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京大上海センターニュースレター
207号 200843
京都大学経済学研究科上海センター

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目次

      中国・上海ニュース 3.24-3.30

○韓国企業の夜逃げを中国人はどう見ているか

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中国・上海ニュース 3.24−3.30

ヘッドライン

 

■ 中国:GDP成長率予測、世界銀行が下方修正

■ 中国:コメの国際価格高騰、中国に対する影響小

■ 中国人民銀行:例会で通貨政策の方向性を検討

■ 中国:マクロ経済、6カ月連続で過熱気味

■ 教育:関西大学は今年から復旦大学で大学院生を募集

■ 産業:自動車修理業、技術者が大幅不足

■ 浙江杭州湾大橋、5月に開通、上海寧波間120キロ短縮

■ 河南:鄭州空港、国内初の低価格ターミナルが運営開始

■ 雲南:機長が乗務中スト、航空会社の待遇問題が表面化

■ 上海:上海市民の海外旅行費用の半分は買い物

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韓国企業の夜逃げを中国人はどう見ているか

15.MAR.08

香港:美朋有限公司 小島正憲

私は1/21付けの小論の末尾に、時事速報からのニュースを転載する形で「煙台市の韓国企業の夜逃げ」の情報を伝えた。そのとき私は、韓国人経営者が4億5千万円の負債を踏み倒し、3000人余りの中国人社員を置き去りにし、夜逃げしたという実態を、自分の目で確認したわけではなかったので、できるだけ早い時期に現地調査に行きたいと思っていた。ところが幸いなことに意外なところで、それがほぼ真実だということが判明したので、わざわざ現地調査に赴くまでにはいたらなかった。

親しい韓国企業の社長と春節明けの宴席を共にしていたとき、彼があの夜逃げ企業の経営者と友人であることがわかり、彼からその企業の内実について詳しく情報を得ることができたからである。彼はマスコミ報道が真実だと断定した上で、さらにもっと泥々とした実状について語ってくれた。当時、あの韓国企業には経営者や技術者など15人の韓国人が駐在しており、そのうち14人の韓国人が示し合わせて、金曜日の夜の便で全員出国してしまったという。残された1人の韓国人は奥さんが中国人だったため、情報が漏れるのを恐れた他の韓国人たちが彼にはなにも知らせなかったという。彼が土曜日の朝出勤したときには、工場には韓国人はだれもいなかったので、びっくりしてすぐに帰宅し奥さんに相談し、彼も空港に向った。しかし空港にはすでに当局の手配が回っており、彼だけが拘束されたという。その後の顛末については、現在調査中である。

その後この韓国企業の夜逃げについては、中国のマスコミでも大々的に取り上げられ、中国全土、知らないものがないほどになった。なお韓国企業の夜逃げはこの企業だけではなく、すでにかなりの数にのぼっている。したがって中国の損害も軽微ではない。しかしながら中国人の韓国企業に対する態度はきわめて冷静で、現在にいたるまで反韓運動が起こるような事態には至っていない。そのような中で、上海の東方早報には「韓国企業の撤退から我々はなにを学ぶべきか」と題する小論が掲載された。これも非常に落ち着いた論調であり、文中で「韓国企業の夜逃げは歓迎すべきことである」とまで言い切っている。たいへん参考になったので、全文を邦訳して下記に転載しておく。

寡聞にして、私はまだ日本企業の夜逃げの情報には接していないが、もし日本企業が夜逃げをしたら、このような静かな対応では終わらないであろう。再び反日騒動が巻き起こるかもしれない。夜逃げは韓国人には許されても、日本人には許されない。だから日本人経営者は無責任な一部の韓国人を真似て、夜逃げなどの行動を絶対にとってはならない。

 

東方早報     2008.3.02

韓国企業の撤退から我々はなにを学ぶべきか

 

マスコミでは昨年下半期から、韓国企業の管理者が正式な清算手続きを踏まず負債を残したまま“夜逃げ”する事態がたびたび報道されている。韓国輸出入銀行:221日発表の≪青島地区投資企業の非合法撤退の現状報告≫によれば、2000年〜2007年に青島地区に進出した韓国企業は合計8344社、そのうち約2.5%に当たる206社が正式な手続きを踏まないまますでに撤退した。特に07年には87社が非合法撤退し、総数の42.2%を占めた。

韓国工商協会の調査によれば、韓国企業の非合法撤退の主な原因は、中国の清算手続きが複雑なこと、土地使用費及び免税額を追納しなければならないこと、及び地方政府の協力がないことなどが挙げられた。さらにこの調査によると、韓国企業の非合法撤退の他に、多くの外資企業もこれから合法的に華南・華中地域などを含む中国全土から撤退しようと考慮していることが分かった。これらの現象により、今後中国は生産コストの上昇につれて、大規模な国際間産業移転や外資撤退という事態に見舞われることがわかる。したがって我々はこれらの外圧を利用し、産業を高度化させることに注力しなければならない。

実際に、非合法撤退した韓国企業の主な業種は、アクセサリー加工、紡績及び皮革生産など技術水準が低く、高環境汚染、エネルギー多消費型の伝統的労働集約型産業である。これらの企業は、人民元・物価・賃金・原材料価格などの高騰、環境保護規制の強化、外資企業の優遇策の消滅、≪労働契約法≫の新規実施、金融引き締めなどに、経営を圧迫され撤退を余儀なくされたわけである。“夜逃げ”は非合法であるが、彼らにとって、彼ら自身の利益を保護するには一番良い選択であったと思われる。

国際的な経験によれば、GDPが1人当たり1千米ドルを超えると、それにつれてコストも迅速に上がり、外資がさらなる低コスト国家とへ移転する。多くの国家間で産業移転が行われ、興隆あるいは衰退のドラマが演じられる。歴史的に見れば、産業や国家の興隆、衰退は“雁行”形態をとって行われてきた。最も良い例は第2次世界大戦後の東南アジア各国の経済発展と産業構造の変遷の過程である。

20世紀の60〜70年代には、日本の労働集約型企業や競争力の弱い生産技術企業が韓国、中国台湾、中国香港、シンガポールなど地区へ移転した。80年代には韓国、中国台湾、中国香港の労働集約型企業は次から次へと中国大陸、インドネシア、マレーシア、タイ等国へ移転した。GDP1人当たり1千米ドルを超えた中国では、近い将来何年間で大規模な産業移転の波が起り、靴、帽子、衣服、玩具、日常用品など“中国製”のラベルが“ベトナム製”、“カンボジア製”などのラベルに変わっていくことだろう。

今回中国経済が最も発達している地域に起こった外資移転事件、厳格に言えば、低技術外資企業が移転した現象は、巨視的にみれば、経済のグローバル化と産業構造の高度化を加速させたに過ぎない。しかもこれは全世界的な優良生産要素を再び組合せ、産業移転させる波である。数量を追い求め、質を問わずに外資企業を引き付ける時代は既に過去形である、我々は外資の中国の投資戦略調整を歓迎し、単なる安い賃金や原材料などを利用してきた労働集約型産業から、一歩一歩と高い技術水準、高い付加価値、高い加工度、しかも知識集約型産業へ進化発展していかなければならない。単純な加工貿易型企業と一方的投資モデルから、一歩一歩と生産基地と販売、サービス、投資をうまく結合させ、多種の産業間連携をめざした投資モデルへ発展させなければならない。

我々は外資企業の撤退手続きの簡素化に努力すると同時に、中国人の血と汗を利用し、中国環境を悪化させ、中国税収を流失させるなど、利益だけを取得し、無責任のまま撤退した外資企業の劣悪行為を更に報道しなければならないし、法律責任を追及しなければならない。

しかしながら我々は彼らの撤退を歓迎すべきである。なぜならば、これを機会に我々が頭を大きく切り替えられるからである。今、我々は中西部地区の外資投資環境を改善し、新たな経済成長点を開発すべきであり、労働者の合法権利を積極的に維持し、労働力の構造、育成及び人材資本の蓄積に注力しなければならない。また産業間や研究開発を通して産学連携構想を伸ばし、高水準の自主産業の創新を進めていかなければならない。そのように進んでいけば、国際間の産業移転に伴う中国の“産業空洞化”の痛苦過程を避けられるからである。

またある意味では、我々は“夜逃げ”の外資企業に感謝しなければならない。彼らの行為はコスト上昇による大規模な国際産業転移の残酷性を証明してくれたわけであり、これは次に我々が必要とする外資の選択に大きな視点を与えてくれたからである。また今回の夜逃げ韓国企業には、それぞれに個別の戦略や戦術、撤退理由があったであろうが、まとめて見ると韓国民族の素質や国民性を反映しているともいえ、我々に外資選択の国別基準を与えてくれたからである。

中国政府や中国企業はこれを教訓にして、安い労働力と優遇措置を利用し、短期間で利潤を得ることだけ求め、中国の今後の成長にはプラスにならない外資を歓迎しないことである。このような外資を受け入れれば、逆に産業構造の転換や企業の変身の最も良い時期を遅らせてしまうからである。最終的に低付加価値商品の生産は国際分業の最低辺に置かれ、淘汰される運命にあるのがはっきりしている。今回夜逃げした韓国企業は、他国の法律を順守しなかったし、契約のルールも尊重しなかった。彼らの行為は、国際的に韓国の信用を大きく失わせた。非合法撤退:夜逃げ韓国企業は企業や国家の信用を傷つけたが、同時に我々もここから深刻な勉強をさせられたことになる。