=======================================================================================
京大上海センターニュースレター
203号 200836
京都大学経済学研究科上海センター

=======================================================================================
目次

      中国・上海ニュース 2.25-3.2

      サブプライムとマンションバブルの共通項

○全中国経済国際会議参加報告

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

中国・上海ニュース 2.25−3.2

ヘッドライン

■ 中国11期全人代開幕、温家宝総理が活動報告

■ 中国:個人所得税控除額、2000元に引き上げ

■ 中国:07年、中国のGDP成長率11.4%

■ 中国:鉄鉱石鉱床の実地調査を再開

■ 中国年間核病死亡者数13万人 患者数世界第二位

■ 産業:造船業、世界市場シェアが23%に増加、世界第3位を維持

■ 湖北:内陸部初の原子力発電所を建設へ

■ 天津港:国内最大規模な埋め立て計画

■ 上海:オフィスビル賃料国内最高、世界24位

■ 北京:地下鉄10号線第1期工事終了、6月から正式使用

=============================================================================

サブプライムとマンションバブルの共通項

                                25.FEB.08

株式会社小島衣料代表取締役社長 小島正憲

米国のサブプライムローン問題と中国のマンションバブル問題の共通項は、人間の狂気である。

昨年から世間を騒がしている米国のサブプライムローン問題は、結局のところ、低所得者が「住宅は必ず値上がりする」と信じ込んで、このローンで住宅を購入し、その後転売して鞘を稼ごうとしたところに大きな問題があった。たしかに本気で住む予定だった人もあっただろうが、利息の安い期間だけ住み、利息が高くなる前に売ってその差額を儲けようと考えた人も多かったようだ。またそのような願望を持った人たちに、このローンを売りまくり、大儲けしたセールスマンや不動産屋もまた多かったという。つまり本来そこに住む目的ではなくて、「住宅は必ず値上がりする」と信じ込んで、住宅を転売して儲けることをたくらんだ人たちの狂気の結果が、証券化などを通じて世界経済を揺るがしたわけである。

3年前、カナダのバンクーバーに行ったとき、そこでも住宅の高騰現象を目にした。郊外の中古住宅でも1億円ほどの値段がついていたのでびっくりした。土地代や建設単価などから考えれば、それは異常な値段であった。当時は中国などからの移民が多く、たしかに実需も多かったが、それでもその価格は異常だと感じた。ある日、マンションの売り出しの広告が目に入ったので見に行ってみた。そこは電車の終点で、荒野の真ん中のようなところだった。建設予定地にぽつんと立てられたモデルルームの周辺には、老若男女とりまぜて数百人の人が集まり、出店などもありごった返していた。価格は2LDKで安いものでも5千万円ほどで、常識で考えればとても一般人に手の出る値段ではなかった。それにもかかわらず、会場にはどんどん人が増えて来て、とうとう電車の駅まで行列ができるほどになった。私はその雑踏を見ながら、ここでも人間の狂気が住宅バブルを産み出していると思った。

中国のマンションの価格がバブルであると言われて久しい。最近では一般人の月給が2000元(3万円ほど)なのに、上海市内の2LDKマンションは3000万円から1億円になってきている。そろそろ値段が下がるのではないかと言われているが、なかなか下がらない。それどころか、まだ建設途中のマンションがかなりある。すでに上海市内には無数の豪華マンションが建っているが、そのほとんどが転がしで儲けるための利殖用であると言われている。たしかに、夜になってもそれらのマンションにはほとんど明かりがついておらず、住居として利用されていないということがよくわかる。さすがに建設計画の段階で、図面だけで売ってしまうような荒っぽい商売はなくなったが、それでも売れ残りはほとんどないという。ここでも住宅バブルが続行中である。

上海市外の私の工場の近くに、立ち退きを強制された農民の転居用のマンションがたくさん建てられている。先日、そのうちの一棟が売り出されたので、見に行ってみた。値段は2LDKで300万円ほどであり、格安だったこともあって、200室余りが即日完売となった。買いに来ている人たちは、市内の洗練された住人ではなく、やはり近郷の農民風の人たちだった。その人たちの話を聞いていると、すでに住宅を持っている人たちが多く、本当にそこに住むというよりも、これは2軒目だとか3軒目だという人たちがほとんどだった。彼らの購入資金は借金で、数年後に転売して儲けるつもりだという。すでに農民にまで値上がり期待の狂気が浸透しているのである。

米国のサブプライムローン問題も中国のマンションバブル問題も、冷静に考えれば、結果が悲惨な事態になることはだれにでもわかることである。この冷静さを失わせてしまうのが人間の狂気である。バブル経済崩壊経験先進国の日本人はそのことがよくわかっている。日本人はあの辛さが身にこたえているので、このような事態に冷静な対処をすることができ、狂気に巻き込まれることはないはずである。

ところが今回、冷静なはずの邦銀が、サブプライムローン関連の証券に引っかかって多額の損害を被った。他国と比べると軽微だったと言っているような金額ではなく、この責任は厳しく問われるべきだ。彼らは金融工学が高度に発達した結果、見事に証券化されてしまっていたので、それを見抜くことができなかったと言い訳をしている。しかしそれは許されない。もしこれが中国のマンションバブル関連の証券だったら、たとえそれが金融工学で粉飾されていたとしても、それを見抜き、大量に購入することはなかったにちがいない。なぜ邦銀は米国のサブプライムローン関連証券に見事に引っかかったのだろうか。

中国のマンションバブルの情報については、私たちをはじめとして各種の情報機関がことこまかに発信しているので、ほとんどの人が実状を把握している。だから多くの人がそれを危機意識を持って見ている。したがってもしそれを取り込んだ証券などにAAAの格付けが与えられたら、たちどころに多くの人が異論を唱えるにちがいない。ところが米国の現場からの情報発信は意外に少なく、とくに4〜5年前から起こっていた米国のサブプライムローン問題について、中国のマンションバブルのように、それが狂気の沙汰であるということを、世界に向けて発信し続けた人もまた少なかった。残念ながら私も、昨年、この問題が浮上するまで、その事態の深刻さには気がついていなかった。

マスコミなどの情報も重要だが、昨今では当事者の第1次発信が必要なのではないかと思う。身銭を切った情報、これはおかしいという経営者の勘から出てくる情報、あるいは大儲けの裏話など、ガセネタでもよいので、それこそがのぞまれているのではないだろうかと思う。マスコミなどの第2次者発信では、どうしても読者受けを狙ってしまうので情報が歪められてしまっているし、また誤報に対する責任問題もあり、推測記事などは書けない。したがって彼らは現場で起きている事態について推測を交えて、即座にかつ独断と偏見を含めて大胆に、読者のもとに届けることはできない。今回のサブプライムローン問題でも、米国の現場に通暁した人が、第1次者情報発信をしていればもっとちがった展開になっていたにちがいない。

昨今では、インターネットの発展で自分の意見を発信するのがきわめて容易で安価となっている。私は今後もこれを利用して、当事者として中国や極東ロシアから第1次者情報を発信していくつもりである。また、できれば全世界からの中小企業家の第1次者発信ネットワークが結成できないものかと思っている。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

全中国経済国際会議(All China Economics International Conference)参加報告

京都大学大学院経済学研究科講師 ジャン・クロード・マスワナ

会議について

240名の参加者が香港城市大学に集まり、中国およびAPEC関係諸国にかかわるさまざまな経済問題について意見を交換した。日間に渡るこの国際大会は、香港城市大学APEC Study Centerによって組織され、世界中の研究者、会社管理職、および開発専門職といった様々な参加者が一同に会した。

 

大会への参加理由

以下の二つの理由から、本大会への参加を申請した。

1)    中国そしてアジアの開発的側面を研究している研究者や専門家との交流。

2)    盛んになりつつある中国・アフリカ間貿易についての自分の研究を発表することにより、アフリカの経済成長のきっかけになることが期待されたため。

 

大会における活動と成果

1212日に、研究論文China’s Growing Participation in Preferential Trade Agreements: Implications for China and its Trading Partners”の討論者を務めた。1213日に、論文名中国はアフリカの経済成長の引き金となることができるか?−経済相互依存仮説に基づく実証的検証− 英語名Can China Trigger Economic Growth in Africa? An Empirical Investigation based on Economic Interdependence Hypothesis.”)の発表を行った。

本発表は、中国との国際貿易がアフリカの経済成長に及ぼす潜在的影響を実証的に検証(南アフリカとケニアのマクロ経済変数を使用)したものである。具体的には、「中国への輸出主導型成長」と「中国からの輸入主導型成長仮説」を検証した。 Toda-Yamamoto版グレンジャー因果性検定およびブートストラップ検定を使った結果、輸入主導型成長仮説が支持された一方で、輸出主導型成長仮説は棄却された。このことは、中国との貿易によりアフリカ諸国が恩恵を受けるためには、中国が生み出しているグローバル・バリューチェーンにおいてアフリカ諸国が自分たちの位置づけを適切に行う必要があることを意味している。

1214日午後は、データ収集のために香港株式市場を訪れ、1215日には香港城市大学のKui-Wai Li教授と共同研究について話し合いをした。

本大会は、中国が他のアジア諸国および他の経済に及ぼす影響についての知識を共有するための大変貴重な機会であった。