35億元

 中:世銀首席エコノミストに林毅夫氏

 証券:上海市場、大幅に反

 産業:07年粗鋼生産15%4.9億トン、輸出58%

 交通:香港、日本首都以外の空港との航空自由化が

 江蘇:京杭大運河に電用石炭を運ぶ船急

 上海:土地入など公共資金の用途公開へ

 上海:体育館・学校を開放して、暖かく待機旅客を

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共に「44歳必読書」から学ぶ

12.JAN.08 

株式会社小島衣料代表取締役社長  小島正憲

今、中国で「44歳必読書」(方州著:中国華僑出版社)と題する本が出版され、静かなブームとなっている。昨年末に、わが社の上海市金山の合弁公司の総経理が、真剣にその「44歳必読書」を読んでいた。彼はちょうど44歳だった。ちなみに現在中国の44歳人口は約2000万人であり、前後の歳を合計すると6000万人を超える。たしかにこの人数からすれば、44歳とターゲットをしぼっても採算はとれそうだ。それにしてもなぜ、わざわざ「44歳」と対象を絞ったのか、私には著者の意図がわからなかった。そこでしばらく頭をめぐらしていたところ、わが社の中国関係公司の中国人トップには、44歳前後が多いことに気がついた。黄石市の総経理も上海市青浦の総経理も黄崗市の総経理も、ともに44歳であり、黄石市の工場長は45歳である。わが社の幹部には偶然、その世代が揃ったのかと思い、友人たちにも聞いてみたところ、やはりそれらの公司の中国人トップにも44歳前後が多いという。

それがわかったとき、俄然、私の頭の中にいろいろな疑問が浮かんできた。中国の現在の44歳とはどんな世代なのだろうか。彼らは時代にどんな影響力を持っているのだろうか。この「44歳必読書」はそれらの人間になにを訴えようとしているのか。彼らは今後どのように変わっていくのだろうか。そして何よりも、この本を読んだ私の周囲の中国人トップに、私はこれからどのように接したらよいのだろうか。こんな疑問への回答を求めるために、私は彼らの生きてきた時代背景を考えながら、この本を読んでみることにした。

44歳は1963年生まれである。この世代は大躍進時代後の飢餓の中で生まれ、幼少のときは文革の嵐の中で紅小兵として活躍した。その後幸いにも下放は免れ、文革の終了とともに、ケ小平の改革開放政策の恩恵を受けて、大学に入り高等教育を受けることができた。しかし大学卒業直後に、天安門事件の洗礼を受け挫折経験も味わった。彼らは社会に出てから、改革開放の激流の中で出世や経済競争に巻き込まれ、勝ち組を目指して奔走し続けることになった。それから17年、今や、彼らの中には大富豪もいれば、政府中枢の要人もいる。また逆に激烈な競争に振り落とされたり、取り残されたりして、無一文の人間もいる。等しく飢餓の中で生まれた子供が、ひとにぎりの勝ち組と圧倒的多数の負け組に分かれたのである。彼らは文革という共産主義の極限から爛熟した資本主義の極致まで、わずかな期間で一気に駆け抜けた稀有な世代である。

改革開放から30年余、中国人は勝ち組になるために、懸命に走り続けてきた。しかし今、大多数の人々はこのまま走っても勝ち組にはなれないと自覚しはじめている。なぜなら現実の所得や資産格差の結果が、彼らに資本主義では勝ち組になる者は万分の一で、あとのほとんどは負け組となるということをわからせたからである。だから今、全速力で走ってきた彼らの中に、少し立ち止まって人生を見直そうという迷いや動きが出てきている。日本の男子の厄年は42歳であるが、これは体力の境目であると言われている。中国人の中でもまさに40歳代半ばにさしかかった連中が、気力・体力の境目にさしかかり、再度、勝ち組になるためのレースに挑戦するか、それともせめて負け組に転落しない人生へと目標を修正するか、その分岐点で迷っているのである。

その機運に答えるかのように、「44歳必読書」が登場したのである。この本は疲れきったこの世代に、次のように呼びかけている。少し長いがその目次部分を紹介する。

 

第1章 44歳を算術思考で総括せよ。

44歳は、人生の重要なターニングポイントの一つである。人間はこのとき、全人生のほぼ半分を過ごしており、未熟な青年が成熟した大人へ脱皮しようとする。その中のある人たちはすでに重要なポジションについて成功者と呼ばれている。またある人たちは平凡で無名で、失敗者の群れに属している。しかし成功者であろうと失敗者であろうと、等しく世間の非情な荒波にもまれ続け、疲れ果てている。その結果、成功者は自らの虚栄心に酔い、毎日を酒や金の中で過ごし、虚しさを感じている。失敗者は理想や夢を追求するのをあきらめてしまい、毎日、無為な時間を費やし、さらに怠惰な生活に落ち込んでいる。だから成功者も失敗者もここでいったん立ち止まって、算術思考を使って今までの44年間の人生を総括し、今後の自分がより楽に、より価値がある人生を歩めるように考え直すべきである。

(1) 44歳 引き算で残りの人生を設計すること。

過去の40数年間は、「得ること」を生活の目標としてきた。「金銭」・「名誉」などなど。しかし結局これらが、自分の人生に大きく重くのしかかってきていた。ここでこれらの考え方を徹底的に変えて、「引き算生活」をしてみよう。「金銭」・「名誉」などというつまらない手かせ足かせをはずして、精神的な自由を獲得して、残りの人生を楽な気持ちで過ごすようにするべきである。

・金銭のために働くのではなく、幸せな生活をするために金銭を稼ぐという考えに切りかえるべきである。

・自分は小人物なのだと悟ること。 ・あまり損得を計算しすぎないようにすべきである。

・あきらめるということは、大きな生活の知恵である。 ・権威を盲信しないこと。 ・虚栄心を捨てること。

・やるべきこととやらなくてもよいことを区別して、やるべきことのみに集中すべきである。

・享楽はほどほどにしておくこと。 ・名誉を追い求めてはいけない。名誉はあとからついてくるものである。

・仕事は生活のすべてではない。 ・自分の時間は自分で把握し管理すること。

(2) 44歳 足し算で考え方を統合すること。

44歳という人生の駅に到着してはじめて、大事なものを失っていることに気づくこともある。幸い、まだ遅くない。失っているものは探し戻せることができ、足りないものは足していくことができる。

・現在を大事に生きること。  ・若さを失うことをおそれず、自分の年齢に合わせて超然として生きること。

・社会に関わりを持って生きること。 ・他人にバラを渡せば自分には香りが残る。そのような人生を送ること。

・世間は冷たいものと自覚して生きること。  ・孤独に負けず、孤独を楽しむ余裕を持つこと。

・もし心に夢が残っていたら、これは最後のチャンスであると思い、実現に向けて挑戦すること。

・過去の失敗は忘れること。  ・柔軟な目でものごとをみつめること。

第2章 事業の再出発をめざせ。

44歳、不安にさらされている年齢である。順風満帆であるように見えても、見えない山にはばまれてどうしても乗り越えられないときや、逆に突然の不幸に襲われ進退が窮まることもある。こんな場合は、問題の核心をみつけだし、未練なく、捨てるべきものは捨てることである。もう一度、最初からやりなおせばよいのだから。

(1)事業のゴールを考え直す。

44歳では、他人もまだ事業のゴールまで到達していない。だから自分は能力がない人間だと烙印を押す前に、もっと努力をするべきである。また1日でも早く考え方を転換して、ゴールに近づくようにすべきである。

(2)事業パニックから離れる。

中年になると、保守的になり安定志向になる。環境が変わったり、転職したりしたとき、心の中でパニックに陥りやすい。しかし中年には、中年のよいところがあり、若者に競い負けるとは限らない。心理的な恐怖感を克服することができれば、転職にしても起業にしても弱い立場にはならない。

第3章 恋のわなに注意せよ。

44歳、恋愛危機がいちばん高い時期である。結婚の新鮮感がすでに消えており、残されたのは平凡な日々だけとなっている。しかも会社、金銭、子供などの問題とプレッシャーは夫婦間の感情に悪影響を及ぼす。44歳は不倫問題が起きやすい時期でもある。中年の女性の不倫は誘惑に負けたものもあるが、亭主の冷遇に報復する場合もある。中年男性が不倫に陥る原因は、さらに複雑である。日々の生活から離れるためだったり、プレッシャーから逃れるためだったり、さらには自分の魅力を証明するためだったりする。

(1) 結婚は恋愛の墓場ではない。

20年間もいっしょに過ごしてきたカップルにとって、二人の間に残されたのは愛だけではない。それ以上に苦楽をともにしてきた同士愛や家族愛となって結実している。日々の生活の中で、小さな言い争いは避けられないが、これらに夫婦生活をかき乱されてはいけない。愛は包容であり、相互理解である。結婚は幸福の港であり、恋愛の墓場ではない。

(2)分岐点で正しい判断をする。

中年に入ると平凡な生活に飽きて、外からのさまざまな誘惑に負けやすい。これが人生の分岐点である。一時的な刺激か、平凡でも現実的な幸せか、どちらかを選ぶ前に、結果についてよく考える必要がある。

第4章 心身の健康が第一。

44歳、健康状況を楽観視することができない年齢である。もっとも顕著になるのは、体力の低下である。中年太りをしたり、禿げてきたりと、今まで外見的に起きてこなかった現象もじょじょに現れてくる。

(1)健康の警報を鳴らす。

明らかに低下している体力とともに健康状態も悪くなってきている。若いときのように自分の体に無責任ではいられなくなる。身体のいかなる小さな病気でも見逃さずに、普段から用心して予防していく必要がある。

(2)心理面での落ち込みをカバーする。

生理的な変化と生活のプレッシャーにより、いろいろな心理的な問題が現れてくる。人によっては、悲観的になったり落ち込んだりする場合がある。これらのマイナス面の感情は、中年の生活に強い悪影響を与えているから、これから抜け出す手法を身につけておかねばならない。健康の維持というのは、身体だけでなく心理面にも必要なのである。

第5章 世の中の親はみな同じ。

子供を持っている親は、わが子に多大な期待をしているものである。しかし実際に育ってみると、親の期待と大きく離れている場合が多く、子供が悩み、親が失望することが多い。こういう矛盾は即座に調整しなければ、たいへんな結果になってしまう。また44歳の親は、15〜16歳の子供を持っている場合が多く、反抗期に入っている子供が大半である。厳しく教育すると反抗してくるため、親子間の溝が深まるばかりである。子供を愛することは大事なことであるが、愛する方法を選ぶことはもっと大事である。

(1)親へのアドバイス。

子供は中年の親にとって、生活の中心になっている。子供を無条件に溺愛する人もいる。しかし子供の教育はたいへん複雑な問題で、愛情があるだけでは不十分である。

(2)子供の声に耳を傾ける。

15、6歳の子供は、すでに自分の視点や考えを持っている。親からの理解と尊重が欲しく、友達のような感覚で交流したいとのぞんでいる。中年の親は、権威維持のために自分を高いところに置きがちである。しかし子供を愛しているのならば、子供たちの声に耳を傾けるべきである。

第6章 「世渡りの方法」を鍛錬し続けよ。

「世渡りの方法」は、体得しておかねばならない生きるための知恵である。これに熟達している人は、同じ44歳でも周辺から多くの支援があったりする。「世渡りの方法」は、非常に深い学問であり、継続的に勉強しなければならない。

(1)人間性哲学を徹底する。

仕事の能力を磨く前に、人間性を磨く。人間性を磨くのはたいへん深い学問である。いくら能力が高くても、人間性が悪ければ最終的に失敗することになる。

(2) 変化についていける「世渡りの方法」。

人間関係は非常に複雑であるため、「世渡りの方法」も、時・人・場所によって大きく変えていかなければならない。社会組織の中で、優勢な地位を得られるかどうかは、この「世渡り方法」の活用能力にかかっている。「世渡りの方法」は人間関係を濃厚にするための潤滑油であり、日々の生活と密接な関係を持っている。

    ※上記の抄訳は、わが社の若手幹部の共同作業である。

 

さてわが社の44歳の中国人トップは、この本を読んでどのように考えるだろうか。

彼らは私とともに、昼夜を分かたず働き続け、現在の地位を築いてきた。たとえば、ある総経理は私と2人3脚で17年間走り続け、工場を25人から5000人まで拡大した。28歳のときから、彼女は常にトップを続けてきた。ナンバー2を作らず、権限も委譲せず、すべてを取り仕切り、まさに獅子奮迅の活躍をしてきた。彼女は、日本人同世代の数倍働き続けてきた。だから最近では、若いときのような馬力がなくなってきているし、弱音を吐くようにもなってきた。このような事情は彼女だけでなく、わが社の他の44歳メンバーも同様であり、彼らは激動の人生を乗り切り大きな成果を手にしたが、同時にかなり疲れてきている。

このように必死に働き続けてきたからこそ、わが社の合弁公司の中国人トップは、それぞれすでにかなりの資産を蓄積している。だから彼らは負け組ではない。しかし億万長者になったわけではなく、勝ち組ともいえないので、彼らは現状に満足していない。けれどもここで私は、疲れきっている彼らにムチを入れ、最後のコーナーを走りぬけ、勝ち組をめざせと仕掛けることはとてもできない。

私が今、しなければならないことは、彼らとともに、一度、立ち止まり「44歳必読書」から学んで、人生を引き算で考えることだと思う。彼らとともにこの本を熟読玩味し検討したのち、それでもなお彼らが勝ち組への夢を捨てず、さらに前進しようとするならば再び手を組んで、走り始めればよい。体力のある男性ならばあと10年は走れるだろう。しかし本人がここで立ち止り、新たな方向に舵を切るというならばそれを全面的に支援すればよい。また本人にやる気があっても、私が見て彼らにとってここで第一線を引くことが得策だと判断したら、上手にアドバイスして方向転換をさせればよい。ちょうど今年、私も社長を引退するので、それは勧めやすい。「44歳必読書」は、私にとっても彼らにとっても、中国経済の行く末をにらみながら、自分自身の能力や意欲を見つめなおし、次のステージを考えなおすための絶好の指南書であるといえる。